最新下級審裁判例

千葉地裁判決平成20年05月16日

【事案】

 原告が,平成16年4月1日に施行された改正後の租税特別措置法31条1項後段の規定(それまで認められていた土地建物等の譲渡損失を他の所得所得の金額から控除することを廃止する旨の規定)を同年1月1日以後に行う同条1項に規定する土地等又は建物等の譲渡について適用する旨の平成16年法律第14号(所得税法等の一部を改正する法律)附則27条1項(以下「本件改正附則」という。)が遡及立法に当たり,憲法84条に違反すると主張して,処分行政庁が同附則を原告が平成16年1月30日にした長期譲渡所得税対象土地の譲渡(以下「本件譲渡」という。)に適用して,その譲渡による損失(以下「本件譲渡損失」という。)の損益通算を認めず,原告の平成16年分所得税の更正請求に対し更正すべき理由がない旨の通知処分をしたのは違法であるとして,その取消しを求めている事案。

【判旨】

 原告は,本件改正附則が遡及立法に当たり,憲法84条の租税法律主義の規定に違反する旨主張する。租税法規については,刑罰法規の場合と異なり,遡及立法の禁止を明文する憲法の規定は存在しないものの,租税法規について安易に遡及立法を認めることは,租税に関する一般国民の予測可能性を奪い,法的安定性をも害することになることから特段の合理性が認められない限り,原則として許されるべきではなく,このことを憲法84条は保障しているものと解される。
 そこで,本件改正附則が遡及立法といえるかどうかについて検討する。確かに,原告は,平成16年分の所得税の課税年度開始後に本件譲渡を行い,これによって多額の本件譲渡損失が発生した後に,譲渡による損失を他の所得の金額の計算上,損益通算することを禁止する規定を設け,その適用を年度開始時から行う旨の本件改正附則を含む改正措置法が同年度内に成立し,施行されたものであるから,同不動産の譲渡時を基準とする限り,少なくとも同附則は遡及立法に当たりはしないか問題となる。実質的に考えても,本件譲渡がされた時点においては,その譲渡による損失を他の各種所得の計算上において損益通算できるとする改正前の措置法が効力を有していたのであり,一般納税者としては,その損益通算による利益をも予め考慮して譲渡に及ぶことが通常予想される。とりわけ,本件譲渡を行った者が租税の専門家とはいえない一般納税者の場合には,譲渡が行われた年度内に譲渡による損失の損益通算が廃止されることを予想して,その危険を回避する措置を期待することは必ずしも容易ではないとみられ,したがって,原告の場合,本件改正附則が本件譲渡にも適用されることによる不利益は決して少なくはないといえる。
 しかしながら,遡及立法が禁止の対象とする行為は,過去の事実や取引を課税要件とする新たな租税を創設し,あるいは過去の事実や取引から生じる納税義務の内容を納税者の不利益に変更する行為であるところ,所得税はいわゆる期間税であり,これを納付する義務は,国税通則法15条2項1号の規定により暦年の終了の時に成立し,また,その年分の納付すべき税額は,原則として所得税法120条の規定により確定申告の手続により確定するものであり,また,損益通算については,所得税法の関係規定によれば,所得税の納税義務が成立し,納付すべき税額を確定する段階において,その年間における総所得金額等を計算する際に,譲渡所得等の金額の計算上損失が生じている場合には,その金額を他の各種所得の金額から控除するという制度であり,個々の譲渡の段階において適用されるものではなく,対象となる譲渡所得の計算も,個々の譲渡の都度されるものでもなく,1暦年を単位とした期間で把握される(所得税法33条3項)ものである。そうすると,本件において,平成16年分の所得税の課税期間が開始したものの,その所得税の納税義務が成立する以前に行われた本件譲渡についても改正措置法を適用する旨を定めた本件改正附則は,厳密にいえば,遡及立法には該当しないといわざるを得ない。このことは,本件改正附則と同様に暦年の途中で施行されながら,その適用を暦年の開始時からする旨を定めた法令の立法がこれまで少数とはいえ行われてきたことからもうかがわれる。
 また,改正措置法の施行日前に納税者の死亡等によって,既に所得税の納税義務が成立し,又は確定している場合には,既に成立した納税義務の内容を変更することがないよう,改正措置法附則27条2項及び3項において手当がされていることからも明らかなように,そのような場合に当たらず,課税義務が未だ成立していない場合については,本件改正附則が遡及立法に該当しないことを当然の前提にしているものと解される。
 もっとも,期間税の場合であっても,納税者は,通常,その当時存在する租税法規に従って課税が行われることを信頼して各種の取引行為を行うものであるといえるから,その取引によって直ちに納税義務が発生するものではないとしても,そのような納税者の信頼を保護し,租税法律主義の趣旨である国民生活の法的安定性や予見可能性の維持を図る必要はある。もっとも,期間税について,年度の途中において納税者に不利益な変更がされ,年度の始めにさかのぼって適用される場合とはいっても,立法過程に多少の時間差があるにすぎない場合や,納税者の不利益が比較的軽微な場合であるとか,年度の始めにさかのぼって適用しなければならない必要性が立法目的に照らし特に高いといえるような場合等種々の場合が考えられるのであるから,このような場合を捨象して一律に租税法規の遡及適用であるとして,原則として許されず,特段の事情がある場合にのみ許容されると解するのは相当ではない。
 そうすると,本件のように厳密には租税法規の遡及適用であるとはいえないような場合は,後記のとおり,立法裁量の逸脱・濫用の有無を総合的見地から判断する中で,当該立法によって被る納税者の不利益をも斟酌するのが相当であるというべきである。

 租税法規において,国民の課税負担を定めるについては,財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかであるから,納税義務者に不利益に租税法規を変更する場合は,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用された措置が同目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,憲法違反となることはないと解するのが相当である。
 そして,当該立法措置が著しく不合理かどうかを検討するに際しては,それが厳密には納税義務者に不利益な遡及立法とはいえないとしても,不利益に変更される納税者の既得利益の性質,その内容を不利益に変更する程度,及びこれを変更することによって保護されるべき公益の性質,納税者の不利益を回避するためにあらかじめ取られた周知等の措置等を総合的に勘案すべきである。
 そこで,この観点に立って,本件改正附則の憲法適合性について検討する。

 本件改正措置法の立法目的については,本件譲渡との関係では,税率引下げによる土地取引の活性化を促すことが低迷する我が国経済の現状に鑑みて急務とされていたことに加えて,株式に対する課税との不均衡是正の見地(ただし,納税者の生活に大きな影響を与える居住用財産の譲渡のような場合は,政策的見地から譲渡損失の損益通算等の特別の配慮を施している。)から,土地建物等の長期譲渡所得に係る損益通算をできるだけ早期に廃止する必要があったことが挙げられる。そして,本件改正附則を設けたのも,措置法の改正において,損益通算の廃止は,長期譲渡所得税率の引下げと一体の措置として実施することを予定していたところ,仮に損益通算の廃止のみの施行時期を遅らせれば,駆け込み目的の安売りによる資産デフレの助長が懸念されたことから,改正措置法31条の規定を平成16年分の所得の課税開始時以後に行う土地等の譲渡について適用する必要性が高かったことによる。
 そうすると,本件改正附則を含む改正措置法の立法目的は正当なものということができる。

 原告の主張は,要するに,改正措置法が施行される以前に認められていた土地建物等の譲渡による損失を他の所得金額の計算上,損益通算できる制度が,年度内に成立,施行された改正措置法の31条により廃止されたことにより著しい不利益を受けたものであり,また,このような不利益を受ける新たな制度(損益通算廃止)が設けられることの周知がされずに同法を年度開始時に遡って適用することを本件改正附則が規定していることから,納税義務者の予見可能性を奪うものであり,憲法84条に違反するというものである。そうすると,本件において合理性の有無が問題となる立法措置とは,@損益通算を廃止する改正措置法31条の措置及びAそれを改正措置法の施行前の年度開始時以後の譲渡に適用する本件改正附則の措置ということになる。
 そこで,これらの措置が著しく合理性を欠くかどうかについて,次に検討する。

・@の損益通算廃止措置について
 居住者に対する所得税の課税は,すべての所得を合算した金額に対して行われるのが原則である(所得税法21条1項)が,所得税法では,退職所得及び山林所得に対しては,総合課税の例外としてそれぞれ分離課税とされ(所得税法22条),措置法においては,土地建物等の譲渡所得等に対する分離課税(措置法28条の4,31条,32条),株式等に係る譲渡所得等の課税の特例(措置法37条の10ないし37条の15)等の総合課税に対する多くの例外が定められている。
 これは,所得の性質からみて,ある所得の損失を他の所得から控除するのが相当ではないとみられ,それがために総合課税の対象外とされているものである。譲渡所得については,種々の特別措置が設けられているところ,土地建物等の譲渡所得については,土地政策等の観点から所得税本則による総合課税によらず,租税特別措置として,他の所得と区分して本則の負担よりある部分は軽課し,ある部分は重課するのが相当とされることから,分離課税とされている。
 ところで,株式等に係る譲渡所得等に対する課税については,上記のとおり,措置法により,他の所得と区分して分離課税することとされているところ,利益が生じた場合には,原則として20パーセント(うち住民税5パーセント)の税率により課税され,損失が生じた場合には,当該損失の金額は生じなかったものとみなされている(措置法37条の10第1項。他方) ,同じく分離課税とされる土地建物等の譲渡所得に対する課税については,株式等に係る譲渡所得等と同様に,資産の譲渡に係る課税であり,措置法により分離課税とされているにもかかわらず,利益が生じた場合には,26パーセント(うち住民税6パーセント)の税率による分離課税を行い,他方,損失が生じた場合には,最高税率50パーセントで総合課税の対象となる他の所得の金額から控除される損益通算が認められていたものであり,これが不均衡であり,適正な租税負担の要請を損なうおそれがあるとの指摘がされていた。
 そうすると,土地建物等の長期譲渡所得について損益通算の制度を廃止することは,同所得に分離課税方式が採られていたこととの整合性を図り,かつ,損益通算がされることによる不均衡を解消して適正な租税負担の要請に応えるものとして,合理性があるということができる。
 そして,平成16年度税制改正における譲渡所得についての損益通算の廃止は,長期譲渡所得の税率引下げ等の措置と相まって,使用収益に応じた適切な価格による土地取引を促進し,収益性の高い土地の流動性を高め,もって,土地市場を活性化させ,これにより土地価格の下落に歯止めがかかることが期待されたものであり,その目的に照らして,損益通算廃止措置は合理性を有するものと考えられる。もっとも,土地建物等の譲渡の場合は,株式等の資産の譲渡の場合とは異なり,居住用不動産の買換え等の必要から譲渡が行われる場合の損失について一定の政策的配慮が必要であるとみられるところ,この点については,上記のとおり,改正措置法において手当が施されており,したがって,上記合理性は確保されているものということができる。

・Aの本件改正附則の措置について
 原告は,本件改正附則の適用により,既に行った本件譲渡による多額の損失を給与所得等の所得の金額の算定上,損益通算することができないことになり,損益通算がされた場合に受けられる多額の税金還付が受けられないという予期しない不利益を受けていることは明らかである。このような不測の不利益を納税者にもたらさないためにも,既存の損益通算制度を廃止する租税法規は,その施行前に納税者に予測可能性をもたらすものである必要がある。本件の場合,不動産譲渡による損失を他の所得の金額の計算上,損益通算する制度の問題性については,平成16年税制改正の数年前ころから政府税制調査会において既に度々指摘されていたものであり,これが自由民主党の決定した平成16年度税制改正大綱の中に損益通算制度廃止という内容で盛り込まれた。そして,その大綱の内容は,平成15年12月18日のA 新聞に掲載され,その周知の程度は完全なものとはいえないまでも,平成16年分所得税から長期譲渡所得について損益通算制度が適用されなくなることを納税者において予測することができる状態になったということができる。したがって,平成16年1月1日からの土地建物等の譲渡時を基準とすると,確かに切迫していたことは否定できないものの,同日以降の土地建物等の譲渡について損益通算ができなくなることを納税者においてあらかじめ予測することができる可能性がなかったとまではいえない。加えて,上記のとおり,所得税は期間税であること等から,暦年の終了時に納税義務が生じるものであり,その前においては,たとえ当該年分の所得税の課税期間が開始していたとしても,従前の租税法規の内容が改正されて年度開始時に遡って適用される可能性がないとはいえず,特に本件の場合のように,税制大綱が年度前に公表され,年度開始後1箇月程度で改正措置法案が国会に提出されて可決成立しているのであり,このような場合に改正法が年度開始時にさかのぼって適用される可能性は否定できない。そして,現にこれまでもそのようなケースが決して稀ではなかったことをも勘案すると,所得税のような期間税の場合,年度が開始した後は年度開始時に遡って租税法規が納税者に不利益に変更される可能性が立法の必要性如何によってはあり得ることを納税者としても全く予測できないとはいえないと考えられる。
 そこで,本件改正附則が成立時にそれまで認められていた損益通算の制度を,既に課税期間が開始した平成16年1月1日にまで遡って適用しなければならないとするまでの合理性又は必要性があるかどうかについて考える。上記のとおり,本件改正附則の立法目的は,土地取引の活性化と株式取引等との不均衡是正の見地から,従来認められていた合理的とはいえない損益通算の制度の廃止等と長期譲渡所得税率引下げをパッケージとして,できるだけ早期に実施する必要があったことに加えて,これらの実施を翌年度まで遅らせれば(少なくとも,改正措置法施行後9箇月間は実施できないことになる,その間。) に節税をねらいにした不当な低価による土地取引が横行しかねず,これが資産デフレをもたらすとの懸念によるものであり,特に後者の点は,現にその与党である自民党の平成16年度税制改正大綱がA 新聞に報道された直後ころから,年内の駆け込み土地売却を勧める税理士等の提案がインターネットのホームページに掲載される等の動きがみられたことからも,単なる懸念にとどまらず現実性を帯びていたものである。そうすると,本件改正附則のとおり,損益通算を廃止する等を内容とする改正措置法を成立・施行前の平成16年1月1日に遡って適用する合理性・必要性を肯定することができる。そして,その公益性と原告等の納税者にもたらされる不利益とを比較した場合,明らかに納税者の不利益が上回るということはいえず,少なくとも,本件改正附則の内容が立法目的に照らして著しく不合理であるということはできない。したがって,本件改正附則は憲法84条には違反しないから,その違反をいう原告の主張は理由がなく採用することはできない。
 そうすると,本件においては,本件改正附則の適用があるから,本件通知処分は適法である。

 

知財高裁判決平成20年12月15日

【判旨】

 著作権法において,「送信可能化」とは,@公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録し,情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え,若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し,又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること,Aその公衆送信用記録媒体に情報が記録され,又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について,公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行うことをいう(2条1項9号の5)。
 「自動公衆送信装置」とは,公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいうものであり(著作権法2条1項9号の5イ),「自動公衆送信」とは,「公衆送信」,すなわち,公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことのうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うものをいうのであるから(同項7号の2,9号の4),「自動公衆送信装置」は,「公衆送信」の意義に照らして,公衆(不特定又は特定多数の者。同条5項参照)によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置でなければならない。

 著作権法2条1項7号の2は,「公衆送信」について「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。」と定義している。
 しかるところ,著作権法には,「送信」を定義する規定は存在しないが,通常の語義に照らし,信号によって情報を送ることをいうものと考えられ,その信号には,アナログ信号のみならず,デジタル信号も含まれ,また,必ずしも信号発信の起点となる場合だけでなく,いったん受信した信号をさらに他の受信者に伝達する行為も,著作権法における「送信」に含まれるものと解するのが相当である。
 他方,「受信」についても著作権法に定義規定は存在しないが,「受信」は「送信」に対応する概念であるとして,上記のような「送信」に対応して使用されていることからすると,著作権法上,「受信」とは「送信された信号を受けること」をいうものと解すべきである。
 なお,同法23条2項が「著作者は,公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。」と規定していることから,著作権法上,「受信装置」は,「公に伝達」する手段として位置付けられ,公に伝達し得るために,視聴等により情報を覚知し得る状態とする機能を有するものとされている。しかしながら,これは,同項の「公に伝達する」との文言によって,「受信装置」について「受信すること」以外に必要な機能が付加されている(換言すれば,「受信装置」の概念に限定が加えられている)ものと理解すべきであるから,同項が上記のように規定しているからといって,著作権法上の「受信」の概念につき,上記「送信された信号を受けること」以外に,何らかの一般的な限定が加えられたものとまで解することはできない。
 上記のとおり,著作権法2条1項7号の2は,公衆送信といい得るために,「公衆によって直接受信されること」を目的とする無線通信又は有線電気通信の送信であることを必要としている。そこで,以下,同号の「公衆によって直接受信されること」の意義について検討する。
 現在の「公衆送信」に関する著作権法の規定の変遷は,以下のとおりである。
 昭和45年法律第48号として制定された後,昭和61年法律第64号により改正される前までの著作権法は,「放送」を「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信の送信を行なうことをいう。」(2条1項8号)と,「有線放送」を「公衆によつて直接受信されることを目的として有線電気通信の送信(有線電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信を除く。)を行なうことをいう。」(同項17号)と,それぞれ定義した上,放送,有線放送に係る著作者の権利につき,「著作者は,その著作物を放送し,又は有線放送する権利を専有する。」(23条1項)と定めていた。
 昭和61年法律第64号による改正に係る著作権法は,新たに「有線送信」との概念を設け,これを「公衆によつて直接受信されることを目的として有線電気通信の送信(有線電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信を除く。)を行うことをいう。」(同項17号)と定義し,「有線放送」の定義を「有線送信のうち,公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行うものをいう。」(同項9号の2)と改め,さらに,これに伴って著作者の権利に係る23条1項を「著作者は,その著作物を放送し,又は有線送信する権利を専有する。」と改めた。
 そして,平成9年法律第86号による改正に係る著作権法において,新たに「公衆送信」の概念が設けられて「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。」(2条1項7号の2)と定義された上,「放送」の定義は「公衆送信のうち,公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう。」(同項8号)と,「有線放送」の定義は「公衆送信のうち,公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信をいう。」(同項9号の2)と,それぞれ改められるとともに,「自動公衆送信」及び「送信可能化」の概念が新設されて,「自動公衆送信」は「公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。」(同項9号の4)と,「送信可能化」は「次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し,情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え,若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し,又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され,又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について,公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線,自動公衆送信装置の始動,送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には,当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。」(同項9号の4)と定義され,さらに,これに伴って著作者の権利に係る23条1項が「著作者は,その著作物について,公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては,送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」と改められて,現在に至っているものである。
 上記のとおり,著作権法は,その制定の当初から,著作者がその著作物を放送し,又は有線放送する権利を専有する旨を定めていたところ,その後,通信技術の発達,多様化により,放送や有線放送のような一斉送信の範疇に納まらない新たな形態の送信が普及するようになったことに伴い,昭和61年法律第64号による改正を経て,平成9年法律第86号による改正により「公衆送信」の概念を導入し,その下位概念として,「公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う」送信を「放送」及び「有線放送」とし,また,インタラクティブ送信のような「公衆からの求めに応じ自動的に行う」送信を「自動公衆送信」とするとともに,自動公衆送信装置に関する準備を完了し,直ちに自動公衆送信ができる状態とすることをもって「送信可能化」とした上で,著作者はその著作物について公衆送信(本来の定義に則った「放送」,「有線放送」及び「自動公衆送信」のほか,「送信可能化」を含むものとされている。)を行う権利を専有するとしたものである。
 他方,著作権法は,その制定の当初から,放送及び有線放送を「公衆によつて直接受信されることを目的」とするものと定義しており,昭和61年法律第64号による改正を経て,平成9年法律第86号による改正により「公衆送信」の概念を導入した際においても,「放送」及び「有線放送」並びに「自動公衆送信」を「公衆送信」の下位概念として整理した上,上位概念である「公衆送信」を「公衆によつて直接受信されることを目的」とするものと定義したものであって,このことは,当初から「公衆によつて直接受信されることを目的」とするものであった「放送」及び「有線放送」のほか,新たに加わった「自動公衆送信」も含め,「公衆によつて直接受信されることを目的」とすることが,公衆送信に共通の性質であることを意味するものである。
 ところで,上記の平成9年法律第86号による著作権法の改正は,WIPO条約8条において「ベルヌ条約第11条(1)(ii),第11条の2(1)(i)及び(ii),第11条の3(1)(ii),第14条(1)(ii)並びに第14条の2(1)の規定の適用を妨げることなく,文学的及び美術的著作物の著作者は,その著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くことを含む。)を許諾する排他的権利を享有する。」とされたことを受けてなされたものである。
 そして,WIPO条約8条の上記「・・・著作者は,その著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くことを含む。)を許諾する排他的権利を享有する。」との規定と,上記の著作権法の概念整理の経過とを併せ見れば,次のようにいうことができる。
 WIPO条約8条の規定には,まず,著作物についての「有線又は無線の方法による公衆への伝達」一般について著作者の排他権を及ぼすことが定められていることが明らかであるところ,その「有線又は無線の方法」には,「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う」ものとの限定はないから,「公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う」送信である放送及び有線放送のほか,インタラクティブ送信のような,個々の利用者の求め(アクセス)に応じて個別になされる有線又は無線の送信が含まれるものと解することができる。
 さらに,同条の規定においては,「有線又は無線の方法による公衆への伝達」に「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くこと」が含まれることが,かっこ書きで明示されている。
 すなわち,「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態」に「著作物を置く」だけでは,当該著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達(送受信)の準備行為が完了したとはいえても,伝達(送受信)そのものがあったということは,本来,できないはずであるものの,同条かっこ書きは,「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となる」ための,有線又は無線の方法による著作物の伝達(インタラクティブ送信)に関しては,公衆への伝達(送受信)の準備行為を完了することについて,伝達(送受信)そのものがあったと同様の著作者の排他権を及ぼすことを定めたものということができる。
 平成9年法律第86号による改正後の著作権法における各概念を上記WIPO条約8条の規定に照らしてみると,同改正後の著作権法が,「公衆送信」の概念を導入し,公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う送信である「放送」及び「有線放送」と,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信である「自動公衆送信」とを「公衆送信」の下位概念とした上で,著作者はその著作物について公衆送信を行う権利を専有するとし,「放送」及び「有線放送」並びに「自動公衆送信」に著作者の排他権が及ぶことを明定したのは,WIPO条約8条が,著作物についての「有線又は無線の方法による公衆への伝達」一般について著作者の排他権を及ぼすことを定めていることに対応するものであることが理解される。
 また,それと同時に,同改正後の著作権法が,自動公衆送信装置に関する準備を完了し,直ちに自動公衆送信ができる状態とすることをもって「送信可能化」とした上で,著作者が専有する公衆送信を行う権利には送信可能化が含まれるものとし,自動公衆送信の準備を完了する行為である「送信可能化」についても著作者の排他権が及ぶこととしたのは,WIPO条約8条のかっこ書きが,インタラクティブ送信に関しては,公衆への伝達(送受信)の準備行為を完了することに著作者の排他権を及ぼすことを定めていることに対応するものと解することができる。
 そうすると,平成9年法律第86号による改正後の著作権法2条1項各号,23条等の解釈に当たっては,WIPO条約8条の規定の内容を十分参酌すべきであることは明らかである。
 しかるところ,上記のとおり,WIPO条約8条かっこ書きは,インタラクティブ送信に係る公衆への伝達(送受信)の準備行為を完了することを,「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くこと」と表現している。そうとすれば,インタラクティブ送信に係る公衆への伝達(送受信)そのものは,「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物を使用すること」になるはずであるから,公衆への伝達(送受信)の結果として,公衆が当該著作物を使用することが必要であり,このことは,受信をした公衆の各構成員が当該著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることを意味するものと解することができる。そして,公衆への伝達(送受信)に係るこのような意味合いが,インタラクティブ送信に係る公衆への伝達(送受信)に限られるとする理由はなく,放送や有線放送に係る公衆への伝達(送受信)についても同様に解すべきであるから,結局,同条の「著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達」とは,公衆に向けられた有線又は無線の方法による送信を受信した公衆の各構成員(公衆の各構成員が受信する時期が同時であるか否かは問わない)が,当該著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることをいうものと解するのが相当であり,このように,受信した公衆の各構成員が,当該著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることは,放送,有線放送,インタラクティブ送信を通じた共通の性質であると理解することができる。
 ところで,上記のとおり,平成9年法律第86号による改正後の著作権法2条1項各号,23条等の解釈に当たっては,WIPO条約8条の規定の内容を十分参酌すべきであるところ,同改正後の著作権法が,著作者はその著作物について公衆送信を行う権利を専有すると定めたことが,WIPO条約8条において,著作物についての「有線又は無線の方法による公衆への伝達」一般について著作者の排他権を及ぼすことと定められていることに対応するものであることも,上記のとおりである。そして,WIPO条約8条において,受信した公衆の各構成員が,当該著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることは,放送,有線放送,インタラクティブ送信を通じた「著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達」に共通の性質とされており,他方,上記のとおり,著作権法上,「公衆によつて直接受信されることを目的」とすることが,放送,有線放送,自動公衆送信を通じた公衆送信に共通の性質として規定されているのであるから,著作権法2条1項7号の2の規定に係る「公衆によって直接受信されること」とは,公衆(不特定又は多数の者)に向けられた送信を受信した公衆の各構成員(公衆の各構成員が受信する時期が同時であるか否かは問わない)が,著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることをいうものと解するのが相当である(翻って,平成9年法律第86号による改正前の著作権法2条1項8号の「放送」に係る定義規定,同項17号の「有線送信」に係る定義規定,さらに,昭和61年法律第64号による改正前の著作権法2条1項17号の「有線放送」に係る定義規定における,各「公衆によって直接受信されること」の意義も同様に解すべきである。また,有線テレビジョン放送法2条1項かっこ書きの「有線放送」の定義に係る「公衆によつて直接受信されること」の意義も同様である。)。
 なお,このような理解によると,著作権法23条2項が,同条1項の公衆送信権についての規定を踏まえ,「公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利」(公衆伝達権)について定めていることは,公衆送信を受信した公衆の構成員が著作物の内容を覚知することができる状態となるまでが公衆送信権の対象となる範疇であり,そのような公衆の構成員が更に著作物を公に伝達する行為は,これを公衆伝達権の対象として,当該行為にまで著作者の排他権を及ぼし,もって,著作者の権利を著作物の伝達経路の末端にまで及ぼしたものと解することになる。

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