平成20年度旧司法試験論文出題趣旨民法第2問検討

平成20年度の旧司法試験論文式試験出題趣旨のうち、今回は民法第2問について検討する。

【問題】

 Aは,Bに対して,100万円の売買代金債権(以下「甲債権」という。)を有している。Bは,Cに対して,自己所有の絵画を80万円で売却する契約を締結した。その際,Bは,Cに対して,売買代金を甲債権の弁済のためAに支払うよう求め,Cもこれに同意した。これに基づき,CはAに対して80万円を支払い,Aはこれを受領した。この事案について,以下の問いに答えよ。なお,各問いは,独立した問いである。

 1  甲債権を発生させたAB間の売買契約がBの錯誤により無効であったとき,Cは,Aに対して80万円の支払を求めることができるか。Bに対してはどうか。
 2  甲債権を発生させたAB間の売買契約は有効であったが,BC間の絵画の売買契約がBの詐欺を理由としてCによって取り消されたとき,Cは,Aに対して80万円の支払を求めることができるか。Bに対してはどうか。

【出題趣旨】

 AB間とBC間に独立した契約関係が存在する場合において,この2個の契約のうちの1個に瑕疵があったときに,CがAやBに対して不当利得の返還を請求できるか否かを,その理由とともに問う問題である。BC間の契約に基づく出捐の返還先が誰であるか(給付利得の相手方),Cの出捐がBのAに対する債務の弁済としてされたことにどのような意味があるのかに関する思考力を問うとともに,Aに対する返還請求の可否とBに対する返還請求の可否の理由づけにおいて矛盾をしない論理的展開力を問うものである。

三当事者間の給付利得の処理が主題

本問のテーマは、「AB間とBC間に独立した契約関係が存在する場合において,この2個の契約のうちの1個に瑕疵があったときに,CがAやBに対して不当利得の返還を請求できるか」である。

三当事者間の不当利得の処理としては、因果関係が問題になるケースが有名だ。
騙取金による弁済や転用物訴権などである。
これは、甲→乙→丙という利得の移転がある場合に、甲→丙という不当利得返還請求が認められるか、という問題である。
すなわち、中間者乙の介在があるために、甲の損失と丙の受益の因果性が問われるわけである。
しかし本問において、AC間及びBC間には何ら介在する者がいない。
AB間にはCが介在しているともいい得るが、AB間の不当利得関係は問われていない。
従って、因果関係は問題とならない。

本問は、給付に基づく利得と損失の所在を訊いている。
通常、給付利得においては、給付者に損失があり、受領者に利得があるとされる。
従って、受領者が給付者に返還すると考えれば足りる。
しかし、三者間の法律関係の場合、そう単純にはいかない。
給付者も出捐に対応する利益を他から受ける場合や、受領者もその利得を他者に移転しなければならない場合がある。
そうなると、結局最終的に誰が利得を得るのか、誰が損失を受けるのかが、わかりにくくなる。
本問のポイントは、それをいかに統一的な法律構成で説明するかである。
出題趣旨が、「理由とともに問う」「理由づけにおいて矛盾をしない論理的展開力」としているのは、その意味である。

BC間の契約に基づく出捐の返還先(給付利得の相手方)

小問1では、Aに利得があることは明らかである。
問題は、AがBとCのどちらに返還すべきかという点である。
すなわち、損失がBとCのいずれにあるかということである。

これを考えるにあたって、対価関係の瑕疵が補償関係に影響を与えないという択一知識を使うことになる。
すなわち、対価関係たるAB間契約の無効は、補償関係たるBC間におけるCの弁済の効力に何ら影響が無い。
従って、Cの弁済によって、BのCに対する代金債権は消滅する。
そうすると、損失は債権を失うBにある、ということになる。
従って、AはBに返還すべきであるから、CはAに対し支払い請求できないという結論となる。

なお、第三者のためにする契約における用語については丸暗記になりやすいが、以下のように理解すると覚えやすい。

本問の事例において、AはCの出捐を受け取ることによって利益を得るから受益者と呼ぶ。
Cは、第三者Aに支払うことに承諾した者であるから、諾約者と呼ぶ。
Bは、CがAに支払ってもらうことを必要とする者であるから、要約者と呼ぶ。
Cは自ら債務を負っていないAに対してBのために出捐をするから、本来Bに対して求償できる。
その求償に対応する法律関係が、BC間の法律関係であるから、これを補償関係と呼ぶ。
AB間は、Cの出捐によりAが得る受益と対価性のある法律関係であるから、対価関係と呼ぶ。

Cの出捐がBのAに対する債務の弁済としてされたことの意味

小問2では、損失がCにあることは明らかである。
問題は、利得がAとBのいずれにあるかである。
そこで、甲債権が(80万円について)消滅するかに関して、Cの出捐の法的性質が問題になる。
まず、対価関係と補償関係の独立性を重視する考え方があり得る。
これによれば、BC間契約が取り消されても、AB間における弁済の効力は否定されないことになる。
そうすると、甲債権はCの出捐により消滅することになる。
他方、第三者のためにする契約が取消された以上、Aに支払うという合意の効力も失われるという考え方もあり得る。
これは、第三者のためにする契約についての抗弁は受益者に対抗できる(539条)こととも親和的である。
これによれば、BC間の取消しによって、AB間におけるCの弁済も無効となりそうである。
もっとも、何ら利害関係の無い第三者でも、弁済は可能である(474条2項)。
このことから、Cの出捐を第三者弁済として構成し、甲債権は消滅すると考えることは可能である。

いずれにせよ、Cの出捐による甲債権の消滅を認める場合、利得はBにあるということになる。
従って、CはBに対して80万円の支払いを求めることができる。
他方、甲債権の消滅を認めない場合、利得はAにある。
従って、CはAに対して80万円の支払いを求めることができることになる。

理由づけにおいて矛盾をしない論理的展開力

上記のような筋道に沿って論述していけば、それほど論理矛盾となるおそれはない。
しかし、個々の要件について場当たり的な理由を書いていると、知らないうちに矛盾を含むものとなりやすい。
例えば、小問1において、Aへの請求につきCには80万円を支払った点に損失があるとしつつ、Bへの請求については代金債務を免れるからCに損失がないとするものや、小問2において、Aは給付を受けたから利得があり、Bも甲債務を免れたから利得があり、Cは給付をしたから損失があるとするもの、あるいは、Cの弁済が有効であることを前提に甲債権消滅によりBは利得を得るとしつつ、Cの取消しにより弁済は遡及的無効であるから法律上の原因が無いとするものなどは、論理矛盾があるとして減点されても仕方がないだろう。
要件をひたすら挙げてあてはめている答案に、上記のような矛盾を含むものが多い。
本問が何を問うているか全くわからなかったために、とりあえず要件を挙げてあてはめたのだろう。
現場での戦略として、それはそれでやむを得ない場合もある。
しかしその場合でも、答案構成段階で気づけるものがほとんどだ。
構成不十分のまま見切り発車するから、矛盾を犯しやすくなる。
本問のような論点を並べるような問題とは違う問題は、構成に時間をかけるべきである。
書く時間が減って答案が2頁程度になってでも、筋の通った答案になるようにしなければならない。
いわゆる骨太答案と言われるものである。
このあたりの見極めは、事前の演習量で差が出る。

平成10年判例は使えるか

三者間の給付利得の処理に関する判例として、最判平10・5・26がある。
これを本問において使うことは出来るだろうか。
上記判例は以下のように述べる(下線及び※の注記は筆者)。

 「消費貸借契約の借主甲が貸主乙に対して貸付金を第三者丙に給付するよう求め、乙がこれに従つて丙に対して給付を行った後甲が右契約を取り消した場合、乙からの不当利得返還請求に関しては、甲は、特段の事情のない限り、乙の丙に対する右給付により、その価額に相当する利益を受けたものとみるのが相当である。けだし、そのような場合に、乙の給付による利益は直接には右給付を受けた丙に発生し、甲は外見上は利益を受けないようにも見えるけれども、右給付により自分の丙に対する債務が弁済されるなど丙との関係に応じて利益を受け得るのであり、甲と丙との間には事前に何らかの法律上又は事実上の関係が存在するのが通常だからである。また、その場合、甲を信頼しその求めに応じた乙は必ずしも常に甲丙間の事情の詳細に通じているわけではないので、このような乙に甲丙間の関係の内容及び乙の給付により甲の受けた利益につき主張立証を求めることは乙に困難を強いるのみならず、甲が乙から給付を受けた上で更にこれを丙に給付したことが明らかな場合と比較したとき、両者の取扱いを異にすることは衡平に反するものと思われるからである。
 しかしながら、本件の場合、上告人(※上記甲にあたる)と北斗道路(※上記丙に当たる)との間には事前に何らの法律上又は事実の関係はなく、上告人は、Aの強迫を受けて、ただ指示されるままに本件消費貸借契約を締結させられた上、貸付金を北斗道路の右口座へ振り込むよう被上告人(※上記乙にあたる)に指示したというのであるから、先にいう特段の事情があった場合に該当することは明らかであって、上告人は 右振込みによって何らの利益を受けなかったというべきである」

これは要するに、対価関係が訴訟上顕れていない場合に、その立証の負担を利得を否定する要約者の側に負わせたものといえる。
本問では、問題文に対価関係(甲債権)の存在が明記されている。
従って、直接に上記判例を使う必要はない。
答案上引用するような判例ではない、ということになる。
もっとも、上記判例を知っていることで、わかることがある。
それは、対価関係が存在しない場合(小問1)には、要約者(B)の利得は否定することになるだろうということ。
それから、対価関係の存在する場合(小問2)には、要約者(B)の利得を肯定して問題なさそうだ、ということである。
これらのことは、判例を知らなくてもわかることではあるが、現場での安心感が違うだろう。
その意味では、知っておいて損はない判例だったといえる。

類型論からの考え方

不当利得については、近時の多数説は類型論によって説明する。
しかし、本問はあまり類型論を用いて答案を書くべき問題ではない。
なぜなら、類型論から類型的に処理し難い場合だからである。

類型論では、給付利得は給付関係(給付者と受領者間)において生じるとされる。
すなわち、受領者が給付者に返還するのが通常である。
それは、通常受領者が債権者であって、給付者が債務者だからである。
すなわち、原因関係(給付の原因となる法律関係)と給付関係が重なっているからである。
しかし、本問のCの80万円の支払いは、絵画代金債務の弁済であると同時に、甲債権の弁済でもある。
絵画代金の債権者はBであってAではなく、甲債権の債務者はBであってCでない。
すなわち、原因関係はAB間とBC間にあり、AC間には無い。
原因関係と給付関係が重なっていない。
これをどう考えればよいのか。

あくまで給付関係はAC間にあるから、ここに不当利得関係が生じると考えてみる。
そうすると、小問1も小問2も、CはAに対して返還請求できることになる。
すなわち、CのAに対する弁済が、AB間の無効(小問1)またはBC間の取消し(小問2)により法律上の原因を欠くに至った、と説明することになる。
そうなると、Cの出捐による弁済の効果は、対価関係及び補償関係の無効・取消しの影響を受ける(有因)と解することになる。
すなわち、小問1では、AB間契約が無効であることにより、Cの弁済は無効となり、Bの絵画の代金債権は消滅しない。
CはAから80万円を回収し、改めてBに弁済すべきだ、ということになる。
小問2では、BC間契約の取消しにより、Cの弁済は遡及的無効となり、甲債権は消滅しない。
AはCに80万円を返還した上で、改めてBから甲債権の弁済を受けるべきだ、ということになる。
しかし、上記のようにCの弁済の効果を有因と解するには問題がある。
対価関係と補償関係の独立性と矛盾するからだ。
従って、このように考える場合には、前提となる独立性自体を否定するか、矛盾回避の論理をひねり出す必要がある。

他方、実は給付関係はAC間ではなく、AB間とBC間にあるとする考え方もあり得る。
形式上財貨はC→Aと移動している。
しかし、その法的意味は二つである。
一つは、CがBに絵画の代金債務を弁済したこと。
もう一つは、BがAに甲債権を弁済したことである。
上記二つのことを、事実上はCがAに80万円を支払うという形で行ったということに過ぎない。
そうすると、給付関係はAB間とBC間にあるということになる。
これは、給付関係をその効果帰属に着目することで原因関係と重ならせる考え方である。

上記のように理解すると、給付利得はAB間とBC間に生じうる。
従って、各小問の処理は以下のようになる。
小問1では、AがBに返還すべきである。
すなわち、AB間契約の無効により、AB間契約を基礎としたBのAに対する弁済は法律上の原因を欠いている、と説明することになる。
CはBの弁済代行者に過ぎない、と考えることになる。
小問2では、BがCに返還すべきということになる。
すなわち、BC間契約の取消しにより、BC間契約を基礎としたCのBに対する弁済が法律上の原因を欠くに至った、と説明することになる。
Aは、Bの弁済受領代行者に過ぎないということになる。
上記の理解による場合、小問1ではBC間における弁済の効果は維持される。
同様に、小問2においてAB間における弁済の効果は維持される。
従って、Cの出捐はその意味で無因であり、対価関係と補償関係の独立性と矛盾しない。
もっとも、これを答案にうまくまとめるのは難しい。

以上のように、類型論から本問を説明するのはかなり厄介である。
本問は、伝統的通説から説明した方が無難だったといえる。

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