平成20年度旧司法試験論文出題趣旨刑訴法検討

平成20年度の旧司法試験論文式試験出題趣旨のうち、今回は刑訴法について検討する。

【第1問問題】

 警察官は,甲に対する覚せい剤所持被疑事件に関し,「甲が宿泊中のホテルの客室」を捜索場所,「覚せい剤」等を差し押さえるべき物とする捜索差押許可状の発付を受け,同客室に赴いた。証拠が隠滅されることをおそれた警察官は,ホテルの支配人に協力を求めてマスターキーを借り受け,来意を告げることなく,マスターキーでドアを開錠し,同客室内に立ち入った。すると,在室していた甲が,ビニール袋に入った覚せい剤を持ってトイレに駆け込もうとしたので,警察官は,甲を制止して持っていた覚せい剤を取り上げ,その後,甲に捜索差押許可状を示した上,同覚せい剤を差し押さえ,引き続き同客室内の捜索を実施した。
 同客室内には甲の知人らしき乙が居合わせており,同人がボストンバッグを携帯していたことから,警察官は乙に同バッグの任意提出を求めた。しかし,乙がこれを拒否し同バッグを抱え込むような態度をとったため,警察官は,乙の抵抗を排除して同バッグを取り上げ,その中を捜索したところ,ビニール袋に入った覚せい剤を発見したので,これを差し押さえた。
 以上の警察官の行為は適法か。

【出題趣旨】

 本問は,場所に対する捜索差押令状を執行する場面を題材として,令状執行の実効性を確保するためにどのような措置が許されるか,捜索場所に居合わせた者の携帯品に対する捜索差押えは許されるかなどを問うことにより,捜索差押令状の執行方法,令状による捜索・差押えの効力が及ぶ範囲とその根拠について,基本的知識の有無と具体的事案に対する応用力を試すものである。

前半部分の論点抽出で差が付いた

第1問の出題趣旨自体は、全く意外性はない。
予想された論点を挙げているだけである。
もっとも、「令状執行の実効性を確保するためにどのような措置が許されるか」という点。
この点には、後述のように、実際には二つの論点が含まれていたと理解すべきである。

刑訴法でまず最初に差が付くのは、書き方である。
趣旨→原則論→不都合性→例外論といった流れで書けているか。
論点は拾っていても、このような書き方ができていないと、評価が伸びない。

もっとも、近年は予備校の論証例や解答例もそういう体裁になっている。
そのため、多くの受験生がこの点はできて当たり前という感じだ。
今年度も、ある程度以上の実力者になると、この点では差が付かなくなっている。

差が付いたのは、前半部分の論点抽出の適切さである。
前半部分の論点は二つ。
一つは、来意を告げずに開錠して立入った点。
もう一つは、令状呈示前に覚せい剤を取り上げた点である。
これをうまく整理できていない答案が評価を下げていた。
上記二つを一つにまとめて論じてしまっているもの。
または、来意不告知のみを論点としてとりあげ、開錠については触れていないもの。
令状呈示の時期の問題ではなく、単なる有形力の行使の問題や、所持品検査などとしてしまっているもの。
これらの答案は、書いている内容がそれ相応のものであっても、評価を下げている。
論点落ちと評価されたようである。

新判例問題における論点抽出

この部分は、最決平14・10・4が素材となっている。
この判例は、上記論点を分けている。
また、来意不告知自体を取り上げて論じてはいない。

(最決平14・10・4より引用、下線は筆者)

 警察官らは,被疑者に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき,被疑者が宿泊しているホテル客室に対する捜索差押許可状を被疑者在室時に執行することとしたが,捜索差押許可状執行の動きを察知されれば,覚せい剤事犯の前科もある被疑者において,直ちに覚せい剤を洗面所に流すなど短時間のうちに差押対象物件を破棄隠匿するおそれがあったため,ホテルの支配人からマスターキーを借り受けた上,来意を告げることなく,施錠された上記客室のドアをマスターキーで開けて室内に入り,その後直ちに被疑者に捜索差押許可状を呈示して捜索及び差押えを実施したことが認められる。
 以上のような事実関係の下においては,捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らがホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は,捜索差押えの実効性を確保するために必要であり,社会通念上相当な態様で行われていると認められるから,刑訴法222条1項,111条1項に基づく処分として許容される。また,同法222条1項,110条による捜索差押許可状の呈示は,手続の公正を担保するとともに,処分を受ける者の人権に配慮する趣旨に出たものであるから,令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきであるが,前記事情の下においては,警察官らが令状の執行に着手して入室した上その直後に呈示を行うことは,法意にもとるものではなく,捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないところであって,適法というべきである

(引用終わり)

この判例の知識があれば、論点の整理を誤る危険は少ない。
本問において、論点の立て方自体は、理論上判例の構成以外でも当然考えうるだろう。
しかし、その他の構成は、採点者に論点落ちとされてしまう傾向にある。
従って、判例で取り上げられた論点を中心に構成すべきである。
そのためには、近時の判例の知識を得ておかなくてはならない。
この種の最新判例を素材にした問題は、とりわけ刑訴に多い。
これは、新試験にもいえることである。

もっとも、本試験と判例とは、似ていても事案が異なる場合がほとんどである。
従って、判例と同じことを書いていればいいということではない。
これまでの傾向からすると、論点は判例と同じでよい。
ただ、理由づけ・結論をそのまま使えるか難しい、という場合が多い。
従って、判例で問題となった主要な論点は、不要であることが明らかでない限り書く。
しかし、判例と同じ理由づけ・結論が妥当するか。
その点に重点を置いて、現場で考えることになる。

受験生の思考はむしろ逆であることが多い。
判例の論点を挙げるべきかどうか、本問では要らないのではないか。
これはひっかけで、判例解説にあったあの論点を書くべきではないか。
そういうことに時間を投入してしまいがちだ。
そして、判例の論点を書くと決めたら、判例の理由づけでそのまま論じてしまう。
または、判例の論点を落とし、問われていない問題意識を論じてしまう。
そういう思考の仕方は、出題趣旨から外れやすい。

本問では、とりあえず論点抽出が適切であれば、上位になっている感じだ。
理由づけやあてはめにおいては、それほど差が付いている感じがしない。
また、本問の場合は判例の理由づけそのままでも、それほど問題の無い事例だった。
ただ、これは今年度がたまたまそうだったに過ぎない。
論点抽出で差が付かないときは、ここの部分で差が付くことになる。

基本論点軽視は危険

なお、本問後半部分(捜索場所に居合わせた者の携帯品に対する捜索差押え)は、論証例の存在する論点である。
それをそのまま書けば足りた。
逆に言えば、それができていないと、評価を下げる。
論証を覚える作業は、最近やや軽視されている。
しかし、手を抜くと、こういうところで思わぬ差を付けられることになる。
地道な作業は、必要である。

 

【第2問問題】

 被告人甲は,Aと路上で口論の末,その場を立ち去ろうとしたAを背後から手で突き飛ばし,その場に転倒させ負傷させたとして,傷害罪で起訴された。これに対して,甲は,「Aと口論をしたが,Aに対して暴行は加えておらず,その場から立ち去ろうとしたAがつまずいて転んだにすぎない。」旨弁解している。
 公判廷で,証人Bが,「甲とAが口論しており,その場を立ち去ろうとしたAが,自分で勝手につまずいて転倒したのを私は見た。」旨,目撃状況を証言した。これに対して,検察官が,その証明力を争うために,捜査段階で得られた次のような証拠の取調べを請求した場合,裁判所は,証拠として採用することができるか。

 1  Bと同様に現場を目撃したCが行った,「甲がAを背後から手で突き飛ばし,Aが転倒したのを私は見た。」旨の供述を録取した警察官作成の書面で,Cの署名押印のあるもの

 2  Bが行った,「甲がAを背後から手で突き飛ばし,Aが転倒したのを私は見た。」との供述を聞き取った旨の記載のある警察官作成の捜査報告書で,警察官の署名押印はあるが,Bの署名押印はないもの

 3  2と同内容のBの供述を警察官が録音した録音テープ

【出題趣旨】

 本問は,公判廷における証人の犯行目撃状況に関する証言について,捜査段階で得られた3つの矛盾供述を題材として,法328条で許容される弾劾証拠の範囲を問うことで,伝聞法則の基本的な理解及び同条についての基本的知識の有無と具体的事案に対する応用力を試すものである。

伝聞法則関係の用語のミス

第2問の出題趣旨も、それ自体驚くような内容は無い。

ただ、「基本的知識」との関係で気になったのは、伝聞法則関係の用語のミスである。
まず、知覚、記憶、表現・叙述の各過程に虚偽が混入しやすいのは、供述証拠一般にいえることである。
これは、伝聞証拠特有の性質ではない。
「伝聞証拠は知覚、記憶、表現・叙述の各過程に虚偽が入りやすいから証拠能力が否定される」とするのは、不正確である。
伝聞証拠の証拠能力が否定される直接的な理由は、反対尋問等で信用性をテストする機会が無い点である。
その点を落とすと、伝聞法則の理解を疑われる。

また、答案の冒頭で「本問の書面は伝聞証拠にあたる」と断定するものが目に付いた。
そして、「328条は非伝聞の場合を注意的に定めている」等と普通に論証している。
非伝聞とは、伝聞証拠にあたりそうだが、要証事実との関係を考慮すると伝聞証拠にあたらない場合である。
そのことからすると、上記答案は、非伝聞が伝聞証拠に当たらない場合であることをわかっていないと思われる危険がある。

それから、伝聞例外とは、伝聞証拠にあたるが証拠にできる場合である。
限定説に立って「328条は伝聞例外を注意的に定めた」とするものは、誤りである。

もっとも、本問に限っては、上記のようなミスは、評価に直結している感じはしなかった。
上記で挙げたミスがあっても、後述のポイントが書けていれば、Aになっているようだ。
しかし、場合によっては「基本的知識」の欠落として予想外の減点になるおそれもある。
伝聞法則は頻出なので、この辺りは気をつけたい。

ポイントは商法、民訴と同様

差が付いたポイントは、基本的に商法、民訴と同様である。
すなわち、趣旨から説明できているかである。

まず、小問1については、伝聞法則の趣旨から328条の弾劾証拠の範囲を説明しているか。
単に自己矛盾供述に限らないと伝聞法則の趣旨が没却されるから。
または、自己矛盾供述だとどちらかが虚偽だとわかるから、というだけでは不十分だった。
なぜ、要証事実との関係で伝聞法則の適用の肯否が決まるのか。
自己矛盾供述だと、なぜ内容の真実性が問題とならないのか。
そういった点を意識して論述してあることが必要だった。

小問2及び3については、伝聞法則の趣旨から署名押印の趣旨を説明する。
そして、それを踏まえて結論が出せていれば、良い評価になっているようである。
この点は比較的多くの答案ができていた。
従って、差が付いたのは、むしろ小問1だったように思われる。
小問1があまりに典型だったため、説明が雑になった人は多かったようだ。
そういう答案は、評価を下げている。
第1問でも触れたが、典型論点を軽視するのは危険である。
論点の少ない本問では、コンパクトさよりも趣旨から書くことを優先すべきだった。

あと、評価が低い答案の特徴は、余事記載が多いということがある。
例えば、321条1項3号の検討や「争う」の意義(増強・回復を含むか)などである。
これらを1ページ以上論じているようでは、Aにはならない、という感じである。
本問は、最判平18・11・7を知らないと、論点に気付きにくい。
そのため、何を書いていいか分からず、思いついたものを列挙してしまう。
そういう事態に陥らないためにも、近時の判例はある程度フォローしておきたいところだ。

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