法科大学院定員削減の意味(3)

現在の達成度

前回の記事で、「7〜8割」とは、受験者合格率を意味しない。
修了生の7〜8割が最終的に合格するという意味であると述べた。
では、現段階で修了者の7〜8割という目標はどの程度達成されているのか。

この点は、正確な統計が公表されていないためわからない。
しかし、法務省によると、平成17年度修了者2176名のうち既に1504名が合格しているという。
これは、69.3%であるから、既にほぼ7割を達成している。
平成17年度修了者は、平成23年まで受験期間がある。
従って、受け控えによりまだ受験資格を維持している者が残っているはずだ。
その者達の何名かは、今後合格するだろう。
そうなると、7割達成はほぼ確実と思われる。

平成20年9月16日規制改革会議法務・資格TFより引用、下線は筆者)

○佐々木参事官 大まかな数値で御報告させていただきますと、平成17年度の修了者全体が既修だけなんですけれども、2,176名であります。そのうちの18年の司法試験に合格したものが1,009名。19年に396名、20年に99名、合わせて1,504名合格してございます。そうすると、修了した人が全員司法試験を目指しているわけではないんですが、2,176名のうち1,504名までもう累積ではいっているということです。この累積具合、何人修了したかはわからないんですが、その受験者を基礎にしたものは今年からは法務省で発表させていただいております。

○阿部専門委員 でもバッター三振、アウトになった人数はわかるのでしょう。

○山口課付 その人数は、人によっては旧試験もカウントされますので、つまり初年度である18年度から既に3回のカウントとなり、受験資格を失う人というのは出てきているわけですけれども、今年受験資格を失ったという人は241名。今の241の内数になりますけれども、新試験だけを3回受けて受験資格を使い切ったという人は172名おります

○阿部専門委員 それでは、残りの多分二百何名かがまだ受け控えしてもう一回ぐらい権利が残っているという人はどれぐらいですか。

○山口課付 18年、19年にも受験資格を失っている人がいますので、実際にどのぐらいあと受験有資格者がいて、かつその人たちが受ける意思がまだあるのかどうかということはなかなかわからないところがあります。

○阿部専門委員 受ける意思はともかくとして、バッター三振、アウトにならないでまだ権利が残っている人はどのぐらいいるのか。とにかく合格率はどのぐらいかで、最初だと既修者は2,000人ぐらい、1,500人は受かって、二百何人が失権して、もう少し受け控えがいると言ったら、8割ぐらい合格といったらめちゃくちゃやさしくなったという気が私個人の感想ではするけれども、そういう統計がちゃんと欲しいということ。

○佐々木参事官 7〜8割というところは、18年度修了者についてはほぼその域に達していることになります。

(引用終わり)

※ 最後の佐々木参事官発言における「18年度」は、文脈上「17年度」の言い間違えか誤植と思われる。

世間では、7割8割という目標は一度も達成できていないと考えられている。
それは、受験者合格率を前提にしているからだ。
確かに、受験者合格率は一度も7割以上になったことがない。
しかし、前回述べた通り、この理解は誤っている。
実際には、平成17年度修了者については、ほぼ達成している。

もっとも、平成17年度修了者は初年度でほぼ半数が合格できている。
その後の修了者については、そうはいかない。
今後も安定して7割8割を達成できるのかは、別途検討が必要である。

今後はどうか

そこで、簡単な試算をしてみよう。
修了生の特定の年度の合格率が、受験者合格率と等しいと仮定する。
受験者合格率は、各年度で変わらないこととし、これをPとする。
そして、修了生の全てが、3回受験するとする。
その場合、修了生は3回とも不合格にならない限り、最終的に合格することになる。
各年度に不合格になる割合は、上記仮定の下では(1−P)である。
そうすると、修了生が最終的に新試験に合格する割合は、

1−(1−P) 

となる。
これを基礎に、受験者合格率と修了生が最終的に合格する割合(以下、「修了生合格割合」という。)をまとめたのが下の表である。

受験者合格率 修了生合格割合
20% 48.8%
30% 65.7%
40% 78.4%
50% 87.5%
60% 93.6%
70% 97.3%

受験者合格率が4割でも、修了生合格割合は78.4%に達する。
一般に低すぎるとされた今年度の33%という受験者合格率。
この場合、修了生合格割合は、69.9%になる。
閣議決定の修了生7割という数字は、これでもほぼ達成できる。
結局、受験者合格率は3割強から4割程度に維持できればよい。
司法試験委員会の設定した平成20年度の合格者数は、受験者合格率の下限に一致する。
司法試験委員会も、上記と同様の試算をしている可能性がある。

そうすると、7〜8割のはずなのに33%は低すぎる、というマスコミの主張。
これは虚偽報道か、誤報の類である。

故意か、過失か

やや余談になるが、平成20年度の三振者の内訳が上記議事録にあがっている。
総数241名、うち新試験のみが172名という。
しかし、このことをマスコミは区別できずに報道していた。
あるマスコミは、241名のみ挙げ、別のマスコミは172名のみを挙げた。
両者を挙げて、総数241、うち新試験のみが172名なのだ、と説明したマスコミは皆無だった。

(毎日新聞WEB版9月11日20時9分配信記事より引用)

 法務省の司法試験委員会は11日、法科大学院の修了者を対象とした3回目の新司法試験の合格者を発表した。合格者数は2065人(男性1501人、女性564人)。合格率は33.0%で初めて3割台に落ち込んだ。委員会が今年の目安とした2100〜2500人を下回り、合格者ゼロも3校に上った。また、新司法試験の受験資格は「法科大学院修了から5年で3回」と制限されており、172人が初めて受験資格を失った。

(引用終わり)

(NIKKEI.NET9月12日2時21分配信記事より引用)

 合格者数の平均年齢は28.9歳、最高齢は59歳。新試験は法科大学院修了から5年以内に3回という受験制限がある。今回、修了者の172人が計3回の新試験を不合格となり、受験資格を失った。

(引用終わり)

(読売新聞WEB版9月12日配信記事より引用)

 合格者増がこのままのペースでは、あと2年で目標の年間3000人に到達できるかどうか微妙。法科大学院修了生には5年間で3回しか司法試験を受験できない制限があり、今年不合格となって受験資格を失った人は241人に上った。「高い学費を払っても合格できない」として法科大学院を敬遠する空気が広がり、多様な人材の確保が難しくなる懸念もある。

(引用終わり)

マスコミは受験回数に旧試験もカウントされる場合があること(司法試験法4条1項、同法改正附則平成14年12月6日法律第138号第8条2項3項)を知らなかった可能性が高い。

司法試験法4条1項
 司法試験は、次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める期間において、三回の範囲内で受けることができる。
一  法科大学院(学校教育法 (昭和二十二年法律第二十六号)第九十九条第二項 に規定する専門職大学院であつて、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的とするものをいう。)の課程(次項において「法科大学院課程」という。)を修了した者 その修了の日後の最初の四月一日から五年を経過するまでの期間
二  司法試験予備試験に合格した者 その合格の発表の日後の最初の四月一日から五年を経過するまでの期間

司法試験法改正附則平成14年12月6日法律第138号第8条
 平成十八年から平成二十三年までの各年においては、法務省令で定める手続に従い、あらかじめ選択して出願するところにより、新司法試験又は旧司法試験のいずれか一方のみを受けることができる。
 新法第四条第一項第一号の受験資格(同号に規定する法科大学院課程の修了をいう。以下この条において同じ。)に基づいて新司法試験を受けようとする者が、その受験前に旧法の規定による司法試験の第二次試験又は旧司法試験の第二次試験の受験(当該新司法試験の受験に係る受験資格を得る前の受験については、当該受験資格を得た日前二年間のものに限る。以下この条において「旧司法試験等の受験」という。)をしているときは、その旧司法試験等の受験(次項の規定により他の受験資格に基づく新司法試験の受験とみなされたものを除く。)を、当該受験資格に基づいて既にした新司法試験の受験とみなして、新法第四条第一項の規定を適用する。
 前項に規定するもののほか、新法第四条第一項第一号の受験資格に基づいて新司法試験を受けた者については、当該新司法試験の受験前の旧司法試験等の受験及び当該新司法試験の受験後の旧司法試験の第二次試験の受験を、当該受験資格に基づく新司法試験の受験とみなして、同条の規定を適用する。

また、司法担当であるにもかかわらず、予備試験の存在を知らない記者がいるという。

平成20年6月24日規制改革会議法務・資格TFより引用、下線は筆者)

○山下参考人 1つお願いがあります。それが何かと言うと、現在、司法試験の受験資格についての誤解があるように思いますので、対応をご検討をしていただきたいことです。それは、福井先生を始め規制改革会議でもかなり御尽力いただいた予備試験のことです。司法試験にトライされる方は、現在、旧試験と新試験が並行していますが、旧試験との平行期間が終了すると法科大学院の修了者しか司法試験の受験資格がないと誤解された意見を耳にすることがよくあります。資力の乏しい方や資力があっても様々な制約などのため、法科大学院を受験できない方も、予備試験を通じて司法試験にトライできるチャンス、即ち、予備試験に合格すれば司法試験の受験資格を得ることを周知徹底していただきたいと思います。「昔は、義務教育を終了すると誰もが司法試験を受けられたのに、今は、高いお金を出して法科大学院の修了者しか司法試験の受験資格がない」という話を聞く度に、「予備試験」のことを紹介しています。そのような質問件数が増えているように感じますので、法曹養成制度の紹介の広報と併せ、「予備試験」についても積極的に御紹介していただくことを、期待いたしたいと思います。

○佐々木参事官 その予備試験のことを失念されているとすると、我々はそれを今、制度設計している最中でありますので、ちゃんと折りに触れて周知に努めるようにしたいと思います。

○山下参考人 これから検討いただきたいと思います。

○福井主査 結構、司法担当の記者でも念頭にない方がいるんです。

○佐々木参事官 司法担当の記者でもですか

○福井主査 予備試験がすっぽりと認識から抜け落ちている方がいます

(引用終わり)

このようにメディアの司法試験に関する理解は、十分とはいい難い。
7割〜8割の件についても、素朴に受験者合格率だと思っていた可能性はある。
しかし、受験者合格率を7〜8割にするのが政府目標であるかのような報道。
これを根拠に、合格者増や、今回の定員削減が主張されていることも事実だ。
推進派が故意に誤った理解に基づいて、議論を誘導している部分もありそうである。

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