平成21年度旧司法試験択一式試験の感想

全体について

5月10日、平成21年度の旧司法試験択一式試験が実施された。
問題は、法務省HPで公開されている

全体的に、淡白な作りになったという印象だ。
目新しい出題形式や、手が止まるような複雑な出題は見当たらない。
実力者であれば素直に高得点が取れる。
そういう出題だったと思う。
合格者を絞ろうという意図が感じられた昨年度とは対照的である。

憲法について

今年度の特徴は、個数問題が全く無かったことである。
これは、体感的な難易度をかなり下げる。
そのため、余裕を持って解けた人が多かったのではないか。

また、穴埋め問題は、「最も多く含む組合せ」を選ばせる問題が多かった。
このような形式では、最後まで穴埋めをしなければならないケースが増える。
従って、スムーズに穴埋めをしないと、予想以上に時間をロスする場合がある。
もっとも、穴埋め自体の難易度はそれほど高くなかった。
どちらでも入りそうな微妙な語句が、ほとんどなかったためである。
そのため、面倒ではあるが、特に苦しむこともなく解くことができたはずである。
なお、第14問のみ「誤っているものを最も多く含む組合せ」が問われていた。
旧司法試験特有の引っ掛けである。
難解な穴埋めや個数問題などが並んで疲労した状況なら、こういう罠にかかりやすい。
しかし、今年度はそれほど精神的負担がないので、引っかかった人は少ないだろう。

内容的には、判例知識重視の傾向が続いている。
ただ、訊き方がマニアックになっている。
例えば、反対意見を問うもの。
第7問、第10問、第16問などである。
なお、直接反対意見を訊いてはいないが、第18問のエは藤田宙靖反対意見である。
この肢は判例の趣旨からは明らかに誤っている、ということになる。
また、原審、原々審の立場を訊くもの。
第13問、第17問がそうである。
第13問のアは、そもそも原審が存在しないという点を訊いている。
もっとも、上記は知らなくても何とかなった。
他の肢との関係で、正解に到達しうるもの。
または、容易に推測できるものが多かったからだ。
百選の判旨や、過去問しかやっていなくても、それほど痛手にはならなかっただろう。

全体的に、憲法は昨年よりも解きやすかった。
捨て問に相当する問題は、1問もなかった。
多少引っかかる部分のある問題も5問程度。
第6問、第11問、第13問、第18問、第19問くらいである。
その他の問題は、確実に取る必要があった。
重要なことは、大事に解きすぎて時間をロスしないことだった。

上記5問のうち2問を落としたとして18点。
あと2問を知識の穴や見落とし等で落とすとしても16点。
最低このくらいは取る必要があったといえる。

民法について

これまでも民法は知識重視だったが、論理問題も数問出題されていた。
教授と複数の学生が登場し、各学生の立場ごとに一貫したものを選ばせる問題等である。
昨年度は、それが出題されなかった。
今年度も、論理問題は出題されず、全問知識問題だった。

内容的には、知識をストレートに訊く出題が目立った。
条文や判例を知っていれば、問題なく解ける内容だった。
昨年のように、何を訊いているか分かりにくい出題は無かったと思う。
若干難しいのは、第21問、第24問と親族相続分野の第30問と第33問くらいだろう。
他は全問解きたい。
上記4問のうち2問は取り、それ以外を2問何らかの理由で落としたとして、16点。
これが最低合格ラインの目安といえる。

なお、第36問は、195条が関係していそうに見える。
しかし、195条の「家畜以外の動物」とは人の支配に服しないで生活することを常態とするものをいう(大判昭7・2・16)。
すなわち、野生動物を指す。
従って、本問の柴犬はこれに含まれないから、同条の適用はない。

刑法について

刑法は昨年度に引き続いて、易しかった。
穴埋め自体が易しく、しかも選択肢を使って容易に正解にたどり着くことができた。
ややマイナー論点の出題(第53問、第60問)もあった。
しかし、それらも文章から条文構造を推測して答えを出すことが容易な問題だった。

また、自首の知識を問う出題(第46問)は、最判昭24・5・14などの知識を問うものである。
犯罪発覚前または犯人判明前のいずれかにあたるか、という点がポイントである。
アは、悔悟や反省等の動機は参照条文上全然要求されていないから誤り。
イは、犯人判明前であり自首は成立しうるから誤り。
ウは、犯罪及び犯人が判明しているといえ、自首は成立し得ないから正しい。
エは、Zに対する嫌疑では犯人が判明しているといえず、自首は成立し得るから、誤り。
オは、自己の犯罪の申告でないから、自首は成立せず、正しい。
正解は、5ということになるだろう。
もっとも、全く知識が無くても、ウの段階まで追及されては自首になるはずがないとわかる。
また、オは自己の犯罪を逃れる行為であり、常識的にも自首になりそうもない。
その直感に従えば、容易に正解にたどり着くことができた。

重要なことは、解く時間を確保できていたか、という点である。
憲法の穴埋めを大事に解きすぎると、ここで時間不足になるおそれがある。
逆に、刑法から解く場合には、憲法の穴埋めの時間を確保しながら解く必要があった。

今年度の刑法は昨年度と同様、満点を取りたい。
ケアレスミス等があったとしても、最低18点は必要ではないか。

合格点・合格者数の予測

上記各科目の目標点数を合計すると、16+16+18=50点となる。
やはり、憲法の個数が無くなったことが大きい。
仮に4つほど正答率の極端に下がる個数問題があれば、47点くらいとなっただろう。
択一式試験において、過去に合格点が50点台になったことはない。
だが今年度は、初の50点台ということになる可能性が十分ある。

合格者数については、最終合格者数の目安から推計できる。

「併行実施期間中(平成20年以降)の新旧司法試験合格者数について」より引用、下線は筆者)

 旧司法試験の合格者の概数については,平成17年に合格者の概数を示した際,同18年は500人ないし600人程度,同19年は300人程度を一応の目安とするとしたことを踏まえ,上記2で述べた考慮事項を勘案し,同20年は200人程度を,同21年は100人程度を,同22年はその前年よりも更に減少させることを,それぞれ一応の目安とするのが適当と考える。

(引用終わり)

実際に目安通りの数字を合格させるかはわからない。
ただ、昨年度の半分くらいを考えていることがわかる。
そうすると、択一の合格者数も、昨年度の半分くらいになるのではないか、と予測できる。
昨年度の択一合格者数は1605人。
そうすると、単純に考えて今年度は800人くらいではないか、とも考えられる。

ただ、それは正しくない可能性が高い。
なぜなら、これまで論文合格者の減少数と、択一合格者の減少数が比例してこなかったからだ。
択一合格者数の減少ペースは、論文合格者の減少ペースより小さい。
すなわち、択一合格者の論文での合格率は、年々低下している。
以下は、合格者数が激減し始めた平成18年度以降の択一合格者数、論文合格者数、論文合格率である。
これらをベースにして、推計を試みる。

年度 択一合格者数 論文合格者数 論文合格率
(択一合格者ベース)
前年度比
18 3820 542 14.1% ---
19 2219 250 11.2% 2.9%
20 1605 141 8.7% 2.5%
21 1129? 70? 6.2%? 2.5%?

まず、平成21年度の論文合格者数は、昨年度の半分程度と考えられる。
これは、前述した合格者数の目安からである。
そうすると、70人程度ということになる。
また、論文合格率の推移を見ると、毎年2〜3%程度低下している。
そこで、今年度も2.5%低下すると考える。
そうすると、今年度の論文合格率は、6.2%と推計できる。
ここから、択一合格者数を逆算すると、

70÷0.062≒1129

従って、1129人程度ではないか、ということになる。

今年度の出願者数は、18611人である。
従って、出願者ベースの択一合格率は、

1129÷18611≒6.0%

となる。
なお、過去の出願者ベースの択一合格率は、

平成18年度:10.6%
平成19年度:7.9%
平成20年度:7.2%

である。

昨年度と比較すると、1.2%低下する予測となる。
このことは、合格点を押し上げる要素として考えられる。
他方、18年度から19年度には、2.7%低下している。
今年度は、それほどまでは合格率は低下しないということになる。
従って、それほど劇的に合格点を押し上げる要素ではない、と考えられる。
18611人の1.2%は、約223人である。
これだけでは、せいぜい1点分くらいだろう。
合格者数減の合格点押し上げ効果は、その程度とみるべきである。

今年度の合格点は、昨年度よりかなり高くなるだろう。
だが、合格者数減はその決定的理由ではない。
むしろ、問題の難易度が下がったこと。
特に、憲法の個数問題がなくなったことに、その主たる理由があると考えられる。

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