最新下級審裁判例

さいたま地裁判決平成20年11月12日

【犯罪事実】

被告人は,
第1 略。
第2 略。
第3 略。
第4 金品窃取又は強取の目的で,同年10月30日午後6時45分ころ,埼玉県川口市hi丁目〈番地略〉所在のHアパートm号のO方居室内に無施錠の西側掃き出し窓から侵入し,同居室内を物色中,同日午後7時15分ころ,上記O(当時26歳)が帰宅したことに気付くや,同女から金品を強取しようと企て,同女に対し,所携のカッターナイフをその面前に突き付け,「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」などと語気鋭く言うとともに,衣類を顔面に巻き付けて目隠しをし,猿ぐつわをかませるようにタオルで口をふさぎ,ストッキングで両手首及び両足首を緊縛し,さらに,延長コード等で同女をトイレ内の便器に縛り付けるなどの暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧し,同女所有又は管理の現金約8000円,キャッシュカード3枚,クレジットカード2枚,運転免許証1通及び健康保険証1通を強取した上,そのころ,同居室内において,仰向けに倒れた同女に馬乗りとなり,殺意をもって,両手の親指及び人差し指の付け根付近を同女の頸部に押し当て,両手の平等で同女の頸部や上胸部付近を強く押すなどし,よって,そのころ,同所において,同女を前頸部下半から上胸部にかけての圧迫による窒息により死亡させて殺害した。

【判旨】

 弁護人は,判示第4の事実について,犯行態様は争わないものの,被告人は,被害者が声を出さないように暴行を加えたにすぎず,殺意はなかった旨主張し,被告人も,上記主張に沿う供述をしているので,被告人の殺意の有無について当裁判所の判断を示すこととする。
 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,

ア 被害者の遺体には,前頸部下半から上胸部(両鎖骨部)にかけての広範囲に,着衣の網目痕及び粗大な点状出血群,すなわち,圧迫痕や圧迫的打撲傷が認められ,その皮下及び筋肉内には,鎖骨及び胸骨上端に沿って広範囲に,厚い層の出血がみられ,輪状軟骨も骨折している。さらに,上背部には,死斑に重なって着衣の網目痕が印象され,その皮下,筋膜下及び筋肉内には,斑状のやや厚い層の出血がみられるところ,この上背部の創傷は,上記頸部下半から上胸部の創傷の対側損傷であると認められる。
イ このような被害者の創傷の状態,すなわち,上胸部(両鎖骨部)に厚い層の出血を伴う圧迫痕が存在し,その反対側の上背部にも着衣の圧痕がみられることは,左右の胸部を前後に強圧されたことを示すものである。しかも,輪状軟骨が骨折していることにも照らせば,頸部から上胸部(両鎖骨部)にかけて,非常に強い力が加わったことが認められる。
ウ さらに,死因に関する鑑定結果及び犯行態様に関する被告人の供述をも参酌すると,冷蔵庫の扉に後頭部が支えられ,頭部が少し床から浮いた状態で仰向けに倒れていた被害者に対し,被告人が,馬乗りとなって,両手の親指及び人差し指の付け根付近を被害者の頸部に押し当て,その頸部に対してほぼ垂直方向から,両手の平等で同女が動かなくなるまでその頸部や上胸部付近を手加減することなく強く押すなどして圧迫した結果,同女を胸郭運動障害を主体とする窒息により死亡させた,すなわち,圧死させたものと認められる。
エ そして,頸部等の圧迫開始から窒息死するまでに少なくとも数分から10分程度かかることは,広く知られるところであるから,被告人は,被害者が動かなくなるまでの少なくとも数分から10分程度という長い時間,同女の頸部から上胸部付近を両手の平等で強圧し続けたものと認められるのである。

 このように,被告人が,自らの意思で,少なくとも数分から10分程度という長い時間,被害者の頸部から上胸部にかけてという気管や重要な血管,神経等が集中する身体の枢要部を両手で強圧し続けていることからすれば,被告人が被害者の死亡結果を認識,認容していたことは明らかであって,被告人には確定的殺意があったことを優に推認することができる。

 弁護人は,被告人が,被害者の首を押さえ付けた力の強さや時間の長さについては明確に認識していないから,死の結果発生の認識,認容に欠け,殺意は認められない旨主張し,被告人も,当公判廷において,相当強い力を入れた記憶はない,自分の記憶では押さえていた時間は本当に気が付いたら,という感じだったなどと供述している。
 しかし,被告人は,検察官調書では,上記力の強さや時間の長さについて具体的な認識を認める供述をしているところ,以下に説示するとおり,この供述は十分信用することができる。
 被告人は,その公判供述によると,最初に被害者の殺害を認めた平成19年12月10日の取調べにおいて,首を強く絞めてどんどん力を入れていった旨供述し,平成20年1月10日に実施された犯行再現でも,両手で被害者の頸部を強く押し付けたと再現したことがうかがわれ,その後の同月14日に,上記検察官調書が作成されている。このように,被告人は,捜査段階では一貫して,被害者の頸部に強い力を加えたことを認め,最終的には「首を強い力で絞め続けた」旨供述したことが認められる。
 また,被告人の上記検察官調書には,真に体験した者にしか分からないような,爪を立てて抵抗した手から徐々に力が抜けていったなどという首を絞めている間の被害者の様子について,詳細かつ具体的で迫真性に富む内容が録取されており,まさに,ありのままに語られた被告人の認識をそのまま録取したものと認められる。
 加えて,被告人の公判供述や平成20年1月11日の取調状況の録画内容に照らしても,被告人に対する取調方法には,その供述の信用性に疑問を生じさせるような問題の存在は特にうかがわれない。とりわけ,被告人が,捜査段階において供述調書の内容をよく確認してから署名指印していたことは,上記録画内容からも十分推認できる上,被告人も,供述調書を十分確認した上,署名指印したことを認めているのである。
 なお,被告人は,当公判廷において,納得して署名指印したわけではなく,訂正してほしい部分があったが,従前の取調べでは受け付けてもらえなかったことから諦めていた,また,検察官が元妻や子どもたちの生活にも気遣ってくれている様子であったため,逆らわない方がよいと考えて,訂正を申し立てなかった旨供述する。
 しかし,被告人が訂正してもらえなかったと主張するのは,主に「殺意があった」とする部分であるところ,同月17日付け検察官調書には「『彼女を殺してやろう』とか『死んでも仕方がない』などといった言葉が頭に浮かんだことはない」などと,殺意を否定する被告人の言い分も録取されている。また,被害者の首を絞めた時間の認識という,殺意の有無を決する上で重要な事実についても,取調べ時の被告人の述べるところに従って,その内容が変遷するままに録取されたことがうかがわれる。さらに,手加減しないで絞めたという点についても,無意識のうちに手加減,加減が分からなくなったと,自ら捜査段階でも述べているのである。
 このような事情に照らせば,被告人が捜査官に供述調書の内容の訂正を求めたのに訂正してもらえなかったという弁解は,到底信用することができない。
 よって,被告人の検察官調書は,首を押さえ付けた力の強さや時間の長さに関する認識部分についても,その信用性に疑問を抱かせる事情は何ら認められず,信用できることは明らかである。
 他方,被告人は,当公判廷において,殺意を否定する供述をしているので,その信用性についても検討する。
 まず,被告人は,首を押さえ付けた力の強さについて,相当力を入れたという記憶はない,手加減せずに思い切り絞めたという意識はない旨供述する。
 しかし,初めは手加減していたが,途中からかーっと頭に血が上って手加減しなくなったという流れそのものは,被告人から言い出したものである上,被告人は,当公判廷でも,手加減した記憶はない旨述べている。したがって,力の強さに関する公判供述は,被害者の創傷や死因等といった客観的証拠と符合しないだけでなく,上記のような自らの供述経過とも整合しない。
 また,被告人は,被害者の首を押さえ付けた時間の長さに関連して,同女が手をつかみ返してきたのは覚えていない,同女はずっと大きい声を出していたという記憶である,同女の声が小さくなって動かなくなってからも絞め続けたという点は覚えていないなどと供述している。
 しかし,被告人は,殺害状況以外の事実については,相当詳細な供述をする一方で,殺害状況についてのみ,記憶がはっきりしないなどと,あいまいで具体性に欠ける供述に終始しており,不自然である。しかも,被告人は,同女が手をつかみ返してきたという具体的な事実について,記憶にはないが客観的な事実から考えたなどと,およそ不合理な供述もしているのである。
 以上によれば,被害者の首を押さえ付けた力の強さや時間の長さについての被告人の公判供述は,到底信用することができない。
 よって,被告人には,被害者の首を押さえ付けた力の強さや時間の長さについて具体的な認識があったと認められるから,これに反する弁護人の主張はすべて理由がない。

 

東京地裁判決平成18年12月20日

【事案】

 第1事件は,株式会社P2(以下「P2」という。)がモーターボート競走の勝舟投票券の場外発売場(以下「場外発売場」という。)として,別紙計画概要記載の施設(以下「本件施設」という。)の建設を計画し,第2事件処分行政庁(以下「国土交通大臣」という。)が社団法人P1(以下「P1」という。)に対して平成17年8月22日付けで本件施設について平成12年運輸省令第24号による改正後のモーターボート競走法施行規則8条1項に定める確認をした(ただし,同施行規則のうち同項以外の規定には,平成15年国土交通省令第101号により改正されたものがある。以下,平成12年運輸省令第24号による改正後のモーターボート競走法施行規則(ただし,平成15年国土交通省令第101号により改正された後のもの)を「本件施行規則」という。)ため,本件施設の建設予定地の周辺住民等である第1事件原告兼第2事件原告ら(以下「原告ら」という。)が,場外発売場の位置,構造及び設備に関して国土交通省令告示第1350号(以下「本件告示」という。)で定める基準に適合するものであることについて国土交通大臣の確認を受けなければならない旨定める本件施行規則8条1項は,モーターボート競走法の委任の範囲を超えて制定されたものとして違法であり,仮に,同項がモーターボート競走法の委任の範囲内のものとして制定されたとしても,本件施設は本件施行規則8条1項に定める告示に適合しないなどと主張して,第1事件被告兼第2事件被告(以下「被告」という。)に対して,同項が違法であることの確認を求める(以下,第1事件に係る訴えのうち,同項が違法であることの確認を求める部分を「本件訴え1」という。)とともに,運輸大臣が昭和60年にモーターボート競走法施行規則8条1項を違法に改正して,モーターボート競走法2条1項所定のモーターボート競走の施行者(以下「施行者」という。)が場外発売場を設置することができることを前提に,施行者の設置に係る場外発売場が告示に示す基準に適合していることを確認するという違法な制度を設け,それ以降の運輸大臣が上記制度の改廃を怠ってきた上,運輸大臣が平成12年にモーターボート競走法施行規則8条1項を更に違法に改正して,施行者以外の者も場外発売場を設置することができることを前提に,上記制度を施行者以外の者の設置に係る場外発売場も告示に示す基準に適合していることを確認するという制度に拡充したため,P2によって本件施設の建設が計画されたが,原告らは,それによって多大の精神的被害を被った上,国土交通大臣がP1に対して同17年8月22日付けで本件告示に適合していない本件施設について本件施行規則8条1項に定める確認をし(以下,以上一連の行為等を「本件行為1」という。),また,国土交通大臣が,ボートピア推進本部の傘下にある団体が同項に定める確認の申請をしたことから,ほとんど何の審査もせずに同項に定める確認をした(以下「本件行為2」という。)ことによって,原告らの精神的被害は更に深刻なものになっている旨主張して,被告に対して,慰謝料として1人当たり5000円及びこれに対する不法行為の後である同年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下,第1事件に係る訴えのうち,国家賠償として慰謝料の支払を求める部分を「本件訴え2」という。)事案である。
 第2事件は,原告らが,被告に対し,国土交通大臣がP1に対して同年8月22日付けで本件施設についてした本件施行規則8条1項に定める確認の取消しを求める(以下,第2事件に係る訴えを「本件訴え3」という。)事案である。

【判旨】

本件訴え1に関する本案前の争点@(本件訴え1が法律上の争訟に該当するか。)について

 裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるのは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(最高裁昭和27年(マ)第23号同年10月8日大法廷判決・民集6巻9号783頁最高裁昭和25年(オ)第238号同27年10月31日第二小法廷判決・民集6巻9号926頁最高裁昭和61年(オ)第943号平成元年9月8日第二小法廷判決・民集43巻8号889頁最高裁平成2年(行ツ)第192号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号518頁参照)。
 法令は,通常,一般的又は抽象的な規範を定立するにすぎないから,法令自体が具体的な特定の内容を有する場合や,法令の内容自体は抽象的であるが,その直接の効果として個人の具体的な権利義務に影響を及ぼす場合等でない限り,法令自体の適法性を争う訴えは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に当たらないという点において,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらないというべきである。
 本件施行規則8条1項に定める確認は,場外発売場を設置しようとする者が,設置を計画している場外発売場について,同項に定める確認を求める旨の申請をし,国土交通大臣が,当該申請に係る場外発売場が本件告示に定める基準に適合するものであることを確認するというものであるから,同項は,同項に定める確認の申請をした者と,当該申請に係る場外発売場が本件告示に定める基準に適合するものか否かを判断する国土交通大臣との間において,当該申請に係る場外発売場の適否をめぐる法律関係を専ら規律する規定であるから,本件施行規則8条1項が,特定の当事者を念頭に置いており,具体的な特定の内容を有するものということはできない。
 そして,原告らは,本件施設について同項に定める確認がされると,それによって,原告らが,本件施設の周辺住民等として,健康,教育環境,生活環境及び地域環境の破壊並びに財産的被害などといった広範で深刻かつ回復不可能な被害を被ることになる旨主張しているものの,同項は,同項に定める確認の申請に係る場外発売場の周辺住民等に対し,原告らの主張に係る上記被害を受忍することを義務付ける効果を生ずる旨規定していない。また,本件施行規則には,その8条1項に定める確認の申請に係る場外発売場の周辺住民等に対し,原告らの主張に係る上記被害を受忍することを義務付ける効果を生ずると解する根拠となるべき規定も見当たらない。さらに,本件施行規則には,8条1項に定める確認について,当該確認の対象とされた場外発売場の周辺住民等に何らかの義務を課し,若しくは同人らの権利を一定の範囲において制限する旨定めた規定,又はそのように解する根拠となるべき規定も見当たらない。したがって,同項が,その直接の効果として同項に定める確認の申請に係る場外発売場の周辺住民等の具体的な権利義務に影響を及ぼすものということはできない。
 本件訴え1は,原告らと国土交通大臣との間における具体的な紛争を離れて,裁判所に対して,本件施行規則8条1項の規定が違法であるか否かの判断を求めるものに帰し,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらないというべきである。
 これに対し,原告らは,@最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁(以下「平成17年9月14日大法廷判決」という。)は,平成10年法律第47号による改正後の公職選挙法が違法であることの確認を求める訴えが法律上の争訟に当たることを前提としていること,A行政立法自体を直接確認の対象とする訴えが法律上の争訟に当たらないと解することは,国家賠償請求や差止請求では法律上の争訟であることが異論なく認められていることとの均衡を失することを理由に,本件訴え1は法律上の争訟に当たる旨主張する。
 しかし,平成17年9月14日大法廷判決は,平成10年法律第47号による改正後の公職選挙法が違法であることの確認を求める訴えが当然に法律上の争訟に当たることを前提としておらず,原告らは,平成17年9月14日大法廷判決を正解していないものである。
 また,行政立法自体を直接確認の対象とする訴えが法律上の争訟に当たらないと解することと,国家賠償請求や差止請求では法律上の争訟であることが異論なく認められていることとは,何ら均衡を失するものではない。
 したがって,原告らの前記アの主張は採用することができない。
 そうすると,本件訴え1は,その余の点について判断するまでもなく,不適法な訴えであるというべきであるから,却下を免れない。

本件訴え3に関する本案前の争点@(本件訴え3において取消しの対象である本件施行規則8条1項に定める確認が行政事件訴訟法3条2項に規定する「行政庁の処分」に該当するか。)について

 まず,モーターボート競走法が場外発売場の設置を禁止しているか否かについて検討する。
 @モーターボート競走法は,競走を行う場所(5条)及び勝舟投票券の発売方法等(8条,9条及び9条の2)について定めるのみで,勝舟投票券の発売場所について何らの定めも置いておらず,勝舟投票券の発売場所の秩序維持に関する定めも置いていないこと,A同法の制定当時の状況の下では,勝舟投票券の購入者がモーターボート競走やその競走に現れる船舶の性能を直接見ない態様で単に勝舟投票券のみを競走場外で発売することは,モーターボート等の製造事業の振興や海事思想の普及等という同法の趣旨(1条)から見ておよそ許容し得なかったのであり,したがって,勝舟投票券は,専ら競走場において発売することを当然の前提としていたために,同法は,勝舟投票券の発売場所について何らの定めを置いておらず,勝舟投票券の発売場所の秩序維持に関する定めも置いていなかったものというべきである。
 しかし,@ボートやモーターの性能が向上し,個別の性能の差がほとんどなくなれば,勝舟投票券の購入に際して,購入者自身がボートやモーターを確認してから勝舟投票券を購入するという方法を採る必要はないことになり,また,場外発売場で勝舟投票券を購入した者に競走場におけるモーターボート競走の様子を即時に見せる手段を講ずることができるようになれば,勝舟投票券の場外発売は,海事思想の普及という同法の趣旨(1条)には抵触しないということができること,A同法が第10回国会の衆議院運輸委員会及び参議院運輸委員会において審議された際に,同法においては競走場外での勝舟投票券の発売を一切認めないものとすることを前提に審議されていたことは全くうかがわれないこと,B仮に,同法それ自体が,勝舟投票券の購入者がモーターボート競走やその競走に現れる船舶の性能を直接見ない態様で単に勝舟投票券のみを競走場外で発売することは,モーターボート等の製造事業の振興や海事思想の普及等という同法の趣旨(1条)から見て,将来においても一切許容し得ないとしていたとすれば,同法において,「勝舟投票券の発売所は,競走場外に設置してはならない。」旨定めればよく,また,その旨定めることは可能であったにもかかわらず,同法にはその旨の定めはなく,かえって,昭和26年施行規則8条は,「勝舟投票券の発売所は,当該競走場外に設置してはならない。」と規定していることを総合すると,モーターボート競走法が,将来におけるモーターボートの製造技術の向上や電気通信技術の発達等を全く考慮に入れずに,勝舟投票券の購入者がモーターボート競走やその競走に現れる船舶の性能を直接見ない態様で単に勝舟投票券のみを競走場外で発売することは将来においても一切許容し得ないとしていたと断言することはできない。
 そして,@自転車競技法の制定当初には,小型自動車競走法施行規則において場外車券売場の設置が禁止されており、このように自転車競技法も小型自動車競走法も,法律それ自体においては場外車券売場の設置を禁止しておらず,法律の委任を受けた省令において場外車券売場の設置を認めたり禁止したりしていたことが認められること,Aモーターボート競走法が第10回国会の衆議院運輸委員会及び参議院運輸委員会並びに衆議院本会議及び参議院本会議において審議された際に,同法は自転車競走法及び小型自動車競走法と同一の仕組みである旨説明されていたことが認められること,B自転車競技法及び同法施行規則,小型自動車競走法及び同法施行規則並びにモーターボート競走法及び同法施行規則を子細に検討しても,モーターボート競走法が自転車競走法及び小型自動車競走法とは同一の仕組みではないと認める根拠となるべき規定は見当たらず,また,本件全証拠を精査しても,モーターボート競走法が自転車競技法及び小型自動車競走法とは同一の仕組みではないことを認めるに足りる証拠はないことも勘案すれば,モーターボート競走法は,競走場外における勝舟投票券の発売を禁止しておらず,同法においてこれを規制していないと認めるのが相当である。

 次に,モーターボート競走法は場外発売場の設置の可否を省令に委任しているか否かについて検討する。
 @(i)モーターボート競走法22条の9第2項の「この法律を施行するため必要があると認めるときは」にいう「施行」,同法22条の11の「この法律の施行を確保するため必要があると認めるときは」にいう「施行」及び同法25条1項の「この法律の施行に必要な限度内において」にいう「施行」とは,いずれも法令の効力を現実に発生させるという意味ではなく,同法に定める規定を実際に実施するという意味で用いられていると解されること,(ii)一般に「施行」には,法令の効力を現実に発生させるという意味のほかに,実地に行うという意味があることに照らすと,同法26条にいう「その他この法律の施行に関し必要な事項」とは,同法に定める規定を実際に実施するために必要な事項をいうものと解するのが相当であること,A勝舟投票券をどのような場所で発売するかは,勝舟投票券の発売について定めた同法8条,9条及び9条の2の規定に関する事項であることを総合すれば,勝舟投票券をどのような場所で発売するかは,勝舟投票券の発売について定めた同法8条,9条及び9条の2の規定に関する事項として,同法26条にいう「その他この法律の施行に関し必要な事項」に含まれるというべきである。
 そして,前示のとおり,モーターボート競走法は,競走場外における勝舟投票券の発売を禁止しておらず,同法においてこれを規制していないのであり,昭和26年施行規則8条は,「勝舟投票券の発売所は,当該競走場外に設置してはならない。」と規定しているから,モーターボート競走法は,場外発売場の設置の可否を,勝舟投票券の発売について定めた同法8条,9条及び9条の2の規定に関する事項として,省令に委任したものと認めるのが相当である。
 さらに,本件施行規則8条1項がモーターボート競走法の委任の趣旨に反するものであるか否かについて検討する。
 競馬法による勝馬投票券,自転車競技法による車券,小型自動車競走法による勝車投票券及びモーターボート競走法による勝舟投票券を発売する行為は,本来であれば,いずれも富くじ罪(刑法187条1項)に該当する違法な行為であるが,財政政策的理由などにより,上記各法律によって適法化されている。したがって,勝馬投票券,車券,勝車投票券及び勝舟投票券をどのような場所においてどのような施設を設置してどのような方法によって販売するかは,本来勝馬投票券,車券,勝車投票券及び勝舟投票券を販売しようとする者が自由に決め得ることではなく,上記各法律又はその委任を受けた政令又は省令において定められた方法に従って行われるべきものであり,上記各法律又はその委任を受けた政令若しくは省令において定められた方法に従った場合にのみ,勝馬投票券,車券,勝車投票券及び勝舟投票券を販売することが可能となる。
 勝馬投票券,車券及び勝車投票券をどのような場所においてどのような施設を設置してどのような方法によって販売するかは,昭和60年施行規則8条及び本件施行規則8条の制定当時には,小型自動車競走における場外車券売場を除いて,競馬法を所管する農林水産大臣並びに自転車競技法及び小型自動車競走法を所管する通商産業大臣の各許可に係らせられており,小型自動車競走における場外車券売場についても,その後,小型自動車競走法を所管する経済産業大臣の許可に係らせられることになった。
 これに対し,モーターボート競走においては,競走場については,モーターボート競走法の制定当初には,その設置は自由であるとして,登録で足りるものとされていた(昭和32年法律第170号による改正前のモーターボート競走法6条)が,モーターボート競走法の昭和32年の改正によって,競走場の設置は運輸大臣(平成13年1月6日の省庁再編により運輸省は建設省,国土庁及び北海道開発庁と共に統合されて国土交通省となったので,現在は国土交通大臣)の許可を要することに改められた(昭和32年法律第170号による改正後のモーターボート競走法4条)のに対し,A場外発売場については,モーターボート競走法の制定当初には,その設置はモーターボート競走法施行規則において禁止されていた(昭和26年施行規則8条,昭和57年施行規則8条1項)が,モーターボート競走法施行規則の昭和60年の改正によって,場外発売場の設置の禁止が改められ,施行者はその設置しようとする場外発売場が運輸大臣の定める基準に適合するものであることについて運輸大臣の確認を受けなければならない旨の定めが新設され(昭和60年施行規則8条1項),さらに,平成12年の改正によって,施行者に限らず場外発売場を設置しようとする者はその設置しようとする場外発売場が運輸大臣(現在は国土交通大臣)の定める基準に適合するものであることについて運輸大臣(現在は国土交通大臣)の確認を受けなければならない旨の定めに改められている(本件施行規則8条1項)こと,B競走場においては勝舟投票券の購入者等が多数集まることが予想され,上記購入者等の安全の確保等の観点から何らかの規制を及ぼす必要があるものと考えられることから,競走場の設置には,競馬場,競輪場及び小型自動車競走場並びに場外設備及び場外車券売場の場合と同様に,許可を要するものとされたことが認められる。
 そして,場外発売場においても,勝舟投票券の購入者等が多数集まることが予想されることから,上記購入者等の安全の確保等の観点から何らかの規制を及ぼす必要があるものと考えられる点においては競走場と異なるところはないものと考えられることも勘案すれば,モーターボート競走法が昭和32年の改正前には競走場の設置には国土交通大臣の許可を要せず,登録で足りるものとされていたことから,同法が場外発売場の設置に関する事項をモーターボート競走法施行規則に委任するに当たっては,将来同施行規則において場外発売場の設置を認める場合には,場外発売場の設置には国土交通大臣の許可を要しないと定めるものとして委任する趣旨であったということはできるが,モーターボート競走法が昭和32年の改正によって競走場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可を要するものに改められた以上,同法が場外発売場の設置に関する事項をモーターボート競走法施行規則に委任するに当たっては,将来同施行規則において場外発売場の設置を認める場合には,場外発売場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可又はこれに準ずる処分を要すると定めるものとして委任する趣旨に改められたものと考えるのが合理的である。
 また,場外発売場が設置されるまでの手続の流れ及び運用の実態について,本件施行規則8条1項の運用として場外発売場の設置が事実上国土交通大臣の許可を要するものとされていることは,モーターボート競走法が昭和32年の改正によって競走場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可を要するものに改められた以上,同法が場外発売場の設置に関する事項をモーターボート競走法施行規則に委任するに当たっては,将来同施行規則において場外発売場の設置を認める場合には,場外発売場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可又はこれに準ずる処分を要すると定めるものとして委任する趣旨に改められたことを裏付けるものということができる。
 そして,本件全証拠を精査しても,モーターボート競走法が昭和32年の改正によって競走場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可を要するものに改められたにもかかわらず,同法が場外発売場の設置に関する事項をモーターボート競走法施行規則に委任するに当たっては,将来同施行規則において場外発売場の設置を認める場合には,場外発売場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可又はこれに準ずる処分を要しないと定めるものとして委任する趣旨のままであったことを認めるに足りる証拠はない。
 以上によれば,モーターボート競走法が昭和32年の改正によって競走場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可を要するものに改められた以上,同法が場外発売場の設置に関する事項をモーターボート競走法施行規則に委任するに当たっては,将来同施行規則において場外発売場の設置を認める場合には,場外発売場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可(講学上の特許)を要すると定めるものとして委任する趣旨に改められたものと認めるのが相当である。

 そして,@本件施行規則によると,8条1項に定める確認は,設置者の確認申請に対し,設置者が設けようとする場外発売場の位置,構造及び設備が本件告示が示す基準に適合するものであるという事実を国土交通大臣が確認するという純然たる事実行為として規定されており,また,本件施行規則には,運輸大臣又は国土交通大臣の確認を受けない場合には場外発売場の設置それ自体が禁止される旨を定める明文の規定はないこと,Aしかし,前示のとおり,勝舟投票券をどのような場所においてどのような施設を設置してどのような方法によって販売するかは,本来勝舟投票券を販売しようとする者が自由に決め得ることではなく,モーターボート競争法又はその委任を受けた本件施行規則において定められた方法に従って行われるべきものであり,同法又はその委任を受けた本件施行規則において定められた方法に従った場合にのみ,勝舟投票券を販売することが可能となるところ,本件施行規則8条1項は,設置者が設けようとする場外発売場の位置,構造及び設備が本件告示が示す基準に適合するものであることについて運輸大臣又は国土交通大臣の確認を受けなければならないと定めているから,運輸大臣又は国土交通大臣の確認を受けずに場外発売場を設置することは,モーターボート競争法がおよそ許容しないことであり,また,前示のとおり,本件施行規則8条1項の運用として場外発売場の設置が事実上国土交通大臣の許可を要するものとされているから,明文の規定がなくとも,本件施行規則8条1項に定める確認を受けなければ,場外発売場を設置することはできないものとされていること,B同項の運用として場外発売場の設置が事実上国土交通大臣の許可を要するものとされていることは,場外発売場を設置しようとする者において十分に認識しているところであること,C施行者が同項に定める確認を受けずに設置された場外発売場において勝舟投票券を発売することを前提として開催する競走はモーターボート競走法に反するものということができ,その場合には,国土交通大臣は,当該施行者に対し,同法22条の11に基づき,当該場外発売場における勝舟投票券の発売の禁止を命ずることができ,また,同法23条1項に基づき,競走の開催を停止し,又は制限すべき旨を命ずることができるものと解され,国土交通大臣がそのような命令を発した場合には,それによって結果的には本件施行規則8条1項に定める確認を受けずに設置された場外発売場における勝舟投票券の発売が阻止されることとなることを総合すれば,同項に定める確認は,原則的に禁止された場外発売場の設置を例外的に解除するという法律効果を有する,いわゆる許可(講学上の特許)に当たると解するのが相当である。

 以上によれば,本件施行規則8条1項に定める国土交通大臣の確認は,行政事件訴訟法3条2項に規定する「行政庁の処分」に該当すると認めることができる。

本件訴え3に関する本案前の争点A(原告らに本件訴え3についての原告適格があるか。)について

 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきであり,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)(以上につき,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。

 平成15年11月1日付け国海総第274号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達(以下「本件通達3」という。)の1の(1)の@は,「文教施設とは,学問又は教育を行う施設であり,学校教育法第1条の学校(小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,大学,高等専門学校,盲学校,聾学校,養護学校及び幼稚園)及び同法第82条の2の専修学校をいう。」と定め,同Aは,「医療施設とは,医療法第1条の5第1項の病院及び同法第2項の診療所(入院施設を有するものに限る。)をいう。」(ただし,同法第2項は同条第2項の誤記と認める。)と定め,同Bは,「『適当な距離』とは,場外発売場が設置されることにより,文教施設及び医療施設に著しい影響が及ぶと思われる範囲の距離を超える距離(著しい影響が及ばない範囲の距離)をいい,場外発売場の規模,位置,道路状況,周囲の地理的要因等により大きく異なる。」と定め,同Cは,「『著しい支障をきたすおそれがあるか否か』の判断は,当該設置場所が主たる通学路(学校長が児童又は生徒の登下校の交通安全の確保のために指定した小学校又は中学校の通学路をいう。)に面しているか否か,また,救急病院又は救急診療所(都道府県知事が救急隊により搬送する医療機関として認定したものをいう。)への救急車の主たる経路に面しているか否かの状況等を考慮して行うものとする。」と定めていることが認められる。
 そして,本件施行規則8条2項で準用する本件施行規則2条2項1号,本件告示第1の1及び本件通達3の1の(1)の@からCまでによると,本件位置基準は,要するに,国土交通大臣が,場外発売場の周辺から2000メートルの区域内にある文教施設及び医療施設の位置及び名称を確認した上で,@(i)当該場外発売場の位置が文教施設から適当な距離を有するか否か,すなわち,学校教育法1条の学校及び同法82条の2の専修学校に著しい影響が及ばない範囲の距離を有するか否かを判断し,(ii)当該場外発売場の設置場所が,学校長が児童又は生徒の登下校の交通安全の確保のために指定した小学校又は中学校の通学路に面しているか否かの状況等を考慮して,当該場外発売場の位置が文教上著しい支障を来すおそれがあるか否かを判断し,A(i)当該場外発売場の位置が医療施設から適当な距離を有するか否か,すなわち,医療法第1条の5第1項の病院及び同条2項の診療所(入院施設を有するものに限る。)に著しい影響が及ばない範囲の距離を有するか否かを判断し,(ii)当該場外発売場の設置場所が,都道府県知事が救急隊により搬送する医療機関として認定した救急病院又は救急診療所への救急車の主たる経路に面しているか否かの状況等を考慮して,当該場外発売場の位置が衛生上著しい支障を来すおそれがあるか否かを判断するものとしているということができる。
 @(i)モーターボート競走法の趣旨(1条),競走場の設置における公安上及びモーターボート競走の運営上の基準の確保(4条4項),競走の実施におけるモーターボート競走の公正かつ安全な実施等(6条3項,16条から18条まで,18条の2,22条の11),競走場内における秩序の維持(17条,22条の11)に関する規定に照らすと,同法は,モーターボート競走事業の様々な局面における公正かつ円滑な運用,安全及び秩序を確保し,もって収益を公共的な目的に用いることを規定した法律であるということができること,(ii)前示のとおり,同法は,場外発売場の設置を規制しておらず,場外発売場の設置に関する事項はすべて国土交通省令に委任しているから,同法には,場外発売場の設置を規制する規定は置かれておらず,したがって,同法には,場外発売場の周辺住民の個々人の個別的利益の保護を直接の目的とした規定はないこと,(iii)同法は,競走場の設置を許可制とし(4条1項及び4項),同項を受けて定められた本件施行規則は,その許可の基準の1つとして,「文教施設及び医療施設から適当な距離を有し,文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれのないこと。」を挙げている(2条の4第1号)が,モーターボート競走法は,上記許可の基準を飽くまでも「公安上及び競走の運営上の基準」として位置付けている(4条4項)こと,(iv)本件施行規則8条1項に反して場外発売場が設置された場合には,施行者は,モーターボート競走法22条の11又は同法23条1項に定める事後的規制を受ける可能性があるが,同法22条の11が「競走場内の秩序を維持し,競走の公正又は安全を確保し,その他この法律の施行を確保するため」と規定し,同法23条1項が「施行者がこの法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反し,又はその施行に係る競走につき公益に反し,若しくは公益に反するおそれのある行為をしたとき」と規定することからすると,上記事後的規制は公益保護の観点に基づく規制であるというべきであることに照らすと,同法に,本件施行規則8条1項に定める確認において場外発売場の周辺住民等の何らかの権利又は利益を個別的利益として保護する趣旨ないし目的を見いだすことは困難であること,A競走場の設置については,その許可の基準の1つとして,「文教施設及び医療施設から適当な距離を有し,文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれのないこと。」を挙げ,競走場設置の確認申請書には,「競走場附近の見取図(競走場の周辺から2000メートルの区域内にある文教施設及び医療施設については,その位置及び名称を明記すること。)」の添付を義務付けているのに対し,場外発売場の設置については,適合していることを確認する基準の1つとして,「文教施設及び医療施設から適当な距離を有し,文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれのないこと。」を挙げ,場外発売場設置の確認申請書には,「競走場附近の見取図(競走場の周辺から2000メートルの区域内にある文教施設及び医療施設については,その位置及び名称を明記すること。)」の添付を義務付けており,そうすると,国土交通大臣が行う行為という点では両者は同じく許可であり,許可の基準及び適合していることを確認する基準という点でも全く同じ内容の基準を採用しているところ,競走場の設置における許可の基準は,「公安上及び競走の運営上の基準」と位置付けられている(モーターボート競走法4条4項)ことからすれば,場外発売場の設置において適合していることを確認する基準も,「公安上及び競走の運営上の基準」と位置付けるのが自然かつ合理的であると考えられること,Bモーターボート競走法にも,本件施行規則にも,場外発売場の設置において適合していることを確認する基準が,場外発売場の周辺住民等の何らかの権利又は利益を個別的利益として保護することをその趣旨ないし目的とするものであると解すべき根拠となるべき規定は見当たらないことを総合すれば,本件施行規則における場外発売場周辺に対する配慮は,当該場外発売場の設置により文教施設及び医療施設に悪影響が及ぶことをできる限り回避し,それが社会的に受容されて,モーターボート競走事業の円滑な運営に資することを目的とするものであり,したがって,本件位置基準が,国土交通大臣が前示のとおり判断することを定めることによって保護しようとした利益は,場外発売場が文教施設や医療施設に距離的に近接することによって,これらの施設に悪影響が及ぶことをできる限り回避するという公益の実現にあるというべきであり,場外発売場の周辺住民等の個別具体的な権利ないし利益の保護を目的としているものではないと解するのが相当である。
 したがって,本件位置基準を根拠に,原告らに本件訴え3についての原告適格があるということはできない。

 しかし,前示のとおり,モーターボート競走法が昭和32年の改正によって競走場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可を要するものに改められたことに伴い,同法が場外発売場の設置に関する事項をモーターボート競走法施行規則に委任するに当たっては,将来同施行規則において場外発売場の設置を認める場合には,場外発売場の設置には運輸大臣(現在は国土交通大臣)の許可又はこれに準ずる処分を要すると定めるものとして委任する趣旨に改められたのであるから,本件施行規則において場外発売場の設置について定めるには場外発売場の設置が講学上の特許という意味での許可制であることを明示すべきであったにもかかわらず,本件施行規則8条1項に定める確認は,設置者の確認申請に対し,設置者が設けようとする場外発売場の位置,構造及び設備が本件告示が示す基準に適合するものであるという事実を国土交通大臣が確認するという純然たる事実行為として規定するのみで,本件施行規則は,運輸大臣又は国土交通大臣の確認を受けない場合には場外発売場の設置それ自体が禁止される旨定める明文の規定を設けていないのであり,上記確認に関して発せられた通達及びその運用の実態をも参酌すると,運輸大臣又は国土交通大臣の確認を受けない場合には場外発売場の設置それ自体が禁止される旨を黙示的に定めているものと解されるという異例の事態となっているのである。
 以上の点を考慮すると,本件施行規則8条1項に定める確認の取消しを求める訴えにおいて周辺住民等の第三者に原告適格が認められるか否かは,単に上記確認の根拠となる本件施行規則のみならず,上記確認に関して発せられた通達及びその運用の実態をも参酌した上で判断するのが相当である。
 場外発売場設置の確認申請書に本件各証明書類が添付されていなければ,当該確認申請書を受理しないという運用がされており,その結果,本件各証明書類が整わない限り,本件施行規則8条1項に定める確認の申請をすることができず,場外発売場を設置しようとする者が本件各証明書類を取得することが本件施行規則8条1項に定める確認の申請のための要件となっており,上記要件を満たさない限り,本件施行規則8条1項に定める確認を受ける余地はなく,確認が受けられなければ,場外発売場を設置することができないことになっている。
 ところで,場外発売場が設置されると,場外発売場に多数の者が来場することによって,場外発売場の周辺の風紀が乱れたり,治安が悪化したりすることが懸念され,また,場外発売場に多数の者が自動車で来場することによって,場外発売場の周辺の道路の交通環境が悪化することが予想されるのであり,このように国土交通大臣が本件施行規則8条1項に定める確認を求められている施設は,上記のような不利益をその周辺住民に与えるおそれがある施設であり,場外発売場の設置によってその周辺住民が現実に日常生活上重大な支障を被るおそれがある場合には,周辺住民にその日常生活上の重大な支障を甘受させることがないようにすべきものである。
 そして,@市町村民全体の公益の観点から規制するのであれば,市町村の長及び市町村の議会の同意並びに管轄警察との調整で十分であるにもかかわらず,そのほかに,場外発売場の所在する市町村の自治会又は町内会の同意が本件各証明書類の1つとされていること,A上記同意に関して確認申請書に添付されるべき地元住民の同意取得の経緯を示す書類には,同意取得の経緯の例として,「(1) ○○地区の○○○自治会では,平成年月日に総会を開いて,賛否を諮った結果,賛成○○名,反対○○名であったので,同意することを決議した。※賛否は,1世帯1名とする。」と記載されており,そうすると,世帯ごとに場外発売場の設置の賛否の意向が確認されることも勘案すると,場外発売場の設置の確認申請において場外発売場の所在する市町村の自治会又は町内会の同意を要することとされたのは,上記の点にかんがみ,場外発売場の周辺住民のうち,場外発売場の所在する市町村の自治会又は町内会を構成する住民は,場外発売場の設置によって日常生活上重大な支障を受けるおそれがある者として,その個別的な利益を保護する趣旨に基づくものと考えられる。
 そうすると,本件施行規則は,その8条1項に定める確認に関して発せられた通達及びその運用の実態をも参酌すれば,場外発売場の周辺住民のうち,場外発売場の所在する市町村の自治会又は町内会を構成する住民の個別的な利益を保護する趣旨を有するものと解するのが相当である。
 さらに,場外発売場の所在地には自治会又は町内会が存在しないものの,当該場外発売場の所在地から極めて至近な位置に自治会又は町内会がある場合には,当該自治会又は町内会を構成する住民は当該場外発売場の設置によって日常生活上重大な支障を受けるおそれがある場合があるということができるから,本件施行規則8条1項に定める確認を定めている本件施行規則は,場外発売場の所在地から極めて至近な位置にある自治会又は町内会を構成する住民の個別的な利益も保護する趣旨を有するものと解するのが相当である。
 したがって,国土交通大臣が本件施行規則8条1項に定める確認をした場外発売場の周辺に居住する住民のうち,当該場外発売場の所在する市町村の自治会又は町内会に所属する者,又は場外発売場の所在地には自治会又は町内会が存在しないものの,当該場外発売場の所在地から極めて至近な位置にあって当該場外発売場の設置によって日常生活上重大な支障を受けるおそれのある自治会又は町内会に所属する者は,当該場外発売場についてされた本件施行規則8条1項に定める国土交通大臣の確認の取消しの訴えにおいて原告適格を認めることができるというべきものである。

 そこで,以上の観点から,原告らに本件訴え3についての原告適格があるか否かを検討する。
 原告らは,いずれも本件施設の建設予定地であるα2×番1号ほかに在る自治会又は町内会に所属する者ではない。
 また,原告P38は千葉県佐倉市に居住し,原告P39は千葉市に居住し,原告P36及び原告P37はいずれも習志野市α11に居住しているから,同原告らは,いずれも本件施設の設置によって日常生活上重大な支障を受けるということができるほどに,本件施設の建設予定地から極めて至近な位置にある習志野市の自治会又は町内会に所属する者ということはできない。
 さらに,原告らのうち上記の4名を除くその余の原告らは,α7,α8,α9又はα10のいずれかに居住しているところ,本件施設が場外発売場として営業を開始すると,電車で本件施設を訪れる者はα4駅を利用するものと考えられるが,本件施設が同駅の南側にあることに照らすと,電車で本件施設を訪れる者が多数α3線の北側にあるα7,α8,α9及びα10をはいかいして,同所の治安や風紀が悪化することは考え難い。
 また,原告らのうち前記の4名を除くその余の原告らは,本件施設の建設予定地から北東に約120メートルの位置にあってα4駅南口に面するα5,α6及びその周辺の施設を広く利用しているから,同原告らにとっては,α5,α6及びその周辺の施設は同原告らの生活圏の一部であるということができるところ,本件施設が場外発売場として営業を開始すると,電車で本件施設を訪れる者はα4駅を利用するものと考えられるから,α4駅を降りて本件施設に向かおうとする者は,α5,α6及びその周辺の施設を利用する者と同所付近において交錯することがあるものと考えられ,また,本件施設が場外発売場として営業を行うのは,1年間に350日であり,そのうち300日以内はナイターを開催する予定であるから,交錯する機会も決して少なくないというべきであって,そうすると,α4駅を降りて本件施設に向かおうとする者がその来場時又は退場時にα4駅及び本件施設並びにそれらの周辺において騒動を起こすなどして上記地域の風紀が乱れたり治安が悪化したりなどすることも考えられないではなく,そのような事態に至るとすれば,同原告らは,本件施設の設置によってその生活圏の一部において平穏が脅かされたということができなくはない。
 これに対し,本件施設の周辺には歩行者誘導,自動車誘導及び巡回警備を目的として合計30人の警備員が配置される予定であるが,上記警備員によって上記地域の風紀の乱れや治安の悪化等を一定程度は防止することができるとしても,これを完全に防止することを期待することはできないと考えられる。
 しかし,本件施設の設置によって同原告らの生活圏の一部において上記のような状態が生じたとしても,そのことから直ちに,同原告らが本件施設の建設予定地から極めて至近な位置にあって本件施設の設置によって日常生活上重大な支障を受けるということはできない。
 そして,他に,原告らのうち前記の4名を除くその余の原告らが,本件施設の建設予定地から極めて至近な位置にあって本件施設の設置によって日常生活上重大な支障を受けることを認めるに足りる証拠はない。
 以上によれば,原告らは,本件施設の建設予定地から極めて至近な位置にあって本件施設の設置によって日常生活上重大な支障を受けるおそれのある自治会又は町内会に所属する者であるということはできない。
 そうすると,原告らに本件訴え3についての原告適格があると認めることはできない。

本件訴え2に関する本案の争点@(本件行為1は国家賠償法上違法であるか。)について

 国家賠償法上の違法とは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することであると解される(昭和60年11月21日第一小法廷判決参照)ところ,行政庁が法律の委任を受けて制定する命令において,所定の要件を具備すれば申請に係る施設の設置を許可する旨の処分に関する規定を設けようとする場合,当該処分によって当該処分の名あて人以外の第三者が日常生活上重大な支障を被ると認められるときには,当該行政庁は,その制定された命令中の規定に基づく処分によって日常生活上重大な支障を被ると認められる第三者に対し,当該処分に関する規定が法律の委任の趣旨を超えて本来当該命令中に設けることができないものであったにもかかわらず当該命令中に設けられるということがないように職務上の注意義務を尽くすべき法的義務を負っているというべきであり,当該行政庁が,職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく,法律の委任の趣旨を超えて本来命令中に設けることができない処分に係る規定を設けて命令を漫然と制定したと認め得るような特段の事情がある場合には,当該命令の制定は,国家賠償法上違法であると解するのが相当である。
 これに対し,原告らは,最高裁昭和63年(行ツ)第41号平成3年7月9日第三小法廷判決・民集45巻6号1049頁(以下「平成3年7月9日第三小法廷判決」という。)を根拠に,法律の委任を受けた規則が法律の委任の範囲を超えている場合には,個別具体的な職務上の法的義務違反の有無を問題とすることなく,当該規則の制定は直ちに国家賠償法上違法である旨主張するが,平成3年7月9日第三小法廷判決は,法律の委任を受けた規則が法律の委任の範囲を超えている場合には,個別具体的な職務上の法的義務違反の有無を問題とすることなく,当該規則の制定は直ちに国家賠償法上違法であることを前提としてはおらず,原告らは,平成3年7月9日第三小法廷判決を正解するものではない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

 しかし,運輸大臣が昭和60年に昭和57年施行規則8条を改正してモーターボート競走の勝舟投票券の場外発売場が告示に示す基準に適合していることを確認するという制度を新設する昭和60年施行規則8条を定め,その後の運輸大臣が上記制度を改廃せず,また,運輸大臣が平成12年に昭和60年施行規則8条を改正して上記制度を更に拡充する本件施行規則8条を定めることは,モーターボート競走法の委任の趣旨に反するものではなく,違法ではないから,国土交通大臣がP1に対して同17年8月22日付けで本件施設について本件施行規則8条1項に定める確認をしたことを含めて本件行為1は,モーターボート競走法並びにこれを受けて制定された昭和60年施行規則及び本件施行規則に照らし,委任の趣旨に反せず,違法ではないというべきである。
 したがって,本件行為1が,モーターボート競走法の委任の趣旨に反するという点において,国家賠償法上違法であるということはできない。

本件訴え2に関する本案の争点B(本件行為2は国家賠償法上違法であるか。)について

 国土交通大臣が本件施設について本件告示に定める基準に適合するとして本件確認をしたこと(本件行為2)は,モーターボート競走法及びこれを受けて制定された本件施行規則に照らし,違法ではないから,国土交通大臣が,職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく,本件告示に定める基準に適合しない施設を適合するものと漫然と誤認したと認め得るような事情はないというべきである。したがって,本件行為2が,本件告示に定める基準に適合しない本件施設に本件確認をしたという点において,国家賠償法上違法であるということはできない。

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