平成20年度新司法試験の結果について(2)

総合得点の状況

以下は、総合の合格点、平均点とその両者の差、及び受験者ベースの合格率の推移である。

  合格点 平均点 合格点−平均点 合格率
平成18年度 915 951.46 −36.46 48.2%
平成19年度 925 941.69 −16.69 40.1%
平成20年度 940 930.64 +9.36 32.9%

平均点は毎年10点ほど低下し、逆に合格点は10点から15点上昇している。
また、今年の特徴として、初めて合格点が平均点を上回った。
すなわち、これまでは平均点を取っていれば合格できた。
しかし、今年は平均より10点上でなければならなくなった。
これには、二つの要因がある。
一つは、受験生の全体的な得点が下がったこと。
もう一つは、合格率の低下。
すなわち、受験生の増加に合格者数の枠の増加が追いつかなかったことである。

得点低下・横並びの傾向

後者の要因は、平成18年度平成19年度のデータを加工すれば除去できる。
平成18年度において、受験者2091人中、上位32.9%は約688人。
得点別人員データを元にして得点にすると、概ね977点となる。
平成19年度において、受験者4607人中、上位32.9%は約1516人。
得点別人員データを元にして得点にすると、概ね954点となる。
このように上位32.9%という統一的な合格率を仮定して合格点を算出すると、以下のようになる。

  上位32.9%の得点 平均点 平均点との差
平成18年度 977 951.46 +25.54
平成19年度 954 941.69 +12.31
平成20年度 940 930.64 +9.36

上位32.9%の得点も毎年下がっている。
それは、平均点の減少幅よりも大きい。
その結果、平均点との差が減少している。
すなわち、上位陣の得点が平均とあまり変わらなくなってきている。
これを平均点の減少傾向と伴わせて考えると、得点の低い受験生が横並びになりつつあることになる。

足切りの状況

今年の論文での足切り対象者は238人。
短答合格者4654人の5.11%である。
平成18年度は、0.71%。
平成19年度は、2.04%だった。
昨年と比較しても倍以上の割合に増えている。
足切りは、一定の得点による絶対評価基準で決まる。
全体的に得点が下がっている以上、足切りが増えるのは当然である。
ただ、随分と増えたなという感じはする。

魔の公法

以下は、足切り対象者の科目別人数と、受験者全体に対する割合である。
選択科目については、当該科目の受験者数に対する割合としている。

  人数 割合
公法 166 3.05%
民事 12 0.25%
刑事 21 0.45%
倒産 28 2.28%
租税 0.44%
経済 1.17%
知財 10 1.42%
労働 10 0.66%
環境 0.92%
国際公法 1.53%
国際私法 1.35%

公法1位、倒産2位という順位は昨年と変わらない。
ただ、今年は特に公法系が飛びぬけている。
旧司法試験においても、憲法は極端な評価になりがちだった。
実力者でも普通にG答案になる科目だった。
その原因は、何を書いていいのかがわかりにくいことにある。
憲法は、問題文からは様々な論点が抽出できる場合が多い。
しかし、実際に評価の対象となっているのは、そのごく一部であったりする。
また、厳密に考えると論じる必要のなさそうなものに、重要な配点が振られていることが多い。
逆に、厳密に考えると論じる必要のありそうなものは、配点対象でないということがある。
従って、憲法は特に出題趣旨や再現答案の検討の重要性が高い。

他方、行政法は受験生の手が回っておらず、白紙同然の答案が少なくないということである。
足切りもそれが原因だろう。
従って、行政法については、単純に勉強量を増やすことで、足切りを回避しうる。
もっとも、基本書を読むだけでは、問題文から何を検討してよいかわからない。
演習書の検討や判例・裁判例の速読等を中心に学習すべきである。

素点ベースと調整後ベースとの差

新司法試験の足切りは素点ベースであり、調整後ベースの旧司法試験とは異なる(詳細は法務省HP参照)。
そして、公表される得点別人員は、得点調整を経た数値である。
従って、得点調整によって足切り該当者が減ったか増えたかを調べることができる。
以下は、今年度の素点ベースと調整後ベースの足切り者数の表である。

  素点ベース 調整後ベース
公法 166 98
民事 12 134
刑事 21 115
倒産 28 42
租税
経済 14
知財 10
労働 10 29
環境
国際公法
国際私法

素点ベースにしたために足切り者が増えた科目は公法と知財である。
もっとも、知財は1名しか違わないから、実質公法だけである。
しかも、公法は1.7倍近く増えている。

他方、民事刑事を中心にして、その他の科目は素点ベースだったおかげで、足切りを免れた者が多数いる。
民事刑事については、得点調整後の点数で足切りをすると、大量の足切り対象者が出てしまう。

これは、昨年度と同様の傾向である。
何を意味しているか。
素点ベースの数字は、採点者間及び科目間の得点のバラつきを修正する前のものである。
他方、調整後ベースの数字は、採点者間及び科目間の得点のバラつきは修正されている。
そうすると、素点ベースで足切り者が多い科目は、他の科目より素点のバラつきが大きかった科目ということになる。
逆に、調整後ベースにすると足切り者が増える科目は、素点のバラつきが少なかった科目である。
素点のバラつきが少ないと、逆に得点調整によって得点差を広げられてしまうため、足切り者が増えるのである。

そうすると、やはり公法は極端な採点がされていることがわかる。
他方、民事刑事は、素点ではあまり差が付いていないことになる。
このことは、科目別の隠れた特性を示している。
公法については、採点する考査委員が意図的に差を付けて採点してくる。
従って、出題趣旨や考査委員のヒアリング、再現答案などを分析して、それに対応すれば差を付けることができる。
他方、民事系、刑事系については、考査委員は採点する際にそれ程意識的に点差を付けない。
しかし、公法系の考査委員があまりに極端に点差を付けるために、得点調整の際に民事刑事の得点差が拡大されてしまう。
結果、考査委員がそれほど意識しなかったようなちょっとした点数差が、大きな点差として最終の総合評価に結びついてしまう。
従って、民事刑事については、出題趣旨や考査委員のヒアリング、再現答案などを分析しても、説明の付かない点差が生じやすい。
答案作成上の戦略・戦術を考える際には、この点を頭の片隅においておく必要がある。

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