平成21年度新司法試験論文式の感想(民事系)

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民訴法について

今年は第1問が民訴法だった。
これは、本試験では初めてのことである。
もっとも、民訴単独の出題はプレテストの際に既に行われていた。

単独か融合かということで、特に解法が変わるわけではない。
従って、この点はそれほど重要なことではない。
直前に何を勉強するか迷う、という程度の意味合いしかないと思う。

表面的には、建物買取請求権の知識を訊いているように見える。
しかし、実際には、その背後にある基本原理を訊いている。
このような問い方は、旧司法試験時代の民訴の傾向に近い。
基礎的な理解を積み上げて、順を追って説明できるかで評価を分ける。

設問1は、弁論主義について問う問題である。
建物買取請求権行使の事実は、Yの抗弁(所有権喪失)となる。
そうすると、Yに主張責任がある。
これをXが主張した場合に、裁判所は証拠調べ無しに判決の基礎となしうるか。
この点は、問題点を2つに分けて整理すべきである。

一つは、弁論主義第1原則との関係(主張共通の肯否)である。
この点は、相手方の援用が無くてもよいとするのが一般である(最判昭41・9・8)。

もう一つは、弁論主義第2原則との関係(自白の成否)である。
不利益陳述であるか否かについては、証明責任説・敗訴可能性説のいずれからも肯定できる。
そして、相手方主張前の不利益陳述であるから、先行自白となる。
先行自白は、相手方の援用があった場合に限り、証拠調べが不要となるとされる。

そうすると、本問の(@)では証拠調べを要し、(A)では証拠調べを要しないことになる。
(B)については、援用がない以上、証拠調べを要するとも解しうる。
もっとも、159条1項は、単に「相手方の主張した事実」としている。
「相手方の主張した自己に不利益な事実」とは、なっていない。
そうすると、同項の直接適用によって擬制自白が成立すると考えることもできそうである。
また、同項の類推適用により、援用したものとみなす、という考え方もあり得るだろう。

なお、建物買取請求権行使の事実は、賃貸借終了を前提とする。
そのため、Yにとっても不利ではないか、という問題意識はあり得る。
もっとも、問題文は、「本件賃貸借契約の終了が認められる場合において」という限定を付している。
これは、敢えて付した、とみるべきである。
そうすると、Yにとっても不利ではないかという問題については、考慮する必要がないと考えられる。
また、一般に形成権の行使は権利抗弁となるとされている。
しかしそれは、訴訟内で行使する場合に、行使の意思表示をしなければ実体法上も効果が生じないからである。
訴外で既に行使されている場合、実体法上の効果はすでに生じている。
従って、これを抗弁とするときには、その事実を主張すれば足り、改めて権利主張をする必要はない。
他方、留置権や同時履行の抗弁は、形成権のように一回的なものでないから、上記のような区別は生じない。
従って、本問においてYの権利主張がないから自白が成立しないとするのは、誤りである。

設問2は、既判力について問う問題である。
小問(1)は、一度勝訴した以上、重ねて判決を求める利益がない(最判平11・11・9)ことを示す。
この点は、既判力自体の作用でないことがわかっているかを問う趣旨だろう。
小問(2)は、既判力の客観的範囲が問われている。
執行方法を明示する趣旨で主文に示された部分に既判力またはそれに準じた効力が及ぶか。
これを留保付き判決とみる場合、留保部分に既判力に準じた効力が生じる(最判昭49・4・26)ことと同様に考えうる。
また、建物退去を命じる部分を建物収去の一部認容とみる(最判昭36・2・28)場合、残部請求は特段の事情がない限り信義則上許されない(最判平10・6・12)ことと同様に考えうる。
小問(3)では、Xに有利な根拠となるものを示す。
小問(1)の論拠に対しては、第1訴訟の確定判決では建物収去を実現できない。
従って、新たに判決を求める利益がある(最判昭54・4・17、判例時報931・62)こと。
小問(2)の論拠に対しては、主文のうち執行方法に係る部分については訴訟物と対応しておらず、既判力自体は及ばないこと。
また、既判力に準じた効力が上記部分に及び得るのは、信義則の観点からである。
しかし、本問の事情の下においては、信義則上これを及ぼすのが妥当でないこと。
一部認容と構成する論拠に対しては、建物退去と建物収去は性質が異なり、一部認容と解することはできないこと。
仮に一部認容と構成しうるとしても、本問では特段の事情があるということを示す。
さらに、詐害的訴訟追行による判決の騙取については、既判力が否定されうる(最判昭44・7・8)。
Yは解除を知っていたはずであり、これを秘して故意に判決を騙取したから、既判力が否定されること、等を示すことになると思われる。

民法について

今年度は、商法との融合問題だった。
もっとも、ほとんど分離しており融合という感じはしない。
内容的には、難しくはないが、書きにくい。
そのため、どのように書いていいか迷っている間に意外と時間をロスしやすい。
後に控える商法が厄介なだけに、ここを短時間で処理できるかが、重要なポイントだった。

設問1については、妥当な結論は明らかである。
重要なことは、何が原則で、何が例外かを示すことである。
意思表示の解釈は、表示を基礎にして客観的に行うものとするのが通説である。
そうすると、本問では、誤記された型番PS122が目的物となるのが原則である。
もっとも、それでは妥当な結論とはいえない。
そこで、当事者間において表示に付与された意味が一致している場合。
この場合は、客観的解釈とは異なる意味であっても、当事者間において一致した意味と解すべきである。
本問では、型番PS122の表示が型番PS112を示すことで両当事者が一致している。
従って、例外的に型番PS112が目的物となる。
そうすると、意思と表示に不一致はないから、錯誤は成立せず、誤記は契約の効力に影響しない。

設問1で大きな減点対象として予想されるのは、契約の成立と有効性の混同である。
契約の成立は、申込みと承諾の合致で足りる。
表示と意思の対応は、有効性の問題である。
これを混同して、錯誤がないから契約が成立する。
または、錯誤はあるが表意者に重過失があるから契約が成立する等の論述は、明らかに誤りである。
契約の成立を認定して、その後に別途錯誤の検討をしなければならない。

設問2は、即時取得の要件事実についての出題である。
(1)の@については、基づく引渡しの主張立証が必要であること。
Aについては、186条1項により善意が、188条により無過失の主張立証が不要となることを示す。
(2)のBについては、過失の評価根拠事実のうち、調査義務を基礎付けるものであること。
Cについては、過失の判断基準は引渡時であり、その後の事実は評価根拠事実足り得ないことを示すことになる。
これらは非常に基本的なものである。
そのため、気を抜いたり、理由づけを簡単に書いてしまったりしがちだ。
しかし、設問2は第2問の設問中最も配点が重く、48点(200×4.8÷20)が振られている。
従って、Cの時的要素を見落とすなどちょっとしたミスがあったり、理由づけが雑だと思わぬ差が付くところである。

設問3については、複数当事者間における契約解除後の処理が問われている。
考えられる法的根拠は一つだけでよいとされている。
この点は、様々な構成が考えられるところである。
そのうち、一つの考え方で筋を通して説明させたいという趣旨だろう。
一つに絞らせないと、あらゆる構成を並列的に列挙するような答案が出て来るからである。
従って、どの構成が正しいという論証は不要である。
自分の採った構成の根拠を簡単に示し、必要な要件を淡々とあてはめ、結論を出せばよい。
以下は、あり得そうな構成を、容易に思いつくものから順に示したものである。

1.解除の原状回復義務とする構成
 X社はXA間契約を解除した上で甲の返還を求めている。
 そこで、これを解除の原状回復請求と構成する考え方である。
 そして、原状回復については、受領時から利息を付すという特則がある(545条2項)。
 これとの均衡から、目的物の使用利益も引渡し時から請求できると考える。
 そうすると、本問の引渡し時である平成20年2月15日からの請求が可能ということになる。

2.不法行為構成。
 解除の遡及効によって、Y社は不法占有者となる。
 これが不法行為であり、使用料相当額が損害であるとする構成である。
 この場合、引渡しの時点(同年2月15日)又はA社に問い合わせた時点(同年同月20日)には過失を認めうる。
 そう考えると、上記時点からの請求が可能となる。

3.189条、190条による不当利得構成
 占有者の不当利得については、189条、190条に特則がある。
 そこで、これらの規定を適用して解決しようという構成である。
 善意であれば返還不要、悪意であれば返還を要する。
 そして、返還請求を受けた同年5月7日からは悪意であると考える。
 その場合、同日からの請求が可能である。
 なお、189条2項から、未だ本権の訴で敗訴していないY社は、善意であるとも考えうる。
 そうすると、返還はできないことになる。

4.給付利得類型による不当利得構成
 解除された契約の目的物の使用利益の償還請求は、不当利得である(最判昭34・9・22)。
 また、契約により給付された物につき返還を求めるケースであるから、給付利得の返還の場面である。
 そうすると、侵害利得の規定である189条及び190条は適用されない。
 そして、給付利得では契約当事者に契約に基づく給付がなかったと同一の財産状態を回復させるべきである(最判昭51・2・13)。
 すなわち、契約がなければ、甲の使用利益はX社が享受したはずである。
 それが、甲の引渡しによって、その後の使用利益はY社の享受するところとなった。
 従って、契約がなかった状態にするためには、Y社が引渡し後の使用利益をX社に返還しなければならない。
 よって、X社は引渡し時からの請求をなしうる。
 なお、売買の巻戻しの場面であるから、575条1項類推の余地もある。
 しかし、X社はA社から代金のごく一部(100万円)しか受け取っていないから、同条類推の基礎を欠いていると考えうる。

なお、A社がX社に振り出した約束手形は、「支払のために」(事実5)振り出されている。
従って、交付時点では原因関係たるA社の代金債務は消滅しない。
手形の交付(事実7)が代物弁済にならないか悩んだ人は、手形法の勉強が不足している。
地味ではあるが、手形法の知識も問われている。

商法について

形式上、民法との融合問題となっている。
しかし、民商で共通して登場するのはX社だけである。
また、民法の事案は商法では全く使わない。
従って、実質上は融合問題とはなっていない。

設問4は、合併契約の締結及びこれを承認する株主総会招集を阻止する会社法上の手段を説明させる問題である。
議題提案権(会社法303条)、議案提出権(304条)では、これらを阻止できない。
そこで、合併推進派取締役の解任を目的として総会招集し(297条1項)し、解任議案の否決を受けて解任の訴(854条)を提起する。
または、取締役の違法行為差止請求(360条)によって、合併の差止めを求める。
その上で、取締役(後者については合併に係る部分)の職務執行停止の仮処分の申立てをすることになる。
それぞれの条文を摘示して、要件をあてはめていけばよい。
その際、「法令」の意義につき、限定説を採ると独禁法違反の点は当然には法令違反とならないこと。
合併比率の不公正は一般に違法事由と解されていないこと、に注意すべきである。

設問5は、マイナー論点であるが、問題点はわかりやすい。
@については、委任状記載に反する代理投票の効力。
Aについては、書面投票と代理投票による二重投票の効力である。
もっとも、各論点で採った見解を本問にあてはめる際の計算が厄介である。
会社法の知識・理解とは、あまり関係ない設問にみえる。
事務処理能力を問うために敢えてこんな出題にしたのか。
出題の趣旨を注目したい。

@については、以下の4つの考え方があり得る。

1:委任状記載違反は、投票の効力に影響しない。
2:委任状記載違反の投票は無効である(出席株主議決権にも含まない)。
3:委任状記載違反の投票は、棄権と扱う(出席株主議決権に含む。結果的に反対票となる)。
4:委任状記載違反の投票は、委任状記載の投票として扱う。

合併契約の承認には特別決議を要する(309条2項12号)。
特別決議の決議要件は、行使可能議決権の過半数を有する株主の出席(定足数)。
及び、出席株主議決権の3分の2以上の多数の賛成である。
なお、書面投票分も出席議決権に含まれる(311条2項)。
本問では、発行済株式総数は100000個であるから、定足数は50001個である。
そうすると、本問において、各説からは以下のようになる。

1:出席株主議決権60050個、賛成40000個、反対20050個。
 →60050×2÷3≒40033.3であるから、承認の議決は成立しない。

2:出席株主議決権60000個、賛成40000個、反対20000個。
 →60000×2÷3=40000であるから、承認の議決が成立する。

3:出席株主議決権60050個、賛成40000個、反対20000個、棄権50個。
 →60050×2÷3≒40033.3であるから、承認の議決は成立しない。

4:出席株主議決権60050個、賛成40050個、反対20000個。
 →60050×2÷3≒40033.3であるから、承認の議決が成立する。

1説を採る場合、法的安定性を重視することになる。
2説を採る場合、無権代理であることを強調することになるだろう。
2説を基本としつつ、外形上代理人が出席し議決権行使がなされたことを重視すれば3説になるだろう。
委任状記載の株主意思を重視すべきで、通常確認も容易であることを重視すれば、4説になると思われる。

Aについては、以下の4つ考え方があり得る。

ア:二重投票は、無効である(出席株主議決権にも含まない)。
イ:二重投票は、棄権と扱う(出席株主議決権に含む。結果的に反対票となる)。
ウ:二重投票は、書面投票を優先する。
エ:二重投票は、代理投票を優先する。

本問において、各説からは以下のようになる。

ア:@の場合から、出席株主議決権が200個減少し、賛否それぞれ100個減少する。
 →@で1説の場合、59850×2÷3=39900、賛成票39900個となるから、承認の議決が成立する。
 →@で2説の場合、59800×2÷3≒39866.6、賛成票39900個となるから、承認の議決が成立する。
 →@で3説の場合、59850×2÷3=39900、賛成票39900個となるから、承認の議決が成立する。
 →@で4説の場合、59850×2÷3=39900、賛成票39950個となるから、承認の決議が成立する。

イ:@の場合から、出席株主議決権が100個減少し、賛否それぞれ100個減少し、棄権が100個増加する。
 →@で1説の場合、59950×2÷3≒39966.6、賛成票39900個となるから、承認の議決は成立しない。
 →@で2説の場合、59900×2÷3≒39933.3、賛成票39900個となるから、承認の議決は成立しない。
 →@で3説の場合、59950×2÷3≒39966.6、賛成票39900個となるから、承認の議決は成立しない。
 →@で4説の場合、59950×2÷3≒39966.6、賛成票39950個となるから、承認の決議は成立しない。

ウ:@の場合から、出席株主議決権が100個減少し、反対票が100個減少する。
 →@で1説の場合、59950×2÷3≒39966.6、賛成票40000個となるから、承認の議決が成立する。
 →@で2説の場合、59900×2÷3≒39933.3、賛成票40000個となるから、承認の議決が成立する。
 →@で3説の場合、59950×2÷3≒39966.6、賛成票40000個となるから、承認の議決が成立する。
 →@で4説の場合、59950×2÷3≒39966.6、賛成票40050個となるから、承認の決議が成立する。

エ:@の場合から、出席株主議決権が100個減少し、賛成票が100個減少する。
 →@で1説の場合、59950×2÷3≒39966.6、賛成票39900個となるから、承認の議決は成立しない。
 →@で2説の場合、59900×2÷3≒39933.3、賛成票39900個となるから、承認の議決は成立しない。
 →@で3説の場合、59950×2÷3≒39966.6、賛成票39900個となるから、承認の議決は成立しない。
 →@で4説の場合、59950×2÷3≒39966.6、賛成票39950個となるから、承認の決議は成立しない。

要するに、@でどの説を採っても、Aでア、ウ説を採れば可決。
イ、エ説を採れば否決となる。

1株1議決権の原則(308条1項)に反することを重視すると、ア説になる。
議決には参加しているが、賛否いずれとも決しがたいという趣旨と考えると、イ説になる。
本人が自ら書面投票した以上、代理人を介した意思表示よりも優先すべきと考えると、ウ説になる。
代理投票も代理人による議場での投票であり、事前の書面投票は代理人の投票により撤回されると考えると、エ説になる。
また、本問ではいずれの賛否も記載されていない。
このことから、基本的にウ・エ説に立ちつつも、本問ではア・イ説に立つということもありうるだろう。

なお、賛否の欄に記載が無い場合に、いずれかの意思表示とみなす方法は有効である(会社法施行規則66条1項2号)。

設問6は、旧司法試験平成14年度論文式商法第1問と類似する問題である。
効力発生前は、株主総会決議無効(830条2項)、または取消しの訴(831条)。
効力発生後は、吸収合併無効の訴(828条1項7号)ということになる。
株式買取請求(785条)は、合併の実現を阻止できないから、挙げるべきでない。

論点としては、合併比率の不公正が決議取消事由及び合併無効事由となるか(合併無効につき東京高判平2・1・31は否定)。
合併の効力発生後に合併承認決議の取消しの訴を提起できるか(千葉地判平14・4・12は否定)等がある。

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