最新下級審裁判例

知財高裁判決平成20年12月24日

【事案】

 被控訴人は,原判決別紙出願目録記載の各特許出願に係る各発明(以下「本件各発明」という。)につき,これらに係る各特許を受ける権利(以下「本件特許を受ける権利」という。)を発明者から譲り受けた上,それぞれ特許出願をした者,控訴人X1(以下「控訴人X1」という。)は,特許庁長官に対し,上記各特許出願について,控訴人X1を本件特許を受ける権利の全部承継人とする出願人名義変更届を提出した者,控訴人X1を除くその余の控訴人4名(以下「控訴人X2ら」という。)は,控訴人X1を被告とする本件訴訟(東京地方裁判所平成18年(ワ)第126号)の提起後,特許庁長官に対し,上記各特許出願について,控訴人X2らを同権利の一部承継人とする出願人名義変更届を提出した者である。
 本件は,被控訴人が,控訴人X1及び同控訴人の共同訴訟人として本件訴訟に参加(同裁判所同年(ワ)第20971号)した控訴人X2らとの間で,被控訴人が本件特許を受ける権利を有することの確認を求める事案である。
 本件の争点は,被控訴人から控訴人X1に対する本件特許を受ける権利の譲渡に係る合意の有無である。
 原判決は,上記合意に係る権利譲渡証書(被控訴人の代表者印に基づいて顕出された印影が存在するもの)につき,いわゆる二段の推定を覆すに足りる反証があるなどとして,上記合意の事実を認めることはできないと判断し,被控訴人の請求はいずれも理由があるものとして,これを全部認容した。

【判旨】

 本件譲渡証書は,本訴において,写しが提出されたものであるが,本件譲渡証書の原本は,特許庁長官に提出され,同庁において保管されているものと認められるから,当該原本が存在することについては,これを認めることができる。
 他方,本件譲渡証書の原本の成立についてみるに,本件譲渡証書に存在する被控訴人代表取締役A名下の印影が真正代表者印によって顕出されたものであることは,全当事者間に争いがないから,反証のない限り,当該印影は,Aの意思に基づいて顕出されたものと事実上推定され,ひいて民事訴訟法228条4項の規定により,本件譲渡証書の原本は真正に成立したものと推定される。
 そこで,以下,上記推定を覆すに足りる反証があるか否かについて検討する。
 Aが平成16年9月21日の時点で真正代表者印を所持していなかった事実は,全当事者間に争いがない。
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
 平成16年7月26日,被控訴人取締役会が開催され,同日に被控訴人取締役に就任したCに対して真正代表者印の管理・保管を委ねることが決議された。
 その後,C並びに同じく同月26日に被控訴人取締役に就任したB及びGの3名が話し合った結果,現実には,Bが真正代表者印を保管・管理することとなった。
 Aは,同年9月19日,Bの自宅を訪れ,真正代表者印の返還を求めたが,同人は,当時,真正代表者印を所持していなかった。
 同月22日,被控訴人取締役会が開催され,A,D及びCの3名の取締役が出席した上,Dを代表取締役に選任する旨の決議がされたところ,同取締役会の議事録のA名下(Aの記名の右側)には,真正代表者印でない被控訴人の代表者印(銀行届出印)によって顕出された印影が,当該印影の中央部には,「○消」とのゴム印の印影が,同銀行届出印に係る印影の右横には,真正代表者印によって顕出された印影がそれぞれ存在する。
  被控訴人は,同月23日,Bに対し,次の内容の同日付け「お願い」と題する書面をファクシミリ送信した。
 「本日,貴殿に対して,弊社の代表印をCに代表印の係りを任せておりましたが,Cより貴殿にお預けしているとのことで,貴殿に対し,代表印の返却をお願いしましたが,その願いもかなえてもらうことができませんでした。よって弊社が支援いただく,株式会社ダイニ代表取締役に相談したところ,印鑑の返却がないままに弊社が借入している,白鷹建設鰍謔閧フ借財の返済については,代表印の返却がないままでは,支援できないとのことであり,このままで行けば期日までの返済が出来なくなることであり,貴殿に対して申し訳ございませんが,白鷹建設社長にご連絡させていただき,返済遅れの理由を明確にさせていただき,返済期限の延長のお願いをさせていただきますので,宜しくお願い申し上げます。
 尚,FAXの内容を査収いただきましたら,連絡いただけるのであれば,当社のH・・・までご連絡いただければ幸せと存じます。」
 被控訴人は,翌24日,Cに対し,次の内容の本件通告書を書留内容証明郵便物として差し出した。なお,本件通告書のA名下には,被控訴人の銀行届出印によって顕出された印影が存在する。
 「平成十六年七月二六日弊社代表取締役会議において,弊社代表印鑑の管理を貴殿に委ねましたが,貴殿に代表印鑑の返却を求めたところ,弊社代表取締役Aの承諾も得ず,第三者に弊社代表印鑑を預けたことは真に遺憾であり,この通告書到着後三日以内に弊社に返却なき場合には,被害届等の法的手続きの処置をすることを通告いたします。尚,貴殿責任において管理することになった平成十六年七月二六日以降に弊社代表印鑑を使用したことについて弊社は一切の責任は負わない事も通告致します。」
 Aは,同年9月28日,Dの被控訴人代表取締役への就任登記手続に用いられる登記委任状に真正代表者印を押捺し,同日,同登記がされた。なお,同登記委任状の右上余白及びA名下(Aの記名の右側)には,いずれも,被控訴人の銀行届出印によって顕出された各印影が,当該各印影の各中央上部には,いずれも,「○消」とのゴム印の印影が,A名下の同銀行届出印に係る印影の右横には,真正代表者印によって顕出された印影がそれぞれ存在する。
 以上の事実によれば,Aは,平成16年7月下旬ころから少なくとも同年9月24日までは,真正代表者印を自ら管理・保管していない状態にあったものと認められる。
 そして,かかる事実は,控訴人らが,本件譲渡証書の原本につき,平成16年9月24日の午前中にA自身が真正代表者印を押捺して作成した旨明確に主張し,控訴人X1も,別件訴訟の本人尋問において,これに沿う供述をしていることに照らせば,実際に,本件譲渡証書の原本が,いつ,誰により,いかなる方法で作成されたかなどの如何を問わず,本件譲渡証書の原本がAの意思に基づいて作成されたものではないとの事実を認めるに十分であるというべきである。

 上記のとおり,本件譲渡証書の作成経過,特にその作成日に関する控訴人らの主張及び控訴人X1の別件訴訟における供述を前提とすれば,Aが,平成16年7月下旬ころから少なくとも同年9月24日までは,真正代表者印を自ら管理・保管していない状態にあったとの事実が認められる本件においては,本件譲渡証書の原本がAの意思に基づいて作成されたものではないとの事実を認めるに十分である(いわゆる二段の推定を覆すに足りる反証がある)というべきであるが,念のため,以下,本件譲渡証書の記載内容の合理性についても検討を加えることとする。
 被控訴人は,平成16年夏,経営的に行き詰まった状態にあり,本件事業における研究開発の中核的存在であったIはAと対立して取締役を辞任するなどし,また,KはAの代表取締役辞任と被控訴人の自己資金1億1000万円の準備を求めるなどし,さらに,賃金の遅配等により従業員2名も退職したほか,同年8月下旬ころには,同月末日に1000万円の資金を必要とする状況にあったところ,Aから依頼を受けた控訴人X1は,Dを説得し,自ら連帯保証人となってダイニからの融資を実行させ,さらに,当該1000万円に係る元利金の返済の見通しが立たなかったAから返済期日の延期の交渉と被控訴人の立て直しを依頼され,ダイニをして,当該返済期日を延期させたほか,ダイニによる資本参加(Dの被控訴人代表取締役への就任を含む。)を実現させ,その後は,Iの技術協力を取り付けたほか,農水省,S,山形県等,本件事業の関係者らとの交渉等に積極的に関与し,Sとの間の共同研究契約の締結,東北電化工業株式会社等との間の秘密保持契約の締結,株式会社庄司製作所との間の覚書の取り交わし,同各社との間の工事請負契約の締結等に尽力したものである。
 しかしながら,本件譲渡証書の記載内容は,被控訴人が,本件特許を受ける権利のみならず,被控訴人が将来行う特許出願に係る特許を受ける権利のすべてを控訴人X1に譲渡するというものであり,また,本件約条書(2)の記載内容は,被控訴人が,控訴人X1に対し,総額2億円を支払うほか,控訴人X1の生存中,年間1000万円の給与ないし報酬を支払い,さらに,控訴人X1の死後においても,控訴人X1と1親等の関係にある者(控訴人X1の子を指すものと認められる。)を雇用して,重要な地位に就け,年間600万円の給与ないし報酬を支払うというものである。
 そうすると,本件約条書(2)の記載に係る,控訴人X1及びその子が受ける金銭的利益だけを取り出してみても,控訴人X1の働きと対比して(仮に,本件約条書(2)が,控訴人らの主張・控訴人X1の別件訴訟における供述のとおり,平成16年9月24日に作成されたものとすれば,その時点までに控訴人X1のしたことは,上記のうち,Dを説得してダイニからの1000万円の融資を実行させ,また,Dの被控訴人代表取締役就任を実現させたこと程度であるが,ここで対比すべき「控訴人X1の働き」とは,本件約条書(2)の記載に従って,本件約条書(1)に記載された各業務をすべて達成したものと仮定して,それを上記現実の働きに併せ考えたものをいうことになる。),社会通念上著しく均衡を欠くものであって,通常の経済的合理性に基づく判断の下においては,およそあり得ないものといわざるを得ない。
 また,本件譲渡証書において譲渡の対象とされた本件特許を受ける権利は,実質的に平成16年9月ころにおける被控訴人の唯一の見るべき資産であったのみならず,本件事業を推進する上で絶対に欠くことのできない極めて重要かつ中核的な資産であったといえるから,上記の控訴人X1の働きの内容を考慮しても,これを他人に譲渡するということは,常識では考え難いものである。加えて,本件譲渡証書においては,被控訴人が将来行う特許出願に係る特許を受ける権利のすべてについても譲渡の対象とされているところ,本件事業の内容(農産物を原料として精製された発酵乳酸から生分解性プラスチックを製造する技術の実用化に向けた研究開発を行うというもの)に照らせば,これら将来の権利をすべて他人に譲渡するということは,およそあり得ないというべきである。
 さらに,本件約条書(2)の1項目及び2項目の約定に記載された各金員についてみても,当該約定に記載された支払時期及び金額並びに前記認定のとおりの本件事業の内容及び被控訴人の財務状況に照らせば,これらの金員は,被控訴人においておよそ支払うことのできないものであったといわざるを得ない(特に,本件事業の内容及び被控訴人の財務状況に照らすと,被控訴人において,「補助金交付,採択通知後60日以内」に1億円を,「実証プラント建設工事着工時」に5000万円を支払うことなど絶対にできなかったといっても過言ではない。)。また,3項目の約定をみても,控訴人X1が,本件約条書(1)に記載された各業務をすべて達成しただけで(あるいは,それに上記現実の働きを加えただけで),その後の控訴人X1の被控訴人に対する貢献度に関わりなく,その生存中にわたり年間1000万円の給与ないし報酬の支払を約束することなど,平成16年9月当時,設立から2年余り経たのみで,売上が全くなかった被控訴人にとって,およそ考え難いものであるし,まして,いかなる資質,能力,人格等を有するのかも明らかでなく,何の実績も示していない控訴人X1の子についてまで,無条件で雇用し,重要な地位に就け,年間600万円の給与ないし報酬の支払を約束するとの点に至っては,常識外れも甚だしい内容のものであるというべきである。
 加えて,本件約条書(3)の3項目の約定によれば,例えば,F(昭和37年5月21日生)が仮に平成17年5月に被控訴人を退職した場合,会社都合による退職の場合であれ,自己都合による退職の場合であれ,被控訴人は,Fが満60歳に達する平成34年5月まで,17年間(204か月)分の給与に相当する「功労退職金」を支払わなければならないことになるが,そのようなことは,被控訴人のみならず,いかなる企業においても,およそあるはずのないことである。
 以上のとおり,本件譲渡証書並びに本件約条書(2)及び(3)(以下「本件譲渡証書等」という。)の各記載内容は,控訴人X1の働きの内容を考慮しても,常識的にみておよそあり得ない極めて不合理なものというべきである。
 以上のとおり,本件譲渡証書及び本件各約条書の記載内容は,全体として,社会通念に照らし著しく合理性を欠き,およそあり得ないものというべきである。

 以上のとおりであるから,本件譲渡証書の原本の成立については,二段の推定を覆すに足りる十分な反証があるということができる。したがって,本件譲渡証書に存在する被控訴人代表取締役A名下の印影が真正代表者印によって顕出されたとの事実をもって,本件譲渡証書の原本が真正に成立したとの推定は働かないということになる。
 そして,他に,本件譲渡証書の原本が真正に成立したものと認めるに足りる確たる証拠はないから,本件譲渡証書は,形式的証拠力を欠くものであるといわざるを得ない。
 なお,以上説示したところに照らせば,本件各約条書の各被控訴人作成部分の成立についても,二段の推定は働かず,他に,これらが真正に成立したものと認めるに足りる確たる証拠はないというべきであるから,本件各約条書の各被控訴人作成部分も,それぞれ形式的証拠力を欠くことになる。

 

名古屋地裁判決平成20年10月31日

【事案】

 D(昭和16年1月29日生)が,肝腫瘍の治療目的で,被告が開設,運営する病院に入院し,手術による治療を受けたところ,多臓器不全となり死亡したことにつき,適応のない手術が行われ,術後の感染症対策も不十分であったとして,同人の遺族である原告らが,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償及びこれらに対するDが死亡した日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。

【判旨】

 一般に,医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状,実施予定の) 手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があり,また,医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には,患者がそのいずれを選択するかにつき熟慮の上判断することができるような仕方で,それぞれの療法(術式)の違いや利害得失を分かりやすく説明することが求められると解される(最高裁平成13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁参照)。

 

東京地裁判決平成20年12月26日

【判旨】

 テレビ番組を放送する放送事業者(以下「テレビ局」という。)は,その放送内容についての編集権を独占しており,いかなる内容の番組を製作,放送するかは,専らテレビ局が決定し,第三者は,テレビ局自体の許諾がない限りこれに関与することはできないのが通常であると認められる。したがって,テレビ局から取材を受けて,テレビ局に対して情報を提供した者は,自己の提供した情報がテレビ局によって編集される過程に,関与することはできず,特段の事情のない限り,自己の提供した情報が,実際に放送されるのか,また,放送されるとしても,どのような内容に編集されて放送されるのかについては,予想ができないものと認められる。このことは,取材の状況をテレビカメラによって撮影し,それを録画するという方法による取材の場合も同様である。
 そして,テレビ局は,その放送内容を中立,公正なものとし,その放送によって不当に第三者の名誉を毀損しないよう努めるべき高度の注意義務を課されており,このことは,放送法3条の2第1項が,「放送事業者は,国内放送の放送番組の編集に当たっては,次の各号の定めるところによらなければならない。」とし,同項4号が「意見が対立している問題については,できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」と規定していること,民放連の放送倫理基本綱領も,「放送は,意見の分かれている問題については,できる限り多くの角度から論点を明らかにし,公正を保持しなければならない。放送は,適正な言葉と映像を用いると同時に,品位ある表現を心掛けるようつとめる。また,万一,誤った表現があった場合,過ちをあらためることを恐れてはならない。報道は,事実を客観的かつ正確,公平に伝え,真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない。放送人は,放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために,何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し,取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる。」と規定していること,民放連の「放送基準」も,「・ 個人・団体の名誉を傷つけるような取り扱いはしない。・ ニュースは市民の知る権利へ奉仕するものであり,事実に基づいて報道し,公正でなければならない。・ ニュース報道にあたっては,個人のプライバシーや自由を不当に侵したり,名誉を傷つけたりしないように注意する。・ 取材・編集にあたっては,一方に偏るなど,視聴者に誤解を与えないように注意する。・ 社会・公共の問題で意見が対立しているものについては,できるだけ多くの角度から論じなければならない。」と規定していること,民放連の「報道指針」も,「報道姿勢」として,「誠実で公正な報道活動こそが,市民の知る権利に応える道である。われわれは取材・報道における正確さ,公正さを追求する。・ 予断を排し,事実をありのまま伝える。未確認の情報は未確認であることを明示する。」と規定していることからも明らかである。したがって,テレビ局に対して情報を提供する者としても,通常,テレビ局が当該情報を利用した番組を放送するに当たっては,公正,中立性を保持するため,裏付け取材等を十分にするなどして,当該情報の正確性について慎重に吟味した上で,当該情報の利用の可否を決し,さらに,当該情報を利用するとしても,第三者の名誉を不当に毀損しないよう,番組内容を編集,製作していくものと考え,また,このようなテレビ局の行為を前提として,情報を提供するものと解される。
 したがって,仮に,情報提供者の提供した情報を利用したテレビ番組がテレビ局によって放送され,同放送が第三者の名誉を毀損するものであったとしても,上記情報提供者が,テレビ局から,事前に,当該テレビ番組の具体的な構成等について説明を受けていたことなどにより,当該テレビ番組の内容が,第三者の名誉を不当に毀損するものとなることについて,取材時に予め具体的に認識していた場合や,上記の認識を取材後に有するように至った場合でも,その内容の修正を求めることができる状況にあった等の特段の事情のない限り,上記情報提供者の情報提供行為と上記名誉毀損の結果との間には,相当因果関係は認められず,情報提供者は,名誉毀損の不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。

 放送をされたテレビ番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かは,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。
 また,放送をされたテレビ番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である。そして,放送をされるテレビ番組においては,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該情報番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該情報番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象を総合的に考慮して,判断すべきである(最高裁平成15年10月16日第1小法廷判決・民集57巻9号1075頁参照)。

 名誉毀損の成否が問題となっている表現が,事実を摘示するものであるか,意見ないし論評の表明であるかは,当該表現が,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的に又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記特定事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照),他方,上記のような証拠等による証明になじまない事物の価値,善悪,優劣についての批評や議論などは,意見ないし論評の表明に属するというべきであるが,当該名誉毀損の成否が問題とされるのが法的な見解の表明である場合は,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たるものというべきである(最高裁平成16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。

 民法723条が,名誉を毀損された被害者の救済として,損害賠償のほかに,それに代え又はそれと共に名誉を回復するに適当な処分を命じ得ることを規定した趣旨は,その処分により,加害者に対して制裁を加えたり,また,加害者に謝罪等をさせることにより被害者に主観的な満足を与えたりするためではなく,金銭による損害賠償では填補され得ない,毀損された被害者の人格的価値に対する社会的,客観的な評価自体を回復することを可能ならしめるためであると解すべきである。したがって,謝罪広告は,名誉毀損によって生じた損害のてん補の一環として,それを命じることが効果的であり,かつ,判決によって強制することが適当であると認められる場合に限り,これを命じることができると解するのが相当である。

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