平成21年度新司法試験論文式の感想(公法系)

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憲法について

テーマは遺伝子治療研究と学問研究の自由及び知る権利・プライバシー権との関係である。
これは旧司法試験時代からヤマとされていたものだ。
ようやく出題された、という印象である。

本問を見てまず気付くべきは、例年の2問分の設問になっていることである。
すなわち、主張、反論及び私見のセットを二つ書く必要がある。
形式的に考えて、これは1セットの分量を半分にしなければならない。
それだけコンパクトな論述が求められる。
この点を意識しておかないと、時間不足、紙幅不足に陥ることになる。
そのことは、2問目の行政法の時間不足をも招くことになる。

内容的には、書くべきことを判断しやすい作りになっている。
設問1については、Xが本研究を継続できなくなっている。
Xは、本研究を継続したがっている。
従って、X教授の学問研究の自由の制約の合憲性がメイン論点である。
特定の研究の危険性を理由にして、当該研究が規制の対象となっている。
そのことからすれば、審査基準の基本形は、明白かつ現在の危険の基準ということになる。
しかし、遺伝子治療の危険性は、明確ではない。
明白であるとか、差し迫っているという立証は無理である。
そうすると、明白性も現在性もないから規制できない、ということになりそうである。
だが、それは妥当な結論ではない。
そこで、どの程度まで審査基準を緩和できるか。
不確実なリスクに対して、どのような規制まで許容されるのか。
この点が、出題の意図であると思われる。
「○○程度の危険の蓋然性」といった感じの審査基準を現場で考えることになるだろう。
あとは、審査委員会規則8条がその程度の蓋然性の場合を規定したものか。
本問の場合が上記蓋然性のある場合といえるか。
それぞれ、検討を加えることになる。
前者及び後者を肯定すれば、全くの合憲。
前者を否定する場合、合憲限定解釈や適用違憲による規則の合憲性救済の余地を検討することになる。
前者を肯定して後者を否定する場合には、裁量権の逸脱濫用(≒適用違憲)ということになる。

設問2については、遺伝子に係る情報の開示は、Cが望んだことである。
Xがこれに応じたために、停職処分を受けた。
従って、XがCの権利を援用するという構造になる。
第三者の権利の援用は、昨年度も出題された。
しかし昨年度は、権利の主体が問題文上明らかでなかった。
そのため、第三者の権利の援用を書くべきか、判断が難しかった。
これに対し本問では、Cという主体が具体的に明示されている。
従って、昨年度よりも第三者の権利の援用が問題になることが明確になっている。
なお、昨年度の場合は、第三者の権利の援用が自己の権利行使でもあるという関係があった。
しかし、本問では、そのような関係にはない。
従って、第三者の権利援用の4要素(援用者の利益、権利の性質、被援用者の不利益、被援用者の係争可能性)等の吟味が必要となる。

そして、援用されるべきCの利益は、知る権利またはプライバシー権ということになる。
Cとの関係でいえば、情報開示を禁じる遺伝子情報保護規則は、Cの知る権利またはプライバシー権に対する制約である。
仮にCの開示請求が憲法上保護されたものであるとする。
そうすると、これに応じたXの行為は、憲法上の要求であるから、懲戒の理由とはなりえない。
援用すべき援用者の利益は、この点にあるということになる。
その意味では、停職処分自体の違憲性を論じるのは、やや筋違いである。
憲法問題の核心は、CがC及びその家族の遺伝情報を憲法上開示請求しうるか、という点である。
停職処分は、Xの行為が憲法上正当化されることによって、その根拠を失うという関係にあるに過ぎない。

プライバシー権については、自己情報コントロール権として構成した場合、開示請求の根拠となる。
判例は自己情報コントロール権を認めていない(住基ネット訴訟判例参照)ことには、やや注意を要する。
また、開示請求は知る権利及びプライバシー権の請求権的側面に属する。
この点については、抽象的権利であって、具体化立法が無いと裁判規範足り得ないとするのが通説である。
その理解に立った場合、遺伝子情報保護規則6条2項を具体化立法とみることができるか。
仮にそう考えたとして、具体化立法が不十分な場合に、当該規定が違憲となりうるか。
具体化された限度でのみ裁判規範となると考えれば、違憲とはならないと考えられる。
他方、一度具体化された以上は、合憲的なものでなければならないとする考え方もある。
そうすると、遺伝子情報保護規則6条2項は違憲であるという判断も可能ということになる。
また、自己情報の開示に限っては、他者のプライバシーとの調整が不要であるから具体化立法は不要という考え方もある。
その場合は、どのような要件で認められるか、本問ではその要件を充たすか、を検討することになる。

上記のようなことを、コンパクトに整理して書いて行けば、合格答案になるものと思われる。
その他の論点としては、部分社会の法理または大学の自治を根拠として、司法審査を否定すべきではないかという点がある。
もっとも、この点は判例を引いて簡単に否定するのであれば、書く意味はあまりない。
これは、昨年度の検閲と同様である。
書くとしても、非常にコンパクトに書くべきである。
関連して、国が研究「者」の自主性を尊重した指針を出しているのに、研究機関たる大学がこれを規制できるか。
行政府が遺伝的改変を除き明確な線引きをしていないにもかかわらず、司法府が敢えて判断することが適当なのか。
等々の問題がある。
この辺りは、気にはなるが、うまくまとめるのは難しい。
書かない方が無難だろうと思う。

また、自己情報コントロール権として開示請求を基礎付けた場合、どこまでが「自己情報」なのかという論点もある。
遺伝子情報は、文字通り遺伝する。
従って、ある個人の遺伝情報は、血縁者の遺伝情報と共通部分がある。
そうすると、当該個人の意思のみで処分できる性質のものでなく、親族間で共有されるべき情報であるともいえる。
このことは、自己の遺伝情報も「自己情報」でないという根拠になりうる。
逆に、家族の遺伝情報も自己の遺伝情報と共通部分があるから、「自己情報」であるという根拠にもなしうる。
さらに広くいえば、上記のような類似性、共通性は人類全体に及ぶ。
従って、個々人の意思のみに委ねることは相当でなく、社会全体の意思によって制約を受けうると考える余地もある。
問題文冒頭の説明部分には、その問題意識を匂わせる箇所がある。

(平成21年度新司法試験論文式公法系第1問より引用、下線は筆者)

 遺伝子は、細胞を作るためのタンパク質の設計図である。人間には約2万5000個の遺伝子があると推測されている。遺伝情報は、子孫に受け継がれ得る情報で、個人の遺伝的特質及び体質を示すものであるが、その基になる遺伝子に係る情報は、当該個人にとって極めて機微に係る情報である。遺伝子には、すべての人間に共通な生存に不可欠な部分と、個人にオリジナルの部分とがある。もし生存に不可欠な遺伝子が異常になると、細胞や体の働きが損なわれるので、その個体は病気になることもある。既に多数の遺伝子疾患が知られており、また、高血圧などの生活習慣病や癌、そして神経難病なども遺伝子の影響を受けることが解明されつつある。
 遺伝子治療とは、生命活動の根幹である遺伝子を制御する治療法であり、正常な遺伝子を細胞に補ったり、遺伝子の欠陥を修復・修正することで病気を治療する手法である。遺伝子治療の実用化のためには、動物実験の次の段階として、人間を対象とした臨床研究も必要である。遺伝子治療においては、まず、当該疾患をもたらしている遺伝子の異常がどこで起こっているかなどについて調べる必要がある。それを確定するためには、遺伝にかかわるので、本人だけではなく、家族の遺伝子も検査する必要がある

(引用終わり)

もっとも、現場でこのような問題意識をまとめることは難しい。
単純にCの遺伝情報は自己情報であり、家族のものは自己情報でないとするのが無難だろう。
その場合、家族の情報は知る権利でカバーすることになる。

行政法について

東京地判平19・9・7の事案を素材にした問題である。

本問のメイン論点は、処分の相手方以外の者の原告適格である。
抗告訴訟で残っていた唯一の大論点であり、誰もが出題を予想していたところである。
従って、この点をしっかり書くことが、合否を分ける。

資料1に詳細な誘導があり、それに従って構成すれば足りる。
この点は、例年通りである。
その際、誘導部分と設問における内容の順序が逆になっている。
すなわち、資料1では前半が設問2の違法事由について述べ、後半で設問1の訴訟法上の論点について述べている。

(平成21年度新司法試験公法系第2問より引用、下線は筆者)

〔設問〕
1.Fらが本件建築物の建築を阻止するために考えられる法的手段(訴訟とそれに伴う仮の救済措置)を挙げた上で、それを用いる場合の行政事件訴訟法上の問題点を中心に論じなさい。
2.考え得る本件確認の違法事由について詳細に検討し、当該違法事由の主張が認められ得るかを論じなさい。また、原告Fがいかなる違法事由を主張できるかを論じなさい。

【資料1 法律事務所の会議録】

弁護士J:本日はFらの案件について基本的な処理方針を議論したいと思います。Fらは、本件建築物が違法であると主張しているようですが、その理由はどのようなものですか

 (中略)

弁護士J:次に、訴訟手段についてですが、本件建築物の建築を阻止するためには、どのような方法が考えられるか検討してください。建築基準法第9条第1項に基づく措置命令をめぐる行政訴訟も考えられますが、これについては後日議論することとして、今回は検討の対象から外してください。また、検査済証の交付を争っても建築の阻止には役立ちませんから、これも除外してください。

(引用終わり)

何も考えずに誘導の順序で構成すると、大変なことになる。

資料1による誘導をまとめると、以下のようになる。

第1.設問1について
1.本件確認を争う手段を検討する。
2.Fら全員が訴訟を提起する資格があるのか、特に重要なので、個別具体的に丁寧に検討する。
3.本件建築物が完成した場合、どのような法的問題が生じるかを整理する。
4.訴訟係属中の工事の進行を止めるための法的手段について、それが認容される見込みがあるかどうかも含めて検討する。

第2.設問2について
1.前段について
 以下の主張について、その当否も含めて検討する。
(1) 道路幅が不十分であるとの主張。
ア.本件土地については、幅員がどれだけの道路に、どれだけの長さが接していなければならないかを検討する。
イ.本件道路との関係で、本件建築物の建築に違法な点がないかを検討する。
 (ア) 遮断機が下りた場合の車の通行不可能。
 (イ) 遮断機が上がっても、道路幅3メートル弱。
 (ウ) 火災時などに消防車等が進入することが困難で、防災上問題がある。
(2) 地下駐車場の収容台数が135台とかなり大規模なものであり、本件児童室を利用する子供の安全性に問題があるとの主張。
 本件建築物の建築に違法な点がないかを検討する。
 ・本件図書館内にあり、児童関係の図書を一箇所に集め、一般の利用者とは別に閲覧場所等を設けたもので、児童用の座席が10人分程度用意されており、本件児童室には、本件図書館の出入口とは別に、先ほど触れた専用出入口が設けられ、専用出入口は午後5時に閉鎖されるが、本件図書館の他の部分とは内部の出入口でつながっており、本件図書館の利用者はだれでも自由に行き来できる。本件児童室内には、児童用のサンダルが置かれたトイレがあり、また、幼児の遊び場コーナーがあるなど、児童の利用しやすい設備が整っている。本件図書館は、総床面積3440平方メートル、地下1階、地上4階だが、本件児童室は、1階部分のうち約100平方メートルを占めている。
(3) 本件紛争予防条例には、説明会の開催についての規定があり、本件建築物の建築について一応説明会を開催したが、情報の開示が不十分で、住民に質問の機会を与えず、一方的に終了を宣言するなどしたAの行為は条例違反に当たるとの主張。
 本件において当該条例違反が認められるか、仮に認められるとして、それが本件確認との関係でどのような意味を持つのか、それぞれについて検討する。
(4) 本件確認を行う際には、公聴会を開催する必要があったにもかかわらず,建築主事Eはこれを行っていないという主張。

2.後段について
 自らの法律上の利益との関係で、本案においていかなる違法事由を主張できるのか。Fについて検討する。

上記は、資料1をまとめるだけで作成することができる。
従って、何ら知識が無くても、最低限上記のような構成まではできなければならない。
あとは、上記について、各法令等を参照しながら各項目を肉付けしていけばよい。

答案の比重として、もっともウェイトを置くべきは、第1の2の部分、すなわち原告適格である。
資料1でもわざわざ「特に重要なので、個別具体的に丁寧に検討してください」としている。
従って、特に配点が振られているし、個別具体的に丁寧に検討しないと評価されないということである。
よって、答案用紙全体の3分の1くらい(2ページから3ページ)を使っても構わないので、露骨に丁寧に書くべきだった。
素材となった東京地裁は、この点につき以下のように論述している。
個別具体的に、丁寧に、とは以下のようにという意味である。

(東京地判平19・9・7より引用)

 そこで,まず,建築確認の処分の取消訴訟における原告適格について検討する。
 建築基準法6条の2第1項は,同法6条1項各号に掲げる建築物の計画が,建築基準関係規定に適合するものであることについて,指定確認検査機関の確認を受け,確認済証の交付を受けなければ,建築主は当該工事に着手することができない旨を規定しているところ,建築基準法令の規定のうち,同法21条(大規模の建築物の主要構造部),52条(容積率),55条(第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居専用地域内における建築物の高さの限度),56条(建築物の各部分の高さ)及び56条の2(日影による中高層の建築物の高さの制限)の各規定に適合するものであることについて確認することができなければ,当該建築物の建築等の工事をすることができないこととしているのは,@当該建築物並びにその居住者の生命,身体の安全及び健康の保護を図り,A当該建築物及びその周辺の建築物における日照,通風及び採光等を良好に保つなど快適な居住環境を確保することができるようにするとともに,B地震及び火災等により当該建築物が倒壊し,又は炎上するなど万一の事態が生じた場合に,その周辺の建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことのないようにするためであると解される。
 そして,以上のような建築基準法6条の2第1項の趣旨及び目的,同項が同法6条1項各号に掲げる建築物の計画が建築基準法令の規定に適合するものであることの確認において保護しようとしている利益の内容及び性質等のほか,同法が建築物の敷地,構造等に関する最低の基準を定めて国民の生命,健康及び財産の保護を図ることなどを目的としていること(同法1条)をも考慮すると,同法6条の2第1項は,同項による確認に係る建築物並びにその居住者の生命又は身体の安全及び健康を保護し,その建築等が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに,当該建築物に火災が発生したり倒壊した場合に延焼又は損傷したりするなどの直接的な被害が及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命及び身体の安全並びに財産としてのその建築物並びに当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。
 また,建築基準法43条1項は,「建築物の敷地は,道路(…(略)…)に2メートル以上接しなければならない。ただし,その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で,特定行政庁が交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては,この限りでない。」と規定しているところ,これは,道路が,平常時における通行の場として必要であるのみならず,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つとともに,当該建築物に火災等の災害が発生した場合における避難,消火及び救助の活動を迅速かつ適切に行うために必要であり,道路のないところに建築物が相当の密度で立ち並ぶことは,当該建築物の居住者等のみならずこれに隣接する建築物等の居住者等の平時の利用に不便なばかりでなく,その災害時の避難や消火活動にも大きな支障を来すことから,原則として,建築物の敷地は一定の広さを有する道路に接していなければならないとしたものであると解される。そうであるとすると,同項の規定は,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つことのほかに,当該建築物に災害が発生した場合に,当該建築物及びその隣接する建築物等についてその居住者等の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を保護することをもその目的に含むものと解するのが相当である。また,同条2項は,「地方公共団体は,…(略)…延べ面積(…(略)…)が1000平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員,その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により,前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては,条例で,必要な制限を付加することができる。」と規定しているところ,これは,一定の用途や規模を有する建築物の場合,それらの建築物の敷地が同条1項の規定する幅員4m(特定の区域内では6m)の道路に2m以上接しなければならないという制限だけでは,平常時における通行の確保並びに火災等の災害の発生時における迅速かつ適切な避難,消火及び救助の活動ができないおそれがあることから,地方公共団体の条例で,建築物の用途又は規模の特殊性に応じて,各地方の実情に合わせて必要な制限を付加することができる旨規定したものと解するのが相当である。上記規定を受けて,本件条例4条1項は,「延べ面積(…(略)…)が1000平方メートルを超える建築物の敷地は,その延べ面積に応じて,次の表に掲げる長さ以上道路に接しなければならない。」と規定し,同条2項は,「延べ面積が3000平方メートルを超え,かつ,建築物の高さが15メートルを超える建築物の敷地に対する前項の規定の適用については,同項中「道路」とあるのは,「幅員6メートル以上の道路」とする。」と規定しているところ,これらの規定が設けられたのは,建築基準法43条2項の趣旨も考慮すると,そのような一定の規模を超える建築物について,平常時における通行を確保するためだけではなく,火災等の災害が発生した場合に,これに隣接する建築物等やその居住者等に重大な被害が及ぶことのないように避難,消火及び救助の活動を迅速かつ適切に行うことができるようにするためであると解するのが相当である。
 以上のような本件条例4条1項及び2項の趣旨や目的,これらの規定を通して保護しようとしている利益の内容や性質等を考慮すると,これらの規定は,当該建築物の火災等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。
 そうすると,建築物の火災等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し,又はこれを所有する者は,当該建築物の建築確認の処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものと解するのが相当である。
 以上のとおりであり,建築確認に係る建築物の倒壊又は炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する他の建築物に居住し,又はこれを所有する者並びに当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者は,当該建築確認の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消しの訴えにおける原告適格を有すると解するのが相当である。

(引用終わり)

上記引用部分は、スペースを含めないで2897文字ある。
1ページに書くことのできる文字数は、改行無しで460(20×23)〜575(25×23)文字程度だから、軽く5ページ分はある。
さすがに答案において、ここまで丁寧に書くのは無理だろう。
ただ、書きすぎかな、と思うくらいしっかり書くべきところである。

原告適格については、法律上保護された利益か、法律上保護に値する利益か、という論点がある。
しかし、その点についての論証は不要だろう。
そのような抽象的な議論は、要求されていない。
端的に行訴法9条2項を引いて、あてはめから入るべきである。

原告適格以外の部分については、法令を摘示し、簡単な理由を付して論述すれば足りる。
以下のようになるだろう。

第1.設問1について
1.本件確認を争う手段を検討する。
 →本件確認の取消訴訟。
2.Fら全員が訴訟を提起する資格があるのか、特に重要なので、個別具体的に丁寧に検討する。
 →行訴9条2項のあてはめ。
3.本件建築物が完成した場合、どのような法的問題が生じるかを整理する。
 →訴えの利益を喪失する(最判昭59・10・26)。
4.訴訟係属中の工事の進行を止めるための法的手段について、それが認容される見込みがあるかどうかも含めて検討する。
 →本件確認の効力停止。各要件のあてはめ。

第2.設問2について
1.前段について
 以下の主張について、その当否も含めて検討する。
(1) 道路幅が不十分であるとの主張。
ア.本件土地については、幅員がどれだけの道路に、どれだけの長さが接していなければならないかを検討する。
 →幅員6メートル以上の道路に、10メートル以上の長さ(建築基準法43条2項、B県建築安全条例4条2項)。
イ.本件道路との関係で、本件建築物の建築に違法な点がないかを検討する。
 →形式的には、接道義務を充たす。
 しかし、
 (ア) 遮断機が下りた場合の車の通行不可能。
 (イ) 遮断機が上がっても、道路幅3メートル弱。
 (ウ) 火災時などに消防車等が進入することが困難で、防災上問題がある。
 →以上の事実を考慮すると、接道義務を要求した法の趣旨に反している。
(2) 地下駐車場の収容台数が135台とかなり大規模なものであり、本件児童室を利用する子供の安全性に問題があるとの主張。
 本件建築物の建築に違法な点がないかを検討する。
 →B県建築安全条例27条4号に違反する。
 →「これに類するもの」及び「交通の安全上支障がない場合」のあてはめ。
(3) 本件紛争予防条例には、説明会の開催についての規定があり、本件建築物の建築について一応説明会を開催したが、情報の開示が不十分で、住民に質問の機会を与えず、一方的に終了を宣言するなどしたAの行為は条例違反に当たるとの主張。
 本件において当該条例違反が認められるか、仮に認められるとして、それが本件確認との関係でどのような意味を持つのか、それぞれについて検討する。
 →本件紛争予防条例6条1項の義務履行の肯否。
 →建築基準関係規定(建築基準法6条)に、本件紛争予防条例が含まれるか。
(4) 本件確認を行う際には、公聴会を開催する必要があったにもかかわらず,建築主事Eはこれを行っていないという主張。
 →行手法10条(ただし努力義務)。

2.後段について
 自らの法律上の利益との関係で、本案においていかなる違法事由を主張できるのか。Fについて検討する。
 →Fは本件児童室に通う者でも、その保護者でもない。
 →上記1イの主張をすることはできない(「自己の法律上の利益に関係のない違法」(行訴法10条1項))。

本問のポイントは、資料や条文検索をいかに効率よく行ったかである。
現場の頑張り次第で、知識がそれほどなくても、それなりの答案を書くことが可能だった。
それだけに、憲法で時間を取られてしまうと厳しい。
憲法と行政法の時間配分も、評価を分けるポイントだったといえる。

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