法科大学院定員削減の意味(2)

定員削減の意図

前回の記事で、定員削減は増員推進派の発案であることを述べた。
定員削減が、どうして法曹増員に繋がるのか。

定員削減の意図は、法科大学院特別委の中間取りまとめに記載されている。

(法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(中間まとめ)より引用)

 これらの取り組みによって法科大学院全体の入学定員が縮小され、法科大学院修了者が相当の割合で法曹資格を取得できるようになれば、優秀な法曹志望者の法科大学院への入学を促進することにつながることが期待される。

(引用終わり)

定員縮小により合格率が向上する。
そうすれば、優秀な志望者が増える。
これにより、質の問題は解消される。
そうすれば、増員の障害はなくなる。

これが、推進派のシナリオのようである。
現在、法科大学院志願者数は減少傾向にあり、その原因は合格率にあるとされている。

(毎日新聞WEB版2008年5月19日19時16分配信記事より引用、下線は筆者)

法科大学院:志願者数も倍率も過去最低

 昨秋実施した法科大学院の今年度入試の志願者数と倍率が過去最低だったことが19日、文部科学省の調査で分かった。志願者は前年度比5652人減の3万9555人で、倍率は6.8倍(前年度7.8倍)。入学者全体に社会人経験者が占める率も29.8%(前年度比2.3ポイント減)と、いずれも04年度の制度導入以来最低だった。
 人気低下の理由について文科省専門教育課は「新司法試験の合格率の低さが影響しているのではないか。特に社会人は、仕事を辞めて進学することに不安を持っていることがうかがえる」と分析している。
 定員割れも依然として目立ち、充足率が80%未満の大学院は全74校中16校(私立15校、国立1校)で、07年度の6校(すべて私立)より10校増えた。

(引用終わり)

各マスコミの社説も合格率を定員削減の理由に挙げている。
目標の7割〜8割に到達しない以上、定員を削減するよりない、という論調である。

(08年10月6日読売新聞社説より引用)

法科大学院 乱立解消は避けて通れない

  法科大学院数は74に上り、乱立状態といえる。総定員は約5800人に達している。
 新司法試験の合格率は当初、7〜8割が目安とされたが、今年の合格率は33%だった。新試験導入からまだ3年目とはいえ、実態は当初の狙いとかけ離れている。

(引用終わり)

 

(08年10月5日産経新聞社説より引用)

法科大学院 法曹の質向上へ再編急げ

 新司法試験の合格率は当初7、8割程度と想定された。ところが修了1期生から想定を大幅に下回る結果となり、3回目の今年の合格率は約33%と前年実績をさらにおよそ7ポイント下回った。合格者ゼロの大学院も3校あり、修了者のレベルや法科大学院の教育の質自体への懸念が高まっている。
 法科大学院は現在74校あり、定員は全体で約5800人となっている。当初は20校程度と予想されていたことを考えれば、「乱立」との批判もうなずける。

(引用終わり)

 

(08年10月5日日経新聞社説より引用)

再編避けられぬ法科大学院

 今年の新司法試験は全国74の法科大学院すべての修了者が受験し、昨年に比べ200人ほど多い2065人が合格した。しかし合格率は32.9%と約7ポイント下がり、合格者ゼロが国立も含め3校あった。
 新司法試験は、法科大学院で学んだ知識や技能が身に付いたかどうかを見極める資格試験という位置づけだ。だから修了者の7―8割は関門を突破できる。こんな青写真が示されていたからこそ法科大学院は幅広い志願者を集めてきた。
 そのもくろみが大きく外れた要因は、乱立と過大な入学定員にある。

(引用終わり)

「7〜8割」の意味

ここで注意すべきことは「7〜8割」の具体的意味である。
上記社説などは、受験者合格率を前提として記述している。
記事の示す33%とは、受験者合格率だからである。
しかし、これは誤りだ。
「受験者合格率を7割〜8割にすること」が、目標なのではない。
「修了生の7割〜8割が最終的に合格できること」が政府の目標である。
この点、規制改革推進のための3か年計画では、以下のように記述されている。

(規制改革推進のための3か年計画(平成20年3月25日閣議決定)より引用、下線は筆者)

 法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7〜8割)の者が新司法試験に合格できるよう努める

(引用終わり)

「その過程を終了した者」の7〜8割とされている。
仮に5000人の修了者がいれば、3500人ないし4000人が合格するということだ。
その際、合格の時期は限定されていない。
修了してすぐ一発で合格しなければならないとは、書かれていない。
修了者の中には、すぐ受験する者もいるし、受け控える者もいる。
一発合格の者もいれば、三度目にやっと合格できる者もいるだろう。
その過程はどうあれ、最終的に7〜8割が合格できればよいわけである。
上記数字で言えば、一発合格が2000人、2年目合格が1000人、3年目以降の合格が500〜1000人、という形でもよい。
従って、個々の年度の受験者合格率が7割〜8割になることを意味しない。

そもそも、上記内容は、司法制度改革審議会の意見書を引き継いだものである。

(司法制度改革審議会意見書より引用)

 法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7〜8割)の者が新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである。

(引用終わり)

司法制度改革審議会において、この点は議論されている。
しかし、その際に事務局の出したシミュレーションが不適切だった。

事務局は、修了生が最初の受験で75%合格すると仮定した。
前述のように、本来は修了生の合格の時期は、様々であってよい。
しかし、それを考慮すると計算上煩雑になる。
そこで、便宜上受験初年度に目標を達成してしまうものとして試算した。
そうすれば、その後の年度に再受験する者は、7割8割という目標との関係では、考慮しなくて済む。
そのため、本来存在するはずの受け控えや、再受験者の存在は無視された。
これだと、受験者合格率と修了生の最終的な合格割合は一致することになる。

だが、これは現実的にはあり得ない数字である。
審議会では、北村委員がそのおかしさを指摘したが、結局うやむやになった。

(平成13年4月24日司法制度改革審議会第57回より引用、下線は筆者)

【北村委員】 75%といって、落ちた人が次の年に受けて、また3回まで受けられるということになると、最後の年は50を切るんですね。今すぐには計算が出てこないんですが、これは非常に厳しい試験だなというふうな感じもするんですね。だから、75というのはごまかしの数字で、これは初年度が非常に有利なのであって、だんだん厳しくなっていくという計算になっているなというふうな感じがするんです。だから、そこのところを、3年、4年以降は同じだと思うんですが、3回までであったら、ということで。

【井上委員】 積み重なってくると同じですよ。

【北村委員】 だから、4年以降は同じでしょう。でも、3年までの最後の年のそれがずっと永久に行ってしまうという部分ですね。だから、その辺のところで、75とは言いながら50になる、そういう合格の試験になるということ。

【井上委員】 言葉は悪いんですけれども、積み残した部分というのを入れてパーセントを取るというのは、制度としてはちょっとおかしい発想だと思うのです。

【北村委員】 でも受けますよね。みんなそれを目標にして来ているんですから。

【井上委員】 受けるわけですが、それを含めると、結果として50%ということになるかもしれない。しかし、生み出す方としては、修了者の75%は少なくとも、受かってほしいと、それを目指そうということだろうと思うのですね。また、毎年の母数はある程度増えるでしょうが、どの程度受けるかは分からない。そこは不確定要素でしょう。

【北村委員】 やはりそれだけのお金を払ってきているという部分もあるし、司法に携わりたいという気持ちがあって来ているんでしょうから。

【井上委員】 でも、これはあくまでもシミュレーションですから。その数をボトルネックにするというわけではないので。

【北村委員】 そうなんです。だから、75というのが一人歩きして、何か全部、毎年75%の人が合格していくなというような試験ではないんだということを、ちょっと認識しておいていただいた方がいいかなということです。

 (中略)

【井上委員】 ちょっと戻りますが、さっき北村先生が問題にされたの75%ですけれど、実は私も数字が非常に弱くて、それで事務局の方でシミュレートしてもらったものですから、ここのところちょっと私が誤解していたようですので、その辺を事務局の方に説明をしていただいてよろしいですか。

【佐藤会長】 では、説明していただけますか。

【事務局(小山参事官補佐)】 表の作成の上では、単純に修了者数に0.75を掛けて司法試験合格者数を出しておりますので、そういう意味では、0.75という数字は3回の受験生の累積ではなくて、単年度といいますか初年度、修了した諸君がその年に受けた試験の合格率というつもりの作成の数字でございます。
 したがって、初年度に落ちた方も2回目、3回目を受験できるというふうにプログラムしていただいておりますけれども、その方の数字はこの表には不正確ではあるかもしれませんが入っておりませんので、そういう意味では、シミュレーションの数字そのものが最低ラインというつもりの作成になっております。

【北村委員】 今のでよけいわからなくなってしまいました。
 ちょっと伺いたいのは、75というのは受験生全体の75を常に考えていきましょうということなんですか

【井上委員】 修了する者の受験、初年度が75%の合格率で、積み残した人の合格者数は、それにプラスαになるというのがこの表なわけでしょう。つまり、卒業したての人が75%合格するだろう。残っている人たちがある一定数合格すれば、それに上積みされていく。だから、実際の合格者数はこれより増えるだろう。そういう含みのある数字だということです。

【北村委員】 積み残していた人も75%になると、3年目は50%になるんです。試験ではだれが積み残しなのか、だれが新しい人なのかわかりませんから。

【山本委員】 一浪の方が合格率が上がるんです。

【北村委員】 でも、80とか85になるということなんですね。そういうふうに考えていいんですか

【井上委員】 そうなるかもしれないです

(引用終わり)

井上委員はそうなるかもしれないと言っているが、そうはならないだろう。
北村委員は、再受験者の存在によって、合格率が押し下げられると指摘している。
すなわち、受験者合格率のことを言っている。
受験者合格率は、合格者総数と受験者総数の二つの数字で決まる。
再受験者が合格したからといって、受験者合格率がそのまま上乗せされるはずがない。
再受験者がたくさん合格しているということは、初受験者はその分落ちている。
それだけのことである。
井上委員は、修了生の何割が最終的に合格するか、のことを言っている。
これについては、確かに再受験者の合格が数字の上積みとなる。
すなわち、ある年度の修了生について、初年度に75%が合格する。
そうすると、残りは25%。
そのうち10%が翌年再受験して合格すれば、当該修了生全体の合格割合は85%となる。
しかしこれは、北村委員の疑問に対する答えとしては、間違っている。

北村委員の指摘は正しい。
新司法試験は当初から、受験者合格率を7割8割にするようには設計されていなかった。

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