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最高裁判所第三小法廷決定平成21年01月27日

【事案】

 A(以下「A」という。)は,抗告人に対し,抗告人による液晶テレビ及び液晶モニターの輸入,販売等がAの保有する特許権を侵害すると主張して,これらの行為の差止め等を求める仮処分命令の申立てをした(以下,この申立てに係る事件を「本件仮処分事件」という。)。本件仮処分事件においては,債務者である抗告人が立ち会うことができる審尋の期日が開かれている。
 抗告人は,本件仮処分事件において提出することを予定している準備書面等に抗告人の保有する営業秘密が記載されているとして,特許法105条の4第1項に基づき,上記営業秘密について,Aの代理人又は補佐人である相手方らに対する秘密保持命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした。
 原審は,特許法105条の4第1項柱書き本文に規定する「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」には,特許権の侵害差止めを求める仮処分事件は含まれないから,本件仮処分事件において秘密保持命令の申立てをすることはできない旨判示して,本件申立てを却下すべきものとした。

【判旨】

 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,提出を予定している準備書面や証拠の内容に営業秘密が含まれる場合には,当該営業秘密を保有する当事者が,相手方当事者によりこれを訴訟の追行の目的以外の目的で使用され,又は第三者に開示されることによって,これに基づく事業活動に支障を生ずるおそれがあることを危ぐして,当該営業秘密を訴訟に顕出することを差し控え,十分な主張立証を尽くすことができないという事態が生じ得る。特許法が,秘密保持命令の制度(同法105条の4ないし105条の6,200条の2,201条)を設け,刑罰による制裁を伴う秘密保持命令により,当該営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用すること及び同命令を受けた者以外の者に開示することを禁ずることができるとしている趣旨は,上記のような事態を回避するためであると解される。
 特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件は,仮処分命令の必要性の有無という本案訴訟とは異なる争点が存するが,その他の点では本案訴訟と争点を共通にするものであるから,当該営業秘密を保有する当事者について,上記のような事態が生じ得ることは本案訴訟の場合と異なるところはなく,秘密保持命令の制度がこれを容認していると解することはできない。そして,上記仮処分事件において秘密保持命令の申立てをすることができると解しても,迅速な処理が求められるなどの仮処分事件の性質に反するということもできない。
 特許法においては,「訴訟」という文言が,本案訴訟のみならず,民事保全事件を含むものとして用いられる場合もあり(同法54条2項,168条2項),上記のような秘密保持命令の制度の趣旨に照らせば,特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件は,特許法105条の4第1項柱書き本文に規定する「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」に該当し,上記仮処分事件においても,秘密保持命令の申立てをすることが許されると解するのが相当である。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成21年02月17日

【事案】

 被上告会社は,日刊新聞の発行を目的とする株式会社である。被上告会社は,定款によって,株券を発行しない旨及び株式の譲渡には取締役会の承認を要する旨規定するとともに,日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律(以下「日刊新聞法」という。)1条に基づき,被上告会社の株式(以下「Y1株式」という。)の譲受人は同社の事業に関係ある者に限ると規定している。
 被上告人Y2は,被上告会社の株主である役員及び従業員によって構成される権利能力なき社団である。
 上告人らは,いずれも,被上告会社の従業員であった者である。
 被上告会社は,Y1株式の保有資格を原則として現役の従業員又は役員(以下「従業員等」という。)に限定し,従業員等が退職又は死亡により株主資格を失ったときなどには現役の従業員等に当該株式を引き継がせることを内容とする社員株主制度を採用している。
 被上告人Y2は,譲渡制限を受けるY1株式の円滑な運用を行うことを目的として設立されたいわゆる持株会であり,上記社員株主制度を前提に,遅くとも昭和34年ころまでには,被上告人Y2が従業員等にY1株式を譲渡する際の価格を額面額である1株100円とし,株主が退職や死亡によりY1株式の保有資格を失ったとき又は個人的理由によりこれを売却する必要が生じたときは,被上告人Y2が額面額でこれを買い戻すという内容のルール(以下「本件株式譲渡ルール」)が成立していた。
 上告人X2は,本件株式譲渡ルールの存在及び内容を認識した上,昭和39年から同63年にかけて6回にわたり,被上告人Y2から本件株式を含むY1株式合計2740株を1株100円で買い受け,上記各売買に際し,被上告人Y2との間で,本件株式譲渡ルールに従う旨の合意(以下「本件合意」という。)をした。
 上告人X2は,平成17年9月29日,上告人X1に対し,本件株式を1株1000円で売り渡した。上告人X2は,同日,被上告会社に対し,書面をもって,上告人X1に対する本件株式譲渡につき承認を請求したが,被上告会社は,同年10月11日,これを承認しない旨回答した。上告人X2は,同年11月1日,被上告会社に対し,株式譲渡先指定請求書をもって,本件株式につき譲渡の相手方を指定するよう請求した。
 被上告人Y2は,平成17年11月4日,上告人X2に対し,上記の株式譲渡先指定請求書の提出をもって,同上告人の本件株式を売却する確定的な意思が明らかになったとして,被上告人Y2が本件合意に基づき本件株式を譲り受けた旨通知した上,同月7日,被上告会社に対し,本件株式譲渡につき承認を請求したところ,被上告会社はこれを承認した。

【判旨】

 所論は,本件株式譲渡ルールは,株式の譲渡制限に関する会社法の規定に反し,株式会社の本質に反するから,本件株式譲渡ルールに従う旨の本件合意は無効であるのに,本件合意が有効であるとして上告人らの請求を棄却し,被上告人Y2の請求を認容すべきものとした原審の判断に法令解釈の誤りがあるというものである。
 そこで検討するに,被上告会社は,日刊新聞の発行を目的とする株式会社であって,定款で株式の譲渡制限を規定するとともに,日刊新聞法1条に基づき,Y1株式の譲受人を同社の事業に関係ある者に限ると規定し,Y1株式の保有資格を原則として現役の従業員等に限定する社員株主制度を採用しているものである。被上告人Y2における本件株式譲渡ルールは,被上告会社が上記社員株主制度を維持することを前提に,これにより譲渡制限を受けるY1株式を被上告人Y2を通じて円滑に現役の従業員等に承継させるため,株主が個人的理由によりY1株式を売却する必要が生じたときなどには被上告人Y2が額面額でこれを買い戻すこととしたものであって,その内容に合理性がないとはいえない。また,被上告会社は非公開会社であるから,もともとY1株式には市場性がなく,本件株式譲渡ルールは,株主である従業員等が被上告人Y2にY1株式を譲渡する際の価格のみならず,従業員等が被上告人Y2からY1株式を取得する際の価格も額面額とするものであったから,本件株式譲渡ルールに従いY1株式を取得しようとする者としては,将来の譲渡価格が取得価格を下回ることによる損失を被るおそれもない反面,およそ将来の譲渡益を期待し得る状況にもなかったということができる。
 そして,上告人X2は,上記のような本件株式譲渡ルールの内容を認識した上,自由意思により被上告人Y2から額面額で本件株式を買い受け,本件株式譲渡ルールに従う旨の本件合意をしたものであって,被上告会社の従業員等がY1株式を取得することを事実上強制されていたというような事情はうかがわれない。さらに,被上告会社が,多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行うことなくこれをすべて会社内部に留保していたというような事情も見当たらない。
 以上によれば,本件株式譲渡ルールに従う旨の本件合意は,会社法107条及び127条の規定に反するものではなく,公序良俗にも反しないから有効というべきである。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成21年02月24日

【事案】

 覚せい剤取締法違反の罪で起訴され,拘置所に勾留されていた被告人が,同拘置所内の居室において,同室の男性(以下「被害者」という。)に対し,折り畳み机を投げ付け,その顔面を手けんで数回殴打するなどの暴行を加えて同人に加療約3週間を要する左中指腱断裂及び左中指挫創の傷害(以下「本件傷害」という。)を負わせたとして,傷害罪で起訴された事案。

 原判決は,上記折り畳み机による暴行については,被害者の方から被告人に向けて同机を押し倒してきたため,被告人はその反撃として同机を押し返したもの(以下「第1暴行」という。)であり,これには被害者からの急迫不正の侵害に対する防衛手段としての相当性が認められるが,同机に当たって押し倒され,反撃や抵抗が困難な状態になった被害者に対し,その顔面を手けんで数回殴打したこと(以下「第2暴行」という。)は,防衛手段としての相当性の範囲を逸脱したものであるとした。そして,原判決は,第1暴行と第2暴行は,被害者による急迫不正の侵害に対し,時間的・場所的に接着してなされた一連一体の行為であるから,両暴行を分断して評価すべきではなく,全体として1個の過剰防衛行為として評価すべきであるとし,罪となるべき事実として,「被告人は,被害者が折り畳み机を被告人に向けて押し倒してきたのに対し,自己の身体を防衛するため,防衛の程度を超え,同机を被害者に向けて押し返した上,これにより転倒した同人の顔面を手けんで数回殴打する暴行を加えて,同人に本件傷害を負わせた」旨認定し,過剰防衛による傷害罪の成立を認めた。その上で,原判決は,本件傷害と直接の因果関係を有するのは第1暴行のみであるところ,同暴行を単独で評価すれば,防衛手段として相当といえることを酌むべき事情の一つとして認定し,被告人を懲役4月に処した。

【判旨】

 所論は,本件傷害は,違法性のない第1暴行によって生じたものであるから,第2暴行が防衛手段としての相当性の範囲を逸脱していたとしても,過剰防衛による傷害罪が成立する余地はなく,暴行罪が成立するにすぎないと主張する。
 しかしながら,被告人が被害者に対して加えた暴行は,急迫不正の侵害に対する一連一体のものであり,同一の防衛の意思に基づく1個の行為と認めることができるから,全体的に考察して1個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相当であり,所論指摘の点は,有利な情状として考慮すれば足りるというべきである。以上と同旨の原判断は正当である。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年02月27日

【事案】

 道路交通法所定の違反行為があったとして,運転免許証の有効期間の更新の申請手続上同法にいう優良運転者でなく一般運転者に該当するものと扱われ,神奈川県公安委員会から,優良運転者である旨の記載のない平成16年10月5日付けの運転免許証を交付されて更新処分(以下「本件更新処分」という。)を受けた被上告人が,違反行為を否認し,優良運転者に当たると主張して,本件更新処分中の被上告人を一般運転者とする部分の取消しを求め(以下,この訴えを「本件更新処分取消しの訴え」という。),併せて,同公安委員会がした本件更新処分についての異議申立てに対する棄却決定の取消しと上記記載のある運転免許証を交付して行う更新処分の義務付けとを求める事案。

 運転免許証(以下「免許証」という。)の有効期間の更新(以下「免許証の更新」という。)等に関する制度の概要は,次のとおりである。

1.運転免許並びに免許証及びその有効期間,記載事項等

(1)  自動車等を運転しようとする者は,公安委員会の運転免許(以下「免許」という。)を受けなければならないとされ(道路交通法84条1項),免許は,免許証を交付して行うものとされている(同法92条1項)。
(2) 道路交通法92条の2第1項は,免許証の交付又は更新を受けた者を「優良運転者」及び「一般運転者」と「違反運転者等」とに区分した上,免許証の有効期間を,その区分ごとに,それぞれ,更新日等における年齢に応じて定めており,免許証の更新を受けた者が優良運転者又は一般運転者で年齢70歳未満である場合には,「満了日等の後のその者の5回目の誕生日から起算して1月を経過する日」を有効期間の末日としている。
(3) 「優良運転者」の意義は,「更新日等までに継続して免許(中略)を受けている期間が5年以上である者であって,自動車等の運転に関するこの法律及びこの法律に基づく命令の規定並びにこの法律の規定に基づく処分並びに重大違反唆し等及び道路外致死傷に係る法律の規定の遵守の状況が優良な者として政令で定める基準に適合するもの」と規定されている(道路交通法92条の2第1項の表の備考一の2)。上記基準は,道路交通法施行令(平成16年政令第390号による改正前のもの)33条の7第1項1号により,所定の更新期間内に免許証の更新を申請する者については,更新前の免許証の有効期間が満了する日の直前のその者の誕生日の40日前の日の前5年間において違反行為等をしたことがないこととされている。
 これに対し,「一般運転者」とは,「優良運転者又は違反運転者等以外の者」をいい(道路交通法92条の2第1項の表の備考一の3),「違反運転者等」とは,「更新日等までに継続して免許(中略)を受けている期間が5年以上である者であって自動車等の運転に関するこの法律及びこの法律に基づく命令の規定並びにこの法律の規定に基づく処分並びに重大違反唆し等及び道路外致死傷に係る法律の規定の遵守の状況が不良な者として政令で定める基準に該当するもの又は当該期間が5年未満である者」をいうものとされている(同表の備考一の4)。
(4) 免許証には,「免許証の番号」,「免許の年月日並びに免許証の交付年月日及び有効期間の末日」,「免許の種類」,「免許を受けた者の本籍,住所,氏名及び生年月日」を記載するほか,免許を受けた者が優良運転者である場合にあっては,表側の余白の部分に,その旨をも記載するものとされている(道路交通法93条1項,3項,道路交通法施行規則(平成16年内閣府令第93号による改正前のもの)19条1項,別記様式第14)。

2.免許証の更新

 免許証の更新を受けようとする者は,所定の更新期間内に,その者の住所地を管轄する公安委員会に更新申請書を提出しなければならないものとされている(道路交通法101条1項)。更新申請書の提出があったときは,公安委員会は,適性検査の結果から判断して,その者が自動車等を運転することが支障がないと認めたときは,免許証の更新をしなければならないものとされている(同条4項,5項)。
 免許証の更新を受けようとする者は,道路交通法108条の2第1項11号に掲げる講習(以下「更新時講習」という。)を受けなければならず(同法101条の3第1項),これを受けていない者に対しては,公安委員会は,上記にかかわらず,免許証の更新をしないことができるものとされている(同条2項)。
 免許証の更新は,新たな免許証を交付して行うものとされている(道路交通法101条6項,道路交通法施行規則29条8項)。
 なお,更新申請書の様式その他の申請の方式においては,免許証の更新を受けようとする者が,自ら,優良運転者,一般運転者又は違反運転者等のいずれに当たるかを明らかにするものとはされていない。

3.免許証の更新の申請等に関する優良運転者の特例

(1) 他の公安委員会を経由した更新申請書の提出
 免許証の更新を受けようとする者のうち当該更新を受ける日において優良運転者に該当するもの(道路交通法101条3項により,その旨を記載した更新連絡書の送付を受けた者に限る。)は,更新申請書の提出を,住所地を管轄する公安委員会以外の公安委員会(以下「他の公安委員会」という。)を経由して行うことができるものとされている(同法101条の2の2第1項)。
(2) 更新時講習の講習事項等及び手数料の額
 更新時講習は,優良運転者,一般運転者又は違反運転者等の区分に応じて行うものとされ(道路交通法108条の2第1項11号),道路交通法施行規則(平成18年内閣府令第4号による改正前のもの)38条12項により,優良運転者に対する講習は,「道路交通の現状及び交通事故の実態」等の講習事項につき教材を用いた講習方法により30分行うこととされている。これに対し,一般運転者に対する
 講習は,「自動車等の運転について必要な適性」の講習事項が加わり,筆記検査に基づく指導を含む講習方法によって1時間行うものとされており,違反運転者等に対する講習は,いずれの点でも,講習を受ける者にとって負担の更に重いものとされている。
 道路交通法112条1項12号は,都道府県が,更新時講習を受けようとする者から,講習手数料につき政令で定める区分に応じて,物件費及び施設費に対応する部分として政令で定める額に人件費に対応する部分として政令で定める額を標準とする額を加えた額を徴収することを標準として条例を定めなければならない旨を規定している。これを受けて,道路交通法施行令(平成16年政令第381号による改正前のもの)43条1項は,物件費及び施設費に対応する部分並びに人件費に対応する部分の額を定めているところ,優良運転者,一般運転者又は違反運転者等の区分に応じ,それぞれ,順次より高い金額を規定している。実際に,神奈川県道路交通法関係手数料条例(平成12年神奈川県条例第18号)は,上記を標準として,更新時講習を受けようとする者から徴収すべき手数料の額を,優良運転者に対する講習700円,一般運転者に対する講習1050円,違反運転者等に対する講習1700円などと定めている。

【判旨】

 免許証の更新処分は,免許証を有する者の申請に応じて,免許証の有効期間を更新することにより,免許の効力を時間的に延長し,適法に自動車等の運転をすることのできる地位をその名あて人に継続して保有させる効果を生じさせるものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることが明らかである。
 もっとも,免許証の更新処分は,申請を認容して上記のような利益を名あて人に付与する処分であるから,当該名あて人においてその取消しを求める利益を直ちに肯定することはできない。免許証の更新を受けようとする者が優良運転者であるか一般運転者であるかによって,他の公安委員会を経由した更新申請書の提出の可否並びに更新時講習の講習事項等及び手数料の額が異なるものとされているが,それらは,いずれも,免許証の更新処分がされるまでの手続上の要件のみにかかわる事項であって,同更新処分がその名あて人にもたらした法律上の地位に対する不利益な影響とは解し得ないから,これ自体が同更新処分の取消しを求める利益の根拠となるものではない。原判決中上記を理由として本件更新処分取消しの訴えが適法であるというかのような部分は,相当でない。
 しかしながら,道路交通法及びその委任を受けた道路交通法施行規則は,免許証の更新を受けようとする者が優良運転者に該当する場合には,免許証の更新処分を,優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行うべきものと規定している。
 優良運転者の制度は,平成5年法律第43号による道路交通法の改正において導入されたものであり,一定の期間無違反を継続した免許証保有者に限って,これを優良運転者とし,それまで3年とされていた免許証の有効期間を5年とするという利点を与えることにより,その実績を評価し賞揚するとともに,優良な運転へと免許証保有者を誘導し,もって交通事故の防止を図ることを目的として創設された。
 そして,優良運転者に自覚を促し,また,他の免許証保有者にも安全運転を心掛けるようにさせるため,優良運転者であることは,上記のとおり,これを免許証上明らかにすることとされた。併せて,優良運転者に対しては,更新時講習の講習事項及び講習時間を,それ以外の者に対する場合より軽くする措置が執られ,その後,手数料の額も軽減された。
 平成13年法律第51号による道路交通法の改正においては,新たに違反運転者等という概念が設けられ,免許証の有効期間は,違反運転者等についてのみ3年とされたが,そこでは,優良運転者の概念を維持しつつ,それにも違反運転者等にも当たらない者を一般運転者とした上で,優良運転者のみならず一般運転者についても免許証の有効期間を5年とすることとされたものであり,優良運転者と一般運転者とは引き続き制度上区別することが前提とされた。そして,優良運転者に対する優遇策を拡充し優良な運転へと免許証保有者をより一層誘導する効果を期するなどの趣旨で,特例として,他の公安委員会を通じた更新申請書の提出をすることができることとされ,また,更新時講習につき,優良運転者,一般運転者又は違反運転者等の区分に応じた講習を行うことが明確にされた。
 以上のとおり,道路交通法は,優良運転者の実績を賞揚し,優良な運転へと免許証保有者を誘導して交通事故の防止を図る目的で,優良運転者であることを免許証に記載して公に明らかにすることとするとともに,優良運転者に対し更新手続上の優遇措置を講じているのである。このことに,優良運転者の制度の上記沿革等を併せて考慮すれば,同法は,客観的に優良運転者の要件を満たす者に対しては優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して更新処分を行うということを,単なる事実上の措置にとどめず,その者の法律上の地位として保障するとの立法政策を,交通事故の防止を図るという制度の目的を全うするため,特に採用したものと解するのが相当である。
 確かに,免許証の更新処分において交付される免許証が優良運転者である旨の記載のある免許証であるかそれのないものであるかによって,当該免許証の有効期間等が左右されるものではない。また,上記記載のある免許証を交付して更新処分を行うことは,免許証の更新の申請の内容を成す事項ではない。しかしながら,上記のとおり,客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有することが肯定される以上,一般運転者として扱われ上記記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は,上記の法律上の地位を否定されたことを理由として,これを回復するため,同更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきものである。
 本件更新処分は,被上告人に対し優良運転者である旨の記載のない免許証を交付してされた免許証の更新処分であるから,被上告人は,上記記載のある免許証を交付して行う免許証の更新処分を受ける法律上の地位を回復するため,本件更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するということができ,本件更新処分取消しの訴えは適法であることとなる。また,その余の訴えにつき,本件更新処分中の前記部分が行政処分に当たらず,又はその取消しを求める訴えの利益がないことを理由として,これを不適法なものということはできないこととなる。

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