法科大学院定員削減の意味(4)

未修切りのおそれ

定員を削減する目的は、合格率を上げて志願者を増やすことにある。
これは、以前の記事「法科大学院定員削減の意味(2)」で述べた。
そうすると、効率良く合格率が上がるようにやるべき、ということになる。
具体的には、既修と未修のどちらを切るか。
平成20年度の新司法試験において、既修の受験者合格率は、44.3%である。
これに対し、未修の受験者合格率は、22.5%に過ぎない。
このことからは、未修の定員を減らすのが効率的である。
そうすると、定員削減は、未修切りを意味することになりそうである。
もっとも、この点は上位ローと下位ローとで状況が異なる。

早稲田と他の上位校の明暗

未修の存在が合格率のネックになること。
上位ローでは、それが顕著である。

下記は、平成20年度に100名以上の受験者のあった19の法科大学院について、未修・既修別合格率などをまとめたものである。
ただし、未修・既修で受験者数が10名に満たない場合は、米印を付している。
掲載順はあいうえお順である。

法科大学院 全体
受験者合格率
未修者
受験者合格率
既修者
受験者合格率
既修−未修 (未修+既修)÷2 受験者に占める
未修者の割合
大阪 38.5% 31.7% 75.0% 43.3% 53.3% 84.2%
関西 20.3% 14.9% 23.3% 8.4% 19.1% 35.8%
関西学院 30.3% 27.1% 32.1% 5.0% 29.6% 35.1%
九州 36.1% 33.3% ※66.6% 33.3% 49.9% 91.4%
京都 41.4% 22.2% 49.7% 27.5% 35.9% 29.8%
慶應 56.5% 37.0% 63.9% 26.9% 50.4% 27.7%
神戸 54.6% 43.2% 59.3% 16.1% 51.2% 28.9%
上智 41.6% 26.8% 49.3% 22.5% 38.0% 34.1%
中央 55.6% 22.3% 64.8% 42.5% 43.5% 21.5%
東京 54.6% 39.4% 61.5% 22.1% 50.4% 31.1%
同志社 28.0% 22.2% 30.6% 8.4% 26.4% 30.0%
東北 46.4% 42.0% 49.3% 7.3% 45.6% 39.3%
日本 17.5% 12.6% 21.1% 8.5% 16.8% 42.5%
一橋 61.4% 38.2% 69.8% 31.6% 54.0% 26.7%
法政 23.7% 21.4% 24.2% 2.8% 22.8% 20.7%
北海道 30.5% 15.7% 38.5% 22.8% 27.1% 35.1%
明治 31.8% 17.4% 41.9% 24.5% 29.6% 41.2%
立命館 28.7% 11.7% 34.4% 22.7% 23.0% 24.8%
早稲田 37.6% 34.4% 76.9% 42.5% 55.6% 92.4%

上記について、項目別にランキング化すると以下のようになる。

順位 全体
受験者合格率
未修者
受験者合格率
既修者
受験者合格率
既修−未修 (未修+既修)÷2 受験者に占める
未修者の割合
一橋 神戸 早稲田 大阪 早稲田 早稲田
慶應 東北 大阪 中央 一橋 九州
中央 東京 一橋 早稲田 大阪 大阪
神戸 一橋 ※九州 九州 神戸 日本
東京 慶應 中央 一橋 東京 明治
東北 早稲田 慶應 京都 慶應 東北
上智 九州 東京 慶應 九州 関西
京都 大阪 神戸 明治 東北 関西学院
大阪 関西学院 京都 北海道 中央 北海道
10 早稲田 上智 上智 立命館 上智 上智
11 九州 中央 東北 上智 京都 東京
12 明治 京都 明治 東京 明治 同志社
13 北海道 同志社 北海道 神戸 関西学院 京都
14 関西学院 法政 立命館 日本 北海道 神戸
15 立命館 明治 関西学院 関西 同志社 慶應
16 同志社 北海道 同志社 同志社 立命館 一橋
17 法政 関西 法政 東北 法政 立命館
18 関西 日本 関西 関西学院 関西 中央
19 日本 立命館 日本 法政 日本 法政

一般に合格率トップとされる一橋ロー。
しかし、未修・既修別でみると、いずれもトップではない。
にもかかわらず、全体合格率がトップである。
これは、未修を26.7%に抑えているためである。
その他の総合合格率上位である慶應・中央・神戸・東大。
これらのローも、未修を3割程度かそれ以下に抑えている。

他方、早稲田は全体合格率10位に甘んじている。
しかし、既修だけをみると、合格率はトップである。
そして、既修と未修を足して2で割った数字。
これは、仮に既修と未修の受験者数が1:1だった場合を想定した仮定の全体合格率である。
この数字も、早稲田がトップとなる。
早稲田の全体合格率を押し下げたのは、92.4%を占める未修の存在である。
未修の割合が他の上位校並みであれば、トップクラスの合格率になり得た。

上位ローでは、既修と未修の合格率の差が大きい。
既修は6割以上受かるのに対し、未修は高くて4割程度だ。
従って、未修の割合を減らすと、それだけで合格率が上がる。
このように、上位校では、未修抑制が合格率上昇に直結する。
従って、定数削減は上位ローにおいて、未修切りとなりやすい。

下位ローは既修認定の厳格化

他方、下位ローにおいては、未修と既修の差は縮まる傾向にある。
例えば、上記表において、未修既修の合格率の差が10%未満のローは6校。
日大、関西、同志社、東北、関西学院、法政である。
上記6校のうち、東北を除いた5校は、全体、既修、未修のいずれの合格率もかなり低い。
このような下位ローでは、未修を切っても大して合格率は上がらない。
また、適正試験とローの成績及び司法試験の成績との相関は無いとされている。
その意味でも、優秀な未修を絞り込むことには無理がある。

第21回法科大学院特別委員会より引用、下線は筆者)

【委員】

 適性試験と入学後の成績に相関関係がなく、一番相関関係があったのが面接試験となっているが、受験者の層と入学者の層が各法科大学院で大幅に違うので、一律にいうのは難しい。適性試験上位者の入学後の成績が不振であったり、下位区分の人が司法試験に合格したりするなど、現時点では適性試験で絞ってしまうのは現実的ではないだろう。適性試験を一つの要素として見て、各法科大学院が受験者層、入学者層に合わせて使い方を考えていくしかない。入学後の成績の厳正な評価は、認証評価で相当チェックできる。法科大学院の修了者の質を確保する、不適格な人に修了認定が出ないようにするのは、ある程度今までよりは現実的にできるのではないか。

(引用終わり)

従って、下位ローでは未修切りという流れにはなりにくい。
むしろ、既修が未修と大して変わらないということ。
これは、既修者試験の認定が甘すぎるということである。
従って、既修者認定を厳しくすることが、合格率向上に繋がりやすい。
そうすると、定数削減は既修者認定の厳格化の方向となる。
その結果、下位ローではむしろ既修の方が削減されやすくなる。

もっとも、下位ローの多くは、現在でも既修の数がゼロ、または非常に少ない。
そのようなローでは、もうこれ以上既修を絞りようがない。
その場合は、未修を減らさざるを得ないが、それでは合格率は上がらない。
定員をいくら減らしても、削減圧力がかかり続けることになる。
究極的には定員ゼロ、すなわち統廃合という結果になりうる。

定数削減の対象は下位ロー

では、定数削減の対象となるのは、上位ローか、下位ローか。

(法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(中間まとめ)より引用)

今後、法科大学院教育の質の一層の向上のため、例えば、以下のような状況が見られる法科大学院については、自ら主体的に入学定員の見直しを個別に検討する必要がある。

@入学定員の規模に比して質の高い教員の数を確保することが困難
A志願者が減少し競争率が低いため質の高い入学者を確保することが困難
B修了者の多くが司法試験に合格していない状況が継続

(引用終わり)

教員確保困難、入学者確保困難、不合格者多数継続。
これらの状況にあるローが、定員削減対象とされる。
すなわち、下位ローである。
そうすると、定員削減は、単純に未修切りになるというわけではなさそうだ。
既修のある程度いる下位ローでは、既修が減少する。
他方、既修のほとんどいない下位ローでは、未修の減少が継続し、場合によっては統廃合に至る。
こういった構図になると予想される。

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