最新下級審裁判例

知財高裁判決平成20年11月27日

【判旨】

 昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制が導入され,平成5年法律第26号による改正により,無効審判における訂正請求の制度が導入され,平成11年法律第41号による改正により,特許無効審判において,無効審判請求されている請求項の訂正と無効審判請求されていない請求項の訂正を含む訂正請求の独立特許要件は,無効審判請求がされていない請求項の訂正についてのみ判断することとされた。このような制度の下で,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生ずるものというべきである。特許法は,2以上の請求項に係る特許について請求項ごとに特許無効審判請求をすることができるとしており(123条1項柱書),特許無効審判の被請求人は,訂正請求することができるとしているのであるから(134条の2),無効審判請求されている請求項についての訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる無効審判請求に対する,特許権者側の防御手段としての実質を有するものと認められる。このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないとするならば,無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになるといえる。このように,無効審判請求については,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,各請求項ごとに無効審判請求の当否が個別に判断されることに対応して,無効審判請求がされている請求項についての訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求することが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるべきと考えるのが合理的である。
 以上のとおり,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。
 そうすると,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない。そして,この理は,特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立特許要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない。

 

知財高裁判決平成20年11月27日

【判旨】

 特許無効審判について,特許庁が請求を不成立とする審決をするには,審判体は,審判手続において請求人が適法に主張したすべての無効理由について審理し,審決においてその成否についての判断を示す必要があることはいうまでもない。審判体が,審判手続において,特許法153条2項の規定により当事者に通知した無効理由についても,同様である。
 特許法134条1項の答弁書の提出があった後は,被請求人にも審決における判断を得る利益があるから,請求人が,審判請求の対象である特定の請求項について,請求書で主張した複数の無効理由についてその一部の主張を撤回するには,審判の請求の取下げの場合(特許法155条)に準じて,被請求人の承諾を得る必要があるというべきであり,少なくとも審判において明確な意思確認のための手続を採ることが必要である。審判体が,審判手続において,いったん特許法153条2項の規定により当事者に通知した無効理由について,これを審理の対象としないこととする場合も同様である。
 請求書の副本の送達がされた後,審判手続において請求人が主張した無効理由が請求書の要旨を変更するものである場合に,審決において当該無効理由について判断するためには,あらかじめ審判手続において,特許法131条の2第2項の規定により補正の許可をした上で,被請求人に同法134条2項の答弁書を提出する機会を与えるか,又は,同法153条2項の規定による通知をして,当事者に意見を申し立てる機会を与える手続を採らなければならない。上記の各規定が設けられた趣旨は,当事者に対して,適正公平な審判手続を保障するという理由のみならず,第三者に対して,審決の効力の及ぶ範囲を明確にするという理由があることに由来する。とりわけ,後者の理由に関しては,特許法167条に「何人も,特許無効審判・・・の確定審決の登録があったときは,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」と規定されていることを併せ考慮すると,審決の判断の基礎とした無効理由を構成する事実及び証拠がどのようなものであるかを,審判手続において明確にさせることが必須となるが,前記各規定は,その手続を担保するものとして極めて重要な規定であるといえる。したがって,請求書の要旨変更に該当する無効理由について,上記のような手続を採ることなく,審決において判断することは,手続上の違法を来すというべきである。
 ところで,特許無効審判の手続において,請求人が無効理由を主張した後に,被請求人が訂正請求をするような場合に,訂正前の特定の請求項との関係で主張された無効理由は,当該請求項に対応する訂正後の請求項との関係においても,無効理由の主張がされているものとして,手続が進められるべきであることは当然である(この点は,平成11年法律第41号による特許法の改正において,訂正請求の可否の判断に際して,訂正後の請求項(ただし,無効審判請求がされていない請求項を除く。)に係る独立特許要件の審理をしないこととされた趣旨が,同改正前における訂正後の請求項に係る独立特許要件の審理と無効理由の審理が重複するという理由であるという立法経緯からも,疑問の余地はない。)。

 

東京地裁判決平成20年11月28日

【判旨】

 旧特許法126条2項の「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し,したがって,同項の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正とは,当該訂正が,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである場合を意味すると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。

 

東京地裁判決平成20年11月26日

【判旨】

 不正競争防止法における「営業秘密」といえるためには,「秘密として管理されている」こと(秘密管理性)が必要である(同法2条6項)。そして,このような秘密管理性が要件とされているのは,営業秘密が,情報という無形なものであって,公示になじまないことから,保護されるべき情報とそうでない情報とが明確に区別されていなければ,その取得,使用又は開示を行おうとする者にとって,当該行為が不正であるのか否かを知り得ず,それが差止め等の対象となり得るのかについての予測可能性が損なわれて,情報の自由な利用,ひいては,経済活動の安定性が阻害されるおそれがあるからである。
 このような趣旨に照らせば,当該情報を利用しようとする者から容易に認識可能な程度に,保護されるべき情報である客体の範囲及び当該情報へのアクセスが許された主体の範囲が客観的に明確化されていることが重要であるといえる。したがって,秘密管理性の認定においては,主として,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であると認識できるようにされているか,当該情報にアクセスできる者が制限されているか等が,その判断要素とされるべきであり,その判断に当たっては,当該情報の性質,保有形態,情報を保有する企業等の規模のほか,情報を利用しようとする者が誰であるか,従業者であるか外部者であるか等も考慮されるべきである。

 

東京地裁判決平成20年05月30日

【事案】

 別紙物件目録記載1から3までの各土地(以下「本件各土地」という。)の所有者である原告が,本件各土地に係る平成14年度及び平成15年度の各固定資産税賦課処分及び各都市計画税賦課処分(以下,これらを併せて「本件各処分」という。)につき,同目録記載1の土地(以下「本件土地1」という。)及び同目録記載2の土地(以下「本件土地2」という。)の各一部並びに同目録記載3の土地(以下「本件土地3」という。)の全部が地方税法348条2項3号所定の境内地であり非課税とされるべきであるにもかかわらず,固定資産税及び都市計画税が課されたのは違法であるとして,本件各処分のうち当該境内地部分に係る部分の取消しを求める事案。

【判旨】

 地方税法348条2項3号は,宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法3条に規定する境内地に対しては,固定資産税を課することができない旨規定し,また,地方税法702条の2第2項は,市町村は,同法348条2項の規定により固定資産税を課することができない土地に対しては,都市計画税を課することができない旨規定している。そして,宗教法人法3条は,境内地とは,同条2号から同条7号までに掲げるような,宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するという宗教法人の目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地をいう旨規定し,同条2号は,同条1号に掲げる本殿,拝殿,本堂,会堂,僧堂,僧院,信者修行所,社務所,庫裏,教職舎,宗務庁,教務院,教団事務所その他宗教法人の上記目的のために供される建物及び工作物(附属の建物及び工作物を含む。)が存する一画の土地(立木竹その他建物及び工作物以外の定着物を含む。)を,同条3号は,参道として用いられる土地を,同条4号は,宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地(神せん田,仏供田,修道耕牧地等を含む。)を,同条5号は,庭園,山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地を,同条6号は,歴史,古記等によって密接な縁故がある土地を,同条7号は,前各号に掲げる建物,工作物又は土地の災害を防止するために用いられる土地をそれぞれ掲げている。
 上記各規定からすると,地方税法348条2項3号所定の境内地であるといい得るためには,宗教法人が専らその本来の用に供する土地であること,宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するという宗教法人の目的のために必要な土地であること,並びに当該宗教法人に固有の土地であることを要することとなる。そして,この「専らその本来の用に供する」とは,宗教法人の目的である宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成することに専ら使用することをいうものと解するのが相当である。
 ところで,地方税法348条2項3号の趣旨が,信教の自由の保障と課税の要請との調和にあると解すべきであることからすると,ある土地が境内地であるか否かは,賦課期日以前の実際の使用状況等を考慮した上で,賦課期日現在における当該土地の実際の使用状況が,社会通念に照らして,「専らその本来の用に供」しているといい得るか否か,すなわち,宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成することに専ら使用しているといい得るか否かという観点から判断するのが相当である。

 

大阪地裁判決平成20年05月16日

【事案】

 原告が,豊能町議会議長が原告に対して平成19年3月26日付けでした豊能町議会議員の辞職許可処分(以下「本件処分」という。)は,原告が議長に対して提出した辞職願が民法93条ただし書により無効であるにもかかわらずされたものであるから当然無効であり,そうでないとしても取り消されるべき瑕疵があるなどと主張して,主位的に行政事件訴訟法3条4項にいう「無効等確認の訴え」としてその無効確認を求め,予備的に同条2項にいう「処分の取消しの訴え」としてその取消しを求めている事案。

【判旨】

 「無効等確認の訴え」は,当該処分若しくは裁決(以下「当該処分等」という。)の存否又は効力の有無について争いがあり,その争いにより生ずる不利益を避けるために必要があるときに,行政事件訴訟法11条に規定する被告との間で,当該処分等の存否又は効力の有無を確認することを内容とする抗告訴訟の一類型であり,一度確認判決が確定すれば,当該判決は,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束し,関係行政庁は当該判決の趣旨に従って行動することが義務付けられることとなる(同法38条1項の準用する同法33条)。
 対して,「処分の取消しの訴え」は,出訴期間(行政事件訴訟法14条)及び場合によっては審査請求の前置に関する制約(同法8条)等の制限があるものの,当該処分にその根拠法令に反し取り消し得べき瑕疵があれば,当該処分を取り消すことを内容とする抗告訴訟の一類型であり,一度取消判決が確定すれば,処分時にさかのぼって当該処分の効力は失われる。そして,取消判決による処分の効力の遡及的喪失は第三者に対しても及ぶ上(同法32条1項),当該判決は,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束し,関係行政庁は当該判決の趣旨に従って行動することが義務付けられることとなる(同法33条)ところ,上記取り消し得べき瑕疵を基礎付ける事実が当該処分の無効の瑕疵を基礎付ける事実を包含し,これよりも広いものであることについては争いがない。
 してみると,ある処分の無効確認判決により原告が得る利益と,当該処分の取消判決により原告が得る利益とは結局において異なるところがなく,当該処分について出訴期間等の観点から取消しを求めることができる状況にあるのであれば,原告にとっては処分の取消しの訴えの方が有利であるということができ,特段の事情のない限り,原告には,訴訟手続の面においても,得ることのできる判決の効力の面においても,当該処分について無効の確認の訴えにより無効確認判決を得る利益はないものといわなければならない。
 しかるところ,本件処分について取消しの訴えが不適法であると認めるべき事情は見当たらず,他に無効確認の訴えを適法とすべき事由も特段見当たらない。
 そうであるとすれば,原告の主位的請求は確認の利益を備えていないものといわなければならず,不適法であるから,却下すべきである。
 以上によれば,本件において理由があるかどうかを検討すべきなのは,本件処分の取消しを求める予備的請求のみであるということになる。

 地方自治法126条が,普通地方公共団体の議会の議員の辞職を議会の開会中においては議会の,議会の閉会中においては議長の許可にかからせている趣旨は,住民の直接選挙によって選出された議員が,自己の恣意に基づいてみだりに辞職することを抑止するとともに,議員の辞職に正当な理由があるか否かの判断を,選挙権を有する住民に代わって議会ないしその代表者である議長にゆだねたものと解される。そして,憲法は,地方公共団体にその住民の直接選挙によって選出された議員により構成される議事機関としての議会を設置し,議会が住民の代表機関として意思決定その他の活動を行うことにより長その他の執行機関とともに地方政治を実現することを地方自治の本旨として制度的に保障しているのであり,地方公共団体の議会の議員は,選挙によって付与された住民の負託にこたえ,法令により付与された権限を適切に行使することにより,地方政治の円滑な推進に寄与し,ひいては住民の福利を実現すべき職責を負うものであって,議員の地位は,代表民主主義制度の下における参政権の行使という当該議員自身の憲法上の重要な権利に基礎を置くものであるにとどまらず,代表民主主義制度の下においてその権限の適切な行使により選挙人の負託にこたえ,選挙人の参政権を全うならしめるという重要な職責を伴うものであり,議員の辞職に正当な理由があるか否かは,このような議員の地位の性格及びその職責の重要性に照らして判断すべきである。
 原告は,自らの辞職と引換えにC町長を辞職させようと考え,C町長の辞職を引き出すための手段として,本件各辞職願を提出したものであり,第二辞職願の提出の時点では,その辞職願の提出を受けて直ちにC町長が辞職する可能性があるとは原告も認識していなかったが,依然として自らの辞職と引換えにC町長を辞職させようと考えており,それが口先だけではないことをC町長及び他の議員に示すために,第二辞職願をF議長に対して提出したが返戻されたことから,第2回定例会の閉会後,さらに日付けを改めて本件辞職願を提出したというのである。他方で,原告は,C町長との間で,同町長の辞職と自らの辞職を関連付けた明確なやりとりをしたことすらないのみならず,E議長にはC町長に辞職の意思がないことを告げられて辞職願の提出を制止されているのであって,C町長が原告の辞職願の提出ないし辞職により自らも辞職することが見込まれる状況があったとは到底認め難い上,原告自身,第二辞職願の提出は軽い気持ちによるものであった旨供述するなどしている。
 以上によれば,本件辞職願に係る原告の辞職の意思表示は,C町長と政治的立場を異にする原告が,法令により規定された不信任決議等の手続ではなく,自らの議員の地位を政治的ないわゆるパフォーマンスの手段とすることによって,自己の意図する同町長の辞職という政治目的の実現を図ろうとしたものと評価せざるを得ない上,原告の企図するところは実現可能性が極めて乏しく,政治的手段としても未熟かつ不合理なものであったといわざるを得ないものであり,当該辞職の意思表示が選挙民により負託された自己の職責を全うすることができなかったことについての責任をとるなどといった真摯な動機に基づくものであることをうかがわせるに足りる証拠もない。そうであるとすれば,本件辞職願は,地方公共団体の議員としての職責を放棄し,その地位を政治的目的によりいたずらにもてあそぶものであって,原告に負託された職責に反するというほかないことは明らかである。
 他方,本件処分をしたF議長は,原告が本件辞職願を提出するに至った経緯を熟知していたものと容易に推認されるのであり,本件辞職願に係る原告の議員の辞職の意思表示が上記のようないわゆるパフォーマンスとして行われたものであることを少なくとも容易に認識し得たものというべきである。上記のような事実関係の下においては,原告による議員の辞職は,選挙人により負託された重要な地位を自己のいわゆるパフォーマンスの一手段とするものである点において,その職責にもとるものということができ,このような辞職をその経緯を知り又は容易に知ることができながら許可することは,地方自治法126条の規定の趣旨を没却し,ひいては憲法が地方自治の本旨として保障する地方公共団体における代表制民主主義(住民自治)の趣旨に反するものということができる。そうであるとすれば,本件処分は,正当な理由を欠くものとして,地方自治法126条の規定により議長に付与された裁量権の範囲を超え,又はこれを濫用したものといわざるを得ない。原告の本件処分の瑕疵をいう主張には,以上説示したような趣旨の主張が含まれていることは,本件審理の経過に照らして明らかであるところ,以上説示した議員の地位の性格及びその職責の重要性並びに同条の規定の趣旨等にかんがみると,原告においてその旨の主張をすることが直ちに信義に反し許されないとすることはできない。
 したがって,本件処分には取り消されるべき瑕疵がある。

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