最新下級審裁判例

名古屋地裁判決平成20年10月30日

【事案】

 中華人民共和国(以下「中国」という。)を仕向地とする航空貨物の運送にかかわる業務を行う原告が,@同業務に係る取引が消費税法7条1項所定の輸出免税取引に該当するとして,処分行政庁(処分当時は名古屋中村税務署長)に対し同業務に係る課税標準額を0円とする消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告(還付申告)をしたところ,処分行政庁から,上記業務が輸出免税取引に当たらないとして消費税等の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受け,また,A平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度(以下「平成15年3月期」という。)の法人税の確定申告において,経費の繰上計上や収入の繰延計上をしたところ,処分行政庁から,国税通則法68条1項所定の重加算税賦課決定処分を受けたことから,これらの各処分の取消しを求める事案。

【判旨】

 消費税法7条1項は,事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち,同項各号に掲げるものに該当するものについては消費税を免除することとして,同項各号に輸出免税取引となる取引類型を列挙しているところ,同法は,課税資産の譲渡等の対価の額を消費税の課税標準と定めており(同法28条1項本文),課税資産の譲渡等があれば,その対価については原則として消費税が課税され,それが免除されることが例外であること,同法7条1項各号所定の輸出免税取引に該当すれば,当該取引に係る課税資産の譲渡等の対価については消費税が免除され,納税者がその利益を享受するものであることからすれば,輸出免税取引該当性が問題となっている更正処分の取消訴訟において,納税者が行った取引が輸出免税取引に該当することについては,納税者である原告が主張・立証責任を負担するものと解するのが相当である。

 国税通則法68条1項は,65条1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合において,納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,当該納税者に対し,過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え,当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。この重加算税の制度は,納税者が過少申告をするについて隠ぺい,仮装という不正手段を用いていた場合に,過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を加えることによって,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。したがって,重加算税を課するためには,納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい,仮装に当たるというだけでは足りず,過少申告行為そのものとは別に,隠ぺい,仮装と評価すべき行為が存在し,これに合わせた過少申告がされたことを要するというべきである。しかし,上記の重加算税制度の趣旨にかんがみれば,架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく,納税者が,当初から所得を過少に申告することを意図し,その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上,その意図に基づく過少申告をしたような場合には,重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである(最高裁平成6年(行ツ)第215号同7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)。そして,上記行為を納税者ではなく,納税者から申告の委任を受けた税理士が行った場合であっても,納税者本人と当該税理士との間に事実を隠ぺいし,又は仮装することについて意思の連絡があったと認められる場合には,国税通則法68条1項の要件を充足するものというべきである(最高裁平成14年(行ヒ)第103号同17年1月17日第二小法廷判決・民集59巻1号28頁参照)。
 これを本件について見ると,原告代表者は,原告の社会的な信用を維持することなどを目的として,顧問税理士であるK税理士に毎期一定の利益を上げるべく会計処理を操作するよう依頼しており,K税理士において,主として期末処理において損益の操作をしていたところ,原告が長年取引をしてきたBが平成14年にライバル会社であるCに吸収合併されたことから,営業上の先行きに不安を抱き,租税負担を軽減すべく,K税理士に平成15年3月期の所得額を減少させるような経理処理をするよう依頼し,K税理士において,損金の繰上計上や益金の繰延計上をして総勘定元帳を作成し,これに基づいて法人税確定申告書を作成・提出したことが認められる。
 以上の事実によれば,原告は,平成15年3月期の所得について,K税理士と意思を通じて,意図的に過少申告をしたものというべきであるから,国税通則法68条1項に該当するものと認められる。

 原告は,本件各更正処分や本件重加算税賦課決定の通知書に,処分の理由が附記されていないことをもって,これらの処分が違法である旨主張する。
 しかしながら,これらの処分の根拠法令である消費税法や国税通則法には,これらの処分について理由を附記すべき旨の規定はなく,また,不利益処分一般について行政庁に理由附記を義務付けている行政手続法14条1項の規定は,課税処分については適用除外とされているのであるから(国税通則法74条の2第1項参照),上記各処分の通知書に理由を附記しないことが違法となるものではない。なお,原告の引用する最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁は,理由を附記しなければならない旨の規定のある青色申告書に係る更正処分についてのものであり(所得税法155条2項参照),本件に適切でない。
 したがって,原告の主張は採用することができない。

 

東京地裁判決平成20年12月24日

【事案】

 芸能人である原告が,被告に対し,被告が,その管理運営するコムロ美容外科・歯科(以下「コムロ」という。)のホームページに,原告に無断で,原告の氏名及び顔写真並びに原告のコメントとする文書を掲載するなどして,原告の氏名権,肖像権及びパブリシティ権を侵害したとして,不法行為に基づき,財産的損害506万6301円及び精神的損害100万円並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成20年4月2日から支払済みに至るまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案。

【判旨】

 本件は,被告が,芸能人である原告の氏名,顔写真等を,本件契約の契約期間が終了したにもかかわらず,コムロのホームページに掲載したことに基づく損害賠償請求であるところ,原告は,女優,タレントとして,広告に出演すること(自己の氏名,写真等を広告に利用すること)を許諾していた場合には,出演料として相当の対価を受けることができたのであるから,自己の氏名,顔写真等を本件広告に無断使用されたことによって原告が受けた財産的損害は,原告が,本件広告に出演することを許諾するとすれば受けることができる対価相当額であると認められる。
 そして,本件における被告の不法行為は,前記のとおり,本件契約の契約期間が終了したにもかかわらず,コムロのホームページに本件広告の掲載を継続したというものであることからすれば,前記の対価相当額は,本件契約によって定められた広告出演等の対価及び本件契約終了後における本件広告の掲載期間を基準として認定することが相当である。もっとも,契約によって定められた広告出演等の対価は,通常は,当該契約において許諾された広告の内容,広告媒体及び広告を行う地域,原告と被告との関係その他の事情等を考慮して決定されるものであることからすれば,本件契約によって定められた対価が直ちに対価相当額として原告の損害となるものではなく,当該対価を基準としつつも,本件契約が許諾の対象とする広告の内容,広告媒体及び広告地域と本件広告の広告内容,広告媒体及び広告地域の異同,当該対価を定めるに当たって考慮された事情の有無等を考慮して,原告の財産的損害である対価相当額を認定するのが相当である。

 被告は,芸能人の氏名・肖像は,広く一般大衆に公開されることが前提とされ,かつ,希望されていることから,その使用方法,態様等に照らして,当該芸能人の社会的評価を低下させるような場合でなければ,人格的利益を毀損するものではないと主張することから,まず,この点について検討する。
 確かに,芸能人の氏名・肖像は,通常,広く一般大衆に公開されることが前提とされており,当該芸能人自身も,そのことを希望している場合が多いものと推認される。
 しかしながら,芸能人が,どのような企業のどのような商品・サービス等の広告に出演するかや,いったん広告に出演することを許諾したとしても,当該広告に出演することを継続するかどうかは,自己の芸能人としてのイメージや,広告の主体である企業や広告の対象である商品・サービス等に対する社会的評価等の諸般の事情を考慮し,当該芸能人において,自己の意思に基づいて判断・決定をすることができるものである。そして,無断でその氏名,肖像等を広告に使用された場合には,自らの自由な意思に基づいてこのような判断・決定をすることができるという主観的利益が侵害されたものであり,これによる精神的な苦痛は,財産的損害が賠償されたからといって回復されるものではなく,慰謝料によって慰謝されるべきものと認められる。
 したがって,無断でその氏名,肖像等を広告に使用された者が芸能人である場合であっても,当該広告にその氏名,肖像等が使用されたことにより当該芸能人の社会的評価が下がったか否かにかかわらず,当該芸能人は,慰謝料を請求することができると解すべきである。
 本件においては,本件契約の契約期間終了後の本件広告の掲載が原告の許諾に基づくものではないことに加えて,本件契約の契約期間終了後は,コムロを運営する医師も替わり,原告は,運営主体が変更された後のコムロにおいては治療を受けていないにもかかわらず,本件広告の内容は,いまだに原告がコムロにおいて治療を受けているかのような誤解を与えるものとなっていることからすれば,本件契約終了後に本件広告を掲載したことにより,原告には,慰謝料によって慰謝すべき精神的損害が生じていると認められ,原告の慰謝料請求を認めるのが相当である。

 

東京地裁判決平成20年12月25日

【事案】

 原告が,別紙著作物目録記載のコンピュータゲームソフトウェア(以下「本件ゲームソフト」という。)は,原告が著作権を有する「映画の著作物」又は「画像,音楽,プログラム及び脚本を有機的に結合した複合的著作物」に当たり,被告による別紙被告製品目録記載のコンピュータゲームソフトウェア(以下「被告ゲームソフト」という。)の製作は,本件ゲームソフトの翻案又は本件ゲームソフトの脚本(シナリオ)の翻案に当たる旨主張して,被告に対し,本件ゲームソフト又はそのシナリオの著作権(翻案権)侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。

【判旨】

 著作権法10条1項7号は,著作物の例示として「映画の著作物」を規定し,同法2条3項は,「この法律にいう「映画の著作物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとする。」と規定しているが,他方で,著作権法上,同法2条3項以外に「映画の著作物」の定義や範囲について定めた規定は存在せず,また,「映画」自体について定義した規定も存在しない。これらによれば,著作権法にいう「映画の著作物」は,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」,「物に固定されていること」,「著作物であること」の要件をすべて満たすものであると解するのが相当である。
 そして,「映画」とは,一般に,「長いフィルム上に連続して撮影した多数の静止画像を,映写機で急速に(1秒間15こま以上,普通は24こま)順次投影し,眼の残像現象を利用して動きのある画像として見せるもの。」(広辞苑第六版297頁)を意味することなどに照らすならば,「映画の効果に類似する視覚的効果」とは,多数の静止画像を眼の残像現象を利用して動きのある連続影像として見せる視覚的効果をいい,また,「映画の効果に類似する視聴覚的効果」とは,連続影像と音声,背景音楽,効果音等の音との組合せによる視聴覚的効果を意味するものと解される。
 以上の解釈を前提に,本件ゲームソフトが「映画の著作物」に該当するかどうかについて判断する。
 本件ゲームソフトは,「零式百貨店グループの本店」において15年間に18人が失踪する事件が発生し,事態を憂慮した零式百貨店の総帥である「零式真琴」が,内部調査をさせるためにある支店に勤務していた主人公「四宅邦治」を呼び寄せ,主人公が同本店を舞台として内部調査を行うという内容のアダルト向けの娯楽を目的とした,いわゆるコマンド選択式マップ移動型アドベンチャーゲームであることが認められる。
 そして,原告提出の甲3(原告が本件ゲームソフト及び被告ゲームソフトの各影像の一部を対比して編集したものを,1本のVHSビデオテープに録画したもの)によれば,本件ゲームソフトの影像は,多数の静止画像の組合せによって構成されており,静止画像の画面ごとに音楽や台詞が加えられ,台詞の終了ごとに所定の位置をクリックすること等をきっかけとして画面が変わること,主人公が登場人物と会話する場面の影像は,画面全体に「総帥室」,「エレツィオーネ厨房」など百貨店内の特定の場所を示す静止画像が表示されるとともに,画面上部中央に「零式真琴」などその登場人物の静止画像が表示され,画面下部に主人公とその登場人物の会話等が順次表示されることで構成されていること,プレイヤーが画面に表示された複数のコマンドの一つを選択するに従ってストーリーが展開し,コマンドの選び方によってストーリーが変化することが認められる。
 他方で,甲3からは,本件ゲームソフトの影像中に,動きのある連続影像が存することを認めることはできない。もっとも,甲3には,設定場面が変わる際に主人公等のキャラクターが静止画像で表示されているマップ上を移動する場面があるが,同場面は,本件ゲームソフトの影像のものではなく,被告ゲームソフトの影像の一部であると認められる。
 他に本件ゲームソフトの影像中に動きのある連続影像が存することを認めるに足りる証拠はない。
 上記のとおり,本件ゲームソフトの影像は,多数の静止画像の組合せによって表現されているにとどまり,動きのある連続影像として表現されている部分は認められないから,映画の著作物の要件のうち,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」の要件を充足しない。
 したがって,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当するものとは認められない。
 これに対し原告は,@映画は,静止画像が連続して表示されることにより動的に受け取られるものであり,本件ゲームソフトも,多数の静止画像が連続して表示される点において,映画と本質的な違いはないこと,A本件ゲームソフトは,連続する影像を鑑賞しつつ,場面の転換を受けて対応を選択してプレイが成立するものであり,場面の転換が行われることによってストーリーが組み立てられるという本質的部分において映画と類似していること,B本件ゲームソフトは,絵画や小説などとは異なり,複数の異なる種類の著作物を統合して一つの世界を作り上げるという製作過程も,映画と同様であることを根拠として挙げて,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当する旨主張する。
 しかし,著作権法にいう映画の著作物に該当するというためには,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」が必要であること,「映画の効果に類似する視覚的効果」とは,多数の静止画像を眼の残像現象を利用して動きのある連続影像として見せる視覚的効果をいい,また,「映画の効果に類似する視聴覚的効果」とは,連続影像と音声,背景音楽,効果音等の音との組合せによる視聴覚的効果を意味するものと解されることは先に検討したとおりであるところ,原告が根拠として挙げる上記@ないしBの点は,いずれも本件ゲームソフトが「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」の要件を充足することを基礎付けるものではなく,原告の上記主張は,独自の見解を前提とするものであって,採用することはできない。

 原告は,本件ゲームソフトは,画像,音楽,プログラム,シナリオ等の著作物の単なる集合体ではなく,それらが有機的に結合し,不可分一体となって新たなゲームの世界を作り出した複合的著作物に該当する旨主張する。
 原告の上記主張の趣旨は必ずしも明瞭ではないが,原告が当初から本件ゲームソフトが映画の著作物であると主張していたのに対し,被告が本件ゲームソフトの影像はほとんどが静止画像であって,映画の著作物に当たらないと争ったため,本件ゲームソフトが複合的著作物であるとの主張を選択的にするに至った本件審理の経過を踏まえると,原告主張の複合的著作物とは,本件ゲームソフトに係る画像(原画),音楽,プログラム,シナリオ等の各著作物に基づいて新たに創作された,本件ゲームソフトの影像をいうものと解される。
 本件ゲームソフトの影像が原画,プログラム,シナリオ等とは別個の著作物として著作物性を有するかどうかの検討に先立ち,まず,原告の主張を前提に,本件ゲームソフトの影像の著作権が原告に帰属するかどうかについて判断する。
 原告は,@本件ゲームソフトは,原告が作成したプログラムが基本にあって,その範囲でゲームが組み立てられており,しかも,原告が,舞台設定やゲームの大枠を決め,原画,音楽をデジタルデータ化し,コンピュータ画面上で修正,編集,彩色作業を行うなどして,原画,音楽,シナリオの最終的な統合作業を行うことにより,本件ゲームソフトを完成させた,A本件ゲームソフトの製作費用について,原告がプログラミング及びシナリオの費用を負担し,日本プランテックが,原画,音楽の外注費用,パッケージ作成費用,販売諸経費を負担したが,原告は,日本プランテックとの間で,本件ゲームソフトについて原告が著作権を有することを合意した,上記@,Aによれば,原告は,本件ゲームソフトの影像の全体的形成に創作的に寄与した著作者(著作権者)であるか,あるいは著作権者である旨主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
 原告は,原画,音楽,シナリオの最終的な統合作業を行うことにより,本件ゲームソフトを完成させたから,本件ゲームソフトの影像の著作者(著作権者)である旨主張する。
 そこで検討するに,@Aが本件ゲームソフトのシナリオ(登場人物等の設定,ストーリー,ゲーム上で表示される登場人物等の会話文や選択肢などの原作・シナリオ)を,B(被告代表者)が本件ゲームソフトの原画を,原告が本件ゲームソフトのプログラムを創作したこと,A原告は,本件ゲームソフトの原画,音楽,シナリオ記載の会話文等をデジタルデータ化し,これらのデジタルデータを本件ゲームソフトのシナリオに従ってプログラミングし,プログラムを創作し,本件ゲームソフトを完成させたことが認められる。
 原告は,本件ゲームソフトのプログラミングの過程で,シナリオに従って原画(画像),音楽,会話文等のデジタルデータを統合する作業を行ったことが認められるが,上記作業は,シナリオに従って行われたプログラムの創作行為そのものであり,本件ゲームソフトの影像の著作物の創作行為であると認めることはできない。
 すなわち,異なるプログラムによっても,シナリオに従って画面上に同一の影像を表示することは技術的に可能であり,プログラムの創作行為そのものが,これとは別個の著作物であるゲームソフトの影像の創作行為であるということはできない。また,原告代表者の陳述書中には,「「猟奇の檻」の基本骨格は,自分が考えたものです。・・・百貨店を舞台に,失踪事件が発生し,それを解決するという流れでゲームを進行させる,アダルトゲームソフトにすると言った事は,私のアイデアです。」との記載部分がある一方で,「ただ,具体的な雰囲気やイメージ・・・はイラストや音楽,脚本によって肉付けされるものです。特に今回のソフトでは,脚本担当のゲーム館(判決注・「ゲーム観」の誤り)と言うか,イメージが主体となっている事は間違いありません。」,「その意味では,私の骨格に脚本のA氏が肉付けしたというもので・・・確かにA氏のゲーム観によるイメージが強いですが,私とて自分の資金を投下しているのですから,グランドデザインを持っていないわけではないのです。また,プログラムの制御という面からも,実際のプレーについてはイメージを持っていた事になります。」との記載部分があり,上記各記載部分からは,原告代表者が本件ゲームソフトの基本骨格のアイデアを提供し,プログラムの制御の面からのプレーのイメージを持っていたことをうかがうことができるにとどまり,画像,文字表示等で画面上に表現される本件ゲームソフトの影像の具体的な創作行為に原告又は原告代表者が関与したとまで認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
 次に,原告は,本件ゲームソフトの製作費用について,原告がプログラミング及びシナリオの費用を負担し,日本プランテックが,原画,音楽の外注費用,パッケージ作成費用,販売諸経費を負担したが,原告は,日本プランテックとの間で,複合的著作物としての本件ゲームソフトについて原告が著作権を有することを合意した旨主張する。
 しかし,原告の上記主張を前提としても,原告が負担したのは本件ゲームソフトの製作費用の一部にすぎないのに,原告と日本プランテックとの間で,本件ゲームソフト(の影像)の著作権が原告に帰属することを合意したとする理由や,その合意が成立した具体的な時期,経緯等は明らかでないのみならず,本件全証拠によっても,原告主張の上記合意の事実を認めるに足りない。
 したがって,原告の上記主張は,理由がない。
 以上によれば,本件ゲームソフトの影像が原告主張の複合的著作物として著作物性を有するかどうかを検討するまでもなく,原告の主張を前提としてもその著作権が原告に帰属するものとは認められないから,本件ゲームソフトは原告が著作権を有する複合的著作物であるとの原告の主張は,理由がない。

 原告は,被告ゲームソフトは,原告が著作権を有する映画の著作物又は複合的著作物としての本件ゲームソフトを翻案したものである旨主張する。
 しかし,本件ゲームソフトは,原告が著作権を有する映画の著作物又は複合的著作物に該当しないから,これに該当することを前提とする原告の上記主張は,理由がない。
 次に,原告は,被告ゲームソフトは,原告が著作権を有する本件ゲームソフトのシナリオを翻案したものである旨主張する。
 ところで,シナリオ等の言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 これを本件についてみるに,本件においては,本件ゲームソフトのシナリオ及び被告ゲームソフトのいずれもが証拠として提出されていない。このため本件ゲームソフトのシナリオの具体的内容はいかなるものであるのか,同シナリオにおける思想又は感情の表現上の本質的部分はどこにあるのかについて,本件証拠上,明らかではない。また,原告提出の甲3に収録されている被告ゲームソフトの場面は9日間にわたるストーリーの1日目の一部のものにすぎず,甲3からは,被告ゲームソフトの全容がいかなるものであるのか認めることはできず,他に被告ゲームソフトの具体的な内容を認めるに足りる証拠はない。
 その結果,本件証拠上,被告ゲームソフトが,本件ゲームソフトのシナリオに依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が本件シナリオの表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作したものであることを認めることができない。
 したがって,原告が本件ゲームソフトのシナリオの著作権を有するかどうかを検討するまでもなく,被告ゲームソフトは本件ゲームソフトのシナリオを翻案したものとは認められないから,原告の上記主張は理由がない。
 以上のとおり,被告ゲームソフトは,本件ゲームソフト又はそのシナリオを翻案したとの原告の主張は理由がない。

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