新司法試験短答・論文の比重変更について(下)

従来の議論の枠を超えた比重

前回の記事で説明した短答論文の比重変更。
これは、どのような意図で行われたのだろうか。
正確なところは、考査委員会議の議事録が公開されなければわからない。
ただ、従来1:4の比重とされた際の議論。
これを参照することによって、ある程度推測することは可能である。

短答・論文の比重について、最初に具体的数字を示したのは、新司法試験実施に係る研究調査会である。

新司法試験実施に係る研究調査会報告書平成15年12月11日より引用)

2 総合評価の在り方

○ 総合評価は,短答式試験の得点と論文式試験の得点を合算して評価するものとし,その際の配点については,短答式試験と論文式試験の比重を1:4程度とする。
○ 総合評価の判定に当たっては,上記に加え,論文式試験科目ごとに最低ラインを設定する。

・ 総合評価は,短答式試験の得点と論文式試験の得点を合算して評価するものとするが,その際の配点については,新たな法曹養成の理念を踏まえて論文式試験の比重を短答式試験よりも大きいものとし,短答式試験と論文式試験の比重を1:4程度とする。
・ 各科目ごとに,法曹となろうとする者に必要な最低限度の能力等を有しているかを的確に判定するため,論文式試験について,科目ごとに最低ラインを設定し,これに達しているかも判定するものとする。
 なお,最低ラインの設定方法及び水準は,法科大学院における教育内容や各科目における具体的な出題内容などを踏まえて検討すべきである。

(引用終わり)

では、この調査会では、どのような議論がなされたのだろうか。

第4回新司法試験調査会報告検討グループ平成15年11月28日より引用、下線は筆者。
 なお、□は高橋宏志座長、○はその他の委員の発言である。)

□ それでは,「総合評価における短答式試験に対する論文式試験の比重について」,短答式試験と論文式試験の配点の比重を1対4にするか,1対3にするかという前回持ち越した件について協議願いたい。論文式試験の方にウエイトを置くということについては, 全体で了解があるが, これを強く打ち出そうとする方は1対4程度とされ, 論文式と短答式は違う能力を見ており, 短答式もそれなり見るべきところを見ていくのだということを主張する方は1対3程度ということが前回までの意見であった。

○ 在り方検討グループで再度この論点を諮ったところ, 論文式試験が重視されることを象徴的に示すような比重というものが適当ではないか, そのような点から1 対4 という比重が, なお適当ではないかという意見の一致をみた。

□ 在り方検討グループは1対4という提言だが, いかがか。

○ 在り方検討グループでは,象徴的に示すということのほかに,新しい制度では,短答式で一定の点数をクリアした者だけが論文式を評価されるという形でまず最初に使われていて, その上で, 更に論文式の結果と合わせて評価される。そういう意味においては2回評価されるのであるから,1対4としても短答式を不当に軽くするものではないという意見が複数委員から出た。

○ 私自身は, 前回1対4で良いと思ったが, これを基礎付ける理念が浮かばなかった。一つ言えることは, 論文式試験には選択科目も入るので, 1対3だと論文式試験のウエイトが小さすぎるのではないか。1対3と1対4を比べると, ウエイト的には1対4の方が良いのではないか。そのようにしても, 短答式がそんなに軽視されるわけではないという感覚である。
 ただ, 報告書案, 枠外の「例えば」の部分は削除した方が良い。短答式試験は前の方から読んでくると全部合わせて350点となるのに, ここではそれを200点としている。ここは次元の違うところであり,換算すればよいのだから,「例えば」以下は削除した方が良い。

○ 私自身は, 前回,1対4ではいささか差がつきすぎると発言したが, 前回の会議で新司法試験では何が新しくなるのかという発言があり, 今回のような制度改革に当たっては, ある程度の新機軸を打ち出すことが必要と思った。今,1対3では近付きすぎる,1対3と1対4の比較の問題なのだけれどという意見があったが, 私も結論的に本日は1対4に賛成をしたい
 ただ, 短答式が過度に軽視されないように添え書きをしてはどうかと思う。基礎的な知識を幅広く測るという短答式試験にも, それなりの選別効果を与えて,試験の効用と公平性を高めるべきだと思うので, 1対4という結論として, 短答式を過度に軽視しないよう運用上留意をするというような文言をどこかに入れてはどうか

○ 私も, 前回はどちらかというと1対3に近い意見を述べたが, そこには具体的な理屈や根拠があったわけではない。今, 新司法試験がどう変わるのかという姿勢を示す, 新司法試験の在り方としてはそれが望ましいという在り方検討グループでの一致した考えということであれば, 私も1対4で良いのではないかと考えている。

□ 結論としての数字は1対4程度ということでよろしいか。

( 一同了承)

□ 付随して残った部分が2つある。報告書案の「例えば」以下の部分を削除してはどうかという点と, もう1 つは, 短答式試験を不当に軽視することがないように何か修文を行うべきではないかという点。まず, 最初の点だが, 不必要な誤解を与えないよう,「例えば」以下は削除とするということでよろしいか。

( 一同了承)

□ もう1つは, 短答式試験を不当に軽視してはいけないということを, どこか文章に上手く表現できればよいのだが, いかがか。

○ 委員の発言の趣旨はもっともだが, 7ページ, 1の「出題の在り方」の枠外部分を読めば, そこにその趣旨が込められているとは言えないか。もし, もう少し強くということであれば, そこの部分に何か言葉を加えるということでどうか。

○ 出題の在り方のところに短答式試験は重要なものであるという意味を書くと,当然, 論文式試験の部分にも, 論文式試験はもっと大事なものであると書かなければいけなくなる。もちろん, 私も含めて短答式試験を軽視するものでないという考えだと思う。委員の発言は, この会議の議事録に残るが, それでいかがか。

○ 私自身も特段の修文案を考えてきたわけではない。1対4程度とするとした後に, なお, 短答式試験の持つ独自性を損なわないようにすべきであるというような表現が入ればベストだが, この場で皆さんの合議が整わなければ, ただ今の委員の発言のように, 私の発言を議事録に留めるというところで了解をしようと思う

○ 新しい司法試験法自体が, 短答式試験に一次評価の機能を与えて, かつ1対4であっても総合評価の対象とするということで, 現行の司法試験よりも, 短答式試験により重い機能を与えているという仕組みだと思う。そのような法の仕組み自体が, 今のような懸念が出てくることを抑えているので, そういう心配はもう無いのではないか。この7 ページ上段の記載を見る限りにおいては, 非常に重要なものとして位置付けられていることははっきりしている。

□ 議事録上は, 短答式試験を軽視するものではないということがはっきり残る
 機会を見てまた別のところでアナウンスをすることもあるだろうし, 最終報告書の案としてはこのような形でよろしいか。

○ 了解した

(引用終わり)

当時は、1:4か1:3か、が議論されている。
また、1:4にするとしても、短答を軽視すべきでない、という主張がされている。
1:8はおろか、1:5や1:6という数字すら、全然議論されていない。
当時であれば、1:8はとんでもない数字だろう。
その意味では、従前の議論の範囲を大きく超えた変更である。

短答合格点との関係

上記からは、今回の変更は従来の議論を無視した暴挙にみえる。

ただ、ここで注意すべきことがある。
それは、短答の合格最低点との関係である。

短答式試験の満点は、350点である。
そうすると、総合評価の際に、短答だけでも200点くらいの差が付くこともありそうだ。
しかし、それはありえない、
短答式試験では合格最低点が設定されており、それを下回ると論文を採点してもらえない。
従って、総合評価の段階において、合格最低点より低い点数の者は存在しない。
そして、平成18年度及び平成19年度の合格最低点は210点。
平成20年度は230点である。
すなわち実際には、総合評価時に生じうる短答の得点差は、120点〜140点程度でしかない。

議論された当時と現在との違いは、この短答合格点の水準である。
言い換えれば、総合評価時に生じうる得点幅の広狭である。
これが広ければ短答の寄与度はより大きく、狭ければより小さい。
以下は、最初に1:4の案を出した調査会内の在り方検討グループにおける議論である。

第10回新司法試験調査会在り方検討グループ平成15年10月7日より引用、下線は筆者。
 なお、配布資料についてはこちら参照。)

【釜田委員】 ここは御議論が平行する部分があると思うので,少し角度を変えて,3番,4番の総合評価における短答式試験と論文式試験の比重について御検討いただいて,その後,2番の所にお戻りいただくというのはいかがでしょうか。では,総合評価の問題について御説明いただきまして,議論の題材を提供していただけないでしょうか。

(庶務担当から配布資料について説明)

【小津委員】 短答式試験と論文式試験を勘案すると,実際に現れてくる点数は,この楕円形の中に分布するということですか。

【横田人事課付】 大多数の者が,おおむねその楕円形の中に分布するということです。ですから,その楕円から外れるZのような者もいないわけではありません。

【小津委員】 分かりました。Zというものは現実に存在し得るし,なおかつ,2の方法では合格するのですね。

【横田人事課付】 はい。

【中川委員】 論文式試験を短答式試験よりも重くみるということですよね。そうだとすれば,1ではないということになるのではないですか。

【横田人事課付】 いいえ。1の例でも論文式試験の比重を重くすることは可能です。1の例では,短答式試験の点数と論文式試験の点数を比重に差を付けずに単純に加算しておりますが,1のバリエーションとして論文式試験の点数の比重を重く変えるということもできます。

【鈴木委員】 1の方式で論文式試験の点数を3倍する,4倍するとなればこの合格ラインが垂直に近くなってくるというわけですね。

【横田人事課付】 はい。

【小津委員】 つまり,2にするかどうかですね。

【鈴木委員】 そうですね。2のZのような者を合格させるかということですね。

【磯村委員】 一定点の設定次第によっては,この面積の入れ替わりが違ってきますね。一定点をかなり上げれば,論文式試験だけでは合格できない人が増えてくるということになります。ただ,理念として2を取る理由付けがもう一つピンと来ないですね。なぜ,一定点以上を取れば論文式試験だけで合格できて,一定点以下だと総合判定になるのか。

 (中略)

【柏木委員】 磯村委員のおっしゃるように2を採る必然性,合理性が思いつかないですね。
 なぜ,論文式試験の一定点までは短答式試験を考慮しないで,一定点になると短答式試験を考慮し始めるのかということの説明が分かりません。

【磯村委員】 私自身は,新司法試験法を離れれば,論文式試験は短答式試験を合格すれば論文式試験の点数である青のライン一本で切るというのが一番単純明快で,本来の趣旨はそうあるべきであったと思うのですが,法律の中に総合評価すると書かれているので,両方加味せざるを得ないわけです。論文式試験だけでできるだけ決めたいということを考慮しつつ,しかし,法律の趣旨に反しないということを実現しようとしたのが2ではないかという読み方をしたのですが,法の趣旨から言うと,1ととらえて,論文式試験の比率を短答式試験に比べて,例えば4倍や5倍にするということで,事実上,短答式試験における差異をほとんどネグリジブルなものにするという方法が筋が良いという気がします。

 (中略)

【柏木委員】 先ほどの磯村委員の意見に賛成です。

【中川委員】 一番それが分かりやすい。総合という点と論文式試験を尊重するという点と2つの要素を満たしていますね

【磯村委員】 特に先ほどの前提として,仮に短答式試験が200点満点で期待されるべき合格値というものが160点ぐらいであるとすると,最高得点者と最低得点者の間に生じ得る差は40点になります。その40点の差をほとんど意味の無いような数字にする程度の倍率を,論文式試験の方にかければ良いのではないでしょうか。赤線が青線に近付くような垂直度の高いラインにすれば良いのではないかという気がするのです。

(引用終わり)

新司法試験の最終的な合否は、短答と論文の総合評価とすることが司法試験法で決まっている。

司法試験法2条2項
 司法試験の合格者の判定は、短答式による筆記試験の合格に必要な成績を得た者につき、短答式による筆記試験及び論文式による筆記試験の成績を総合して行うものとする。

これは、司法制度改革推進本部におかれた法曹養成検討会の意見による。
そこでの理由は、段階的選抜にすると暗記偏重の弊害が出るからだというものだった。
もっとも、同時に論文採点答案数の限定のため、短答の合格最低点を設けることにもなった。
結果、論文は受験するが、採点はされない、ということが生じた。

しかし、議論が司法試験委員会の方に移ってからは、ちょっとこれは変だ、という流れになったようだ。
どうせ最低点を設けるなら、旧試験と同様の段階的選抜でもよかったんじゃないか、という発想だ。
上記調査会での磯村委員の発言は、ストレートにこれを表現したものである。
すなわち、1:4案の意図は、実質上論文だけで評価するシステムに変えてしまうことだった。
そして、その際の想定として、短答合格点は満点の8割程度を考えていた。

短答の満点は350点である。
そうすると、その8割は280点。
これを合格点とすると、総合評価において短答で生じうる点差は70点となる。
そして、前回記事で述べた通り、1:4の比重で修正すると、論文が短答の1.75倍となる。
従って、短答の70点の差は、論文では70÷1.75=40点差となる。
論文800点満点の5%に相当する数字である。
ただ、実際には、短答で満点を取る受験生はほとんどいない。
過去の短答の最高得点は、平成18年度が311点、平成19年度が329点、平成20年度が337点である。
従って、実際の点差はもっと小さくなる。
当初の議論では、この程度の点差であれば問題ない、と考えられていたことになる。

しかし、実際には、短答の合格最低点は全体の6割程度。
210点(平成18、19年度)か、230点(平成20年度)となっている。
ここでは、便宜上全体の6割である210点の場合を考えてみる。
生じうる点差は、140点である。
そうすると、これを1:4の比重で論文の得点差に換算すると、140÷1.75=80点である。
当初想定した点差の、ちょうど倍である。
実際には、満点はいないから、点差はもっと小さくなる。
とはいえ、大問一つ、又は選択科目を丸々ひっくり返すような点差は生じうる。
論文では、100点の配点でも最高で70点程度しか取れないからだ。
これでは、ほとんど意味の無いような(ネグリジブルな)数字にする、という趣旨に反する。
そう考えられても不思議はない。

これが、今回変更後の比重である1:8になるとどうなるか。
前回記事で示したように、論文が短答の3.5倍となる。
そうすると、140÷3.5=40点となる。
これは、当初の想定による点差と等しい。

短答で満点の8割しか取らないはずが、6割まで取るようになった。
そのために、点数幅が想定の倍に広がった。
だから、短答の比重をさらに半分にして調整した。
今回の変更の意図は、そういうことだったのではないか、と推測できる。
その意味では、当初の議論の趣旨に沿った変更である。
平成21年度になって変更したのは、3回実施して、短答が6割程度で固まってきたと判断されたためだろう。

大騒ぎしないことが重要

前回の記事でも述べたが、受験生はこれに過剰反応すべきでない。
今回の変更での具体的な影響は、総合評価段階で生じうる短答の点差の縮小である。
論文得点換算で、80点から40点にしただけだ。
その影響は、40点にすぎない。
しかも、これは満点の人間と合格最低点の人間との場合である。
実際の影響は、これよりも小さい。
繰り返しになるが、特別な対策は不要であり、粛々とこれまで通り学習すべきである。

また、今回の変更は、一部で言われているような未修優遇の意図ではないだろう。
未修をもっと合格させて多様な法曹云々というのは、司法試験委員会サイドの主張とは違う。
ボンクラでも増やせという規制改革会議や、未修を多数抱える法科大学院サイドの主張である。
そもそも、未修を合格させるのであれば、短答の問題に細工をしたり、論文の採点基準をいじればよい。
それは、丙案時代以降、旧試験で散々やったことである。
効果的で、バレにくい手段でもある。
今回のような変更は、ほとんど未修優遇の効果が無い。
短答で満点に近い既修者が、論文で当落ギリギリの点をとった場合で、短答が最低ライン付近だった未修者が、論文の得点で30点差程度に肉薄していた場合、というような場合にのみ、効果がある。
仮にこのような場合に当たる者が2、3人いたとしても、未修合格率にはほとんど寄与しないだろう。
そもそも、未修不合格の最大の原因は、総合評価にまでたどり着けないことである。
今回の変更は、この点を何らケアしない。
同様に、短答の勉強にかまけてローの講義を疎かにした者への制裁、という意図とも考えにくい。

今後の予測

上記で示した推測が正しいとすると、二つのことが予測できる。
一つは、当面短答の合格最低点は満点の6割程度で推移するだろうということだ。
将来的に8割に上昇させるつもりなら、比重変更は不要だからである。

もう一つは、短答の問題の難易度が上がるのではないかということだ。
現在受験生の数は、増加傾向にある。
一方で、論文の採点可能枚数には限度がある。
従って、ある程度短答合格者の数を絞らざるを得ない。
このことは、短答の合格最低点に対する上昇圧力となる。
しかし、上記のように、合格最低点は6割を維持するつもりのようだ。
そうなると、考えられるのは、問題の難易度を上げて全体の点数を下げることである。
今回の変更を受けて短答の手を抜くのは、この意味でも危険なことである。
このことは、受験者数がある程度減少して安定するまで継続する。
ローの定員削減がスムーズにいくかが、鍵となってくるだろう。

Q&Aでも説明されず

法務省は1月28日、平成21年新司法試験に関するQ&Aを公表した。
前回の記事では、ここで明確に変更が告知されるのではないか、と書いた。
しかし、Q&Aでは以下のようにしか触れていない。

平成21年新司法試験に関するQ&Aより引用)

Q10 新司法試験の出題・採点・成績評価などはどのように行われますか?

A 新司法試験考査委員会議において,平成21年新司法試験の出題・採点・成績評価などについて申合せがなされました。申合せの内容は,法務省ホームページに掲載されています。

(引用終わり)

昨年度と同様の文面である。
これでは、変更があったかどうかすら、全然わからない。
法務省がなぜこのような不適切な対応をとっているのかは、よくわからない。
これは今後、大きな問題に発展する可能性がある。

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