鳩山法相退任後の法曹人口問題(下)

森現法相の就任

抑制派から推進派への法相交代だったが、これは長く続かなかった。
福田首相が急に辞任したためである。
その後、麻生内閣が発足し、法相として森英介さんが就任した。
経歴は以下の通り。

森英介公式HPプロフィールより引用)

昭和49年 3月  東北大学 工学部 卒業
        4月  川崎重工業(株) 入社
昭和59年 7月  原子力プラントの溶接研究成果により、工学博士号を授与(名古屋大学)
平成 2年 2月  第39回衆議院総選挙において初当選
平成 5年 7月  2回目当選
平成 6年 7月  労働政務次官
平成 7年10月  衆議院労働委員会理事 ・ 自民党外交部会長
平成 8年10月  3回目当選
      11月  自民党水産部会長
平成10年 8月  自民党労働部会長
平成11年10月  自民党国会対策委員会副委員長
平成12年 6月  4回目当選
       7月  衆議院議院運営委員会理事
       12月  衆議院厚生労働委員会筆頭理事
平成13年 4月  自民党副幹事長
平成14年 1月  衆議院厚生労働委員会委員長
平成14年 5月  自民党千葉県支部連合会会長
平成14年10月  自民党政務調査新議員 ・ 衆議院厚生労働委員会委員
平成15年 2月  衆議院外務委員会理事
平成15年 9月  厚生労働副大臣(〜平成16年9月)
平成15年11月  5回目当選
平成16年10月  自民党政務調査会副会長
平成17年 9月  6回目当選
平成17年11月  自民党副幹事長(総括)
           自民党半島振興委員長
           自民党労政局長
           衆議院経済産業委員
           衆議院災害対策特別委員
平成18年1月  衆議院予算委員会理事 
平成18年9月  自民党総務副会長
平成19年9月  衆議院農林水産委員
           自民党電源立地及び原子力等調査会会長
平成20年8月  衆議院議院運営委員会筆頭理事
           衆議院政治倫理審査会幹事
           自民党国会対策委員会副委員長
平成20年9月  法務大臣

(引用終わり)

法務とあまりかかわりの無い経歴である。
本人も、自身の専門外であることを認めている。

(森法相就任記者会見より引用、下線は筆者)

 私としては,いわば,専門外の分野で任務を仰せつかりました。しかしながら,今後の日本にとって極めて重要な任務ですので,多くの方々の御意見にしっかりと耳を傾けて,自分なりに咀嚼をしまして,全力を挙げて任務に当たっていくことをお約束申し上げたいと思います。

(引用終わり)

(森法相初登庁後記者会見より引用、下線は筆者)

 私の経歴をご覧いただくとお分かりになるように,前大臣などと違って,正に専門外の分野に来たものですから,これから,皆様方の御意見を伺いながら,精一杯勉強し,国民の負託に応え,麻生内閣をしっかり支えていきたいと思っていますので,どうぞよろしくお願いします。

(引用終わり)

(衆院法務委員会平成20年11月14日より引用、下線は筆者)

○森国務大臣 私も、全くずぶの素人が法務行政のトップに当たりまして、今赤池委員のお言葉、非常に胸に響くわけでありますけれども、私なりにこの裁判員制度の意義ということを考えてみました。
 これは、やはり今までの司法関係者もそれなりに一生懸命頑張ってきたと思います。したがって、現時点においても今までの裁判制度を支持する人も随分おりますから、そのことの証左だと思いますけれども、時間がかかり過ぎるとか、いろいろな刑事裁判における問題は一方であります。
 ただ、裁判員制度の一番大きな意義というのは、お上の裁きから民主社会の判断に変わるということじゃないかと思います。そういう裁きを受けた方も、民主社会のそういう判決が下ったということであると、今までと随分違うと思いますから、いろいろな心配事もないわけではないわけでございますけれども、やはり大きな流れとして、この時期にあってこういう方向に向かって進むということは、私はとても意義深いことではないかと思います。

(引用終わり)

森法相は、法曹人口問題については、以下のように述べている。

(衆院法務委員会平成20年11月14日より引用、下線は筆者)

○森国務大臣 まず、法曹人口についてでございますけれども、私は、今の日本の現況を見ますに、諸外国との比較とか、あるいは法曹に対する需要、また弁護士の地域的偏在等々を勘案いたしますと、法曹人口についてはやはり大幅に増加させる方向が望ましいんじゃないかというふうに考えております。平成十四年三月十九日に閣議決定された司法制度改革推進計画では、平成二十二年ごろに約三千人程度とすることを目指すとされておりまして、私は、関係機関と協力して、この閣議決定の実現に向けて最大限努力をしてまいりたいと存じます。
 一方、法科大学院でございますけれども、これは新たな法曹養成制度の中核的な教育機関でありますが、今、所期の目標のような態様になっているかというと、いささか物足りないものを感じております。
 でも、これから、司法試験の合格率が継続的に著しく低い法科大学院については、入学定員の見直しとかを含めた入学者の選抜方法の改善、また、教育内容の充実、厳格な成績評価と修了認定の徹底などにより、現状の改善を図っていただきたいと思っております。そのために、所管の文部科学省と連携いたしまして、いろいろ聞き取りをしたり、また御要請をしたりしているところでございます。
 いずれにしても、今決められた方向を基本的に堅持して、これからも取り組んでいきたいというふうに思っております。

(引用終わり)

 

(参院法務委員会平成20年11月13日より引用、下線は筆者)

○国務大臣(森英介君) 法曹の数がどれだけが適正かということはちょっとあれですけれども、諸外国に比べて日本がやっぱり非常に少ない。それから、先ほど、午前中の松村委員の御質問にもありましたように、地域的な偏在があるとか、そういった意味で、また例えば企業の中のローヤーがいないとか、諸般の観点からやはり法曹の数というのは今よりも大分増やさなきゃいけないんじゃないかというのが私の基本認識でございます。
 後ほどそこに、今委員の御質問にありましたように、閣議決定がなされて三千人という政策目標が掲げられているわけでございまして、私は、ですからやはりこの閣議決定に沿って大幅に増加させる努力をしなければいけないと考えているものであります。
 ただ、法曹人口の増加に当たって質が低下しちゃってはこれはまた具合が悪いわけでございまして、質量ともに充実した法曹の養成を図らなければいけないという非常に難しい課題に当面しております。そのためにやはり今の法科大学院の在り方というのには私は若干物足りないものを感じておりまして、これは今文科省の方でも、法務省も一緒になって、いろんな聴き取りとか今後の対策を講じるわけでございますけれども、いずれにしても、法科大学院が所期のような内容を持った法科大学院になってもらうとともに、そこできちんとした法曹を育てていただいて、そしてやはり社会の需要にこたえてもらいたいと、こう思うわけでございます。
 法科大学院については、やはり今入学者の選抜方法の問題ですとか、それから教育内容の充実、厳格な成績評価と修了認定の徹底などが図られるべきであると考えますし、また共同でもってカリキュラムをこなすという在り方も模索されているようでありますし、いずれにしても、法科大学院が更にブラッシュアップされて、そして質の高い法曹を育てられるようになって、かつ、二十二年の三千人というのは、これ政策目標でありますから、あくまでも目指して頑張りたいと思っているところでございます。

(引用終わり)

3000人達成計画の実現を目指す。
その際、質の維持も必要である。
そのために、法科大学院の在り方等を見直す。
これは、保岡前法相の立場と同じである。
しかし、これは森法相自身の見解とはいいにくい。
森法相は法相就任直後に法曹人口問題を質問された際には、このように答えている。

(森法相初登庁後記者会見より引用)

Q:法曹人口について,3,000人という数字が決まって,それに従って動いている反面,一方で法曹人口の拡大についてのいろいろな意見が出始めているのですが,この点について大臣のお考えをお聞かせください。

A:法曹人口の件についても,やはりいろいろな御意見がありますし,それは,必ずしも,こういうふうに決めたからこうでなければいけないという硬直的なものではないと思いますから,これから皆様方の御意見をよく聞き,また,世の中の状況を見て,私なりに判断させていただきたいと思いますので,今,具体的な結論めいたことを申し上げるのは差し控えたいと思います。

(引用終わり)

正直よくわからない、といった感じである。
国会での答弁は、後から勉強して仕入れた知識といえる。
現状は前任者の見解を一応引き継いでいるが、事務局の誘導や世論の動向次第では抑制の方向に変化する可能性もある。

相変わらずの規制改革会議

増員推進の旗振り役である規制改革会議。
法務省が大臣交代で揺れている間、こちらの方は一貫した立場を維持している。

週刊東洋経済WEB版08/11/26配信記事より引用)

 政府の規制改革会議の福井秀夫・政策研究大学院大学教授は「ボンクラでも増やせばいい」と言う。「(弁護士の仕事の)9割9分は定型業務。サービスという点では大根、ニンジンと同じ。3000人ではなく、1万2000人に増やせばいい」。

(引用終わり)

弁護士の仕事のほとんどは定型業務だ。
定型業務に質は必要ない。
合格者は1万2000人に増やすべきだ。

以前から、規制改革会議、及びその前身である規制改革・民間開放推進会議で同旨の発言があった。
ただ、表現は当時よりさらに不適切になっている。

(平成17年7月4日第6回規制見直し基準WGより引用、下線は筆者)

福井専門委員:アメリカの場合は、能力の高い高額所得の弁護士もいるが、大半は町の弁護士であり、弁護士だけでは生計を立てられない人もいると聞いている。
 しかし、そのような町の弁護士でも一般国民には役立っており、これは法務省のレポートにも示されているとおりである。このような面を見れば、法曹人口の多さが一般国民に対する法的サービスの享受度を高めることにつながる。つまり、弁護士の底辺を拡大することが有益であるということは諸外国の例でも確かであると考える。

福井専門委員:確かに法曹関係者の質的基準というものはあると考えるが、法曹関係者が専門分野をどの程度の範囲までカバーするかによって要求される質的基準も変わってくるのではないか。例えば知財や行政分野のように訴訟代理まで行うのと、町の弁護士のように民事の紛争処理だけで良いという場合では、ずいぶんと要請される質的基準が異なるのではないか。どのくらいの質的基準を要求するかは法曹関係者により異なると思う。しかしながら、法曹人口拡大の議論の原点が、一般市民に法的なサービスを受けやすくするということにあるので、仮に定型的な紛争案件に要請される質的基準を合わせれば、自ずと法曹関係者の質的な問題もクリアするのではないか。

(引用終わり)

 

(平成17年11月9日第9回規制見直し基準WGより引用、下線は筆者)

福井専門委員:アメリカの下位での司法試験合格者が、問題を起こすとか、何かひどい結果になっているかどうかを可能な範囲でお調べ頂きたい。恐らく相関はないという結果はあっても逆の結果はないと思う。

吉村参事官:そういう情報があるかは確認しないとわからない。それぞれ試験の仕組みも異なっているので。

福井専門委員:できれば、フランス、アメリカの2カ国くらい調べて頂きたい。法曹人口拡大の議論はそこについての実証データがないと議論にならないと思う。

吉村参事官:そこから議論できるのか、別の角度からの議論があるのかもわからないが。

福井専門委員:人口抑制論の最大の論拠はそこである。法曹人口を増やすべきでないという方の100%共通した論拠は、要するに成績が悪い人を入れるとひどいことが起こるということだったらよその法曹人口が多い国でひどいことが起こってないと辻褄が合わない。そこは科学的認識を持たないといけない。

吉村参事官:努力はさせて頂きたい。

福井専門委員:別の世界、国家公務員でいうと、もちろん厳格な統計データで見たことはないが、大体各省庁の人事責任者から伺っても、公務員試験の成績優秀者が、公務員として大成する資質を備えているかどうかということについては、ほとんど相関がないということをお聞きしている。
 法律職の公務員試験は司法試験の亜種であり、似たような資質、あるいは司法試験の方が上だといわれるかも知れないが、一種似たような資質を判定しているのだとすると、試験で図れる実務家としての資質というのはかなり限界がある。法務省は法曹サービスの質を高めて、国民に広く行き渡るようにするというのが目的だから、その限りでは我々の主張と一致している。これは試験秀才度だけで資格を与えるというのではない仕組みに変えて頂く大きな契機になるのではないか。

鈴木主査:それでは、少なくとも成績を残していくということを付け加えていくこととして、あと9,000 人と書くか、5,000 人と書くか、1万2,000 人と書くか、これを後で議論させて頂く。「大幅に拡大する」というのは我々は念仏といっている。念仏は唱えて、ありがたく奉って、聞かない。数字を書くことについては、ある程度覚悟頂きたい。検討頂きたい。

(引用終わり)

 

(平成19年5月8日基本ルールTF/基準認証・法務・資格TFより引用、下線は筆者)

○ 佐々木参事官 知識がどの程度あるのかというところにかなり問題があると思います。ちょっと難しい話で恐縮なんでございますが、私、ここに来る前に司法研修所の民事裁判の教官をやってございました。そして、弁護士になるにしても、何になるにしても、イロハであるものに要件事実の否認と抗弁の違いというものがございます。これについてのあってはならない間違いとして、無権代理の抗弁というものがございます
 これは昔でありましたら、1 つの期を通じて間違いを冒すのが数名出るか出ないかであって、幻の抗弁と呼ばれていたのですが、最近になりましたら、それがクラスでちらほら見かけられるようになった。新60期のときには、いくつかのクラスに2桁出てしまっており, 相当大変な事態になっているのではないかと思います。

○ 安念委員 佐々木さんは大変誠実にお答えで、私の考えでは、やはり日本人というのは変わらぬものだなと思ったんです。つまり、佐々木さんは個人でどうお考えかわからぬけれども、日本の法曹の、あるいは法学者の考えている教育感が、かつての海軍兵学校と全く同じなんです。
 つまり、ちょっとの人間を採って、粒ぞろいの集団をつくろうとするんです。そうすると、まず選抜のところでめちゃくちゃ難しくするわけです。一人ひとり徹底的な手間をかけて完成品としてプロフェッションの世界に送ろうとするんです。その結果は御存じのとおり戦に負けたんです。
 それは非常にある種の誠実さなんだが、結局戦に負ける最大の戦法なんです。
 つまり、粒よりのものを少数つくろうというのは、戦争には必ず負けるんです。
 何を申したいかというと、気持ちはわからないではないけれども、抗弁と否認とを間違う人間が出てきて、そんなに大変かと。500 人の者が1,500 人、3,000 人となれば、質が落ちるに決まっているんです。質を維持することはできるはずはない。だとすると、もう質は落ちますということを世の中に宣言するしかないんです。質が落ちるということを前提にした教育方法をするしかないんです。そこを割り切れるかどうかです。割り切れなければ昔の海軍兵隊学校と同じで、一人ひとりは立派に仕立てました、でも、戦には負けますという軍団をつくる。それだけのことです。割り切れるかどうか。佐々木さんお一人の力ですべてを方向転換することはできないだろうけれども、結局割り切るしか方法はありません。

○ 福井委員 質が悪いとわかっていれば別にいいわけです。この人には難しい事件は頼めないと注意できる。我々が町医者に行くときと大学付属病院に行くのとを使い分けているのと同じで、定型的な事件を安くやってもらいたいときには、そんなに質を気にしない弁護士に頼むと、だけれども、難しい事件はそれなりの人に頼む。そこが見分けられるような材料が豊富にそろっていれば、合格のときに超難関である必然性はないでしょう。

(引用終わり)

上記の議事以降、法曹増員については様々な批判が出るようになった。
さすがに規制改革会議も考え直すのでは、とも思われた。
しかし、規制改革会議側は全く意に介していない。
福井委員の東洋経済での上記記事における発言は、その現われといえる。
むしろ、ますます強気、という感じである。

本音と正反対の第3次答申

その規制改革会議が平成20年12月22日、規制改革推進のための第3次答申を公表した。
そこでは、法曹人口について次のように述べられている。

(規制改革のための第3次答申より引用、下線は筆者)

 法曹人口の拡大に関しては、司法制度改革推進計画(平成14 年3月19 日閣議決定)において、法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22 年ころには司法試験の合格者数を年間3,000 人程度とすることを目指すとされている。法曹サービスの質的向上のためには、その担い手である法曹資格者の増加等を通じマーケットが活性化され、競争による創意工夫が不断に行われることが不可欠である。国民が利用しやすくその多様なニーズに応えられる国民本位の司法制度を確立するためにも、法曹にふさわしい素養のある者を可能な限り多く、法曹資格者として広く社会に送り出すことが重要であるとの視点に立ち、あるべき法曹人口については、3,000 人という数字に囚われず、社会的要請等を十分に勘案しながら法曹資格者の増大により、このような要請に応えていくべきである。

 司法制度改革は、社会の複雑・多様化、国際化等がより一層進展する中で、行政改革を始めとする社会経済の構造改革を進め、明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後監視・ 救済型社会への転換を図り、自由かつ公正な社会を実現していくために、その基礎となる司法の基本的制度が新しい時代にふさわしく、国民にとって身近なものとなるよう、国民の視点から、これを抜本的に見直し、司法の機能を充実強化することが不可欠であるという考え方に基づきこれまで取り組まれてきたものである。
 このような趣旨を踏まえ、国民がより容易に利用できるとともに、公正かつ適正な手続の下、より迅速、適切かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築するためには、高度の専門的な法律知識、幅広い教養、豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹が養成されることが不可欠である

(引用終わり)

ここでは、質の向上のために数を増やすべきだという。
また、高度の専門的な法律知識を備えた多数の法曹を養成すべきという。

これは、前述した会議での発言、東洋経済での発言と矛盾している。
数を増やせば質が落ちるに決まっている。
法曹サービスのほとんどが定型業務だ。
定型業務に質は必要ない。
定型業務を安くやってもらえればそれでいいんだ。
答申では、そんなことは記載されていない。
答申は、本音とは正反対の内容になっている。

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