平成21年度新司法試験論文式の感想(刑事系)

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刑法について

難問である。
前半(事実5まで)は、論理性。
後半(事実6以降)は、論点抽出能力を問うている。

前半部分では、主として200万円についての財産罪の成否が問題となる。
ここで注意すべきポイントは2つある。

一つは、検討する財産罪の客体。
すなわち、預金債権なのか、現金なのかということである。
預金債権については、少数説である事務的管理可能性説を採らない限り、財物性を認めることは困難である。
従って、通常は現金を客体として考えることになるはずである。
何の説明もなく、当然に預金債権に対する財産罪を認めることは、減点対象となるだろう。
また、預金債権を客体とするのであれば、Aの口座からBの口座への振込みは、預金債権を奪う行為である。
単に財産上の利益を得る行為ではない。
そうすると、電子計算機使用詐欺ではなく、窃盗になるはずである。
この辺りの一貫性がないと、予想外の減点になる可能性が高い。
「預金」を預金債権なのか、それに対応する現金なのかを意識していないと、論理矛盾を起こしやすい。

もう一つのポイントは、占有の帰属である。
いかなる占有の帰属が、誰にあるのか。
この点が一貫していないと、論理矛盾として大きく減点される可能性が高い。

一般に、他人の預金債権の引出権限を悪用した私的流用は横領とされる。
また、不正取得した通帳・カードを利用する場合、窓口で降ろせば1項詐欺。
窓口で自己の口座に振込めば2項詐欺。
ATMで降ろせば窃盗。
ATMで自己の口座に振り込めば電子計算機使用詐欺であるとされる。
しかし、本問では、何も考えずにこの結論を採ろうとすると、論理矛盾を起こしやすくなっている。

典型例は、事実上の占有を甲に認めたはずなのに、後になって実は銀行にあると書いてしまう場合である。
本問では、甲に業務上横領を認めたい。
そのため、甲に事実上の占有がある、と書いてしまいがちだ。
他方、乙のATMからの引出行為は、窃盗であるとしたい。
そのため、銀行に事実上の占有がある、と書いてしまいやすい。
しかし、これは矛盾である。
事実上の占有と法律上の占有を区別せず、甲に占有がある、銀行に占有がある、とする場合も同様である。

また、預金の占有については、誤振込みとの関係で、預金に対応する現金の事実上の占有は、預金の名義人にあるという考え方が有力である。
しかし、この説を採ると、Aの口座からBの口座への振込みは、事実上の占有の移転を伴うはずである。
従って、電子計算機使用詐欺ではなく、窃盗にならなければおかしい。
これを当然に電子計算機使用詐欺とすれば、論理矛盾となる。

最も自然な構成は、以下のようなものだろう。
まず、預金に関する財産罪の客体は現金であり、預金債権ではない。
そして、預金債権に対応する現金の事実上の占有は、これを管理する銀行にある。
他方、横領罪における占有は、濫用のおそれのある支配力すなわち法律上の占有を含む。
そして、預金に対応する現金については、その引出権限を与えられた者について、法律上の占有がある。
そうすると、甲が乙を利用して200万円をB口座に振り込ませる行為は業務上横領である。
乙に指示した時点で不法領得意思の発現とみることができるから、この時点で既遂となる。

乙が80万円をBの口座に振込む行為は、本来電子計算機使用詐欺である。
もっとも、すでに甲に業務上横領が成立している。
そして、上記振込みにより実質的に甲が得る利益は、上記横領のそれと対応している。
従って、当該80万円は既に甲によって領得されたものである。
ところで、電子計算機使用詐欺にいう「虚偽の情報」は、入金等の入力処理の原因となる経済的資金的実体を伴わないか、それと符合しない情報をいう(東京高判平5・6・29)。
本問では、既に甲が領得した80万円を、自ら管理するB社の口座に入金するという経済的資金的実体がある。
従って、乙がB社の口座についてする入金入力は、「虚偽の情報」に当たらない。
よって、電子計算機使用詐欺は成立しない。
また、乙が120万円を引き出した行為については、銀行の事実上の占有を侵害したものとして窃盗となる。
窓口でサラ金業者の口座に振り込んだ行為については、銀行との関係では不可罰的事後行為である。
もっとも、甲との関係においては、横領が問題となりうる。
この点は、違法原因給付(寄託)物の横領、使途を定められた現金の所有が問題となる。

なお、甲の指示についての乙の途中知情については、間接正犯における道具性の喪失の問題となりそうである。
この点は、間接正犯の未遂とする説、教唆との錯誤とする説などがある。
しかし、横領罪は着手と同時に既遂に至る。
従って、指示自体に間接正犯の着手があるとしつつ、その後既遂前に知情に至ったとの構成は無理である。
仮に、乙のATM操作時に着手を認めるとする。
その場合は、乙は最初から道具ではないから、横領の着手がないことになる。
もっとも、そこで教唆との錯誤や、故意ある幇助的道具を論じる余地はあるだろう。
また、業務上横領における身分と共犯が気になるが、共犯を認める余地はほとんどないだろう。
乙の行為は横領既遂後のことであり、意志の連絡もないからである。

その他、甲の横領を認めるにあたっては、背任との区別も問題となる。
形式的にみると、甲は預金引出権限を有するから、権限濫用にとどまるようにみえる。
しかし、委託の趣旨から絶対に認められない類型として、横領を認めるのが自然だろう。
また、乙が銀行に入る行為は、管理権説に立てば建造物侵入罪(130条)が成立しうるが、落としても問題ないだろう。

後半部分については、主として一連の強盗偽装行為が何罪を構成するかが問題である。
考えられるものとしては、犯人隠避(103条後段)、証拠偽造(104条)、虚偽申告(172条)、及び偽計業務妨害(233条後段)がある。

犯人隠避の実行行為は、蔵匿以外の方法により官憲の発見逮捕を免れしむるべき一切の行為である(大判昭5・9・18)。
従って、本問のような行為もこれにあたる。
あとは、自己隠避を含む場合の可罰性の肯否によって結論が分かれる。
なお、本問では未だ捜査が始まっていないが、その点は犯罪の成否に影響しない(最判昭28・10・2)。

証拠偽造については、供述が「証拠」に含まれるかを論じる。
肯定する場合には、自己の犯罪とも関係する場合の可罰性も問題となる。

虚偽告訴等の罪における「その他の申告」は、口頭によるものでよい(大判明42・4・27)。
もっとも、架空人を犯人とする申告もこれに含むか。
同罪の個人的法益としての側面を重視し、「人」に架空人は含まないと考えるのが一般だろう。

偽計業務妨害については、公務が業務に含まれるか。
権力的公務についても、偽計との関係では業務性を肯定しうるのではないか。
また、本罪は目的犯ではないが、人の業務を妨害するため他人の不知または錯誤を利用する意図が必要である(大阪高判昭29・11・12)。
そこで、本問の甲乙に警察官の業務を妨害する意図があるかも一応検討する余地がある。
専ら自己の犯行発覚を免れる意図に過ぎないとすることも、不可能ではない。
しかし、警察官の業務を妨害する意図も併有するとみるのが自然なように思われる。

あとは、上記各罪の罪数が問題となるが、1個の行為として観念的競合と考えるのが自然だろう。

その他、監禁罪との関係で、社会的相当性を欠く同意の処理が問題となる。
監禁罪における同意を社会的相当性に基づく違法性阻却事由と解する場合、本問では監禁罪成立を肯定することになる。

後半は、事実と論点とが1対1で対応していないのが特徴である。
一つの事実から複数の論点を抽出しなければならない。
そのため、論点落ちしやすく、難易度は高かったといえる。

刑訴法について

設問1は、写真撮影の適法性を問う問題である。
まず、本問の写真撮影は令状による捜索差押において、捜索場所にある物について行ったものである。
従って、全くの無令状で対象者の容貌を撮影したケースである京都府学連事件とは事案が異なる。

写真撮影は、視覚的記録であるから、五感の作用を用いて対象を観察する処分である。
従って、その法的性質は検証である(最判平2・6・27)。
そうである以上、原則として令状を要する(218条1項)。
捜索差押許可状に基づく捜索差押えにおける、捜索場所にある物についての写真撮影であっても、この原則は変わらない。
検証令状を具備せずに行った写真撮影について国賠法上の違法を認めたものとして、岐阜地判平18・2・27(ただし高裁で破棄)がある。

もっとも、捜索差押えの執行の際には、例外的に検証令状を要しない場合が二つあるとされる。
一つは、捜索差押えの執行の適法性を担保するため必要な場合。
例えば、令状呈示の場面を撮影して、適法に令状呈示がなされたことを記録する場合である。
もう一つは、押収対象物の証拠価値を保存するため必要な場合である。
当該物の執行当時の状態を撮影する場合である。
これらは捜索差押えに当然付随する処分として(東京地決平元・3・1、東京地判平4・7・24など、なお、上記最判平2・6・27藤島昭補足意見にも同旨の記述がある)、または「必要な処分」(222条1項・111条1項)として認められる。
本問では、各写真の撮影は執行の適法性担保に役立つとは思われない。
従って、押収対象物の証拠価値保存に必要な場合にあたるかが問題となる。
具体的には、当該物が令状記載の対象物件にあたるか。
撮影をすることが証拠価値保存に必要といえるか、を検討することになる。

写真1は、コンクリートの壁であり、形式的には対象物件に含まれない。
もっとも、「1/12△フトウ」の記載部分を「メモ」に含ませる余地はある。
そうすると、犯行時の日付・場所との一致部分から、「本件に関連する」といえ、対象物件にあたる。
また、壁は持ち帰ることはできず、記載部分は後から消される可能性もある。
従って、証拠価値保存に必要な場合にあたると考えることができる。

写真2のX銀行の預金通帳には、資料1の供述調書中の報酬の一部支払と符合する記載がある。
すなわち、平成21年1月14日現金30万円の出金印字とその右横の「→T.K」という書込みである。
このことから、「本件に関連する・・預金通帳」といえ、対象物件にあたる。
そして、書込みは鉛筆であり、消失のおそれがあるから、撮影は証拠価値保存に必要といえる。
もっとも、そのためには、撮影するのは上記記載の部分だけでよいはずである。
にもかかわらず、表紙及び印字されているすべてのページを写真撮影している。
従って、上記記載部分以外の撮影については、証拠価値保存に必要でないとして違法と考えることができる。
立会人Bの抗議は、上記結論を補強する事情となる。

写真3のY銀行の預金通帳は、X銀行の通帳ほど事件との関連性を示すものはない。
もっとも、不定期のカード出金があることから、全く関連が無いともいえない。
そのような物件について、差押えることなく、写真撮影のみすることができるか。
差し押さえてしまうよりも権利侵害性が低いと考えれば、肯定的に考えることになる。
差し押さえない以上は、その証拠価値を保存する必要もないはずだと考えれば、否定的に解することになる。

写真4の物品は、全て令状記載の対象物件にあたらない。
もっとも、パスポート、名刺及びはがきは共犯者乙の氏名の記載がある。
また、印鑑は、X・Y銀行の預金通帳の届出印と似ていた。
これらの物品がX・Y銀行の預金通帳と同じ引き出しの中に入っていた。
このことは、差し押さえたX銀行の預金通帳を乙が使っていた可能性を示唆するものといえる。
そうすると、X銀行の預金通帳の証拠価値を保存するものとして、写真撮影が許容されないか。
この点を検討することになる。

この論点は、メジャーなものではない。
従って、答案上は「必要な処分」(222条1項・111条1項)の一般的要件をあてはめることでよかっただろう。
すなわち、合理性や相当性、必要性などである。
その中で、証拠価値の保存という視点が出ていれば、評価されたものと思われる。

設問2は、伝聞法則を問う問題である。
伝聞法則は昨年度も出題されている。
しかし、刑法の財産罪同様、毎年出されてもおかしくないところである。

まず、実況見分調書であるから、作成者Pの真正作成供述を要する(321条3項準用、最判昭35・9・8)。
加えて、以下の2点を検討する必要がある。
一つは、甲が現場再現を行っている場面の写真(事実7第2段落前段)の証拠能力。
もう一つは、甲の再現供述部分(事実7第2段落後段)の証拠能力である。

ここで、要証事実が問題となる。
検察のいう立証趣旨は「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」である。
すなわち、仮に甲がこのような行為をすれば、本件車両は海中に沈みうる、という事実が要証事実である。
従って、甲が犯行当時このような行為をした、という事実を立証するものではない。
そうすると、現場再現写真は、甲に行わせた仮定の行為を説明するものということになる。
そして、再現供述部分については、上記仮定の行為をさせられた甲が、実況見分当時の状況を説明したものとなる。
すなわち、これらの部分は単なる補足説明であって、その内容の真実性は問題とならない。
実況見分当時、本当に甲が捜査に協力して現場再現写真に写った通りの行為を行ったのか否か。
または、実況見分当時、本当に甲の説明通りの状況だったのか。
そのようなことは、問題にならない。
そうだとすると、現場再現写真や再現供述部分は、非伝聞ということになる。

他方、弁護人が考えた立証趣旨は、「被告人が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」である。
すなわち、甲が犯行当時このような行為をした、という事実が要証事実である。
そうすると、犯行当時、本当に現場再現写真通りの行為を行ったのか。
犯行当時、本当に現場供述通りの状況だったのか。
その真実性を立証するものとなる。
そうである以上、現場再現写真や再現供述部分には、伝聞法則の適用がある。
従って、322条1項の要件を別途充たす必要がある。
なお、現場再現は言語によるものではないが、動作による供述と考えられる。
もっとも、現場再現の撮影の正確性は機械的に担保されているから、再現者(甲)に内容を確認させる必要が無い。
従って、322条1項の要件のうち、被告人(甲)の署名押印は不要である。

そして、裁判官は証拠調べに基づく評価を自由になし得る(318条、自由心証主義)。
従って、証拠調べ請求における立証趣旨に係る事実のみを認定しなければならないわけではない。
そして、犯行再現についての証拠調べの結果からは、再現者がそのような犯行を行ったという心証を形成するのが通常である。
従って、検察のいう立証趣旨に拘わらず、再現されたとおりの犯罪事実の存在が実質上の要証事実になると考えられる。
そうである以上、上記のように322条1項の要件を充足する必要がある。
現場再現写真については、甲の署名押印は不要であるから、任意性の疑いがなければ証拠能力を認めうる。
他方、再現供述部分については、甲の署名押印を欠くから、証拠能力は認められないことになる。

以上の結論については、判例がある(最判昭36・5・26最判平17・9・27)。
もっとも、判例はその理由をそれほど詳しく述べていない。
判例を知っていたとしても、伝聞法則の趣旨から丁寧に説明できなければ、評価はされないだろう。

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