最新下級審裁判例

仙台地裁判決平成20年12月18日

【事案】

 仙台市の住民で組織する原告が,仙台市議会の議員(以下,「市議」という。)である各補助参加人が平成18年に行った各海外行政視察はいずれも観光目的の旅行であるから,その旅費のための公金の支出は違法であるなどと主張して,地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号本文に基づき,被告に対し,海外視察に参加した当時市議であった補助参加人ら9名に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権に基づき,旅費などとして支出された公金相当額について,返還請求をすることを求めた事案。

(参照条文)法100条12項
 議会は、議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは、会議規則の定めるところにより、議員を派遣することができる。

【判旨】

 法100条12項は,議会制度を充実させ,地方分権を推進する一環として平成14年の法改正によりもうけられたものであるところ,その趣旨は,普通地方公共団体の議会が,当該普通地方公共団体の議決機関として,その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し,合理的な必要性があるときはその裁量により議員を国内や海外に派遣することができるとする点にあると解される。
 もとより,このような議会の権能も絶対無制約なものではなく,合理的な必要性がないにもかかわらず所属議員を海外に派遣したり,研修や視察の名のもとに遊行を主目的とするようないわゆる観光旅行を実施するなどした場合には,裁量権行使の逸脱又は濫用として,右派遣に要した費用の支出が違法となる場合があるというべきである。
 そして,裁量権行使の逸脱又は濫用の有無を判断するにあたっては,視察目的の合理性,視察先と視察目的との関連性,視察の必要性,視察内容,視察行程や費用の相当性などの事情を総合的に考慮する必要があると考える。

 

知財高裁判決平成20年12月24日

【事案】

 控訴人朝鮮映画輸出入社(以下「控訴人輸出入社」という。)は,原審において,別紙映画目録1記載の各映画について我が国の著作権法に基づく著作権を有すると主張して,株式会社フジ・メディア・ホールディングス(旧商号株式会社フジテレビジョン。以下「脱退被控訴人」という。)がそのテレビジョン放送において上記各映画を放映し,控訴人輸出入社の著作権(公衆送信権)を侵害するおそれがあるとして,脱退被控訴人に対し,著作権に基づき,上記各映画の放映の差止めを求めるとともに,控訴人らは,脱退被控訴人がそのテレビジョン放送に係るニュース番組中で別紙映画目録1記載の劇映画欄nの映画の映像の一部を放映した行為(以下「本件無許諾放映」という。)につき,控訴人輸出入社の著作権及び上記各映画について日本国内における利用等についての独占的な権利を有する控訴人有限会社カナリオ企画(以下「控訴人カナリオ企画」という。)の利用許諾権の侵害に当たると主張して,脱退被控訴人に対し,不法行為(著作権ないし著作物の利用許諾権の侵害)に基づき,控訴人ら各自(控訴人らの連帯債権)に損害賠償金550万円及びこれに対する平成18年3月30日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。
 原判決は,上記各映画は著作権法6条3号所定の保護を受ける著作物に当たらないとして控訴人らの上記各請求を棄却した。
 そこで,これを不服として控訴を提起した控訴人らは,当審において,控訴人輸出入社は,別紙映画目録2及び3記載の各映画(以下,別紙映画目録1ないし3記載の各映画を「本件各映画著作物」という。)につき,著作権に基づく放映の差止請求を追加するとともに,控訴人らは,仮に本件各映画著作物が著作権法の保護を受ける著作物に当たらないとしても,脱退被控訴人が上記映画の映像の一部を控訴人らの許諾を得ることなく放映した行為は,控訴人らが同映画について有する法的保護に値する利益の侵害に当たると主張して,民法709条に基づく損害賠償請求を予備的に追加した。
 脱退被控訴人は,平成20年10月1日,会社分割(新設分割)により,放送事業等の主要事業に関して有していた権利義務を株式会社フジテレビジョン(以下「被控訴人」という。)に承継させた(債務の承継については,すべて免責的債務引受の方法による。)。そこで当裁判所は,脱退被控訴人の申立てにより,平成20年11月17日,被控訴人に本件訴訟を引き受けさせる旨の決定をし,脱退被控訴人は,平成20年12月3日,控訴人らの承諾を得て本件訴訟から脱退した。

(参照条文)

文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)

3条
(1) 次の者は、次の著作物について、この条約によつて保護される。
(a) いずれかの同盟国の国民である著作者 その著作物(発行されているかどうかを問わない。)
(b) 略。
(2) 以下略。

5条
(1) 著作者は、この条約によつて保護される著作物に関し、その著作物の本国以外の同盟国において、その国の法令が自国民に現在与えており又は将来与えることがある権利及びこの条約が特に与える権利を享有する。
(2) (1)の権利の享有及び行使には、いかなる方式の履行をも要しない。その享有及び行使は、著作物の本国における保護の存在にかかわらない。したがつて、保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。
(3) 以下略。

29条
(1) 同盟に属しないいずれの国も、この改正条約に加入することができるものとし、その加入により、この条約の締約国となり、同盟の構成国となることができる。加入書は、事務局長に寄託する。
(2) 略。

 

法例(廃止平成18・6・21、法律78号)11条1項
 事務管理、不当利得又ハ不法行為ニ因リテ生スル債権ノ成立及ヒ効力ハ其原因タル事実ノ発生シタル地ノ法律ニ依ル

法の適用に関する通則法(以下「法適用通則法」という。)附則3条4項
 施行日前にその原因となる事実が発生した事務管理及び不当利得並びに施行日前に加害行為の結果が発生した不法行為によって生ずる債権の成立及び効力については、新法第十五条から第二十一条までの規定にかかわらず、なお従前の例による。

【判旨】

 控訴人輸出入社の差止請求は,同控訴人が北朝鮮の法人であり,また,北朝鮮の著作物についての著作権に基づく請求であるという点で,渉外的要素を含むものであるから,準拠法を決定する必要がある。
 我が国が加入しているベルヌ条約5条(2)第3文は,「したがつて,保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は,この条約の規定によるほか,専ら,保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」と規定しているところ,この規定は,著作権の「保護の範囲」及び「著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法」という単位法律関係について,「保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる」という準拠法を定める抵触規則であると解される。そして,著作権に基づく差止請求の問題は,「著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法」であると性質決定することができるから,ベルヌ条約によって保護される著作物の著作権に基づく差止請求は,同条約5条(2)により,保護が要求される同盟国の法令,すなわち同国の著作権法が準拠法となる。もっとも,本件においては,北朝鮮の著作物が我が国との関係でベルヌ条約3条(1)(a)によって保護される著作物に当たるか否かが争われており,このような場合にベルヌ条約5条(2)の抵触規則を適用して準拠法を決定することができるのかどうかが問題となり得るところである。しかしながら,ベルヌ条約の加盟国数は,平成20年12月現在,全世界163か国にも及んでおり,我が国とこれら多くの加盟国との間においては,著作権に基づく差止請求という法律関係については同条約5条(2)の定める抵触規則が適用されること,この抵触規則は,世界の多くの加盟国において適用される国際私法の規則となっていること及び著作権の属地的な性質からすれば,保護が要求される国の法令を準拠法とすることに合理性があること等に鑑みれば,ベルヌ条約で保護されない著作物についても,上記抵触規則を適用ないし類推適用して保護が要求される国の法令を準拠法と指定することが相当である。
 したがって,ベルヌ条約によって保護される著作物に当たるかどうかが争われている北朝鮮の著作物に係る著作権に基づく差止請求についても,ベルヌ条約5条(2)の定める抵触規則が適用ないし類推適用されるから,控訴人輸出入社の差止請求については,我が国の著作権法が適用されると解すべきである。
 また,控訴人らが損害賠償請求において主張する被侵害利益は,北朝鮮の著作物に係る著作権ないしその利用許諾権(以上,主位的請求)あるいは北朝鮮の著作物という知的財産の利用により享受し得る要保護性のある法的利益(予備的請求)であるという点で,いずれも渉外的要素を含むものであるから準拠法を決定する必要がある。上記法律関係の性質は不法行為であるから,準拠法については,法例11条1項(法適用通則法附則3条4項により,なお従前の例によるとして,法例の規定が適用される。)によって決すべきである。そして,同条項にいう「原因タル事実ノ発生シタル地」は,控訴人らに対する権利ないし法的利益の侵害という結果が生じたと主張されている我が国であるというべきであるから,本件における損害賠償請求(主位的・予備的とも)については,民法709条が適用される。

 控訴人らは,@多数国間条約上の権利義務が未承認国との間で原則として生じない旨の国際慣習法は存在しないこと,A国際法学の通説によれば,未承認国が多数国間条約に加入した場合に,未承認国であることから当該国を承認しない国との間で当該条約上の権利義務の存在が直ちに否定されるものでもなく,むしろ,未承認国であっても当該国を承認しない国に対して条約上の義務を負うという理を一般的に表明する著名な国際法学者も存在すること,を理由に,原判決が,国家として承認されていない国は,国際法上一定の権利を有することは否定されないものの,承認をしない国家との間においては,国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないと判断したことは,明らかに国際法の解釈を誤ったものであると主張する。
 そこで検討するに,国家承認の性質及びその国際法上の効果については,これを定める条約及び確立した国際法規が存在するとは認められない。そして,我が国は,北朝鮮を国家承認していないが,国家承認の意義については,ある主体を国際法上の国家として認めることをいうものと理解し,また,国際法上の主体とは,一般に国際法上の権利又は義務の直接の帰属者をいい,その典型は国家であると理解されていること,我が国政府は,北朝鮮を国家承認していないから,我が国と北朝鮮との間には,国際法上の主体である国家間の関係は存在しないとの見解を採っていることが認められる。当裁判所は,日本国憲法上,外交関係の処理及び条約を締結することが内閣の権限に属するものとされている(憲法73条2号,3号)ことに鑑み,国家承認の意義及び我が国と未承認国である北朝鮮との国際法上の権利義務関係について,上記の政府見解を尊重すべきものと思料する。そうすると,未承認国である北朝鮮は,我が国との関係では国際法上の法主体であるとは認められず,国際法上の一般的権利能力を有するものとはいえない。もっとも,未承認国であっても,その政治的存在に基づいて限定した範囲では国際法上の権利能力を有するものと認めることができる。
 以上を前提とすれば,原判決が,未承認国は,国際法上一定の権利を有することは否定されないものの,承認をしない国家との間においては,国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないと判断したことは相当であり,この判断が国際法の解釈を誤ったものであるとする控訴人らの主張は採用することができない。
 なお,控訴人らは,多数国間条約上の権利義務が未承認国との間で原則として生じない旨の国際慣習法は存在しないとも主張する。この主張の趣旨は,未承認国は,原則として,承認をしない国家との間においては,国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないことを前提としても,控訴人らの主張する上記国際慣習法が存在しない以上,北朝鮮が多数国間条約であるベルヌ条約に加入したことにより,同条約上の権利義務が我が国と北朝鮮との間に生じるとの主張であると解されるが,これを採用することはできない。その理由は,以下のとおりである。
 すなわち,ベルヌ条約は開放条約(ベルヌ条約29条)であるから,所定の手続を践むことにより北朝鮮がベルヌ条約に加入することは可能であり,我が国は北朝鮮がベルヌ条約の加盟国であることまで否定できるものではない。しかしながら,北朝鮮がベルヌ条約に加入することと我が国が北朝鮮を国家承認することとは別個の問題である(この点は,控訴人らも,前記のとおり,国際法学の通説として,未承認国の多数国間条約への加入は直ちに既加盟国による黙示の国家承認を意味するものではないと主張するところである。)から,北朝鮮がベルヌ条約の加盟国であるとしても,我が国との関係では依然として未承認国であることに変わりはない。
 そうすると,未承認国は,原則として,承認をしない国家との間においては,国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められないことを前提とする限り,我が国と北朝鮮との間にベルヌ条約上の権利義務関係が生ずることはないはずであるが,それにもかかわらず,北朝鮮のベルヌ条約加入により,我が国と北朝鮮との間にベルヌ条約上の権利義務関係が生ずるというのは,結局,ベルヌ条約への加入をもって我が国の国家承認があったのと同視するのに等しいのであり,このことは,北朝鮮がベルヌ条約に加入することと我が国が北朝鮮を国家承認することとは別個の問題であるとの前提に反するものである。そして,このような結論に至ることは,控訴人らの主張に係る国際慣習法の存否に関わらないことである。
 したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。

 もとより,多数国間条約の条項のなかには,ジェノサイド条約(「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」)における集団殺害の防止(1条)や拷問等禁止条約(「拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」)における拷問の防止(2条)のように,条約当事国間の単なる便益の相互互換の範疇を超えて,国際社会における普遍的な価値の実現を目的とし,国際社会全体に対する義務を定めたものが存在する。このように,条約上の条項が個々の国家の便益を超えて国際社会全体に対する義務を定めている場合には,その義務の主題である普遍的な価値が国際社会全体にとって重要性を持つものであるため,すべての国家がその保護に法的利益を持つことから,例外的に,未承認国との間でも,その適用が認められると解される。このように,当該条項が,個々の条約当事国の関係を超え,国際社会全体に対する権利義務に関する事項を規定する普遍的な価値を含むものであれば,あらゆる国際法上の主体にその遵守が要求されることになり,その限りでは,国家承認とは無関係に,その普遍的な価値の保護が求められることになる。

 控訴人らは,知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(以下「TRIPS協定」という。)9条1項が,主権国家のみならず,ベルヌ条約を批准することが不可能な独立の関税地域にまでベルヌ条約の適用範囲を広げているのは,WTOが著作権の保護を国際社会全体における普遍的な価値を有するものと考えていることの表れであり,著作権の保護が国際社会全体における普遍的な価値を有しているものとしてベルヌ条約を締結した国家間においては,国家承認の有無にかかわらず,同条約に基づく義務及び責任を負うと主張する。
 しかしながら,TRIPS協定を含む世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(以下「WTO協定」という。)は,ベルヌ条約の一定の条項を遵守する義務を定めるTRIPS協定9条1項に限って独立の関税地域がWTO協定の加盟国となることを認めているわけではなく,WTO協定自体について独立の関税地域が加盟国となることを認めているのであるから,WTO協定の一部であるTRIPS協定がベルヌ条約の一定の条項を遵守する義務を定め,これが独立の関税地域について適用されるとしても,そのことから直ちにWTOが著作権の保護を国際社会全体における普遍的な価値を有するものと考えていたと推認することはできない。そして,ベルヌ条約の解釈上,著作権の保護が国際社会全体における普遍的な価値を有するものであると解することができない。
 したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。

 控訴人らは,著作権法6条3号の適用においては,北朝鮮がベルヌ条約の加盟国か否かを認定し,これが認定できれば,北朝鮮の国民の著作物について著作権法上の保護が認められると判断すべきであると主張する。
 しかしながら,ベルヌ条約の加盟国であったとしても,我が国が当該加盟国を国家承認していなければ,当該加盟国と我が国との間にベルヌ条約上の権利義務関係が生じないのであるから,単に北朝鮮がベルヌ条約の加盟国であると認定できるというだけでは,北朝鮮の国民を著作者とする著作物が,著作権法6条3号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」に当たると判断することはできない。
 したがって,原判決が,北朝鮮の著作物の著作権法6条3号の該当性は,我が国が未承認国である北朝鮮に対してベルヌ条約上の義務を負担するか否かの問題に帰着するとし,その検討の結果,ベルヌ条約により我が国が北朝鮮の著作物を保護する義務を負うとは認められないから,北朝鮮の著作物は著作権法6条3号所定の著作物に該当しないと判断したことは正当であり,控訴人らの上記主張は採用することができない。

 本件映画は2時間を超える劇映画であり,その内容等に照らし,相当の資金,労力,時間をかけて創作されたものといえるから,著作物それ自体として客観的な価値を有するものと認められる。また,北朝鮮文化省は,控訴人輸出入社が北朝鮮映画の著作権を保有するものであるとしていること,控訴人輸出入社は,本件映画のオリジナルフィルムを所有し,その複製物を控訴人カナリオ企画に提供していること,控訴人輸出入社は,本件映画著作権基本契約の対象でもある1972年に製作された劇映画「花を売る少女」について,著作権者としてフランスの映画会社と版権の売買契約を締結し,その複製物を同映画会社に提供していること等の事実を総合すれば,本件映画が製作された1978(昭和53)年当時はともかく,遅くとも本件映画著作権基本契約が締結された平成14年当時には,控訴人輸出入社は北朝鮮国内において本件映画を独占的に管理支配していたものと推認することができる。
 そして,控訴人カナリオ企画は,本件映画著作権基本契約に基づき,控訴人輸出入社から本件映画を含む本件各映画著作物について,日本国内における上映,複製,頒布及び放送についての独占的な許諾権を付与され,本件映画の複製物の提供を受けていたことからすれば,控訴人カナリオ企画は日本国内において本件映画の利用について独占的な管理支配をし得る地位を得ていたものと認めることができ,このことに,本件映画が上記のとおり著作物として客観的な価値を有するものであり,経済的な利用価値があること,控訴人カナリオ企画は,別紙一覧表のとおり放送局に対して本件各映画著作物に属する作品の放送を許諾することにより現実に利益を得ていたことを併せ考慮するならば,控訴人カナリオ企画が上記地位に基づいて本件映画を利用することにより享受する利益は,法律上の保護に値するものと認めるのが相当である。
 これに対し,控訴人輸出入社は,日本国内に営業所等を一切有しておらず,本件各映画著作物の日本国内における利用は専ら控訴人カナリオ企画に委ねられ,同控訴人に対し,自らは利用に関する権利を行使しないことを約していることからすれば,控訴人輸出入社については,本件映画の日本国内における利用について法律上保護に値する利益を有するものとは認められない。

 本件映画は,控訴人カナリオ企画が管理支配をしているそれ自体が客観的な価値を有し,経済的な利用価値のある映画であり,その製作に当たっては相当の資金,労力,時間を要したものであること,控訴人カナリオ企画は,北朝鮮がベルヌ条約に加入した後も,控訴人輸出入社から利用許諾を得た本件各映画著作物に含まれる作品について,別紙一覧表のとおり,テレビ番組における放映を許諾し,使用料を得ていたものであり,本件映画についても,同一覧表「放送者名」欄記載の放送者に対しては利用許諾をすることにより使用料収入を得られる作品であると推認できること,控訴人カナリオ企画は,本件無許諾放映により本件各映画著作物に含まれる作品のビデオカセット及びDVDの販売ができない状況になっていること,本件無許諾放映は,報道を目的とするニュース番組の中で行われたものであるが,脱退被控訴人にとってはスポンサー収入の対象となる営利事業であること,本件無許諾放映の時間は128秒間であり,本件映画全体の上映時間からすれば,わずかな一部の利用といえなくもないが,約6分間のテレビ番組中で2分間を超える放映をすることは,それ自体としては相当な時間の利用であるといえること等の事実に照らすならば,脱退被控訴人が控訴人カナリオ企画に無断で営利の目的をもって本件無許諾放映をしたことは社会的相当性を欠く行為であるとの評価を免れず,本件無許諾放映は,控訴人カナリオ企画が本件映画の利用により享受する利益を違法に侵害する行為に当たると認めるのが相当である。
 これに対し,被控訴人は,著作権法により保護されない著作物は原則として自由に利用できるものであり,仮にその利用について一般不法行為が成立する余地があるとすれば,著作物の単なる利用に止まらず,公序良俗違反といえる程に強い反社会性や違法性を有する場合に限定されるべきであると主張する。
 しかしながら,著作物は人の精神的な創作物であり,多種多様なものが含まれるが,中にはその製作に相当の費用,労力,時間を要し,それ自体客観的な価値を有し,経済的な利用により収益を挙げ得るものもあることからすれば,著作権法の保護の対象とならない著作物については,一切の法的保護を受けないと解することは相当ではなく(なお,被控訴人は,著作権法により保護されない著作物の利用については不法行為法上の保護が及ばないとするのが立法者意思である旨主張するが,かかる立法事実を認めることはできない。),利用された著作物の客観的な価値や経済的な利用価値,その利用目的及び態様並びに利用行為の及ぼす影響等の諸事情を総合的に考慮して,当該利用行為が社会的相当性を欠くものと評価されるときは,不法行為法上違法とされる場合があると解するのが相当である。
 したがって,不法行為が成立するのは著作物の利用が公序良俗に反する場合に限定されるとの被控訴人主張は採用することができない。

 本件無許諾放映は控訴人カナリオ企画に対する不法行為を構成するものと認められるところ,控訴人らは,本件無許諾放映により許諾料相当額の損害を被ったと主張する。
 しかしながら,許諾料相当額の損害は,排他的な利用権である著作権の侵害があった場合に認められるものであり,著作権法による保護が認められない本件映画について,著作権の認められる著作物と同様の損害を認めることは相当ではない。そして,本件における控訴人カナリオ企画の損害は,その性質上その額を立証することが極めて困難なものに当たると認められるから,民事訴訟法248条を適用し,金10万円をもって損害額と認める。

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