最新下級審裁判例

東京高裁決定平成19年07月19日

【事案】

 所属弁護士会から旧弁護士倫理(平成2年3月2日日本弁護士連合会臨時総会決議。弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)の施行により平成17年4月1日廃止)31条所定の非違行為の存在を理由とする業務停止3月の懲戒処分を受け,日本弁護士連合会から同処分の審査請求を棄却する裁決を受けた弁護士が,前記裁決の取消しを求める訴えを本案とする前記懲戒処分の効力停止の申立てをした事案。

【判旨】

 本件懲戒処分の効力を停止することにつき,行政事件訴訟法25条2項の規定する「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」といえるかどうか判断する。
 相手方は,「被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準」(平成4年1月17日理事会議決,以下「措置基準」という。)において,弁護士会等が,懲戒処分の告知に当たっては,被懲戒弁護士に対し,@業務の停止期間が1か月以内であって依頼者が委任契約の継続を求めている場合を除き,受任している法律事件につき,係属の前後を問わず,依頼者との委任契約を解除しなければならず,委任契約を解除した法律事件について解除後直ちにその係属する裁判所,検察庁及び行政庁に対し辞任の手続をしなければならないこと,A依頼者との顧問契約を直ちに解除しなければならないこと,などの規制措置について説明し,その遵守を説示しなければならない旨定めている。
 本件懲戒処分の内容は業務停止3月であって,本件懲戒処分を受けた申立人は,相手方の定めた措置基準に従い,依頼者が委任契約等の継続を求めている場合であっても,依頼者との委任契約の解除,訴訟代理人等の辞任手続,顧問契約の解除を行わなければならないのであって,これにより,申立人の弁護士としての社会的信用が低下し,それまでに培われた依頼者との業務上の信頼関係も損なわれる事態が生じると認められる。そして,このような依頼者との委任契約の解除等によって生じる弁護士としての社会的信用の低下,業務上の信頼関係の毀損は,業務停止という本件懲戒処分によって生じる申立人自身の被る損害であり,その損害の性質から,本案で勝訴しても完全に回復することは困難であり,また,損害を金銭賠償によって完全に補填することも困難である。
 このような損害の性質に加え,疎明資料によれば申立人が業務停止期間中に期日が指定されているものだけで31件の訴訟案件を受任していると認められることから推認できる申立人が被る損害の程度を勘案すれば,一旦生じた損害の回復は困難で,本件懲戒処分によって申立人に重大な損害が生じると認められる。
 そうすると,本件懲戒処分の効力を停止することにつき,重大な損害を避けるために緊急の必要があるというべきである。
 本案訴訟は,平成19年6月28日に提起され,被告たる相手方から答弁書も提出されておらず,懲戒事由の存在を認めた本件裁決の認定に事実の基礎を欠く違法があるかどうか,懲戒事由が認められる場合に懲戒するか否か,懲戒するとしてどのような処分を選択するかについて,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められるかどうかについて,立証がなされていない段階であって,現時点において,本案について理由がないとみえるとまでは断じることはできない。また,執行停止により公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれについての主張及び疎明はない。
 よって,本件申立ては理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり決定する。

 

東京地裁判決平成20年01月25日

【事案】

 東京拘置所に収容されている死刑確定者である原告が,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)の規定に基づいて,処分行政庁に対し,同拘置所において原告が受けた医療に関する保有個人情報の開示請求をしたところ,処分行政庁が,当該保有個人情報は,法45条1項の刑事事件に係る裁判,刑の執行等に係る保有個人情報に該当し,開示請求等の法の規定の適用から除外されているとして,その全部を開示しない旨の決定をしたことから,原告が当該不開示決定の取消しを求める事案。

【判旨】

 法45条1項が,刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判,検察官,検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分,刑若しくは保護処分の執行,更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報のうち,当該裁判,処分若しくは執行を受けた者,更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものについて,開示請求等の法の規定を適用しないと定めた趣旨は,これらの保有個人情報には,本人の前科,前歴,逮捕歴,勾留歴等を示す情報が含まれており,これらの保有個人情報を開示請求等の対象とすると,本人の前科等が本人以外の者に明らかとなる危険性があり,本人の社会復帰や更生保護を図る上で本人の不利益になるおそれがあるため,このような弊害を防止しようとするところにあるものと解される。なお,死刑確定者として刑事施設に収容されている者についても,再審等による社会復帰の可能性があることを考えると,上記のような不利益を受ける危険性がないとはいえないから,同項の適用があるものと考えられる。
 そうすると,死刑確定者を含め,刑事収容施設における被収容者の処遇に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものについては,これを開示請求等の対象とした場合,そのような個人情報を刑事収容施設が保有していることが明らかとなり,これによって当該被収容者本人が被疑者,被告人,受刑者,死刑確定者等として刑事収容施設に現に収容され,又はかつて収容されていた者であることが明らかとなり,その者の社会復帰や更生保護を図る上でその者の不利益になる危険性があるから,まさに法45条1項の適用によって本人の利益を保護すべき保有個人情報に当たるというべきである。したがって,同項の規定が,このような保有個人情報の一部について,あえて同項に定める保有個人情報から除外しているとは解し難い。
 また,法45条1項の文言をみても,刑事収容施設における被収容者の処遇は,勾留状の発付や懲役刑等を言い渡す判決などの刑事事件に係る裁判の内容を実現させるための被収容者の収容に必然的に付随する作用であるから,そのような処遇に係る保有個人情報は,同項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」に該当すると解することができ,また,刑事収容施設における被収容者の処遇のうち,受刑者に対するものは,刑の執行としての刑事施設への拘置に必然的に付随する作用であり,死刑確定者に対するものは,死刑の執行行為に必然的に付随する前置手続としての刑事施設への拘置に必然的に付随する作用であるから,受刑者又は死刑確定者の処遇に係る保有個人情報は,同項の「刑の執行に係る保有個人情報」にも該当すると解することができる。
 そして,以上のことは,当該個人情報に係る処遇の内容が,刑事収容施設の被収容者に対して講じられた医療上の措置に係るものである場合でも,何ら他の場合と別異に解すべき理由はない。
 以上によれば,刑事収容施設の被収容者に対して講じられた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものについては,それが受刑者又は死刑確定者に係るものである場合には,法45条1項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」及び「刑の執行に係る保有個人情報」に,その他のものである場合には,同項の「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」に,それぞれ該当し,開示請求に関する法の規定の適用から除外されるものと解するのが相当である。
 原告は,自己の医療情報の開示が,本人の社会復帰や更生保護上の不利益になるおそれはないと主張する。しかしながら,前示のとおり,自己の医療情報であっても,それが刑事収容施設の被収容者としての立場において受けた医療上の措置に係るものであり,かつ,当該情報を刑事収容施設が保有している場合には,これを開示することによって,本人の刑事収容施設への収容歴が明らかとなり,その社会復帰や更生保護上の不利益になるおそれがある。すなわち,法45条1項は,たとえば雇用主が,採用予定者の前科の有無やその内容をチェックする目的で,採用予定者本人に開示請求させることなどを慮って法第4章の適用除外としたものであると解されるところ,雇用主が,採用予定者の前科の有無やその内容をチェックする目的で,刑事収容施設の被収容者として受けた医療上の措置に関する情報を採用予定者本人に開示請求させるならば,本人が刑事施設に収容されていたことが明らかになるのであって,本人の社会復帰や更生保護を図る上で本人の不利益になるという弊害を防止しようとする趣旨がこの場合にも当然に当てはまるものと解される。
 また,原告は,被収容者が刑事施設内で医療を受けた場合には情報が開示されず,たまたま刑事施設外の病院等で医療を受けた場合にのみ情報が開示されるというのでは不合理であると主張する。しかしながら,被収容者が刑事収容施設外の病院等で医療を受けた場合の当該病院等が保有する当該被収容者に係る個人情報は,これを開示しても,必ずしも直ちにその者の刑事収容施設への収容歴が明らかとなるものではない場合があるのに対し,被収容者が刑事収容施設の被収容者としての立場において受けた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものは,これを開示することによって,直ちにその者の刑事収容施設への収容歴が明らかとなるものであるから,これらの個人情報の間で開示不開示の取扱いを異にすることは前記の立法趣旨に照らして不合理であるとはいえない。
 さらに,原告は,刑事収容施設が保有する診療録等の部分開示の可能性も指摘する。しかしながら,診療録等の部分開示によっても,それが刑事収容施設の保有する診療録等である以上,当該刑事収容施設が本人の処遇に係る情報を保有していることが明らかとなり,本人の刑事収容施設への収容歴が明らかとなってしまうことに変わりはないから,この点に関する原告の指摘も失当というべきである。

 

知財高裁判決平成20年11月12日

【判旨】

 特許の無効審判の係属中に当該特許の訂正審判の審決がされ,これにより無効審判の対象に変更が生じた場合には,従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるときを除き,審判官は,変更されたのちの審判の対象について当事者双方に弁論の機会を与えなければならない(最高裁第一小法廷昭和51年5月6日判決・裁判集民事117号459頁参照)。
 そして,特許の無効審判の係属中に訂正請求がされた場合についても,上記と同様に解すべきである。

 

名古屋高裁判決平成20年11月11日

【事案】

 被控訴人の提供するインターネットオークションサイト(本件サービス)を利用して,商品を落札し,その代金を支払ったにもかかわらず,商品の提供を受けられないという詐欺被害に遭った控訴人らが,被控訴人の提供する本件システムには,契約及び不法行為上の一般的な義務である詐欺被害の生じないシステムの構築義務に反する瑕疵があり,それによって控訴人らは,上記詐欺被害に遭ったとして,被控訴人に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償金(別紙請求一覧表(1)ないし(3)記載のとおりの各控訴人の損害額及びそれらの15パーセントに相当する弁護士費用)並びにこれらに対する,いずれも請求及び不法行為の結果発生後(訴状送達の日の翌日)である,同表(1)記載の控訴人らの各請求につき平成17年4月21日から,同表(2)記載の控訴人らの各請求につき平成17年8月10日から,同表(3)記載の控訴人らの各請求につき平成19年3月15日から,それぞれ支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。

【判旨】

 まず,本件システムを利用して出品商品が落札された場合における売買契約の成立時期につき検討する。
 被控訴人は,落札者が決定した場合,自動的に落札者に電子メールで通知をする。その通知の内容には,落札商品,落札価格は記載されているが,出品者を特定する情報は記載されていない。そして,上記電子メールには,「このオークションの出品者にも通知されています。支払方法や商品の受取方法については,出品者からの連絡をお待ちください。」と記載されている。
 そして,その後,落札者は,出品者からの連絡を待ち,交渉をすることになるが,この交渉は,両者が直接電子メール等を使用して行い,被控訴人はこの交渉に何ら関与することはない。この交渉の結果,出品者と落札者が合意に達すれば,商品の受渡し及び代金の支払がされることになる。
 しかし,合意に達しなければ,出品者は,落札者の意思に関わりなく出品を取り消すことができ(これは,出品取消システム利用料が存在することから認められる。)。他方,落札者も,落札後落札を辞退することが可能であり,この場合には,出品者が,最高額落札者を取り消すことになる。
 以上の認定事実に照らすと,落札されても,出品者も落札者もその後の交渉から離脱することが制度上認められており,必ず落札商品の引渡し及び代金の支払をしなくてはならない立場に立つわけではない。そうすると,落札により,出品者と落札者との間で売買契約が成立したと認めることはできず,上記交渉の結果合意が成立して初めて売買契約が成立したものと認めるのが相当である。
 被控訴人作成の本件ガイドラインの「出品された商品の落札に基づいて売買契約が成立した場合には」等の記述は,本件サービスにおける上述の実態を前提にしたものと理解できる。
 控訴人らは,被控訴人は民事仲立人(あるいはそれに類似した立場)であると主張するところ,仲立人は,他人間の法律行為の媒介をすること,すなわち他人間の法律行為(本件では売買契約の締結)に尽力する者をいう。本件においては,被控訴人は,上述のとおり,落札後の出品者,落札者間の上記交渉の過程には一切関与しておらず,何ら,出品者と落札者との間の売買契約の締結に尽力していない。確かに,被控訴人は,本件システムを運営しているが,出品者は自らの意思で本件システムのインターネットオークションに出品し,入札者も自らの意思で入札をするのであり,被控訴人が,その過程で両者に働きかけることはない。そして,落札者は,入札者の入札価格に基づき,入札期間終了時点の最高買取価格で入札した者に対し自動的に決定され,その者に,自動的に電子メールで通知が送られる。この過程は,本件システムのプログラムに従い自動的に行われており,被控訴人が,落札に向けて何らかの尽力をしているとは認められない。
 したがって,控訴人らの上記主張は,採用できない。
 この点,控訴人らは,出品者あるいは落札者の一方が最高買取価格以外での取引を望んだとしても,他方にその希望を述べると,利用者評価に悪い評価が反映されることが必至であるから,本件サービスを利用する上で致命的となる利用者評価欄の悪い評価を避ける心理が働くため,利用者評価システムが最高買取価格での取引の実現に一役買っていると主張する。
 しかし,利用者評価システムは,本件システムの参加者が出品者や落札者を評価し,他の利用者に対しその情報を提供するシステムであり,その評価内容に被控訴人が関わっていない。したがって,入札者,落札者に,利用者評価システムにおける悪い評価を避けるために,落札価格以外での取引を避ける心理が働くとしても,それは,利用者評価システムが存在することによる反射的な効果であり,このシステムの存在をもって,被控訴人が,売買契約の締結に尽力したとは認められない。
 また,控訴人らは,本件サービスでは最高買取価格で取引を行う暗黙の了解があるので,被控訴人は,出品者と落札者間の取引の本質的部分の決定に関与していると主張する。しかし,入札価格(したがって最高買取価格)を決めるのは,入札者自身であり,被控訴人は,本件システムを提供していること以外に最高買取価格の形成に関与していない。もっとも,本件システムでは自動入札が採用されており,複数の入札者がいる場合,各入札者の設定した最高入札価格まで,自動的に他の入札者の入札価格(現在の価格)に最低入札単位を加えた金額で再入札する仕組みになっているが,これは,改めて再入札をする手間を省くために採用されたシステムであり,最高入札価格の設定は入札者自身でなされている以上,この自動入札システムがあることを以て,被控訴人が売買契約の締結に尽力したとは認められない。また,最高買取価格で入札した者が出品者と売買契約の交渉をするのであるから,この価格を前提に交渉が行われることは,当然のことである。したがって,控訴人らの上記主張も採用できない。
 よって,被控訴人は,出品者,落札者間の売買契約における仲立人(あるいはそれに類似した立場)であるとは認められず,被控訴人が民事仲立人であることを前提とした控訴人らの主張は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。

戻る