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最高裁判所第三小法廷判決平成21年03月03日

【事案】

1.上告人が,被上告人に対し,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると,過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,その支払を求める事案。

2.被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号により法律の題名が貸金業法と改められた。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 上告人は,遅くとも昭和54年1月18日までに,被上告人との間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
 上告人と被上告人は,同日から平成18年10月3日までの間,本件基本契約に基づき,継続的な金銭消費貸借取引を行った(以下「本件取引」という。)。
 本件取引における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであり,本件基本契約は,過払金が発生した場合にはこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
 過払金充当合意に基づき,本件取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当した結果は,最終取引日である平成18年10月3日における過払金は633万2772円,同日までに発生した民法704条所定の利息は2万6026円である。
 上告人は,平成19年1月11日に本件訴えを提起した。被上告人は,平成9年1月10日以前の弁済によって発生した過払金に係る不当利得返還請求権については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。

3.原審は,前記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請求を375万9260円及びうち374万4000円に対する平成18年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で認容すべきものとした。
 過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)は,個々の弁済により過払金が生じる都度発生し,かつ,発生と同時に行使することができるから,その消滅時効は,個々の弁済の時点から進行するというべきである。
 上告人は,過払金返還請求権は,取引が終了した時点(本件においては平成18年10月3日)に確定し,その権利行使が可能になるから,上記時点を消滅時効の起算点と解すべきであると主張するが,借主は取引が終了するまで既発生の過払金の返還を請求できないわけではないから,上記主張は失当である。
 したがって,平成9年1月10日以前の弁済により発生した過払金返還請求権については,発生から10年の経過により消滅時効が完成した。同日以降の弁済により発生した過払金は,原判決別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」記載のとおり374万4000円であり,これに対する平成18年10月3日までに発生した民法704条所定の利息は1万5260円である。

【判旨】

1.過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金は同債務に充当されることになるのであって,借主が過払金返還請求権を行使することは通常想定されていないものというべきである。したがって,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。
 なお,借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから相当でない(最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁最高裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日第一小法廷判決・裁判集民事224号479頁参照)。
 したがって,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・裁判所時報1476号2頁参照)。

2.これを本件についてみるに,本件基本契約は過払金充当合意を含むものであり,本件において前記特段の事情があったことはうかがわれないから,本件取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は本件取引が終了した時点から進行するというべきである。そして,前記事実関係によれば,本件取引は平成18年10月3日まで行われていたというのであるから,上記消滅時効の期間が経過する前に本件訴えが提起されたことは明らかであり,上記消滅時効は完成していない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。

【田原睦夫反対意見要旨】

 私は,多数意見と異なり,過払金返還請求権の消滅時効は,その発生時から進行すると解すべきものであると考える。以下,その理由を敷衍する。

1.金銭消費貸借において,借主が利息制限法所定の利率を超える利息を支払った場合には,その過払金発生の都度,不当利得返還請求権が発生し,借主は,その発生と同時にその請求権を行使することができる。そのことは,金銭消費貸借にかかる基本契約において,過払金が発生した場合には,これをその後の新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものであっても同様であり,かかる合意の存在は,過払金返還請求権の行使において,法律上又は事実上何らの支障を生じさせるものではない。

2.明示の特約が定められていないにもかかわらず,過払金充当合意に過払金返還請求権の行使時期に関する合意まで含まれていると解することは,契約の合理的な意思解釈の限度を超えるものであり,契約当事者が契約締結時に通常予測していたであろう内容と全く異なる内容の合意の存在を認定するものであって,許されないものというべきである。また,過払金返還請求権は,法律上当然に発生する不当利得返還請求権であるところ,その精算に関する充当合意についてはともかく,その請求権の行使時期に関して予め合意することは,その債権の性質上,通常考えられないところである。

3.過払金返還請求権を行使すれば,貸主は,事実上新たな貸付けに応じなくなる蓋然性は高く,その結果,借主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることになると見込まれるが,そうであるからといって,借主に,行使することのできる過去の過払金返還請求権を留保させながら,なお継続的な金銭消費貸借契約に基づき新たな借入れをなすことができる地位を保持させることが,法的に保護するに値する利益であるとは考えられない。
 多数意見のように,取引終了時から時効が進行すると解すると,その取引開始時が数十年前であり,不当利得返還請求権の発生がその頃に遡るものであっても,その後取引が継続されている限り,取引終了時から過払金発生時に遡って不当利得返還請求権を行使することができることとなり,現に本件においては,訴提起時から27年余も以前の過払金の請求が認められることとなる。しかし,かかる事態は,商業帳簿の保存期間が10年であること(商法19条3項),時効制度が,長期間の権利の不行使にかかわらず,その行使を認めることが,かえって法的安定を害しかねないことをもその立法理由とする制度であること等,期間に関する他の諸制度と矛盾する結果を招来することとなり,当事者に予測外の結果をもたらすことになりかねない。
 多数意見のとおり,不当利得返還請求権の時効期間の始期が取引終了時になると解することになると,従来から金銭消費貸借にリボルビング方式を採用していた貸主は,その契約の始期が相当以前に遡るものについては,借主が新規の借入れをなした後に過去に遡って不当利得返還請求権を行使した場合には,新規の貸付金が10年以上前に生じたものを含む過払金と相殺充当されるほか,更に別途不当利得返還請求に応じなければならないこととなる可能性が存する以上,新規の融資に応じないこととなると見込まれるのであって,多数意見の解釈は,基本契約に基づいて長期間に亘って継続して融資を受けてきた借主が更に継続して融資を受けることを希望する場合の借主の利益に適うものとは必ずしも言えない。多数意見の解釈によって利益を得るのは,既に基本取引契約を終了したうえで,不当利得返還請求権を現に行使し,あるいは行使しようとしている一部の借主に限られるのであって,かかる借主の保護のために,契約の意思解釈の枠組みを著しく拡大することは妥当とは言えない。
 なお、多数意見は,最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日第三小法廷判決及び最高裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日第一小法廷判決を参照判決として引用する。
 しかし,上記各引用判決は,いわゆる自動継続特約付の定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効の起算点に関する判例であるが,自動継続定期預金契約における自動継続特約は,預金者から満期日における払戻請求がなされない限り当事者の何らの行為を要せずに満期日において払い戻すべき元金又は元利金について,前回と同一の預入期間の定期預金契約として継続させる内容であることが預金契約上明示されているのであって,本件の如き不当利得返還請求権の消滅時効期間の始期に関する契約の意思解釈に関する先例としては,適切を欠くものというべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年03月09日

【事案】

1.被告人Aが取締役としてその業務全般を統括していた被告会社は,平成16年11月8日,福島県二本松市内の土地に,DVD等の販売機(以下「本件機器」という。)を設置したが,本条例に定める届出を行わず,平成17年1月28日,本件機器に本条例が定める有害図書類であるDVD1枚を販売目的で収納した。
 本件機器は,上記の土地に設置された無人小屋に他の3台の図書類の販売機と並べて設置されており,小屋には扉もなく自由に出入りできる上,外壁には「無人24H」及びピンク色のハート型と「空間」という表示や,「最強超映像DX雑誌ビデオグッズ」と記載された看板が掲示されていた。
 小屋内にはセンサーがあり,客を感知すると,小屋内の壁3か所に設置された監視カメラが作動し,客の画像が,被告会社の委託を受けた株式会社Bの東京都練馬区内にある監視センターに設置されたモニターに送信される。監視センターには24台のモニターがあり,5名から10名の監視員が交代で,全国約300か所に設置された同様の無人小屋の監視に当たっていた。
 監視員が遵守すべきマニュアル等によれば,監視員は,モニター上の客の容ぼう等を見て,明らかに18歳以上の者であると判断すれば,販売機の電源を入れて販売可能な状態に置き,また,年齢に疑問がある場合には,運転免許証などの身分証明書を呈示するよう求める音声を流し,呈示された身分証明書の画像を確認して客との同一性及び18歳未満の者ではないことを確認できた場合には,同様に販売可能な状態に置くこととされていた。
 しかし,監視センターのモニター画面では,必ずしも客の容ぼう等を正確に判定できるとはいえない状態にあった上,客が立て込んだ時などには18歳未満かどうか判定が困難な場合でも購入可能なように操作することがあった。

2.福島県青少年健全育成条例(以下「本条例」という。)は,18歳未満の者(婚姻により成年に達したものとみなされる者を除く。)を「青少年」と定義した上で(14条1号),「青少年の健全な育成を阻害する行為を規制し,もって青少年の健全な育成を図る」ことを目的とし(1条),その内容が著しく青少年の性的感情を刺激しその健全な育成を阻害するおそれのあるものと知事が指定した図書等の本条例所定の「有害図書類」を青少年に販売すること等を規制している。本条例では,「自動販売機等」を「販売又は貸付けの業務に従事する者と客とが直接対面する方法によらずに販売又は貸付けを行うことができる設備を有する機器」と定義し(16条1項),図書類の販売等を業とする者は,その設置する自動販売機等に,有害図書類を販売又は貸付けの目的で収納してはならないとし(21条1項),その違反者は6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処するなどと定め(34条2項,35条),また,自動販売機等を設置する場合には,設置場所,販売する図書の種類等を知事に届け出なければならないとしている(20条の3)。

3.原判決は,本件機器は本条例にいう「自動販売機」に当たり,これに有害図書類であるDVDを収納した行為は,本条例21条1項,34条2項,35条に当たるとした。

【判旨】

1.所論は,本件機器は,対面販売の実質を有しているので,本条例にいう「自動販売機」に当たらない旨主張する。しかしながら,上記の事実関係によれば,本件機器が対面販売の実質を有しているということはできず,本件機器が客と対面する方法によらずに販売を行うことができる設備を有する機器である以上,「自動販売機」に該当することは明らかである。

2.所論は,監視センターにおける操作などにより,客が18歳未満でないことを監視して確認できる機器まで規制するのは,憲法21条1項,22条1項,31条に違反する旨主張する。
 本条例の定めるような有害図書類が,一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼすなどして,青少年の健全な育成に有害であることは社会共通の認識であり,これを青少年に販売することには弊害があるということができる。自動販売機によってこのような有害図書類を販売することは,売手と対面しないため心理的に購入が容易であること,昼夜を問わず販売が行われて購入が可能となる上,どこにでも容易に設置でき,本件のように周囲の人目に付かない場所に設置されることによって,一層心理的規制が働きにくくなると認められることなどの点において,書店等における対面販売よりもその弊害が大きいといわざるを得ない。本件のような監視機能を備えた販売機であっても,その監視及び販売の態勢等からすれば,監視のための機器の操作者において外部の目にさらされていないために18歳未満の者に販売しないという動機付けが働きにくいといった問題があるなど,青少年に有害図書類が販売されないことが担保されているとはいえない。以上の点からすれば,本件機器を含めて自動販売機に有害図書類を収納することを禁止する必要性が高いということができる。その結果,青少年以外の者に対する関係においても,有害図書類の流通を幾分制約することにはなるが,それらの者に対しては,書店等における販売等が自由にできることからすれば,有害図書類の「自動販売機」への収納を禁止し,その違反に対し刑罰を科すことは,青少年の健全な育成を阻害する有害な環境を浄化するための必要やむを得ないものであって,憲法21条1項,22条1項,31条に違反するものではない。このように解することができることは,当裁判所の判例(昭和28年(あ)第1713号同32年3月13日大法廷判決・刑集11巻3号997頁昭和39年(あ)第305号同44年10月15日大法廷判決・刑集23巻10号1239頁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁昭和57年(あ)第621号同60年10月23日大法廷判決・刑集39巻6号413頁)の趣旨に徴し明らかである(最高裁昭和62年(あ)第1462号平成元年9月19日第三小法廷判決・刑集43巻8号785頁参照)。なお,上記のとおり,本件機器は「自動販売機」に該当するのであるから,本件機器に上記規制を適用しても憲法の上記各条項に違反しないことは明らかというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成21年03月10日

【事案】

1.駐車場の所有者である上告人が,駐車中の自動車について,同自動車の購入代金を立替払して同自動車の所有権を留保している被上告人に対し,土地所有権に基づき,同自動車の撤去と駐車場の明渡しを求めるとともに,駐車場の使用料相当損害金の支払を求める事案。

2.事実関係の概要

(1) 上告人は,平成15年10月29日,Aに対し,原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を,原判決別紙車両目録記載の自動車(以下「本件車両」という。)の駐車場として使用する目的で,賃料を月額5000円として貸し渡した(以下,この契約を「本件賃貸借契約」という。)。

(2) Aと被上告人は,平成15年11月22日,Aが自動車販売店から購入する本件車両の代金を被上告人が立替払すること等を内容とするオートローン契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結した。本件立替払契約の要旨は,@被上告人は,本件車両の代金を立替払し,Aは,被上告人に対し,上記立替払により発生する債務(以下「本件立替金債務」という。)を頭金のほか60回に分割して支払う,A 本件車両の所有権は,自動車販売店から被上告人に移転し,Aが本件立替金債務を完済するまで同債務の担保として被上告人に留保される,B Aは,自動車販売店から本件車両の引渡しを受け,善良な管理者の注意をもって本件車両を管理し,本件車両の改造等をしない,C Aは,本件立替金債務について,分割金の支払を怠って被上告人から催告を受けたにもかかわらずこれを支払わなかったとき,強制執行の申立てのあったときなどは,当然に期限の利益を喪失し,残債務全額を直ちに支払う,D Aは,期限の利益を喪失したときは,事由のいかんを問わず,被上告人からの同人が留保している所有権に基づく本件車両の引渡請求に異議なく同意する,E 被上告人がAから本件車両の引渡しを受けてこれを公正な機関に基づく評価額をもって売却したときは,売却額をもって本件立替金債務の弁済に充当するというものであった。

(3) Aは,原審口頭弁論終結時まで,本件立替払契約上の分割金の不払を続けている。

(4) Aは,本件賃貸借契約に基づく平成16年12月分以降の賃料を支払わなかった。上告人は,平成18年4月27日付けで本件賃貸借契約を解除する意思表示をし(同年5月10日到達),同年12月19日,Aに対して本件賃貸借契約に基づく未払賃料等の支払を命ずる確定判決に基づき,Aの給料債権等を差し押さえた。

(5) 本件賃貸借契約終了後も,本件土地上には本件車両が駐車されている。

3.原審は,被上告人は本件立替金債務を担保するために本件車両の所有権を留保したものであって,被上告人が有するのは,通常の所有権ではなく,実質的には担保権の性質を有するものにすぎないから,被上告人は所有者として本件車両を撤去して本件土地を明け渡す義務を負わないと判断し,上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。

【判旨】

1.本件立替払契約によれば,被上告人が本件車両の代金を立替払することによって取得する本件車両の所有権は,本件立替金債務が完済されるまで同債務の担保として被上告人に留保されているところ,被上告人は,Aが本件立替金債務について期限の利益を喪失しない限り,本件車両を占有,使用する権原を有しないが,Aが期限の利益を喪失して残債務全額の弁済期が経過したときは,Aから本件車両の引渡しを受け,これを売却してその代金を残債務の弁済に充当することができることになる。
 動産の購入代金を立替払する者が立替金債務が完済されるまで同債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において,所有権を留保した者(以下,「留保所有権者」といい,留保所有権者の有する所有権を「留保所有権」という。)の有する権原が,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期(以下「残債務弁済期」という。)の到来の前後で上記のように異なるときは,留保所有権者は,残債務弁済期が到来するまでは,当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても,特段の事情がない限り,当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが,残債務弁済期が経過した後は,留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはないと解するのが相当である。なぜなら,上記のような留保所有権者が有する留保所有権は,原則として,残債務弁済期が到来するまでは,当該動産の交換価値を把握するにとどまるが,残債務弁済期の経過後は,当該動産を占有し,処分することができる権能を有するものと解されるからである。もっとも,残債務弁済期の経過後であっても,留保所有権者は,原則として,当該動産が第三者の土地所有権の行使を妨害している事実を知らなければ不法行為責任を問われることはなく,上記妨害の事実を告げられるなどしてこれを知ったときに不法行為責任を負うと解するのが相当である。

2.そうすると,本件立替金債務について,その残債務全額の弁済期が経過したか否かなどを検討することなく,上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,同違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記の点等について,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成21年03月10日

【事案】

1.Aの株主である上告人が,Aの買い受けた土地について,同社の取締役である被上告人に所有権移転登記がされているなどと主張して,被上告人に対し,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下,単に「商法」という。)267条1項(現会社法847条1項)の規定に基づき,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める株主代表訴訟。

2.上告人は,第1審判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)は,いずれもAが第三者から買い受けてその所有権を取得したものであるが,Aではなく被上告人への所有権移転登記がされていると主張し,被上告人に対し,@主位的には,Aの取得した本件各土地の所有権に基づき,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求め,A予備的には,Aは,本件各土地の買受けに当たり,取締役である被上告人に対し,本件各土地の所有名義を被上告人とする所有権移転登記手続を委託し,被上告人との間で期限の定めのない被上告人所有名義の借用契約を締結していたが,遅くとも本件訴状が被上告人に送達された時までには上記借用契約は終了したとして,上記契約の終了に基づき,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めている。

3.原審は,次のとおり判断して,本件訴えをいずれも却下した。
 株主代表訴訟は,商法が,株主総会の権限を限定し,取締役の権限を広範なものとするとともに,取締役の特定の行為について,取締役に対し,会社と取締役との間の委任契約に基づく善管注意義務による責任を超えて厳格化,定型化された特別の責任を負わせていることを受けて,その責任の履行を確実なものとし,株主の地位を保護するために設けられたものと理解される制度である。そうすると,株主代表訴訟によって追及することのできる取締役の責任は,商法266条1項各号(現会社法120条4項、423条1項3項、462条1項6号)所定の責任など,商法が取締役の地位に基づいて取締役に負わせている厳格な責任(以下「取締役の地位に基づく責任」という。)を指すものと理解すべきであり,取締役がその地位に基づかないで会社に負っている責任を含まないと解することが相当である。
 したがって,本件訴えは,いずれも株主代表訴訟の対象とはならない取締役の責任を追及するもので,不適法といわざるを得ない。

【判旨】

1.(1) 昭和25年法律第167号により導入された商法267条所定の株主代表訴訟の制度は,取締役が会社に対して責任を負う場合,役員相互間の特殊な関係から会社による取締役の責任追及が行われないおそれがあるので,会社や株主の利益を保護するため,会社が取締役の責任追及の訴えを提起しないときは,株主が同訴えを提起することができることとしたものと解される。そして,会社が取締役の責任追及をけ怠するおそれがあるのは,取締役の地位に基づく責任が追及される場合に限られないこと,同法266条1項3号は,取締役が会社を代表して他の取締役に金銭を貸し付け,その弁済がされないときは,会社を代表した取締役が会社に対し連帯して責任を負う旨定めているところ,株主代表訴訟の対象が取締役の地位に基づく責任に限られるとすると,会社を代表した取締役の責任は株主代表訴訟の対象となるが,同取締役の責任よりも重いというべき貸付けを受けた取締役の取引上の債務についての責任は株主代表訴訟の対象とならないことになり,均衡を欠くこと,取締役は,このような会社との取引によって負担することになった債務(以下「取締役の会社に対する取引債務」という。)についても,会社に対して忠実に履行すべき義務を負うと解されることなどにかんがみると,同法267条1項にいう「取締役ノ責任」には,取締役の地位に基づく責任のほか,取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると,上告人の主位的請求は,Aの取得した本件各土地の所有権に基づき,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めるものであって,取締役の地位に基づく責任を追及するものでも,取締役の会社に対する取引債務についての責任を追及するものでもないから,上記請求に係る訴えを却下した原審の判断は,結論において是認することができる。
 これに対し,上告人の予備的請求は,本件各土地につき,Aとその取締役である被上告人との間で締結された被上告人所有名義の借用契約の終了に基づき,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めるものであるから,取締役の会社に対する取引債務についての責任を追及するものということができる。そうすると,予備的請求に係る訴えは,株主代表訴訟として適法なものというべきである。これと異なる原審の判断には法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

2.以上によれば,論旨は上記の限度で理由があり,上告人の主位的請求に関する上告は棄却すべきであるが,原判決のうち予備的請求に関する部分は破棄を免れない。そして,予備的請求の本案について更に審理を尽くさせるため,上記の部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成21年03月16日

【事案】

1.被告人は,防衛庁(当時)技官に任命され,平成4年6月30日から,防衛庁調達実施本部の契約原価計算第一担当副本部長として調達実施本部長を助け,担当部務である調達実施本部契約第一課,輸入課,原価管理課及び原価計算第一課の所掌事務を整理するとともに,調達実施本部の分任支出負担行為担当官及び契約等担当職員として,法令又は予算の定めるところに従い,装備品の製造請負契約締結等の事務を担当していたものである。その在職中,@平成6年4月8日ころ,A社の官公営業担当常務取締役(同年6月から専務取締役)であったB及び同社の官公企画室長(同年7月から官公企画室・防衛営業担当支配人)であったCから,調達実施本部等とD社(A社の関連会社)との間で過去に締結した味方識別装置等の製造請負契約について,契約金額の算定根拠となる工数の過大申告等によりD社が過払いを受けていたため,調達実施本部が契約金額を修正して過払い相当額をD社から国に返還させるに当たり,上記修正すべき金額として許容される上限を変更して国に返還させるべき金額を過少に確定してもらいたいなどと請託を受けて,被告人及び調達実施本部長Eの保身並びにD社の利益を図るとともに,D社から調達実施本部の退職者に顧問料等名下の金員の提供を受けさせる目的をもって,会計法,国の債権の管理等に関する法律,予算決算及び会計令,調達物品等の予定価格の算定基準に関する訓令等に反し,平成6年6月27日ころ及び平成7年3月24日ころの2回にわたり,国に返還させるべき金額を過少に確定させ,当該金額の返還方法についても,現年度歳入への一括組入れの方法によることなく,平成6年度までに締結されて履行未了である味方識別装置等の製造請負契約の契約金額から均等割合で減額する方法等により順次返還させる旨の契約をD社との間で締結して,D社をして本来国に返還すべき金額と過少に確定させた金額との差額21億1707万7000円の返還を免れさせて国に同額の損害を加えた。Aさらに,平成7年6月9日ころ,A社のB及びCから,調達実施本部等とF社(A社の子会社)との間で過去に締結した暗号装置等の製造請負契約についても,前同様に工数の過大申告等によりF社が不正に過払いを受けていたため,調達実施本部が契約金額を修正して過払い相当額をF社から国に返還させるに当たり,前同様,国に返還させるべき金額を過少に確定してもらいたいなどと請託を受けて,被告人及びEの保身並びにF社の利益を図るなどの目的をもって,前同様,会計法等に反し,平成7年6月23日ころ,国に返還させるべき金額を過少に確定させ,当該金額の返還方法についても,現年度歳入への一括組入れの方法によることなく,平成7年度までに締結されて履行未了である暗号装置等の製造請負契約の契約金額から均等割合で減額する方法等により順次返還させる旨の契約をF社との間で締結して,F社をして本来国に返還すべき金額と過少に確定させた金額との差額14億2304万5000円の返還を免れさせて国に同額の損害を加えた。

2.被告人は,前記各行為によりA社と密接な関連を有するD社及びF社の便宜を図った後の平成7年6月26日に防衛庁の退職を承認され,その翌月,実質的にA社が株主総会議決権の半数を支配し,人事においてもA社の影響力が強いG社の非常勤の顧問に就任したが,その経緯は,次のとおりであった。すなわち,当時防衛庁の退職者については,所属機関からのあっせんにより再就職するのが慣例となっており,被告人に対しても,平成7年2月ころ,勧奨退職の打診があるとともに,通例どおり,再就職先のあっせんがなされたが,被告人は,当該あっせんに係る再就職先だけでは収入が不足であるなどとして,G社の顧問にも併せて就任し,同社からも報酬を得ることを希望した。しかるに,同社は,設立されたばかりで,いまだ収益を上げておらず,当時は非常勤取締役に対しても報酬を支給していなかったが,同社の代表取締役Hは,被告人に対して請託をしたA社のB及びCにおいて,被告人には前記@のD社の件も含めて世話になっていたから被告人の希望を受け入れることはやむを得ないとの考えであったため,その意向に沿い,被告人を非常勤の顧問として受け入れ,報酬を支給することとした。その後,前記AのF社の件が発覚し,B,C及びHは,そのころこれを知り,特にB及びCは,その事後処理をしてもらうためにも,ますます被告人をG社の非常勤の顧問として受け入れざるを得ない事態になったと認識し,引き続き,被告人の顧問受入れのための手続を進めた。そして,被告人は,防衛庁を退職後,G社から,顧問料として,年間240万円の割合で,平成7年7月26日ころから平成9年12月26日ころまでの間,前後30回にわたり,合計538万5000円の供与を受けた。同社の非常勤の顧問であった上記の期間,被告人は,同社において,自分専用の部屋や机はなかったものの,おおむね月2回程度それぞれ1ないし3時間の出社をし,その間に部長会議に出席するなどしていたものである。

【判旨】

 所論は,上記顧問料としての報酬は,調達実施本部退職者に対し,当時慣例として行われていた手続によるものであり,被告人は,就任後その職務を遂行しているから,正当な報酬であって,賄賂性がない旨主張する。
 しかしながら,前記の事実関係のとおり,被告人は,調達実施本部在職中に,A社のB及びCから請託を受けて,A社の関連会社及び子会社の各水増し請求事案の事後処理として,それぞれこれらの会社が国に返還すべき金額を過少に確定させるなどの便宜を図り,その会社の利益を図るとともに国に巨額の損害を加えたものであるところ,被告人のこれらの行為は,いずれも被告人の前記調達実施本部契約原価計算第一担当副本部長等としての任務に背くものであり,背任罪を構成するとともに,職務上不正な行為に当たることが明らかである。そして,その後の間もない時期に,A社のB及びC並びにA社の関連会社であるG社の代表取締役Hにおいて,前記水増し請求の事案の事後処理で世話になっていたなどの理由から,被告人の希望に応ずる形で,当時の同社においては異例な報酬付与の条件等の下で,防衛庁を退職した被告人を同社の非常勤の顧問に受け入れ,被告人は,顧問料として前記金員の供与を受けることとなったものである。このような事実からすれば,被告人に供与された前記金員については,被告人にG社の顧問としての実態が全くなかったとはいえないとしても,前記各不正な行為との間に対価関係があるというべきである。原判決がこれと同旨の判断に立ち,事後収賄罪の成立を認めたのは,正当である。

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