新司法試験短答・論文の比重変更について(上)

ひっそりと変更

法務省が、「平成21年度新司法試験の実施について」を公表した。
項目だけをみると、例年通り何も変わらないようにみえる。
しかし、そのうちの「採点及び成績評価等の実施方法・基準」の項目に重要な変更がある。
平成20年度までは、「平成17年11月16日新司法試験考査委員会議申合せ事項」となっていた。
それが、「平成21年1月21日新司法試験考査委員会議申合せ事項」となっている。
そして、その中身をみると、一箇所変更された部分がある。
それは、短答試験と論文試験の総合評価における得点の比重である。

新司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について
(平成17年11月16日新司法試験考査委員会議申合せ事項)
より引用)

1 総合評価の方法

(1) 総合評価は,短答式試験の得点と論文式試験の得点を合算した総合点をもって行う。
ただし,論文式試験において最低ラインに達していない科目が1科目でもある者については,それだけで不合格とする。

(2) 合算の際の配点については,短答式試験と論文式試験の比重を1:4とし,総合点は以下の算式により計算する。

算式=短答式試験の得点+(論文式試験の得点×1400/800)

(引用終わり)

 

新司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について
(平成21年1月21日新司法試験考査委員会議申合せ事項)
より引用、下線は筆者)

1 総合評価の方法

(1) 総合評価は,短答式試験の得点と論文式試験の得点を合算した総合点をもって行う。
ただし,論文式試験において最低ラインに達していない科目が1科目でもある者については,それだけで不合格とする。

(2) 合算の際の配点については,短答式試験と論文式試験の比重を1:8とし,総合点は以下の算式により計算する。

算式=(短答式試験の得点×1/2)+(論文式試験の得点×1400/800)

(引用終わり)

下線部分が変更されている。
これはどういうことか。

変更の意味

短答式試験は、350点満点。
論文式試験は、800点満点である。
これは、平成21年度も変わらない。

従来は、総合評価段階で、これが短答350点満点、論文1400点満点になるよう修正されていた。
すなわち、論文の満点が、短答の満点の4倍になるように修正されていたわけである。
その修正により、論文の点数は、1400/800=1.75倍となる。
論文の1点が、短答の1.75点に相当することになる。
逆に、短答の1点は、論文の 1÷1.75≒0.57点に相当することになる。
(1:4というと、論文の1点が短答の4点に相当しそうであるが、それは誤りである。)
従って、例えば、短答で100点の差を付けられた場合。
論文でこれを取り返すには、57点余分に取る必要がある。

今回、これが変更された。
総合評価段階で、短答の点数がさらに2分の1にされた。
そうすると、修正後は短答が175点満点、論文1400点満点ということになる。
その結果、論文の満点が短答の満点の8倍に修正されることになる。
これにより、論文の点数は、1400/800=1.75倍のままだが、短答は半分(0.5倍)になる。
そして、0.5:1.75=1:3.5である。
従って、論文の1点が、短答の3.5点に相当することとなる。
逆に、短答の1点は、論文の 1÷3.5≒0.28点に相当することとなる。
(1:8といっても、論文の1点が短答の8点に相当するわけではない。)
そうすると、例えば、短答で100点の差を付けられた場合。
論文でこれを取り返すには、28点余分に取れば足りる。

以上のように、今回の変更は、短答の総合評価への寄与度を半減させる。
その具体的意味は、1:1.75から、1:3.5への短答・論文の得点レートの変更である。

なぜこの時期なのか

法務省がこれを公表した時点で、平成21年度の新司法試験の出願は終了している。
なぜ、試験の実施まであと4か月程度しかない段階になって、公表したのか。

これは、手続的な問題だろう。
新司法試験考査委員会議申合せ事項を変更するには、新司法試験考査委員会議に諮ることになる。
しかし、新司法試験考査委員会議は、年に3回程度しか行われていない。
下記は、平成20年までの新司法試験考査委員会議の日程である。

平成18年新司法試験考査委員会議(実施打合せ会議) 平成17年11月16日
平成18年新司法試験考査委員会議(短答式試験成績判定会議) 平成18年6月12日
平成18年新司法試験考査委員会議(最終及落判定会議) 平成18年9月20日

平成19年新司法試験考査委員会議(実施打合せ会議) 平成18年11月17日
平成19年新司法試験考査委員会議(短答式試験成績判定会議) 平成19年6月6日
平成19年新司法試験考査委員会議(平成19年新司法試験考査委員による不適正行為について) 平成19年8月2日
平成19年新司法試験考査委員会議(最終及落判定会議) 平成19年9月12日

平成20年新司法試験考査委員会議(実施打合せ会議) 平成19年11月19日
平成20年新司法試験考査委員会議(短答式試験成績判定会議) 平成20年6月4日
平成20年新司法試験考査委員会議(最終及落判定会議) 平成20年9月10日

基本的に、前の年の11月、その年の6月と9月にしか開催されていない。
平成19年8月2日の会議は、例の植村事件による臨時のものである。

上記日程を前提にすると、議論する機会は限られている。
最初の機会は、平成20年11月に行われる実施打合せ会議ということになる。

平成21年新司法試験実施打合せ考査委員会議議事要旨平成20年11月19日より引用、下線は筆者)

合否判定方法・基準等について

 平成21年新司法試験合否判定方法・基準等について,資料2から4のとおり事務当局から説明が行われ,協議の結果,いずれも平成21年新司法試験の実施方針として決定された。
 なお,資料5から7の申合せ事項(「新司法試験における論文式試験の答案用紙の配布枚数について」,「新司法試験受験者の無効答案等に関する取扱いについて」,「新司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について」,いずれも平成17年11月16日新司法試験考査委員会議申合せ事項)に関しては,更にその内容を検討することとされ,平成21年1月21日(水)開催予定の当会議において協議することとされた

(引用終わり)

この会議において、見直しが議論されていたようである。
そして、年を越して平成21年1月21日にもう一度協議するとされている。
その結果が、今回の公表ということになる。
その意味では、決まってから公表まではかなり迅速だったといえる。
(なお、答案用紙の配布枚数や無効答案等の取扱いについては、変更はないようである。)
先程みた過去の日程との比較から、平成21年1月の会議は臨時のものであることがわかる。
おそらく、すぐには意見がまとまらず、持ち越したのであろう。
それはある意味、当然である。

平成21年新司法試験実施打合せ考査委員会議議事要旨平成20年11月19日より引用、下線は筆者)

出席者

(司法試験委員会委員)

(委員長) 橋宏志

(委員)酒井邦彦(敬称略)

(新司法試験考査委員) 90名出席

(司法試験委員会庶務担当(法務省大臣官房人事課)) 
 林眞琴人事課長,中村芳生人事課付,山口久枝人事課付,遠藤洋一試験管理官

(引用終わり)

90名の中には、異論を出す者もいたはずである。
平成20年内に再度の会議を開催できなかったのも、集合可能な日程の問題と思われる。

そういうわけで、受験生に対する嫌がらせとか、不意打ちの意図はなかったと考えてよさそうだ。

ちゃんと告知しないのはなぜか

この情報は、平成20年1月27日現在も、明示的に告知されていない。
これは、何か後ろめたいことがあって秘密にしているのだろうか。

おそらく、そうではない。
昨年度、法務省は「平成20年新司法試験に関するQ&A」というものを公表している。
ここで、主要な情報の告知を行っている。
その掲載日時は、平成20年2月4日である。

平成21年度についても、法務省は同様のものを作成して2月上旬に掲載する予定なのだろう。
そこにおいて、正式に告知がなされるはずである。
法務省としては、タイムラグは10日程度だから問題ない、と思っているのではないか。

受験生の採るべき対策

この変更によって、受験生は何か対策をすべきだろうか。
一見すると、短答の比重が下がったのだから、短答の勉強を減らして論文に回すべきとも思える。
しかし、結論的には、これまで通りの勉強でよいと思う。

まず、短答における比重が下がったのは、総合評価の段階である。
従って、短答の最低合格ラインはこれまで通り存在し、その水準が下がるわけではない。
総合評価は、これをクリアした後の話である。
そして、新司法試験の短答は、とりわけ公法系において、正誤の正確な判断が問われる。
一つでも誤ると、部分点しかもらえない問題も少なくない。
手を抜くと、足をすくわれかねない部分がある。

また、短答と論文を比べた時、時間をかけた分だけ点数が上がりやすいのは、短答である。
短答は全範囲から満遍なく出題され、しかも、知っていれば解ける問題である。
これに対して、論文は、時間をかけたほど成績は上がらない。
出題されるのは、出題範囲の中のごく限られた領域だけである。
しかも、知っていれば解けるというものでなく、現場での頑張りで点数が左右されやすい。

さらに、論文で要求される基礎知識の多くは、短答と重なっている。
新試験では、選択科目を除いて、全ての科目に短答がある。
従って、短答の学習は、論文の学習でもある。

以上から、この変更を理由に短答の学習を減らして論文答練を増やす等の必要はない。
これまで通り、当初の計画通り、粛々と勉強をこなしていけばよいと思われる。

今回の比重変更は、総合評価に関するものに限られ、いわばもともと小さかった短答の寄与度をさらに下げるものである。
この影響は、それほど大きくはない。
これに振り回されて学習のペースを乱されることが、最も避けるべきことである。

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