法曹人口を巡る情報戦(前編)

発端は朝日

合格者3000人見直しのニュースは、1月25日にマスコミ各社で報道された。
しかし、その配信時間・内容に違いがあった。

時事:合格者年3000人見直しも=司法試験、3月に検討組織−鳩山法相(11時10分配信)
読売:司法試験「3千人合格」見直しの意向、法相「多すぎる」(13時22分配信)
日経:司法試験合格者「年3000人」見直しも・法相、3月までに研究会(12時35分配信)
朝日:司法試験「年3千人」見直し 法務省、合格者減も選択肢(3時04分配信)

朝日以外は11時以降の配信。
また、朝日は主語が法務省、それ以外は鳩山法相が主語になっている。
朝日以外の記事は、当日の午前に行われた、鳩山大臣の閣議後記者会見が情報源になっている。

鳩山法務大臣閣議後記者会見(1月25日)

(以下、引用)※下線は筆者

Q: 今日の報道で,「司法試験の年3000人見直し問題」で,法務省内に検討組織を設けるというような報道があったのですけど,そのことについて,事実確認をしたいのですけど。

A: 従来から申し上げていますように,私は企業とか自治体が,弁護士をこれからもっと必要とするのではないかとか,一般にいう国際弁護士のような者の需要が高まってきていることは事実だろうと思います。司法試験合格者を平成22年までに年3000人にするということを閣議で決めたことは結構ですが,それからずっと年3000人でいきますと,法曹人口は非常に膨大な数になると思います。そのことは需要と供給の面でも問題がありますし,質の面でも問題があります。そういう意味でいえば,日本はそもそも持っている文明が「和をなす文明」であって,訴訟文化ではなく,ちょっと肩と肩が触れ合っただけで訴訟というような国であってはならないと,こう思っていますので,やはり年3000人では多すぎるのではないかという観点で見直すべきと従来から申し続けています。したがって,それに呼応して,省内で検討をするのは当然のことと思います。

(引用終わり)

下線部の報道とは、朝日の記事のことである。
すなわち、この合格者数3000人見直し報道の発端は、朝日のスクープということになる。
そのため、朝日だけが異常に配信が早かった。
その他のメディアが11時以降になったのは、会見で確認を取ってから記事を書かなければならなかったからである。

朝日の情報源は法務省

では、朝日はどこからこの情報を取ってきたのだろうか。
朝日の記事を見ると、それが推測できる。

asahi.com2008年01月25日03時04分配信記事

(以下引用)

法務省は、司法試験合格者を2010年までに年間3000人にし、その後も増やすことを検討するという政府の計画について、現状を検証したうえで内容を見直す方針を固めた。

 (中略) 

政府が今春、閣議決定する予定の「規制改革3カ年計画」の改定では、法務省の働きかけにより、法曹人口の拡大について「社会的需要を踏まえた慎重な検討」を促す文言が初めて盛り込まれる見通しとなった。

 (中略) 

日本弁護士連合会や法科大学院を所管する文部科学省など、関係機関による検討の場をつくることも想定している。 ただ、計画が変更された場合、法科大学院の入学希望者にも大きな影響が生じることから、法曹志願者や法科大学院関係者からの強い批判も予想される。法務省幹部の一人は「実際に数を減らすのは先でも、結論は早めに出さなければいけない」と話している。

(引用終わり)

文脈は、法務省が頑張って、規制改革3ヵ年計画に見直しの文言を入れたというものである。
そして、最後に、それまでの内容を受けた法務省幹部の話がある。
この内容からして、少なくとも、この法務省幹部が情報源の一つであることは間違いないだろう。
そうすると、この情報は、主として法務省が流したものであると考えられる。

狙いは日弁連会長選挙

では、なぜ、法務省はこのタイミングでこの情報を流したのだろうか。
この情報が流れたのが1月25日、そのおよそ2週間後には、日弁連の会長選挙があった。

sankei.jp 2008.1.28 23:52配信記事

(以下引用)

熱い戦い日弁連会長選、司法制度改革に影響も

2年に1度の日本弁護士連合会(日弁連)の次期会長選が例年になく注目されている。平成22年までに司法試験合格者を年間3000人に増やす政府目標に対し、各地の弁護士会から異論が相次ぎ、選挙の大きな争点となっているからだ。法曹人口拡大は司法制度改革の柱の1つで、選挙の結果次第では司法制度改革に影響を及ぼす可能性もある。

 (中略) 

会長選に出馬しているのは、大阪弁護士会所属の宮崎誠氏(63)と東京弁護士会所属の高山俊吉氏(67)の2人。裁判員制度などの司法制度改革の是非が主な争点で、元日弁連副会長の宮崎氏は司法制度改革推進、5回連続の立候補となる高山氏は裁判員制度など司法制度改革に反対の立場を取る。

 (中略) 

2月8日の投開票を経て、同月15日の選挙管理委員会で正式に決まる次期会長。現在の日弁連執行部は政府方針を尊重する立場を取っているが、いずれの候補が当選しても、日弁連で法曹人口をめぐる議論が加速することは間違いなさそうだ。

(引用終わり)

日弁連が法曹人口の増加に反対する立場を明らかにすれば、見直しの流れが一気に強まる。
世論に対するインパクトも強いだろう。
また、朝日の記事にあった通り、法務省は日弁連とも検討の場を設ける方針である。
日弁連がそれに応じてくれなければ困る。
そのため、会長選のタイミングを見計らって、法務省が意図的に情報を流した疑いがある。

その成果は

しかし、日弁連会長選挙では、法曹人口増加に反対する高山氏は敗れ、宮崎氏が当選した。

asahi.com2008年02月09日02時09分配信記事

(以下引用)

日本弁護士連合会(約2万5000人)の会長選が8日投開票され、司法制度改革推進派の宮崎誠氏(63)=大阪弁護士会=が反対派の高山俊吉氏(67)=東京弁護士会=を抑えて当選した。仮集計で宮崎氏が9402票(得票率約56%)、高山氏が7043票(同42%)、投票率は66.52%だった。

(引用終わり)

法務省の作戦は、失敗だったのだろうか。
おそらく、そうではない。
まず、反対派の高山氏もかなりの得票をしたということがある。
さらに、宮崎氏から合格者増加の見直しをするという言質をとることができた。

asahi.com2008年02月03日00時50分配信記事

(以下引用)

法曹3千人 日弁連も見直し確実 会長候補2人とも明言

司法試験合格者を2010年までに年間3000人に増やす政府計画をめぐり、法務省が見直し方針を打ち出したのに続き、日本弁護士連合会も見直しに転じることが確実となった。8日に投開票される会長選に立候補している2人とも、弁護士の就職難などを理由に見直す立場を明確に打ち出したためで、法曹人口の増加にブレーキがかかる可能性が高まった。

(中略)

「司法改革を推進しながら人口問題のひずみの解消を図ることが重要だ。今年9月の司法試験の合格発表までに、増員のスピードのスローダウンを提言していく」(宮崎氏)

(引用終わり)

この宮崎氏の方針転換は、2月2日、投票の6日前になって急になされた。
明らかに、このままでは勝てないかもしれないという状況判断から、なされたものである。
その状況は、法務省の流した情報によって作られたという部分が大きい。
もう国も見直すのだから、その方向に逆行するのはおかしい、当然見直すべきだ、という流れがそこに設定されていた。

法務省はこの時点で、法曹人口増加を推進したい勢力に対して、一歩リードしていた。
しかし、法務省が予想していたであろう以上に早く、反撃が始まるのである。

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