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最高裁判所第三小法廷決定平成20年11月25日

【事案】

 相手方らは,A株式会社と取引関係があり同社に対し売掛金債権を有していたものであり,抗告人は,同社のいわゆるメインバンクであったものである。Aは,平成16年12月22日,民事再生手続開始決定を受けた。
 相手方らは,抗告人に対し,平成17年6月,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起したが(東京地方裁判所平成17年(ワ)第12920号損害賠償請求事件。以下「本案訴訟」という。),同訴訟における相手方らの主張は,抗告人は,平成16年3月以降,Aの経営破綻の可能性が大きいことを認識し,同社を全面的に支援する意思は有していなかったにもかかわらず,全面的に支援すると説明して相手方らを欺罔したため,あるいは,Aの経営状態についてできる限り正確な情報を相手方らに提供すべき注意義務を負っていたのにこれを怠ったため,相手方らはAとの取引を継続したが,取引の途中で同社が民事再生手続開始決定を受けたことにより売掛金が回収不能になり,損害を被ったなどというものである。
 本件は,相手方らが,本案訴訟において抗告人の上記欺罔行為及び注意義務違反行為を立証するために必要があるとして,抗告人が所持する下記の文書(以下「本件文書」という。)について文書提出命令を申し立てた事案である。抗告人は,本件文書は民訴法220条4号ハ又はニ所定の文書に該当する旨主張した。

 本件文書は,金融機関である抗告人が,融資先であるAについて,同社に対して有する債権の資産査定を行う前提となる債務者区分を行うために作成し,監督官庁による査定結果の正確性についての事後的検証に備える目的もあって保存した文書である。
 差戻し前の第1次抗告審は,本件文書は民訴法220条4号ニ所定の文書に該当するとして相手方らの申立てを却下する旨の決定をしたが,第1次許可抗告審は,本件文書は民訴法220条4号ニ所定の文書に該当しないとして上記決定を破棄し,本件文書が同号ハ所定の文書に該当するかどうか等について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻した。
 差戻し後の第2次抗告審である原審は,民訴法223条6項に基づき抗告人に本件文書を提示させた上でこれを閲読し,本件文書に記載されている情報は,大別して,@公表することを前提として作成される貸借対照表及び損益計算書等の会計帳簿に含まれる財務情報,A抗告人が守秘義務を負うことを前提にAから提供された非公開の同社の財務情報,B抗告人が外部機関から得たAの信用に関する情報及びCAの財務情報等を基礎として抗告人自身が行った財務状況,事業状況についての分析,評価の過程及びその結果並びにそれを踏まえた今後の業績見通し,融資方針等に関する情報であること,並びに本件文書に記載された査定方法における抗告人の工夫の独自性,価値は限定的なものであって,特別な保護を与えるべきノウハウとはいえないことを認定した。
 原審は,本件文書のうち,前記Bの情報の全部並びに前記A及びCの情報のうちAの取引先等の第三者に関するものが記載されている部分は民訴法220条4号ハ所定の文書に該当するが,その余はこれに該当せず,他に同号所定の事由を認めることもできないとして,上記部分を除く本件文書の提出を命じた。
 これに対し,抗告人は,本件文書のうち,Aの取引先等の第三者に関するものを除く前記A及びCの情報(以下,それぞれ「本件非公開財務情報」,「本件分析評価情報」という。)が記載された部分(以下,それぞれ「本件非公開財務情報部分」,「本件分析評価情報部分」という。)も,民訴法220条4号ハ所定の文書に該当するから提出義務はないと主張して,当審への抗告の許可を申し立て,許可された。

【判旨】

 金融機関は,顧客との取引内容に関する情報や顧客との取引に関して得た顧客の信用にかかわる情報などの顧客情報について,商慣習上又は契約上の守秘義務を負うものであるが,上記守秘義務は,上記の根拠に基づき個々の顧客との関係において認められるにすぎないものであるから,金融機関が民事訴訟の当事者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客が上記民事訴訟の受訴裁判所から同情報の開示を求められればこれを開示すべき義務を負う場合には,当該顧客は同情報につき金融機関の守秘義務により保護されるべき正当な利益を有さず,金融機関は,訴訟手続において同情報を開示しても守秘義務には違反しないと解するのが相当である(最高裁平成19年(許)第23号同年12月11日第三小法廷決定・民集61巻9号3364頁参照)。民訴法220条4号ハにおいて引用される同法197条1項3号にいう「職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうが(最高裁平成11年(許)第20号同12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照),顧客が開示義務を負う顧客情報については,金融機関は,訴訟手続上,顧客に対し守秘義務を負うことを理由としてその開示を拒絶することはできず,同情報は,金融機関がこれにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有する場合は別として,職業の秘密として保護されるものではないというべきである。
 本件非公開財務情報は,Aの財務情報であるから,抗告人がこれを秘匿する独自の利益を有するものとはいえない。そこで,本件非公開財務情報についてAが本案訴訟の受訴裁判所からその開示を求められた場合にこれを拒絶できるかをみると,Aは民事再生手続開始決定を受けているところ,本件非公開財務情報は同決定以前のAの信用状態を対象とする情報にすぎないから,これが開示されても同社の受ける不利益は通常は軽微なものと考えられること,相手方らはAの再生債権者であって,民事再生手続の中で本件非公開財務情報に接することも可能であることなどに照らせば,本件非公開財務情報は,それが開示されても,Aの業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるとはいえないから,職業の秘密には当たらないというべきである。したがって,Aは,民訴法220条4号ハに基づいて本件非公開財務情報部分の提出を拒絶することはできない。また,本件非公開財務情報部分は,少なくとも抗告人等の金融機関に提出することを想定して作成されたものと解されるので,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書とはいえないから,Aは民訴法220条4号ニに基づいて同部分の提出を拒絶することもできず,他に同社が同部分の提出を拒絶できるような事情もうかがわれない。
 そうすると,本件非公開財務情報は,抗告人の職業の秘密として保護されるべき情報に当たらないというべきであり,抗告人は,本件非公開財務情報部分の提出を拒絶することはできない。

 文書提出命令の対象文書に職業の秘密に当たる情報が記載されていても,所持者が民訴法220条4号ハ,197条1項3号に基づき文書の提出を拒絶することができるのは,対象文書に記載された職業の秘密が保護に値する秘密に当たる場合に限られ,当該情報が保護に値する秘密であるかどうかは,その情報の内容,性質,その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである(最高裁平成18年(許)第19号同年10月3日第三小法廷決定・民集60巻8号2647頁参照)。
 一般に,金融機関が顧客の財務状況,業務状況等について分析,評価した情報は,これが開示されれば当該顧客が重大な不利益を被り,当該顧客の金融機関に対する信頼が損なわれるなど金融機関の業務に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるものといえるから,金融機関の職業の秘密に当たると解され,本件分析評価情報も抗告人の職業の秘密に当たると解される。
 しかし,本件分析評価情報は,前記のとおり民事再生手続開始決定前の財務状況,業務状況等に関するものであるから,これが開示されてもAが受ける不利益は小さく,抗告人の業務に対する影響も通常は軽微なものであると考えられる。一方,本案訴訟は必ずしも軽微な事件であるとはいえず,また,本件文書は,抗告人と相手方らとの間の紛争発生以前に作成されたもので,しかも,監督官庁の事後的検証に備える目的もあって保存されたものであるから,本件分析評価情報部分は,Aの経営状態に対する抗告人の率直かつ正確な認識が記載されているものと考えられ,本案訴訟の争点を立証する書証としての証拠価値は高く,これに代わる中立的・客観的な証拠の存在はうかがわれない。
 そうすると,本件分析評価情報は,抗告人の職業の秘密には当たるが,保護に値する秘密には当たらないというべきであり,抗告人は,本件分析評価情報部分の提出を拒絶することはできない。

 抗告人は,本件文書には査定方法における抗告人独自の工夫が記載されていることを前提に,これは職業の秘密に当たるとも主張する。この点,原審は,民訴法223条6項に基づいて本件文書を提示させた上でこれを閲読し,本件文書に記載された査定方法における抗告人の工夫の独自性,価値は限定的なものであって,特別な保護を与えるべきノウハウとはいえないと認定したものであるところ,同項の手続は,事実認定のための審理の一環として行われるもので,法律審で行うべきものではないから,原審の認定が一件記録に照らして明らかに不合理であるといえるような特段の事情がない限り,原審の認定を法律審である許可抗告審において争うことはできないものというべきである。抗告人の上記主張は,上記特段の事情を主張するものではなく,採用することができない。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成20年11月27日

【事案】

 静岡県(以下「県」という。)が,退職した教職員に支払う退職手当に係る源泉所得税を法定納期限後に納付したため,延滞税及び不納付加算税の納付を余儀なくされたことにつき,県の住民である被上告人らが,納付が法定納期限後となったのは県教育委員会財務課(以下「財務課」という。)の職員の事務処理上の過誤によるものであると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号の規定に基づき,当時財務課長の職にあった上告人に対し,県に代位して,延滞税及び不納付加算税相当額の損害の賠償を求める事案。

【判旨】

 法243条の2第1項後段の規定する予算執行職員等の損害賠償責任は,故意又は重大な過失により違法に「当該行為をしたこと又は怠ったこと」に基づく責任であるから,その責任が生ずるためには,予算執行職員等自身が故意又は重大な過失により違法な行為をし又は違法に職務を怠ったと認められることが必要であり,予算執行職員等は,これに該当しない職員の補助を受けてその職務の執行をする場合においても,その補助職員が違法な行為をしたこと又は違法に職務を怠ったことにつき,当然に自らの行為と同視されてその責任を問われるものではない。
 平成13年5月当時,財務課の所掌事務は,約2万7000人の教職員の人件費全般に関する事務を始め,県教育委員会事務局及び教育機関の予算の執行に関する事務に広く及ぶもので,財務課長が指揮監督すべき職員は26名であったというのであるから,その事務内容,事務量や課の規模からして,上告人が通常の業務について個々の文書の起案の時期等をその都度部下に指示することまではせず,その処理を各担当の部下に任せていたことは,特に非難されるべきことではない。そして,本件源泉所得税の納付に係る払出通知に関する事務は財務課の通常の業務に属するところ,それまで,財務課においては,払出通知が遅滞したために源泉所得税の納付が法定納期限後となる事態に至ったことはなかった上,この通知の事務にかかわる部下はB,C及びAの3名がいたというのであるから,そのいずれもが同年4月1日に着任したばかりであったことを考慮しても,上記3名全員がこれを怠り法定納期限を徒過する事態が発生することは,上告人において容易には想定し難いことであったというべきである。そうすると,上告人がわずかの注意さえすれば上記事態を予測し,これを未然に防止するための措置を講ずることができたものということは困難である。なお,同12年7月に県総務部財政室において源泉所得税の法定納期限を徒過する事態が発生していたが,これが財務課において注目されることはなく,上告人も知らなかったというのであるし,また,同13年2月13日に財務課において緊急払出手続が執られる事態が発生した際も,上告人自身はその事実を知らなかったというのであるから,これらの事実を基に,上告人において容易に上記のような予測や過誤発生の防止をすることが可能であったということもできない。
 以上の事情を総合的に考慮すれば,本件源泉所得税の納付に係る払出通知が遅滞したことについて,上告人が著しく注意義務を怠ったということはできず,上告人に重大な過失があったとまでは認められないから,上告人が県に対し法243条の2第1項後段の規定による損害賠償責任を負うものということはできない。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成20年12月16日

【事案】

 本件は,上告人が,民事再生手続開始の申立てがあったときは契約を解除できる旨を定めた特約に基づいてファイナンス・リース契約を解除したとして,同契約上の地位を承継した被上告人に対し,上記解除の日の翌日からリース物件返還の日又は返還不能となった日までのリース料相当額の損害金の支払を求める事案である。被上告人は,上記特約は民事再生手続の趣旨,目的に反するので効力を有しないと主張して,上記解除の効力を争っている。

【判旨】

 本件リース契約は,いわゆるフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約であり,本件特約に定める解除事由には民事再生手続開始の申立てがあったことも含まれるというのであるが,少なくとも,本件特約のうち,民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする部分は,民事再生手続の趣旨,目的に反するものとして無効と解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。
 民事再生手続は,経済的に窮境にある債務者について,その財産を一体として維持し,全債権者の多数の同意を得るなどして定められた再生計画に基づき,債務者と全債権者との間の民事上の権利関係を調整し,債務者の事業又は経済生活の再生を図るものであり(民事再生法1条参照),担保の目的物も民事再生手続の対象となる責任財産に含まれる。
 ファイナンス・リース契約におけるリース物件は,リース料が支払われない場合には,リース業者においてリース契約を解除してリース物件の返還を求め,その交換価値によって未払リース料や規定損害金の弁済を受けるという担保としての意義を有するものであるが,同契約において,民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約による解除を認めることは,このような担保としての意義を有するにとどまるリース物件を,一債権者と債務者との間の事前の合意により,民事再生手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ,民事再生手続の中で債務者の事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることにほかならないから,民事再生手続の趣旨,目的に反することは明らかというべきである。

【田原睦夫補足意見抜粋】

 いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約との用語は,最高裁平成3年(オ)第155号同7年4月14日第二小法廷判決が用いているが,平成6年大蔵省令第7号による改正後の財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則8条の6第1項柱書きにおいて,ファイナンス・リース取引は,「リース取引のうち,リース契約に基づくリース期間の中途において当該リース契約を解除することができないもの又はこれに準ずるもので,当該リース契約により使用する物件(以下「リース物件」という。)の借主が,当該リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ,かつ,当該リース物件の使用に伴って生じる費用等を実質的に負担することとなるものをいう」と定義され,また,同条5項では,リース取引のうち,ファイナンス・リース取引以外のものをオペレーティング・リース取引というと定義されている。
 同規則は,企業会計審議会のリース取引に係る会計基準に関する意見書を受けて定められたものであるが,同意見書に係る解説では,上記ファイナンス・リース取引は,解約不能及びフルペイアウトを条件とする取引であるとされている。したがって,企業会計原則上「ファイナンス・リース取引(契約)」といえば,当然にフルペイアウトのものを指すのであって,「いわゆる」との冠頭語を付する必要はない(なお,同規則8条の6第1項柱書きは,平成19年内閣府令第65号による改正によって,用語が若干改正されたが,実質に変化はない。)。
 おって,同規則上,ファイナンス・リース取引は,売買取引に準じて会計処理を行うことが原則(したがって,借主は,貸借対照表上,リース物件を資産に計上し,また,リース料債務を負債として計上する。)とされてはいたものの,「通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行っていない場合」が認められ,その場合はそれに応じた注記をなすものとされていた(同規則8条の6第1項)が,上記平成19年改正により,平成20年4月1日以後に開始する事業年度に係るリース取引については,上記原則以外の会計処理は認められないこととされた。ファイナンス・リース取引は,経済取引の一種である以上,その法的性質を検討するに当たっては,企業会計上の取扱いを理解することが不可欠である。なお,巷間行われているリース取引には,ファイナンス・リース取引を基本としつつメインテナンス契約を付加したもの等が存するが,上記ファイナンス・リース取引の企業会計上の取扱いを踏まえた上で,各取引の実態に合わせて法的性質を検討することになろう。

 本判決の結論は,再生債務者がリース料金を滞納した場合のリース契約の解除の可否には,当然ながら何らの影響を及ぼすものではない。再生債務者がリース料金を滞納していれば,リース業者は,その債務不履行を理由としてリース契約を解除することができるのは当然である。また,一般に,リース契約では,ユーザーが倒産手続開始の申立てをした場合,ユーザーは,リース料金についての期限の利益を失い,直ちに残リース料金の全額を支払うべきものとする定めが置かれているが,かかる期限の利益喪失条項の効力は,一般に否定されてはいない。
 そうすると,ユーザーが民事再生手続開始の申立てをしたときは,通常,ユーザーはリース料金の期限の利益を喪失するから,リース業者はリース料金の債務不履行を理由にリース契約を解除することができることとなる。
 しかし,ユーザーたる再生債務者が,民事再生手続開始の申立てと共に弁済禁止の保全処分の申立てをし,その決定を得た場合,再生債務者は,その保全処分の効果として,リース料金についても弁済をなすことが禁じられ,その反射的効果として,リース業者も,弁済禁止の保全処分によって支払を禁じられた民事再生手続開始の申立て以後のリース料金の不払を理由として,リース契約を解除することが禁止されるに至るものというべきである(最高裁昭和53年(オ)第319号同57年3月30日第三小法廷判決参照)。
 ところで,民事再生手続が開始された場合,その開始決定の効果として,再生債権の弁済は原則として禁止される(民事再生法85条1項)が,弁済禁止の保全処分は開始決定と同時に失効するので,再生債務者は,リース料金について債務不履行状態に陥ることとなる。したがって,リース業者は,別除権者としてその実行手続としてのリース契約の解除手続等を執ることができることとなる。そして,再生債務者は,民事再生手続の遂行上必要があれば,これに対し,担保権の実行手続の中止命令(同法31条1項)を得て,リース業者の担保権の実行に対抗することができると考える。

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