最新下級審裁判例

福岡地裁判決平成20年04月22日

【事案】

 福岡市とaの間でされた市道とaの所有地との境界の確認協議が対側地所有者の同意,承諾を欠き無効であり,aによる上記協議に基づく境界と本来あるべき境界との間の土地の占有は市道の不法占有となるにもかかわらず,被告がaに対し同土地上の工作物の収去及び同土地の明渡請求を怠っていることが違法であることの確認を求めた住民訴訟。

【判旨】

 地方自治法242条2項本文の規定は,監査請求の対象事項のうち財務会計上の行為については,当該行為があった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定しているが,上記の対象事項のうち「怠る事実」については,このような期間制限は規定されておらず,怠る事実が存在する限りはこれを制限しないこととするものと解される。もっとも,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象として監査請求がされた場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから,これについて上記の期間制限が及ばないとすれば,上記規定の趣旨を没却することとなる。したがって,このような場合には,当該行為のあった日又は終わった日を基準として本件規定を適用すべきである(最高裁判所昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。しかしながら,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であることにかんがみれば,監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合には,当該怠る事実を対象としてされた監査請求に上記の期間制限が及ばないものとすべきであり,そのように解しても,本件規定の趣旨を没却することにはならないというべきである(最高裁判所平成14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。
 そこで,以下,本件に関し,福岡市監査委員が被告の怠る事実の監査をするに当たり,本件境界確認協議が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にあるか否かを検討する。

 原告は,境界確認協議では,市道の区域が決定,変更されたり,隣接地との所有権の範囲が確定されることは法律上あり得ないから,本件境界確認協議は財務会計上の行為には当たらない旨主張する。
 しかしながら,・・・境界確定協議に関する規定によれば,上記境界確認協議は,福岡市と隣接地の所有者とが対等の立場で所有権の範囲(土地境界)について協議するものであって,私法上の契約の性質を有し,両者の合意により境界に関する協議が調った場合には,これにより公有地と隣接地との所有権の範囲が確定されるものと解するのが相当である。
 したがって,本件境界確認協議は,財務会計上の行為に当たるというべきであって,原告の上記主張は採用することができない。

 原告は,仮に本件境界確認協議が財務会計上の行為であるとしても,本件の争点は本件土地が本件市道の一部であるか否かであり,福岡市監査委員が被告の怠る事実の監査を遂げるため,本件境界確認協議が財務会計行為に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない旨主張する。
 しかし,福岡市の公有財産については,その境界が明確でない限り,隣接地の所有者との間の境界確認協議において所有権の範囲が確定されるものであり,本件境界についても,福岡市担当課職員と隣接地の所有者であるaとの間の平成17年8月6日の本件境界確認協議により,本件市道と本件雑種地の所有権の範囲(本件境界)が点1−16線であると確定,確認され,上記各点に境界杭が設けられ,平成18年1月5日aとの間で本件確認書が作成交付されたことが認められる。そうすると,本件土地が本件市道の一部であるか否かは,まさに本件境界確認協議が適法(有効)であるか否かに係るのであり,本件境界確認協議が違法,無効であるとされて初めてaに対する本件土地の明渡請求権等が発生するといわねばならない。したがって,福岡市監査委員が被告の怠る事実の監査をするに当たっては,本件境界確認協議が財務会計法規に違反して違法であるか否か(すなわち,上記境界線が正当であったか否か,本件対側地の所有者であるbらの同意,承諾が必要であったか否か)の判断をしなければならない関係にあるというべきであって,原告の上記主張は採用することができない。
 そうすると,本件住民監査請求については,本件境界確認協議のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項本文の規定を適用すべきである。ところで,本件境界確認協議がされたのが平成17年8月6日であり,本件確認書が作成,交付されたのが平成18年1月5日であるから,本件住民監査請求は,遅くとも平成19年1月5日までにされなければならなかった。しかるに,本件住民監査請求は,平成19年6月1日になされたのであるから,上記期間を徒過したものであって不適法といわねばならない(なお,本件全証拠によっても,制限期間を経過したことについて「正当な理由」(地方自治法242条2項ただし書)は認められない。)。

 

福岡地裁判決平成20年04月25日

【事案】

 原告が水協法68条4項に定める組合員数20人を下回り当然に解散したとして,被告知事が,原告に対し,同法68条5項所定の解散届を提出するよう行政指導するとともに,平成17年9月1日付けで原告に対してα区第××号区画漁業権の不免許処分及びα区第××号に係るA漁業協同組合第1種区画漁業権(のり養殖業)行使規則の不認可処分(以下,併せて「本件各処分」という。)をしたところ,原告が,未だ解散していない旨主張して,甲事件被告福岡県(以下「被告県」という。)に対し本件各処分の取り消し(甲事件)を求めるとともに,実質的当事者訴訟として,被告知事に対し解散届提出義務が存在しないことの確認(乙事件)を求めた事案。

【判旨】

 被告県は,仮に原告が平成17年3月31日時点で解散していなかったとしても,原告は現在においても法定組合員数を下回っているから法定解散しており,また,漁業法14条2項の要件も満たしていないから,いずれにしても被告知事は本件各処分と同様の処分を行うこととなるので,甲事件は訴えの利益がない旨主張する。
 しかしながら,被告県の上記主張は,別の理由で本件各処分が適法であること,或いは,仮に本件各処分が取り消された場合に,別途異なる処分理由で同様の処分を行うことができることを主張しているに過ぎない。前者の場合には本件各処分の適法性の有無を判断するに当って処分理由の追加ないし差し替えが可能か否かが問題となるに過ぎないし,後者の場合には,その新たな処分の適法性が別途問題となるに過ぎないから,これをもって甲事件の訴えの利益がないということはできない。
 そして,原告が,本件各処分により,α区第××号漁業権の免許を得ることができず,また,行使規則の認可が得られないという法律上の不利益を受けていることは明らかであるから,本件各処分の取消を求める訴えの利益があるというべきである。

 被告知事は,仮に乙事件において原告に解散届提出義務がないことが確認されたとしても,原告が水協法に定める漁協であることが確定されるわけではないから,確認を求める法律上の利益がない旨主張する。
 しかしながら,原告が解散届を提出しないことを理由に,被告知事から行政指導や過料通知を受けるなど,現に当事者間に水協法上の解散届提出義務の存否という法律関係に関して争いがあるのであるから,その存否の確定が上記紛争の解決に資することは明らかである。そして,仮に甲事件において本件各処分時において法定解散していないとの理由で本件各処分が取り消されたとしても,原告が現在(口頭弁論終結時)において法定解散しているか否か,解散届の提出義務を負うか否かについてはその拘束力が及ばないのであるから,原告が法定解散しているか否かを巡る当事者間の紛争を抜本的に解決するためには,確認判決により不利益を除去する必要があるのであって,即時確定を求める法律上の利益があるというべきである。

 

広島高裁決定平成20年04月25日

【事案】

 相手方は,平成14年10月24日設立された介護保険法に基づく通所介護の居宅サービス事業,介護予防支援事業等を目的とする会社であり,後記の2事業所を含め,7つの介護保険法による指定事業所を運営している。相手方代表者は,医療法人A,社会福祉法人B,有限会社C,有限会社Dの役員を兼ねており,後記の2事業所を含めこれらグループ全体で16の介護保険法による指定事業所を運営している。
 相手方は,平成18年8月30日,その運営するE(以下「E事業所」という。)について,指定居宅サービス(通所介護)事業者及び指定介護予防サービス事業者として,また,F(以下「F事業所」という。)について,指定居宅サービス(短期入所生活介護)事業者及び指定介護予防サービス(介護予防短期入所生活介護)事業者として,介護保険法(以下「法」という。)41条1項本文,53条1項本文に基づき,それぞれ岡山県知事に対し申請をし,指定年月日を同年10月1日として,それぞれ申請に係る事業者の指定を岡山県知事から受けた(以下「E事業所」と「F事業所」を併せて「両事業所」という。)。
 岡山県知事は,法76条に基づき,平成19年5月28日ないし同年6月1日,同年7月25日,同月27日,同年8月16日,同月29日,同年11月9日,同月12日に,両事業所について監査を実施し,相手方代表者,同取締役G,両事業所の管理者であるH等から事情聴取等を行った上,平成20年1月11日,相手方代表者に対して,行政手続法13条1項1号の規定に基づく聴聞手続を行った。その結果,岡山県知事は,同月21日,相手方に対し,上記両事業所について,指定居宅サービス事業者,指定介護予防サービス事業者としての指定を同月31日をもって取り消す旨の処分(以下「本件取消処分」という。)をした。
 相手方は,平成20年1月22日,本件取消処分の取消を求めて岡山地方裁判所に訴えを提起するとともに,本件取消処分の執行停止を求めた(以下「本件執行停止の申立」という。)。
 原審裁判所は,同月30日本件取消処分の執行を停止する旨の決定をし,これに対し,抗告人が,同年2月7日即時抗告の申立をした。

【判旨】

 本件取消処分が行われることによって,両事業所は,介護に係るサービス費に該当する金員の請求をすることができなくなり(法41条,53条参照),実質的に介護サービスの提供を継続することが不可能となる。その結果,両事業所の初期投資の回収が困難となるうえ,両事業所の平成19年1月から11月までの収入合計は約5815万円であり,相手方の総収入の約12.8パーセントにあたるものであることが疎明されており,これらの事実によれば,本件取消処分によって,相手方の経営に多大な影響を与えると認められる。更に加えて,本件取消処分の結果,相手方は,倉敷市に対し,両事業所に関してその開設から受給した介護サービス費全額及びこれに100分の40を乗じて得た額を支払わなければならない状況となる(法22条1,3項,41条6項,53条4項)。また,本件取消処分に伴い,いったん両事業所が閉鎖されることになれば,利用者は,当然にほかの施設に移動することとなり,仮に本案判決によって本件取消処分が取り消されたとしても,相手方が,利用登録者を再び獲得することが困難となることが予測される。将来本件取消処分が本案判決によって取り消された場合に相手方に発生するこれらの損害は,理念的には金銭賠償が可能であるといえるとしても,相手方が本件取消処分によって被る損害は,これに止まらず信用毀損等多方面に広がるといえ,それを適切に評価することは社会通念上極めて困難であり,また回復のためには,国家賠償請求等による事後的な訴訟を提起しなければならない可能性が高いうえ,国家賠償法は過失責任主義を取っていることからすれば,本件取消処分が違法であれば常に金銭賠償を得ることができるとは一概にいえない。以上によれば,本件取消処分によって相手方が被る損害は,重大であり事後的な回復が困難であると認められる。
 また,本件取消処分の根拠とされた人員基準違反及びサービス費に関する過大請求については,相手方において既に是正されていることが疎明されている。よって,本案判決が確定するまでの間,相手方が介護サービスを継続することとなっても,登録利用者の日常生活や健康状態に重大な支障をもたらすことは防止しうるものと思われる。これに対し,抗告人は,相手方が抗告人から監査を受けるまで人員基準違反の状態で介護サービスの提供を継続していたのであるから,本案判決までの間,基準違反を繰り返さない保障はなく,その場合,利用者は,法が予定している水準を下回る介護サービスを受けさせられるおそれがある旨主張するが,相手方の本件における主張内容や本件記録上認められる経営規模からすれば,本案訴訟までの間において,両事業所が所定の人員を満たすことができず,サービスを提供する体制を確保できなくなったり,再び不正請求を行う可能性は乏しいといえる。
 以上に加えて,本件取消処分の根拠法文の内容には,価値的規範的要素が含まれており,相手方の一連の行為が当該法文に規定する事由に該当するのか否か,仮に該当するとして取消処分が適切であったか否かについては,本案訴訟において更に審理を尽くすべき事項であると判断するのが相当である。
 以上の事実によれば,本件執行停止の申立は,行政事件訴訟法25条2項所定の「重大な損害を避けるため緊急の必要」があるといえ,また本件執行停止を認めることによって同条4項所定の「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき,又は本案について理由がないとみえるとき」に該当するとはいえないと解するのが相当である。

 

名古屋地裁判決平成20年07月18日

【判旨】

 訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものである(最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。
 これは,医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の後遺障害の発生との間の因果関係の存否の判断においても異なるところはなく,経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し,医師の当該不作為が患者の当該後遺障害の発生を招来したこと,すなわち,医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者に当該後遺障害が生じていなかったであろうことを是認しうる高度の蓋然性が証明されれば,医師の当該不作為と当該後遺障害の発生との間の因果関係は肯定されるものと解するのが相当である(最高裁平成11年2月25日第一小法廷判決・民集53巻2号235頁参照)。

 

名古屋地裁判決平成20年07月11日

【判旨】

 権利能力なき社団というためには,団体としての組織を備え,多数決の原則が行われ,構成員の変更にかかわらず団体が存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要すると解される(最判昭和39年10月15日最高裁第一小法廷判決)。
 これを本件についてみると,被告B1は,愛知県下の各Bの連合体を組織し,最高意思決定機関である総会,理事会,執行機関である常任理事会及び三役会等の団体としての組織を備え,構成員は加盟団体である各Bであるが,加盟するBそのものの変更や各Bを構成する会員の変更にかかわらず団体は存続しており,各Bに割り当てられた代議員により総会が組織され,そこでは多数決の原則が行われていること,被告B1は,会長により代表され,総会の運営方法や財産の管理についても被告B1規約により確定されていることが認められる。
 以上の点を考慮すると,被告B1は,権利能力なき社団としての実体を備えているというべきである。

 民法44条の準用により権利能力なき社団が代表者である理事の行為について責任を負うためには,理事の行為がその職務を行うについてのものである必要があると解されるが,構成員の範囲の確定や活動方針の策定など当該社団の対内的な活動に関連する当該理事の他の構成員に対する行為については,それが理事名でなされたとしても,民法44条を準用する上では,理事の職務としての行為ではないと解するのが相当である。なぜならば,当該社団の構成員間で構成員の範囲の確定や活動方針の策定などにつき異なる意見があるところで,当該理事が他の構成員に対し,構成員の範囲の確定や活動方針の策定などに関連して違法行為を行った場合に,当該社団が責任を負うとすると,当該理事の意見に反対の意見を有する構成員もその責任の一部を負担することとなり,明らかに不合理であるからである。

 構成員の範囲の確定や活動方針の策定など権利能力なき社団の対内的な活動に関連する代表者である理事の他の構成員に対する行為を補助する行為については,それが当該社団の被用者の行為であったとしても,民法715条を適用する上では,当該理事個人の補助としての行為で,当該社団の職務としての行為ではないと解するのが相当である。

 民法44条は,代表機関の不法行為について法人の責任を認めたものである以上,同条における「理事」とは代表者をいうと解すべきである。

 

知財高裁判決平成20年10月30日

【判旨】

 改正前特許法35条1項によれば,従業者等の職務発明について使用者等は無償の通常実施権を取得するのであるから,同条4項所定の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が,従業者等から特許を受ける権利を承継して特許を受けた場合には,特許発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益をいうものである。
 そして,従業者等から特許を受ける権利を承継してこれにつき特許を受けた使用者等が,この特許発明を第三者に有償で実施許諾し,実施料を得た場合は,その実施料は,職務発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益ということができ,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」に当たるものと解して差し支えない。すなわち,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については,特許を受ける権利の承継時に,その発明により使用者等が将来得ることができる利益を算定することが事実上困難であることに照らすならば,その発明により実際に使用者等が受けた利益をもって,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」として算定することには,特段の事情のない限り,合理的な算定方法というべきである。

 改正前特許法35条4項には,「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮すべきである旨規定されているが,前記のとおり,特許を受ける権利の承継後に使用者が第三者に実施させたことによって得た実施料をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」として「相当の対価」を算定する場合において考慮されるべき「使用者等が貢献した程度」には,使用者等が「その発明がされるについて」貢献した諸事情のほか,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した諸事情も含まれるものと解するのが相当である。すなわち,「使用者等が貢献した程度」には,その発明がされるについての貢献度のみならず,その発明を出願し権利化し,特許を維持するについての貢献度,実施製品の開発及びその売上げの原因となった販売契約を締結するについての貢献度,発明者の処遇その他諸般の事情等が含まれるものと解するのが相当である。発明者の使用者等に対する「相当の対価」の請求権はその特許を受ける権利の譲渡時に発生するものであるが,「相当の対価」の算定の基礎となる「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を,特許を受ける権利の承継後に使用者が得た実施料を基準として算定する以上は,その実施料を得るに至った一切の事情を考慮することが衡平の理念にかなうものというべきである。

 

東京地裁平成20年04月17日

【事案】

 建売住宅の分譲等の事業を営む原告が,建築主として注文し,他の業者に請け負わせた建売住宅の建築工事の事業について,原告は,労働保険料の納付義務を負う事業主に当たらないとして,平成14年度及び平成15年度の当該事業に係る労働保険料を申告しなかったところ,処分行政庁が,原告は,当該事業について施工管理を行っており,労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」という)8条1項が。事業主として取り扱うこととしている「元請負人」に当たるとして,平成14年度及び平成15年度の当該事業に係る保険料を含めて原告が納付すべき保険料の額を決定するとともに,追徴金を徴収する旨の決定をしたことから,原告が,これらの処分の取消しを求めた事案。

【判旨】

 原告は,労災保険は,労働者を使用する事業主が自動的強制的に加入させられるものであり,労働保険料は,国税徴収の例により徴収される(徴収法29条)のであるから,徴収法の文言の解釈については,租税における課税要件明確の原則(憲法84条)と同様に,文言に従って厳格に解釈されるべきであると主張する。
 たしかに,国又は公共団体が,課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,特別の給付に対する反対給付としてでなく,一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は,その形式いかんにかかわらず,憲法84条に規定する租税に当たるというべきであるが,労災保険に係る労働保険料は,一定の事由が生じた労働者が保険給付を受け取ることの反対給付として徴収されるものであるから,憲法84条の規定が直接に適用されることはないというべきである。
 しかしながら,憲法84条は,課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり,直接的には,租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが,同条は,国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきであるから,租税以外の公課であっても,その性質に応じて,法律によって適切な規律がされるべきものと解すべきであり,賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては,同条の趣旨が及ぶと解すべきである。(最高裁判所大法廷平成18年3月1日判決・民集60巻2号587頁参照。)
 そして,労働保険料については,適用事業の事業主に対しては,保険関係が法律上当然に成立することとされ,強制的に保険に加入させられるものであり(徴収法3条),また,その徴収は,国税徴収の例により徴収するとされ,納付しないときは強制徴収されるものである(徴収法29条,国税徴収法47条以下参照)ことに鑑みると,賦課徴収の強制の度合いにおいては,租税に類似した性格を有しているということができる。そうすると,労働保険料の負担に関しては,憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであり,徴収法8条1項の規定を解釈するに当たっても,租税法規の解釈と同様に,法的安定性及び予測可能性を害しないように明確性を重視する必要があり,原則として規定の文言に即して解釈されるべきである。

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