最新下級審裁判例

函館地裁判決平成20年09月19日

【判旨】

 本件公訴事実は,下記のとおり,薬局で出納帳作成等の業務に従事していた被告人が,その売上金の一部を前後4回にわたって横領したというものである。

1 平成20年3月17日付起訴状の公訴事実

 被告人は,北海道甲郡a町b町c番地のd所在のA株式会社B薬局に従業員として勤務し,同薬局の売上金の保管,出納帳の作成等の業務に従事していたものであるが,平成18年5月8日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金2万0880円を,ほしいままに,自己の用途にあてるため,着服して横領したものである。

2 平成20年4月9日付起訴状の公訴事実

 被告人は,北海道甲郡a町b町c番地のd所在のA株式会社B薬局に従業員として勤務し,同薬局の売上金の保管,出納帳の作成等の業務に従事していたものであるが,

(1) 平成17年6月27日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1万9350円を,
(2) 同月28日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1万9400円を,

いずれも,ほしいままに,自己の用途にあてるため着服して横領したものである。

3 平成20年5月16日付起訴状の公訴事実

 被告人は,北海道甲郡a町b町c番地のd所在のA株式会社B薬局に従業員として勤務し,同薬局の売上金の保管,出納帳の作成等の業務に従事していたものであるが,平成17年4月20日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1万8220円を,ほしいままに,自己の用途にあてるため,着服して横領したものである。

 本件では,被告人が上記のB薬局(以下,「本件薬局」という。)で勤務していたこと,各公訴事実記載の日に,本件薬局の業務データ上,患者へ返金処理を行ったという架空のデータを作出する処理がなされ,その前後に,返金処理額に相当する現金が本件薬局の売上金から着服されていたことは当事者に争いがなく,証拠上も明らかである(以下では,これらの横領事件を,上記の公訴事実の順に従って,「第1事件」ないし「第4事件」と各々記載するほか,この4件を「本件各横領事件」と総称することがある。)。
 検察官は,上記の各不正処理及び売上金の着服を行ったのは被告人であると指摘し,被告人が本件各横領事件の犯人であると主張する。
 一方で,被告人及び弁護人は,被告人は当該不正処理を行っておらず,本件薬局の売上金を着服したことも一切ないと主張する。
 したがって,本件の争点は,被告人が本件各横領事件の犯人と認められるか否かということになるが,その判断に際しては,上記各不正処理を行ったのが被告人であると認められるかが,主要な問題となる。
 本件各横領事件が現実に発生したことは明らかであるものの,被告人は,捜査段階から一貫してその犯人であることを否認しており,これら4件の横領事件について,犯人が被告人であることを直接的に示す証拠はない。
 そこで検察官は,本件各横領事件がいずれも被告人の犯行であることを立証するため,各事件が発生した4期日において,不正処理がなされた時刻に,被告人以外の従業員全員が通常の業務に従事しており当該不正処理を行い得なかったことを立証する,すなわち,被告人以外の従業員全員に広義のアリバイが成立することを証明することで,いわば消去法的に,被告人が本件不正処理を行ったことを立証しようとした。

 本件不正処理は,それにより生じた差額を着服する以外の目的を有しているとは考えられないから,単独犯か複数犯かの点はともかく,本件不正処理を行った者が本件各横領事件の犯人であると推認するのが相当である。そして,本件不正処理は,本件薬局内のコンピューターを操作して行われたものと認められる。
 よって,本件各横領事件の犯行日に,被告人を含む本件薬局で勤務した従業員を特定することができ,かつ,被告人以外の者全員について,本件不正処理を行うことが不可能といえる事情があったのであれば,被告人を本件各横領事件の犯人と推認することもできることになるから,こうした立証方法を一概に否定することは相当でない。
 但し,この方法で被告人の犯人性を立証するには,単に,被告人以外の各従業員が行っていた業務内容を推知するだけでは足りず,それらの者に本件不正処理を行う機会がなかったことを証明する必要がある。本件不正処理は短時間でも遂行し得る操作であって,従業員が何らかの業務に従事していても,その最中に不正処理を行い得る場合には,アリバイとしては不十分ということになるからである。
 要するに,本件で検察官が立証すべきアリバイは,犯行の現場における不在証明という本来の意味のものとは異なり,犯行現場である本件薬局にいた者に,特定の時刻において,特定の操作を行う機会がなかったという命題なのであり,その立証にはかなりの精密さが必要とされる。
 ところで,本件不正処理については,これを行った日時が自動的に記録されており,その正確性に疑問を生じる要素も見当たらない。
 他方,本件各横領事件の犯行日における出勤の有無と,本件不正処理の行われた時刻における各従業員の業務状況については,本件薬局における業務の過程でコンピューターに入力されてきたデータ(以下,「本件業務データ」と総称する。)が中心的な証拠とされている。
 この本件業務データは,従業員が調剤・鑑査・指導等の業務を行った際,その従業員が,各人に割り振られたIDを用いて,当該業務を行った旨を入力すべきものであるが,実際には他人のIDを利用して入力されることがあり,また,各種の業務についても,その始期と終期が自動的に記録されるわけではないから,本件業務データのみで各従業員の出勤の有無や勤務状況を正確に知ることはできず,その点については他の証拠によって補完される必要がある。

 

札幌地裁判決平成20年09月22日

【事案】

 原子爆弾(以下「原爆」ということがある。)に被爆した原告らが,後記(1)ないし(3)の各疾病に罹患したため,原爆症認定申請をしたところ,被告厚生労働大臣は,同疾病の原爆による起因性及び原爆の治癒能力への影響を否定し,いずれの申請も却下する処分(以下「本件各却下処分」という。)をしたため,原告らが,同各処分には事実誤認・法令適用の誤りがあり違法であるとして,同各処分の取消しを求めるとともに,被告厚生労働大臣には,同各処分に当たって故意又は重過失があり,原告らは精神的苦痛を被ったとして,被告国に対して,国家賠償法1条1項に基づき各損害の賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年6月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。

(1) 原告A(以下「原告A」という。)の疾患
 慢性甲状腺炎,甲状腺機能低下症及び前立腺がん
(2) 原告B(以下「原告B」という。)の疾患
 慢性甲状腺炎
(3) 原告C(以下「原告C」という。)の疾患
 慢性甲状腺炎

【判旨】

 原告らは,被告厚生労働大臣が,非科学的・不合理な審査の方針を機械的に適用していること自体が違法である旨を主張する。
 確かに,審査の方針による放射線起因性の判断には,不十分な点があることは否定できず,原告Aの申請疾患については,原爆症認定申請を却下した処分が取り消されて,既に原爆症認定がされているし,原告らの他の申請疾患についても放射線起因性及び要医療性が認められるから,放射線起因性がないとして原告らの各原爆症認定申請を却下した本件各却下処分は違法なものとして取り消されるべきである。
 しかしながら,本件各却下処分が,原告らの申請疾患について,その放射線起因性の判断を誤り,違法とされる場合であっても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項における違法性が認められるものではなく,被告厚生労働大臣が,単に本件各却下処分における放射線起因性の判断を誤ったというのみならず,その判断のための資料を収集し,これに基づき放射線起因性等を判断する上において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償法1条1項における違法性が認められると解するべきである。
 そして,原爆症認定の基準である審査の方針における放射線量算定の基礎となっているDS86及びDS02については,一定の科学的根拠に基づくものであり,特に初期放射線量の計算値については相応の合理性が認められること,審査の方針における原因確率の基礎となっている放影研による疫学調査についても,その調査規模及び調査期間は決して不十分なものとはいえず,その解析手法も十分合理的なものであり,また,本件各却下処分がなされた当時,DS86以外に利用可能な被曝線量の推定方法があったとは認め難い。
 審査の方針については,とりわけ放射性降下物及び誘導放射能による被曝線量が過小評価されている可能性があり,内部被曝の影響について十分な検討が尽くされていないといった限界があることは否定できないが,審査の方針は,当時の疫学的,統計学的,医学的知見に基づいて策定されたものであって,これが全く非科学的で不合理なものなどということはできない。
 なお,医療分科会は,平成20年3月17日,審査の方針を改め,「新しい審査の方針」を策定しているが,審査の方針自体が非科学的あるいは不合理といえないことは上記のとおりであるし,また,「新しい審査の方針」の策定の経過等からすると,原爆症認定の基準が改定されたのは,行政上の政策判断による側面があることは否定できないのであって,「新しい審査の方針」に基づいて原爆症認定がなされたとしても,そのことをもって,これまでの審査の方針に基づいてされた原爆症認定申請却下処分が,直ちに職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったものということはできない。
 また,多数の原爆症認定申請について判断をしなければならない状況において,審査の方針という一定の基準を用いることは,必ずしも不適切なものとはいい難く,原爆症認定においても,被告厚生労働大臣は,原則として医療分科会の意見を聴いた上で,原爆症認定を行うものとされており,その際には,審査の方針を機械的に適用して判断するのではなく,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案した上で,判断を行うものとされていることに照らすならば,その運用は,必ずしも,機械的で不適切なものとはいい難い。
 以上によれば,被告厚生労働大臣が審査の方針に従って原爆症認定を行ったことをもって,その職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたと認め得るような事情があるとまではいえない。

 原告らは,審査の方針は飽くまで医療分科会の委員が審査に当たり,共通の認識として活用する趣旨のもので,かつ,基本的な考え方(審査の姿勢とでもいうべきもの)を示した一応の基準であって,行政手続法5条1項が求めている「審査基準」に当たらないと主張する。
 行政手続法5条1項で「審査基準」を定めることが求められている趣旨は,処分庁の判断の客観性・合理性を担保して,その恣意的な許認可を防止するとともに,申請者においてが審査基準を知ることによって申請の許認可等を予測せしめる便宜を図る趣旨であると解される。
 そこで,原爆症認定における審査の方針についてみると,被告らは,これは医療分科会の委員が審査に当たり,共通の認識として活用する趣旨のもので,かつ,基本的な考え方を示したものであって,一応の基準であり,一定の要件が存すれば一定の効果が発生するというような原爆症認定の実体要件を定めたものではない旨を自認しているところである。その趣旨は必ずしも明らかではないが,審査の方針は,原爆症認定における判断の基準として用いられているところ,その判断に当たっては,これを機械的に適用して判断するのではなく,申請者の既往症,環境因子,生活歴等も総合的に勘案した上で判断することとされており,被告らの主張もこのような趣旨をいうものと理解し得るところである。したがって,原爆症認定に当たっては,具体的に実体要件をすべて網羅し,これを充足するか否かにより,機械的にその認定が可能となるような審査基準があるとまではいえないが,全く何らの基準もなく,個別的に判断が行われていたわけではなく,医療分科会の意見形成に当たって原爆症認定についての一定の具体的な基準を示したものである審査の方針という基準が用いられており,これに基づいてその認定が行われているものというべきである。そして,原爆症認定に当たっては,当該申請者の被爆状況,急性症状の有無・程度,申請疾患の発症状況,既往症等の個別具体的な認定事実を考慮しつつ,被曝線量等を推定した上で,個別具体的事情を総合的に考慮するという判断手法自体は,やむを得ないものであるし,これをもって,行政庁の恣意的な判断がされていたということもできない。
 また,原告らが,上記のような審査に当たっての一定の基準を知り得なかったため,原爆症認定についての予測可能性が侵害されたというような事情もうかがわれない。
 そうすると,原告らの原爆症認定申請の各却下処分に当たっては,行政手続法5条1項違反によって各却下処分が国家賠償法上も違法となるような手続的違法があったとはいえないというべきである。

 原告らは,各原爆症認定申請から本件各却下処分までの期間が長期間に及び,かつ,その正当な理由がないとして,行政手続法7条に違反すると主張する。
  しかしながら,原爆症認定は,その申請者の被爆距離,被爆状況,被曝線量及び放射線と申請疾病との関係等について,高度な科学的,医学的知見に基づく判断を要する複雑な作業であり,また,被告厚生労働大臣が,原告らの各原爆症認定申請について,それを失念し,又は意図的に放置したと認められるような事情はうかがわれないことなどに照らすならば,原告らの原爆症認定の審査に122日ないし379日の時間を要したことをもって,直ちに行政手続法7条に違反するとまではいい難い。

 原告らは,本件各却下処分の通知には,実質的な理由は全く明らかにされておらず,ほとんど定型的な文言が記載されているだけであり,理由の明示を定めた行政手続法8条に違反すると主張する。
 行政手続法8条が理由の明示を求める趣旨は,行政庁の判断の慎重・合理性を担保するとともに,申請者の争訟提起等の便宜を図るためであるところ,明示すべき理由の内容・程度については,処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らして決定されるものと解される。
 これを本件について検討すると,原爆症の認定に当たっては,被告厚生労働大臣は,原則として医療分科会の意見を聴くこととされるとともに,判断は審査の方針に従ってなされるなど,一定の慎重さ,客観性が担保されており,被告厚生労働大臣の恣意的運用は防止されているものといえ,他方,原爆症の認定は,高度な科学的,医学的,疫学的知見に基づく判断を要する複雑なものであり,処分理由について,具体的,詳細に明示することは困難であるといえる。また,本件各却下処分の通知には,「原子爆弾の放射線に起因しておらず,また,治癒能力が原子爆弾の放射線の影響を受けていないものと判断」した旨が記載されており,少なくとも,いかなる要件で申請が却下されたかは,原告らも理解することが可能であり,争訟提起等に支障を生じるとまではいい難い。
 したがって,被告厚生労働大臣の本件各却下処分について,行政手続法8条の違反は認められない。

 

さいたま地裁判決平成20年09月24日

【事案】

 原告と被告の母Aは,平成17年7月23日死亡し,同女を被相続人,原告と被告の両名を相続人とする相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
 被告は,A作成の自筆証書遺言があるとして,遺言書(以下「本件遺言書」といい,これによる遺言を「本件遺言」という。)を提出した。そこには,Aが,財産はすべて被告に与える趣旨のことが記載されていた。
 本件は,原告が,第一次的には,本件遺言書は被告の偽造にかかるものであり,被告は,民法891条5号の相続欠格者に当たるから,本件相続の相続人は原告だけであり,別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)のAの共有持分権2分の1は原告の所有に帰したとして,その持分権の確認を,第二次的には,仮に被告が相続欠格者に当たらないとしても,本件遺言書は遺言の趣旨が表れておらず無効であり,本件不動産のAの共有持分権(2分の1)の法定相続分は原告の所有であるとして,その4分の1の割合の共有持分権の確認を,第三次的には,仮に本件遺言が有効であるとしても,原告の遺留分を侵害しているとして,遺留分減殺請求権に基づき,8分の1の割合の共有持分権の確認をそれぞれ求めたものである。

【判旨】

 原告は,本件遺言書が被告の偽造によるものであると主張する。その根拠は,遺言書の日付である「平成17年7月6日」は,Aが入院した翌日であり,しかも,被告本人は,Aは入院するに際し,印鑑等を保管していたバッグを病院に持ち込むなどしていないと供述しているから,Aが入院した翌日に本件遺言書を作成したと認めるのは困難であり,本件遺言書は,これを保管していた被告が偽造したとみるほかはない,というのである。
 しかし,遺言書の日付は先日付で記載することもあり,また,遺言者が日付を間違って記載することもあるから,遺言書の日付の日に遺言書が作成された可能性がないからといって,遺言書の保管者が偽造したとみることはできない。
 本件遺言書のA名下の印影がAの印章であることについては争いがないから,本件遺言書のAの印影はAの意思に基づくものと推定され,本件遺言書前提は,Aにより作成されたものと認められる。
 もっとも,本件遺言書は,子細に見ると,全体の筆跡が微妙に異なっており,本文の筆跡が稚拙なのに対し,日付の筆跡はそうではない。そして,日付の筆跡は,被告の陳述書の日付の筆跡と酷似している。この陳述書は,被告が自ら作成したものであり,その日付の記載も被告がしたものと認められることに照らすと,本件遺言書の日付の記載は,被告の手によるものと推認される。そして,この事実に加え,Aは,平成17年7月5日,a 病院に入院し,同病院から1度も外泊,外出することなく,同月23日に胆嚢癌により死亡していることが認められることに照らすと,本件遺言書は,Aが入院前に本文を記載し,日付を記載しないまま,署名押印して,自宅に保管していたところ,Aと同居する被告が,Aの入院中か,あるいはA死亡後にこれを見つけ,日付が空欄になっていたことから,その空欄部分に「平成17年7月6日」と記載して遺言書を完成させ,後日これをAの遺言書として原告に示したものと認められる。
 ところで,本件のような自筆証書遺言は,全文自書することが必要であり,しかも,日付も記載しておくことが要件とされているが(民法968条1項),遺言書が方式を欠き無効である場合に,相続人が方式を具備させて有効な遺言書又はその訂正としての外形を作出する行為は,民法891条5号にいう遺言書の偽造又は変造に当たるが,それが遺言者の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨でされたにすぎないものであるときは,上記相続人は,同号所定の相続欠格者には当たらないというべきである(最高裁昭和56年4月3日判決・民集35巻3号431頁参照)。
 そこで,これを本件についてみるに,上記のように,日付の記載のない遺言書に,相続人が被相続人の意思に基づかずに日付を記載することは,未だ有効に作成されたものとはいえない遺言書を,外形を整えて完成させるものであるから,民法891条5号にいう変造に当たるというべきである。しかし,その変造は,日付の記載という,時的要素を判断する上で重要な記載に関するものであり,単に遺言書の名下に欠けていた印を押すというような行為とは異なるものであるから,それをもって,遺言者の意思を実現させるため,その法形式を整える趣旨でしたものとみることはできない。したがって,被告が本件遺言書に日付を記載した行為は,民法891条5号にいう変造に当たり,被告は,本件相続に関し,相続欠格者に当たるというべきである。
 そうすると,本件相続については,原告のみが相続人となるから,原告は,本件相続により,本件不動産のAの2分の1の割合の共有持分権を取得したものというべきである。

 

京都地裁判決平成20年09月24日

【判旨】

 契約の解除の意思表示が解除原因を欠くなどその要件を満たしていない場合に当該解除の意思表示が無効であり,解除の効果が生じないとしても,かかる解除の意思表示が不法行為であると評価されるのは,解除の意思表示をした契約の一方当事者が解除原因を明らかに欠くことを認識しつつ,敢えて相手方当事者に損害を被らせる目的で解除したという不法行為法上の違法性を基礎づける特段の事情が認められる場合に限られると解するのが相当である。

 

那覇地裁判決平成20年09月24日

【事案】 

 本件は,被告株式会社東亜フォトニクス(以下「被告東亜」という。)の元取締役であり,写真家である原告が,被告東亜及び被告財団法人海洋博覧会記念公園管理財団(以下「被告財団」という。)に対し,原告が撮影した別紙著作物目録記載の各写真(以下まとめて「本件各原写真」という。)を被告らが無断で複製して別紙書籍目録記載の写真集「写真で見る首里城(第4版)」(以下「本件写真集」という。)に掲載しているのは原告の複製権を侵害し,また原告の氏名を表示せずに本件写真集を複製及び販売しているのは原告の氏名表示権を侵害する不法行為である等と主張して,本件各原写真の複製権等に基づいて,本件各原写真の複製物ないし翻案物である別紙削除写真目録記載の各写真を削除しない限りでの本件写真集の複製及び販売の差止め,使用料相当額の損害の賠償を請求し,また本件各原写真に係る氏名表示権に基づく慰謝料の支払いを請求し,かつ弁護士費用相当額の損害賠償,謝罪広告の掲載及び上記各損害に対する平成17年7月1日(本件写真集の発行の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ請求した事案である。
 なお,原告はその訴状中で複製権の侵害を主張しているが,本件各原写真のうちには,もとの写真の一部を切り出して本件写真集に掲載されているものがあるから,翻案権の侵害も合わせて主張しているものと解される。また,原告は,前記のとおり販売行為の差止めも請求しているから,譲渡権の侵害も合わせて主張しているものと解される。

【判旨】

 法人その他使用者(以下「法人等」という。)の発意に基づいて,当該法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物であって,当該法人等が自己の著作名義で公表するものの著作者は,作成時において契約等に別段の定めがない限り,当該法人等となるところ(著作権法15条1項),同項にいう「法人等の業務に従事する者」に当該「法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の『法人等の業務に従事する者』に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきもの」であると解される(最高裁平成13年(受)第216号・平成15年4月11日第二小法廷判決)。
 本件においては,本件在籍中各原写真の撮影(作成)当時,原告と被告東亜との間で雇用関係があったか否かが争われているから,同項にいう「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かを判断するについては,上記のとおり,使用者たる被告東亜と作成者たる原告との間の関係に係る具体的事情も総合的に考慮して判断すべきである。
 ・・・原告は平成9年10月1日に被告東亜に就職し(雇用契約の締結),以後被告東亜との間で雇用関係を有するに至ったものであるが,同日以後,原告が退職届をB に提出する以前において,原告が被告東亜に対して従業員を退職するとの意思表示をしたり,又は被告東亜との間で従業員の地位を喪失させる等の合意をしたことを認めるに足りる証拠はない。
 そして,原告が被告東亜の取締役に就任した後も従業員としての給与の支給を受け,被告東亜を事業主とする社会保険に加入し,一定期間保険料納付が中断したものの,雇用保険に加入していたことにかんがみると,原告は,平成14年2月20日に被告東亜を退職するまで,被告東亜の従業員たる地位を有していたものというべきである。
 そうすると,本件在籍中各原写真の撮影当時(平成9年12月31日ないし平成13年10月19日)において,原告は被告東亜の従業員兼取締役であったというべきである。
 ところで,上記撮影当時においては,会社法施行前の旧商法(明治32年3月9日法律第48号)が適用されるところ,旧商法においては,株式会社の平取締役は業務執行をする権限を有していなかったから(旧商法260条参照),原告による写真撮影という労務の提供は,被告東亜の従業員たる地位に基づいてされたものといわざるを得ない。
 したがって,本件在籍中各原写真の著作者との関係では,原告が被告東亜と雇用関係にある者であり,被告東亜の業務に従事する者に当たるというべきである。

 原告は,自らの判断で,いつ,どこの現場に行って撮影をするかを決めており,被告東亜から命じられて撮影をするということはなかったし,撮影のアングル,手法については,まったく原告の裁量に委ねられていたから,原告は前記「法人等の業務に従事する者」に当たらない旨等を主張する。
 しかしながら,・・・著作権法15条の趣旨は,雇用関係等にある者がその職務上作成する著作物については,使用者たる法人等が通常その作成費用を負担し,創作に係る経済的リスクを負担していること,法人等の内部で職務上作成された著作物につき社会的に評価や信頼を得,また責任を負うのは,社会の実態として,通常当該法人等であるとみられること,上記のような著作物については,著作者を当該法人等とする方が著作物の円滑な利用に資することから,著作者を使用者たる法人等とした点にあるものと解される。
 そうすると,著作権法15条1項にいう「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かを決するに当たって斟酌すべき当該法人等の指揮監督の内容は,必ずしも当該著作物の創作性に寄与するものであることを要せず,業務遂行や労務管理等のための一般的なものでも差し支えないものというべきである。
 ここで,写真家が行う写真の撮影は,単純な機械的作業ではなく,被写体や構図が概ね指定されていたとしても,撮影者によって撮影の手法や構図の取り方に裁量の余地があるものであるところ,少なくとも本件在籍中各原写真に関しては,原告は被告東亜が指定した被写体や撮影方法等に従い,上記趣旨の裁量の限度において,撮影を行ったにすぎないものであって,原告が完全な自由裁量で本件在籍中各原写真の撮影を行ったものではなかった。
 したがって,原告が被告東亜における作業においてある程度の裁量を有していた事実があったからといって,前記の結論は左右されるものではなく,原告の上記主張を採用することはできない。

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