平成21年度新司法試験短答式の感想(1)

全体について

5月13日に、平成21年度の新司法試験短答式試験が行われた。
問題は、法務省のHPで公開されている

形式面で目新しいものはない。
内容的にも、ほぼ全問が知識問題である。
一部、見解と批判の対応を問うような問題、見解を事案等にあてはめる問題もある。
しかし、それらは基礎となる知識があれば、論理操作自体に難しさはない。
逆に、基礎となる知識がなくても論理で解ける、という問題ではない。
従って、旧司法試験における論理問題とは性質が異なる。
これらは実質的には、論理問題というより知識問題に近い。

従って、特別なテクニックであるとか、解法は不要である。
事前にどれだけ知識を習得できたか、その部分でほぼ全てが決まる。
その意味では、新試験の短答対策は知識習得に尽き、問題分析はそれほど重要でない。

もっとも、試験問題の分析が全く無意味になったわけではない。
習得すべき知識の範囲を知っておく必要があるからだ。
繰り返し出題される分野は、しっかり押さえておかなければならない。
他方、出題されない知識を習得しても仕方が無い。
どの程度まで学習すべきかという判断をするにあたって、過去の問題を分析する意味がある。

新司法試験の短答式は、基本的知識の理解を試すものとされていた。

新司法試験実施に係る研究調査会報告書より引用、下線は筆者)

 基本的知識が体系的に理解されているかを客観的に判定するために,幅広い分野から基本的な問題を多数出題するものとし,過度に複雑な出題形式とならないように留意する。

(引用終わり)

もっとも、実際の出題において、基本的事項に関する内容のみを出題するとはされていない。

(「新司法試験における短答式試験の出題方針について」より引用、下線は筆者)

 司法試験(新司法試験)本試験の短答式による筆記試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わないものとする。

(引用終わり)

基本的事項に関する内容が中心ではあるが、それ以外も出題され得る。
従って、過去に出題された範囲すべてが基本事項というわけではない。
過去問の中には、基本事項でないものも含まれている。
そして、基本事項でない部分については、翌年度以降繰り返し出題される可能性は低い。
短答対策をするに当たっては、その見極めが重要である。
すなわち、傾向としてどの範囲が出題されているか。
そしてそれは、その年度特有の傾向なのか、今後も続くのか。
この辺りを、分析する必要がある。

憲法について

憲法では、判例の細かい知識を訊かれたのが特徴だ。
結論部分以外のところを狙って出題している。
また、反対意見や、補足意見の内容にまで踏み込んだ知識も要求している。
近時の判例についても、かなり細かい内容を訊いてきている。
これは、今年度の旧司法試験択一の憲法でも見られた傾向である。
もっとも、旧試験では判例の原審や原々審の見解なども訊いていた。
今年度の新試験では、それはなかった。
この傾向が今後も続くかどうかは、今のところよくわからない。
かつての旧試験択一で、明治憲法が出題された時期があった。
しかし、それは一時的な傾向に過ぎなかった。
それと同様に、一時的な傾向にとどまる可能性もある。
ただ、来年度も同じ傾向が続く可能性も否定できない。
従って、著名な判例、最新判例については、個別意見も含めて、全文をフォローする必要がある。
もっとも、全部フォローするのは時間的に難しいだろう。
空いた時間などを利用して、地道に少しずつやっていく。
まずは、百選等にも記載されている重要部分。
その次に多数意見のその他の理由。
最後に反対意見や補足意見、という順番でいいだろう。
全部ではないが、本試験までに少しでも多く、というスタンスでやるべきである。
また、漫然と判文を読んでいても、なかなか頭に入ってこないだろう。
問題集等を用いて、ピンポイントで正誤を判定する訓練が必要である。
素材としては、予備校の答練ということになるだろう。
新判例については、当サイト作成の肢別問題集(平成17年平成18年平成19年)もある。
例えば、今年度の第5問のイとウについては、平成19年版の問題で対応できたはずである。

(平成21年度新司法試験短答式公法系第5問、下線は筆者)

 市立小学校の校長が音楽専科の教諭に対し,入学式における国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うよう命じた職務命令が,憲法第19条に違反しないとした最高裁判所の判決(最高裁判所平成19年2月27日第三小法廷判決,民集61巻1号291頁)に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものには○,誤っているものには×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。

ア.この判決は,校長の職務命令が,「君が代」について当該教諭が有する歴史観ないし世界観それ自体を直接否定するものであることを認めつつも,公務員は全体の奉仕者であって,思想・良心の自由も職務の公共性に由来する内在的制約を受けるから,上記職務命令が当該教諭の思想・良心の自由を制約するものであっても受忍すべきであるとした。

イ.この判決は,「君が代」のピアノ伴奏の強制により制約される当該教諭の思想・良心の自由と,「君が代」の伴奏が録音テープで行われることによって損なわれる入学式進行の秩序・規律とを,具体的に比較衡量した上で,「君が代」をテープ伴奏にすることによる違和感は看過し難いから,校長の職務命令が不合理とはいえないとした。

ウ.この判決は,入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をする行為は,音楽専科の教諭にとって通常想定され期待されるものであり,当該教諭が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難であって,校長の職務命令は当該教諭に対し特定の思想を持つことを強制したり禁止したりするものではないとした。

1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ×  5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○  8.ア× イ× ウ×

 

司法試験平成19年度最新判例肢別問題集より抜粋、下線は筆者)

2:市立小学校の校長が音楽専科の教諭に対し入学式における国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うよう命じた職務命令が憲法19条に違反しないかが問題となった事例について、最高裁は、入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をする行為は、当該教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価しつつ、思想及び良心の自由と公共の福祉との間での衡量を行い、憲法19条に違反しないと判示した。

2:誤り(最判平19・2・27、君が代ピアノ伴奏拒否事件)。
 判例は、(1)職務命令は「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる同教諭の歴史観ないし世界観自体を直ちに否定するものとは認められないこと、(2)入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をする行為は、音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであり、当該教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難であって、前記職務命令は前記教諭に対し特定の思想を持つことを強制したりこれを禁止したりするものではないこと、(3)前記教諭は地方公務員として法令等や上司の職務上の命令に従わなければならない立場にあり、前記職務命令は、小学校教育の目標や入学式等の意義、在り方を定めた関係諸規定の趣旨にかなうものであるなど、その目的及び内容が不合理であるとはいえないこと、を理由として、19条に違反しないとした。
 入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をする行為が、当該教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であるとは評価しておらず、思想及び良心の自由と公共の福祉との間での衡量という判断枠組みも用いていない。よって、本肢は誤りとなる。

長い判決文の中でも、出題されるポイントは限られている。
答練や問題集を用いることによって、そのポイントに意識を集中させることができる。

判例のマイナー部分や個別意見を出題するという今年度に見られた傾向。
来年度以降、この傾向が継続しないと判断できるまでは、上記のような対策は必要だろう。

また、学説の見解と批判の対応を問う問題が多く出題された点も、今年度の特徴である。
これも、今後このような出題が続くかどうかはわからない。
もっとも、この種の問題については通常の論文の学習で、ある程度対応できる。
論点を学習する際に、一応一通り反対説や批判などは理解するはずだからである。
従って、これについては、特別な対策はそれ程必要ないと思われる。

行政法について

行政法は、形式的な難易度の高さが特徴だったといえる。
とりわけ、今年は単純正誤(肢ごとに1、2を選ばせるもの)と個数問題が多かった。
また、組合せ問題も、全ての組合せが選択肢になっており、ミスを許さない。
しかも、単純正誤の肢は4つのものが多かった。
この点は、昨年度も同様ではあったが、より顕著な傾向になっている。

この傾向が今後も続くとすれば、対策は個々の肢の正誤判断の訓練である。
肢別本 などを用いて、正誤判断の訓練をするしかない。

内容的には、条文、基本書、判例から満遍なく出題されている感じである。
細かいと感じられる部分もかなりある。
ただ、ある部分から細かいものが集中して出ているというわけではない。
憲法の場合のように、判例を集中してやる、などという対策はできない。
従って、当面は特別な対策をする必要は無いだろう。
むしろ、肢別本や答練・問題集等で出題される部分をしっかりやっておく。
それでも取れないものは、落としてもやむを得ない、ということになる。

民法について

民法の特徴は、今まで出題されないと思われた分野からの出題があったことである。
一つは、一般社団財団法からの出題である。
改正から間もないこともあって、これは出ないだろうと思われていた。
しかし、今年度に出題されたことで、ポイント部分を押さえておく必要が出てきたといえる。
もっとも、来年度以降も繰り返し出題されるかはわからない。
優先順位としては、現段階では後回しでも構わないと思う。
むしろ、確実に出題されるであろう親族相続分野を手薄なままにする方が危険である。

もう一つは、相隣関係の条文である。
旧試験時代から、民法は細かい条文問題が多かった。
しかし、それでも相隣関係の条文(209条から238条まで)はほとんど出題されてこなかった。
唯一の例外は、囲繞地通行権(210条から213条まで)の条文と判例である。
それが、本年度は第10問において、囲繞地通行権以外の相隣関係を問う肢があった。
これは、今後も相隣関係を出題するという趣旨だろうか。
おそらく、そうではないと思われる。
第10問は、誤っているものを一つ選ぶ問題である。
そして、誤っている肢は、4である。
これは、従来から出題されていた囲繞地通行権についての判例(最判昭47・4.14)についてのものである。
この判断は容易だったはずで、その他の肢を判断する必要は無かった。
従って、従来の範囲の知識があれば、正解できた。
そうであるとすれば、現段階では、囲繞地通行権以外の相隣関係の条文は押さえる必要は無いといえる。

なお、借地借家法についても出題されている。
これは旧試験時代からも問われていた。
従って、借地借家法はこれまで通り、押さえておく必要があることに変わりがない。

商法について

商法は、商法総則や手形も毎年出るということで固まっている。
従って、この分野を手抜きすべきでない。
ただ、かなり細かいと思われる部分まで出題されている。
その細かさは公法系とは異なる。
公法系のように、判例の理由づけや個別意見を訊いてくるわけではない。
判例は、結論だけで足りる。
しかし、条文・判例自体が細かい。
受験生が基本事項と思わないような条文・判例を訊いてきている。
この傾向は、新司法試験開始当初から程度を強めつつ継続している。
旧司法試験の択一過去問が無いため、この辺の教材は不足気味だ。
司法試験用の肢別本 だけでなく、司法書士用 のもの、公認会計士用 のものなどで補充するのがよいだろう。

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