法科大学院定員削減の意味(6)

ダブルカウントの原則禁止と暫定的許容

以前の記事「法科大学院定員削減の意味(5)」で、ローに必要な専任教員の数について述べた。
再掲すると、必要な専任教員の数は、

入学定員60名以下のロー → 12名
入学定員60名超のロー → (入学定員÷5)名

である。
入学定員が60を超えてくると、5名入学させるたびに、1人の専任教員を確保しなければならなくなる。
逆に言えば、専任教員を確保できない場合、定員を削減せざるを得ない。

この専任教員の頭数には、学部・修士課程・博士課程の必要選任教員数に参入される教員を充ててはならないとされる。
すなわち、法学部の教員としてカウントしつつ、法科大学院の教員としてもカウントする、というようなダブルカウントは認めない、ということである。
これは、ローの教育に専念させて教育の質を担保する趣旨である。

専門職大学院設置基準5条(下線は筆者)

 専門職大学院には、前条に規定する教員のうち次の各号のいずれかに該当し、かつ、その担当する専門分野に関し高度の教育上の指導能力があると認められる専任教員を、専攻ごとに、文部科学大臣が別に定める数置くものとする。
一  専攻分野について、教育上又は研究上の業績を有する者
二  専攻分野について、高度の技術・技能を有する者
三  専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有する者
 前項に規定する専任教員は、大学設置基準 (昭和三十一年文部省令第二十八号)第十三条 に規定する専任教員の数及び大学院設置基準 (昭和四十九年文部省令第二十八号)第九条第一項 に規定する教員の数に算入できないものとする。
 3項略。

しかし、制度創設当初はなかなか教員確保は難しいだろうと考えられた。
そこで、平成25年までの間、一定の範囲でダブルカウントを許すものとされている。

専門職大学院設置基準附則2(下線は筆者)

 第五条第一項に規定する専任教員は、平成二十五年度までの間、第五条第二項の規定にかかわらず、第五条第一項に規定する教員の数の三分の一を超えない範囲で、大学設置基準第十三条に規定する専任教員の数及び大学院設置基準第九条に規定する教員の数に算入することができるものとする。ただし、大学院設置基準第九条に規定する教員のうち博士課程の後期の課程を担当する教員の数には、第五条第一項に規定する専任教員の数のすべてを算入することができるものとする。

ダブルカウント廃止による絞め上げ

このダブルカウントによって、現在ローの教員確保は比較的容易となっている。
問題は、これが廃止された場合である。

第22回法科大学院特別委員会平成20年8月21日より引用、下線は筆者)

【委員】

 国立大学は比較的、教員数に余裕があるケースが多いが、私立大学だと厳しいという話を以前聞いたが、ここで問題になっているダブルカウントで、修正が非常に困難な大学もあるのか。例えば、学部の教員を減らして法科大学院に移すという形で対応できるのか

【委員】

 国立大学は比較的専攻でやっているが、ほとんどの私立大学は別々につくっているから、教員の相互移動も非常に難しい

 (中略)

【委員】

 ダブルカウントは、適格のある教員が少ないから暫定的に認めた制度。ただ、その結果として簡単に教員が確保できたため、予想以上の法科大学院が設置されたと思われる。ダブルカウントは予定どおり解消することを前提として、それとは別に教員の後継者の養成の制度を考えるべき。その際に、ダブルカウント的なものが最終的に必要になるかもしれないが、研究者養成のための実力のある後期博士課程を持っているところでのみ認められるように考えるべき。

【委員】

 ダブルカウントを認めたことで、教員がロースクール、学部、大学院も教えることになり、忙しくなっているという実態がある。そのため、学部や大学院の講義のスリム化という形で対応するという、教育という面から逆方向に進んでいる大学が多い。今ダブルカウントをやめたら、例えば国立大学では教員数が決まっていて増やせないため、今の弊害がより大きくなる懸念がある。また、仮に形式上は専任にしても、依然としてそういう状態が続くのでは。

【委員】

 今、指摘された点は、定員を減らせば済む話

(引用終わり)

とりわけ私立において、ダブルカウントの廃止による影響が大きい。
また、国立も簡単に教員数を増やせるわけではなく、影響を受けるという。
これについて、法科大学院特別委の委員は、定員を減らせば済む問題だと言う。
しかし、これはローの側から言えば、定員削減を迫られるということである。
ローの関係者には、ダブルカウント措置の延長を期待する向きもあっただろう。
しかし、法科大学院特別委は、むしろダブルカウントを早期に廃止して定員削減に繋げようとしている。

第22回法科大学院特別委員会平成20年8月21日より引用、下線は筆者)

【委員】

 ダブルカウントの廃止は前倒しもあり得る。様々な弊害があることに取り組んで準備しなければならないし、延長するのではという期待を抱かれないよう、なるべく早い段階で廃止の姿勢を明確にすることが大事

 (中略)

【委員】

 大学によって事情は違うと思うが、多くの大学は教育学部の再編などで余った教員数をロースクールに持っていったりしたので、教員採用は難しい。学生定員を減らすほうが現実的で、それに見合った教員を補充していくのは非常に難しいのが現状ではないか。

 (中略)


【委員】

 今の状況でこの定員が維持できない大学が、早くノーティスすることで早めの決断ができると思う。暫定措置の延長が無いことを早めに明らかにすれば、そこまで待たずに定員を削減していくという可能性もあるので、早いほうが良い

(引用終わり)

これを受けて、法科大学院特別委は昨年9月30日の中間まとめにおいて、ダブルカウントを延長しない旨を明らかにしている。

法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(中間まとめ)より引用)

 平成25年度まで認められている学部等との教員数のダブルカウントの暫定措置については、延長しないこととする。各法科大学院においては、可能な限り早いうちに自主的にこれを解消することが望まれる。

(引用終わり)

自主的に解消しない場合は、廃止を前倒しするという可能性が高いだろう。
「自主的」と言っているが、ローの側にはほとんど選択肢がない。
要するに、早く定員を削減しろ、ということである。
このダブルカウント問題によって、ローは首根っこを押さえられている。

追い込まれる小規模ロー

定員削減で対応できるローはまだいい。
冒頭で示したように、入学定員60名以下のローでは、定員が減っても専任教員は12人必要である。
そのような小規模ローでは、定員を削減しても確保すべき教員数は減らない。
そうなると、ローの維持自体が難しくなる。
法科大学院特別委でもそのことが示唆されている。

第22回法科大学院特別委員会平成20年8月21日より引用、下線は筆者)

【委員】

 ダブルカウントの解消を厳格に進めていった場合にどういうことが起きるか。今の教員に全く変動がないとして、どれぐらい劇的な変化が起きるか。

【委員】

 大規模校は、経営的に削減の中で取り組めるところもある。あるいは、先ほどから問題になっている後継者養成型のものを被せることで、別の制度でそれをカバーしていく。定員100名ぐらいの大学は調整しながら何とかやっていけると思うが、40、30名の大学は劇的に変わると思う。

 (中略)

【委員】

 現実の問題として、ここにある法科大学院全部を維持することは明らかに不可能。少なくとも展開・先端科目に関しては、各大学が1人ずつ置かなくても、連携授業方式を導入するとか、いろいろな手法がある。基準づくりと併せてやっていくのに4、5年はすぐかかってしまうから、それをやるとしたらこのような制度が必要だという提案と具体策を出す。

【文部科学省】

 今、進めているのは、9月か10月に大学設置基準を改正して、設置者が違っても共同で一つの法科大学院、研究科をつくれるようにする予定。

(引用終わり)

定員100名ぐらいの大学は何とかやっていける。
では、40、30名の大学はどうなのか。
明言していないが、何ともやっていけない場合があるということだろう。
「劇的に変わる」とは、潰れるだろう、という意味と理解できる。

また、文科省の言う大学設置基準の改正のうち、共同教育課程については、昨年11月13日に行われている。

平成20年11月13日文部科学省令第35号(大学設置基準等の一部を改正する省令)抜粋

第三十一条の次に次の章を加える。

第八章 共同教育課程に関する特例

(共同教育課程の編成)
第三十二条  二以上の専門職大学院は、その教育上の目的を達成するために必要があると認められる場合には、第六条の規定にかかわらず、当該二以上の専門職大学院のうち一の専門職大学院が開設する授業科目を、当該二以上の専門職大学院のうち他の専門職大学院の教育課程の一部とみなして、それぞれの専門職大学院ごとに同一内容の教育課程(通信教育に係るもの及び専門職大学院を置く大学が外国に設ける研究科、専攻その他の組織において開設される授業科目の履修により修得する単位を当該専門職学位課程に係る修了の要件として修得すべき単位の全部又は一部として修得するものを除く。)を編成することができる。
2  前項に規定する教育課程(以下「共同教育課程」という。)を編成する専門職大学院(以下「構成専門職大学院」という。)は、当該共同教育課程を編成し、及び実施するための協議の場を設けるものとする。

これは、今後の統廃合への布石といえる。

今のところ、ダブルカウントは平成25年まで存続するとされている。
しかし、それ以前の段階で、大掛かりなローの規模縮小・統廃合がありそうである。

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