平成21年度旧司法試験論文式試験の感想
(商法・刑法)

商法について

第1問は、難問である。
問題文にヒントが少なく、気付かなければ白紙になりかねない。
民法第2問と同様、解きにくい問題であったといえる。

1については、事業に関する権利義務の一部についての吸収分割。
2については、事業の一部の現物出資ということになるだろう。

A工場の評価額やY社が受ける株式数は、設問2において有利発行との関係で使うことになる。
5億円÷60万株≒1株あたり833円。
これを1株あたりのX社株式の価値1000円と比較して、特に有利な金額(199条3項)にあたるのか。
当たる場合は、特別決議を要することになる(201条1項、309条2項5号)。
この点は、昨年度も問われた論点である。
ただ、本問の場合は、事案が異なる。
本問では、X社は取引所上場の会社かどうか不明である。
そして、問題文は1株あたりのX社の株式価値を、以下のように計算している。

純資産額20億円÷発行済株式総数200万株=1株当たり株式価値1000円。

当初、X社の希望では、Y社に交付されるX社株式は50万株であった。
その場合、5億円÷50万株=1000円となり、上記1株あたり株式価値と一致する。
それが交渉により、X社株式が60万株となり、1株あたり833円に値下げされた。
すなわち、払込価額の算定において純資産を基準としており、市場における時価を基準としていない。
そういったことを考えると、有利発行において引用される最判昭50・4・8とは、事案が異なるといえる。

(最判昭50・4・8から引用、下線は筆者)

 普通株式を発行し、その株式が証券取引所に上場されている株式会社が、額面普通株式を株主以外の第三者に対していわゆる時価発行をして有利な資本調達を企図する場合に、その発行価額をいかに定めるべきかは、本来は、新株主に旧株主と同等の資本的寄与を求めるべきものであり、この見地からする発行価額は旧株の時価と等しくなければならないのであつて、このようにすれば旧株主の利益を害することはないが、新株を消化し資本調達の目的を達成することの見地からは、原則として発行価額を右より多少引き下げる必要があり、この要請を全く無視することもできない。そこで、この場合における公正発行価額は、発行価額決定前の当該会社の株式価格、右株価の騰落習性売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行ずみ株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきものである。

(引用終わり)

なお、昨年度の本試験では、上場会社による時価発行であることが明示されていた。

(平成20年度旧司法試験論文式商法第1問、下線は筆者)

 甲株式会社は,その発行する株式を金融商品取引所に上場している監査役会設置会社である。甲社の発行済株式総数の約20パーセントを保有する株主名簿上の株主である乙株式会社は,平成20年4月25日,同年6月27日開催予定の甲社の定時株主総会における取締役選任に関する議案及び増配に関する議案についての株主提案権を行使した。この場合において,次の2つの問いに答えよ。なお,甲社の定款には,種類株式に係る定めはないものとする。

 1  乙社は,株主提案権の行使とともに,甲社に対し,その提案の内容を他の株主によく伝えたいとして,甲社の株主名簿の閲覧請求を行った。これに対し,甲社は,乙社が甲社と事業上の競争関係にある丙株式会社の総株主の議決権の70パーセントを有していることから,乙社からの閲覧請求を拒否することとした。この閲覧請求の拒否は許されるか。

 2  甲社の取締役らは,乙社からの株主提案を受けて,直ちに臨時取締役会を開催し,丁株式会社との業務提携関係を強化することが目的であるとして,既に業務提携契約を締結していた丁社のみを引受人とする募集株式の第三者割当発行を決議した。なお,払込金額については甲社株式の直近3か月の市場価格の平均の90パーセントに相当する額とし,払込期日については定時株主総会の開催日の1週間前の日とすることとされた。また,当該決議に合わせて,定時株主総会に係る議決権行使の基準日について,この発行に係る株式に限りその効力発生日の翌日とする旨の決議がされ,これに係る所要の公告も行われた。この募集株式の発行が実施されると,乙社が保有する甲社株式の甲社発行済株式総数に対する割合は約15パーセントに低下する一方で,丁社のそれは約45パーセントに上昇することとなる。乙社は,この募集株式の発行を差し止めることができるか。

もっとも、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和という趣旨は変わらない。
従って、論証はそのままでも問題ないだろう。
あてはめにおいては、上記交渉の経緯を強調することになる。

設問1では、買取請求の他に特別決議(795条1項、309条2項12号)、債権者保護手続(799条1項2号)、登記(923条)、書面の備置等(794条、801条)。
設問2では、有利発行の他に価額の調査(207条)、不足額填補責任(213条)、登記(911条3項5号9号)あたりを書くことになるだろう。
なお、事業の現物出資の場合、事業譲渡の手続をも要すると解しうる。
しかし、そのように解したとしても、本問のような事業の一部の譲受けには株式買取請求を要しない。
「事業譲渡等」(469条1項)に当たらないからである(468条1項かっこ書、467条1項1号から4号まで参照)。

設問2は、商行為と手形についての出題である。
手形が出題されたのは、平成18年度以来である。
手を抜いていた人は、ヒヤリとしたことだろう。
ただ、その内容は、手形割引の点を除けば、基本的なものである。
手形をそれほど勉強していなかったとしても、河本フォーミュラと二重無権は書けたはずである。
そして、それなりに勉強した人でも、手形割引を見落とすと上記と同じことしか書けない。
そうなると、手形を勉強した人は、結果的にあまり報われなかったといえる。

小問1については、商行為が問われた場合の鉄則通りに書けば足りる。
すなわち、民法の原則論と、商法による修正の順で論述すべきである。
本問の場合、本件衣料品は不特定物と考えられる。
従って、瑕疵物の提供では特定は生じず、受領されても債務の本旨に従った弁済とはならない。
よって、A社は債務不履行解除できるのが民法の原則である。
もっとも、商法526条2項は、商人間売買の解除について要件を加重している。
会社は商人である(最判平20・2・22)から、本問の取引は商人間売買である。

(最判平20・2・22より引用、下線は筆者)

 会社の行為は商行為と推定され,これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと,すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証責任を負うと解するのが相当である。なぜなら,会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とされているので(会社法5条),会社は,自己の名をもって商行為をすることを業とする者として,商法上の商人に該当し(商法4条1項),その行為は,その事業のためにするものと推定されるからである(商法503条2項。同項にいう「営業」は,会社については「事業」と同義と解される。)。

(引用終わり)

そこで、同項の趣旨を踏まえつつ、要件を満たすかを検討することになる。
いきなり526条2項のあてはめをして、結論を出す答案の評価は伸びないと思われる。
なお、同条は不特定物にも適用がある(最判昭35・12・2)。

小問2の(1)は、人的抗弁切断の原則論から河本フォーミュラを論じ、あてはめれば足りるだろう。
(2)については、手形割引の法的性質によって構成が異なる。
これを手形の売買と考えれば、満期前に対価を受けて裏書譲渡することが手形割引の内容となる。
そうすると、手形割引の解除の効果は裏書自体に直接及ぶ。
これが物的抗弁となるか、人的抗弁となるか。
物的抗弁と解する場合、Aは無権利の抗弁を主張立証して支払を拒めることになる。
人的抗弁と解する場合、いわゆる二重無権の論点に移る。

他方、手形割引を消費貸借と考える場合。
この場合、裏書は消費貸借の支払のために又は担保のためになされるものとなる。
そうすると、手形割引の解除は原因関係の消滅であり、人的抗弁となる。
従って、二重無権の問題を論ずることになる。

なお、手形割引につき、裁判例は売買と理解し、消費貸借となる場合を手形貸付として区別している。
もっとも、当事者が手形割引と称していても、実質が手形貸付と見られる場合は、消費貸借と理解しているようである。

大阪高判昭38・4・11より引用、下線は筆者)

 手形割引の基本的性格は割引依頼人から満期未到来の手形上の権利の譲渡を受け、その代価として満期日までの利息その他の費用すなわち割引料を差し引いた金額(それは当該手形の現在の評価額に相当する。割引料は値引きではない。)を支払う、手形の売買であつて手形貸付、すなわち借主が片務的に金銭消費貸借上の債務を負い、その債務の履行確保ないし担保のために手形が交付されるのとは、法律上全く性質効果を異にする別個のものである前者にあつては、手形の交付は割引金の受領と対価的交換的になされる関係にあり、それが履行された後は、手形上の債権債務は成立存続することになるが、手形の原因関係上の債権債務は消滅する。これに反し、後者にあつては、原因関係上の借受金員返還債務が基底に存し、これに沿う趣旨のもとに手形の交付がなされるもので、貸付金員の授受と手形の交付が終了した後でも、手形上の債務のほかに、必ず原因関係上の借受金返還の債務が存在するのである。

(引用終わり)

 

大阪高判昭37・2・28より引用、下線は筆者)

 一般に銀行取引として行われる手形割引は、通常、手形の主たる債務者が借主となる趣旨を明示する手形貸付とは異り、割引依頼人とは原則的に関係のない第三者が支払義務を負担し、従つてその者に対する手形上の債権を化体する手形を裏書譲渡し、手形債権そのものを移転することにより、割引代金(将来即ち満期に至り支払われる予定の手形金額から満期までの利息その他の費用即ち割引料を差引いた金額、即ち手形債権の割引時現在における債権の評価額)を取得することを契約の要素とするものであつて、その行為は手形裏書行為の実質関係たる意味を持つものであるが、その性質は、それ自体を単一的に見る限り、前記の要素に徴し、割引人に移転された手形債権の債務者の絶対無条件の義務の外に、これと同列ないしはそれ以上の価値を持つような割引依頼人の絶対無条件の義務負担は、割引の結果が所期の効果を収め、手形が順当に支払われる限り、その必要を見ず、従つて契約の要素に加わつているものとは考えられないから、法律行為として見る場合には、それは原則として手形の売買と解する外はないただ、銀行取引は通常一定の相手方との多少とも継続的な取引であり、信用の裏付も必要であり、また銀行としても、割引による取得手形の不渡その他価値の消滅、減少の場合に備えて、割引依頼人やその者の提供する人的物的担保よりの補償により、できる限りその損失の発生を防止すべく万全の措置を採り、割引依頼人との間に各種の特約を結び、又はこれらの者との銀行取引の慣習上、右の補償措置が実施され、その結果右に認められるような手形割引の法効果の重点即ち要素が移動し、場合により、割引依頼人の絶対無条件の債務負担を生ずることを主眼とする取引に変質しているという可能性は考えられないことではない

(引用終わり)

 

最判昭41・3・15より引用、※及び下線は筆者)

 東日本印刷株式会社と被上告組合との間に行われた所論手形取引は、名は手形割引であるがその性質は消費貸借と認められる旨の原判決の判断は、その認定している事情(※信用組合に対し第三者振出の約束手形を裏書交付し割引金を受領した場合であっても、割引のつど当該手形金額の金員を貸し付けたものとする特約があり、組合は、振出人の資力を十分に調査し手形の実質上の価値を見定めて割引料を定めることはせず、むしろ割引依頼者の資力に重きをおき、これを信用して一率に一定の割引歩合で割引に応じており、割引いた手形を再割引することなく、不渡の場合でも振出人の責任を追及せず、当事者としては手形を買い取るという考えは薄く、むしろ割引依頼者に一定期間手形金額に相当する金員を利用させる考えであった等)に照らして是認しえなくはない

(引用終わり)

手形割引の法的性質はマイナー論点である。
そのため、この点に触れずに二重無権だけを書いた人が多かったのではないか。
そのような答案がどのように評価されるかは、全体の出来次第である。
おそらく、それほど悪い評価にはならないのではないか。
むしろ、小問1、小問2の原則論部分が雑な答案の方が、評価を落とすと思われる。

刑法について

第1問は、総論らしい論理性を問う問題である。
本問の直接の着想は、最決平20・6・25から得たものと思われる。

(最決平20・6・25より引用、下線は筆者)

1 原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

(1) 被告人(当時64歳)は,本件当日,第1審判示「Aプラザ」の屋外喫煙所の外階段下で喫煙し,屋内に戻ろうとしたところ,甲(当時76歳)が,その知人である乙及び丙と一緒におり,甲は,「ちょっと待て。話がある。」と被告人に呼び掛けた。被告人は,以前にも甲から因縁を付けられて暴行を加えられたことがあり,今回も因縁を付けられて殴られるのではないかと考えたものの,同人の呼び掛けに応じて,共に上記屋外喫煙所の外階段西側へ移動した。

(2) 被告人は,同所において,甲からいきなり殴り掛かられ,これをかわしたものの,腰付近を持たれて付近のフェンスまで押し込まれた。甲は,更に被告人を自己の体とフェンスとの間に挟むようにして両手でフェンスをつかみ,被告人をフェンスに押し付けながら,ひざや足で数回けったため,被告人も甲の体を抱えながら足を絡めたり,けり返したりした。そのころ,二人がもみ合っている現場に乙及び丙が近付くなどしたため,被告人は,1対3の関係にならないように,乙らに対し「おれはやくざだ。」などと述べて威嚇した。そして,被告人をフェンスに押さえ付けていた甲を離すようにしながら,その顔面を1回殴打した。

(3) すると,甲は,その場にあったアルミ製灰皿(直径19p,高さ60pの円柱形をしたもの)を持ち上げ,被告人に向けて投げ付けた。被告人は,投げ付けられた同灰皿を避けながら,同灰皿を投げ付けた反動で体勢を崩した甲の顔面を右手で殴打すると,甲は,頭部から落ちるように転倒して,後頭部をタイルの敷き詰められた地面に打ち付け,仰向けに倒れたまま意識を失ったように動かなくなった(以下,ここまでの被告人の甲に対する暴行を「第1暴行」という。)

(4) 被告人は,憤激の余り,意識を失ったように動かなくなって仰向けに倒れている甲に対し,その状況を十分に認識しながら,「おれを甘く見ているな。おれに勝てるつもりでいるのか。」などと言い,その腹部等を足げにしたり,足で踏み付けたりし,さらに,腹部にひざをぶつける(右ひざを曲げて,ひざ頭を落とすという態様であった。)などの暴行を加えた(以下,この段階の被告人の甲に対する暴行を「第2暴行」という。)が,甲は,第2暴行により,肋骨骨折,脾臓挫滅,腸間膜挫滅等の傷害を負った。

(5) 甲は,Aプラザから付近の病院へ救急車で搬送されたものの,6時間余り後に,頭部打撲による頭蓋骨骨折に伴うクモ膜下出血によって死亡したが,この死因となる傷害は第1暴行によって生じたものであった。

第1審判決は,被告人は,自己の身体を防衛するため,防衛の意思をもって,防衛の程度を超え,甲に対し第1暴行と第2暴行を加え,同人に頭蓋骨骨折,腸間膜挫滅等の傷害を負わせ,搬送先の病院で同傷害に基づく外傷性クモ膜下出血により同人を死亡させたものであり,過剰防衛による傷害致死罪が成立するとし,被告人に対し懲役3年6月の刑を言い渡した。
 これに対し,被告人が控訴を申し立てたところ,原判決は,被告人の第1暴行については正当防衛が成立するが,第2暴行については,甲の侵害は明らかに終了している上,防衛の意思も認められず,正当防衛ないし過剰防衛が成立する余地はないから,被告人は第2暴行によって生じた傷害の限度で責任を負うべきであるとして,第1審判決を事実誤認及び法令適用の誤りにより破棄し,被告人は,被告人の正当防衛行為により転倒して後頭部を地面に打ち付け,動かなくなった甲に対し,その腹部等を足げにしたり,足で踏み付けたりし,さらに,腹部にひざをぶつけるなどの暴行を加えて,肋骨骨折,脾臓挫滅,腸間膜挫滅等の傷害を負わせたものであり,傷害罪が成立するとし,被告人に対し懲役2年6月の刑を言い渡した。

所論は,第1暴行と第2暴行は,分断せず一体のものとして評価すべきであって,前者について正当防衛が成立する以上,全体につき正当防衛を認めて無罪とすべきであるなどと主張する
 しかしながら,前記1の事実関係の下では,第1暴行により転倒した甲が,被告人に対し更なる侵害行為に出る可能性はなかったのであり,被告人は,そのことを認識した上で,専ら攻撃の意思に基づいて第2暴行に及んでいるのであるから,第2暴行が正当防衛の要件を満たさないことは明らかである。そして,両暴行は,時間的,場所的には連続しているものの,甲による侵害の継続性及び被告人の防衛意思の有無という点で,明らかに性質を異にし,被告人が前記発言をした上で抵抗不能の状態にある甲に対して相当に激しい態様の第2暴行に及んでいることにもかんがみると,その間には断絶があるというべきであって,急迫不正の侵害に対して反撃を継続するうちに,その反撃が量的に過剰になったものとは認められない。 そうすると,両暴行を全体的に考察して,1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当でなく,正当防衛に当たる第1暴行については,罪に問うことはできないが,第2暴行については,正当防衛はもとより過剰防衛を論ずる余地もないのであって,これにより甲に負わせた傷害につき,被告人は傷害罪の責任を負うというべきである。

(引用終わり)

本問でも、第1暴行、第2暴行に相当するものがある。
Aが路上に倒れこむまでの甲及び乙の暴行(第1暴行)。
その後の路上に倒れたAに対する乙及び丙による暴行(第2暴行)。
これを一体のものと考えるか。
それとも、二つの行為とみるか。
それによって、その後の法律構成が変わってくる。
この点が、本問の最大のポイントだろう。

一体のものと捉えた場合。
この場合、甲は一連の行為のうちの侵害現在時のみ暴行を加えた者である。
従って、離脱ではなく、新たな共謀の成否(最判平6・12・6)が問題となりそうである。

(最判平6・12・6より引用、下線は筆者)

 相手方の侵害に対し、複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び、相手方からの侵害が終了した後に、なおも一部の者が暴行を続けた場合において、後の暴行を加えていない者について正当防衛の成否を検討するに当たっては、侵害現在時と侵害終了後とに分けて考察するのが相当であり、侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には、侵害終了後の暴行については、侵害現在時における防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかどうかではなく、新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであって、共謀の成立が認められるときに初めて、侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し、防衛行為としての相当性を検討すべきである。

(引用終わり)

もっとも、甲には積極的加害意思があり、正当防衛は成立しないと考えられる。
そうすると、判例のいう「侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合」ではないともいえる。
従って、離脱を問題にするという考え方もあり得る。
本問では、甲のその後の動静について何ら事情が書かれていない。
離脱も、新たな共謀も認定できないとするのが素直だろう。
そうすると、離脱を問題にすれば、甲は第2暴行についても責任を負う。
他方、新たな共謀を問題にする場合、甲は第2暴行について責任を負わないことになる。
また、丙については、承継的共同正犯を論じることになる。
乙については、木の棒という点で質的過剰であり、倒れたAに追撃を加えた点で量的過剰ということになる。
従って、全体について傷害致死が成立し、過剰防衛による任意的減免を受けうることになる。

二つの断絶した行為とみる場合。
その場合、第1暴行終了により甲乙の共同正犯による実行行為は終了する。
従って、甲の離脱を論じる余地はないことになるだろう。
そして、甲は全く第2暴行に加功していない。
従って、第2暴行については、同時傷害特例の適用を除き、甲は責任を負わない。

乙については、第2暴行について過剰防衛となる余地はないことになる。
もっとも、死の結果が第1暴行から生じたのか、第2暴行から生じたのか不明である。
この場合、傷害致死罪が成立しうるか。
しうるとして、刑の任意的減免を受けられるか。
結論的には、傷害致死罪が成立し、任意的減免を受けるとするのが妥当だろう。

どの構成を採るにせよ問題となるものは、以下の論点である。

積極的加害意思(最決昭52・7・21)。
共犯の一人に積極的加害意思がある場合(最決平4・6・5)。
乙丙間の共同実行意思の肯否(否定すれば片面的共同正犯)。
同時傷害特例(207条)は傷害致死に適用があるか(最判昭26・9・20)。

各論点の結論から、矛盾なく甲乙丙の罪責を導く必要がある。

第2問は、国際運転免許証の偽造と、空クレジット詐欺がメインの論点である。
前者については、最決平15・10・6、後者については、最決平15・12・9がある。

(最決平15・10・6より引用、下線は筆者)

 私文書偽造の本質は,文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあると解される(最高裁昭和58年(あ)第257号同59年2月17日第二小法廷判決・刑集38巻3号336頁,最高裁平成5年(あ)第135号同年10月5日第一小法廷決定・刑集47巻8号7頁参照)。本件についてこれをみるに,本件文書の記載内容,性質などに照らすと,ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体により作成されているということが,正に本件文書の社会的信用性を基礎付けるものといえるから,本件文書の名義人は,「ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体である国際旅行連盟」であると解すべきである。そうすると,国際旅行連盟が同条約に基づきその締約国等から国際運転免許証の発給権限を与えられた事実はないのであるから,所論のように,国際旅行連盟が実在の団体であり,被告人に本件文書の作成を委託していたとの前提に立ったとしても,被告人が国際旅行連盟の名称を用いて本件文書を作成する行為は,文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽るものであるといわねばならない。したがって,被告人に対し有印私文書偽造罪の成立を認めた原判決の判断は,正当である。

(引用終わり)

 

(最決平15・12・9より引用、下線は筆者)

 被告人は,他の1名と共謀の上,病気などの悩みを抱えている被害者らに対し,真実は,被害者らの病気などの原因がいわゆる霊障などではなく,「釜焚き」と称する儀式には直接かつ確実に病気などを治癒させる効果がないにもかかわらず,病気などの原因が霊障であり,釜焚きの儀式には上記の効果があるかのように装い,虚偽の事実を申し向けてその旨誤信させ,釜焚き料名下に金員を要求した。
 そして,被告人らは,釜焚き料を直ちに支払うことができない被害者らに対し,被害者らが被告人らの経営する薬局から商品を購入したように仮装し,その購入代金につき信販業者とクレジット契約(立替払契約)を締結し,これに基づいて信販業者に立替払をさせる方法により,釜焚き料を支払うように勧めた。これに応じた被害者らが上記薬局からの商品売買を仮装の上クレジット契約を締結し,これに基づいて信販業者が被告人らの管理する普通預金口座へ代金相当額を振込送金した
 以上の事実関係の下では,被告人らは,被害者らを欺き,釜焚き料名下に金員をだまし取るため,被害者らに上記クレジット契約に基づき信販業者をして立替払をさせて金員を交付させたものと認めるのが相当である。
 この場合,被告人ら及び被害者らが商品売買を仮装して信販業者をして立替金を交付させた行為が信販業者に対する別個の詐欺罪を構成するか否かは,本件詐欺罪の成否を左右するものではない
 したがって,被告人に対し本件詐欺罪の成立を認めた原判断は,正当である。

(引用終わり)

近時の判例があることから、出題の予想された論点だった。
従って、予備校等の答練などで出題されていたはずである。
そのため、全体の出来はよかったのではないか。
ただ、最決平15・12・9は、空クレジット詐欺(商品売買を仮装して信販業者をして立替金を交付させた行為)自体について判示したものではない。
別罪を構成しうるという点を判示したに過ぎないので、注意を要する。
空クレジット詐欺自体については、神戸地判平14・9・11がある。

(神戸地判平14・9・11より引用、下線は筆者)

(罪となるべき事実)
 被告人は,A及びBと共謀の上,C発行にかかるA名義のD提携クレジットカードを利用し,E株式会社の加盟店でD提携カードが使用可能なBが経営するスナック「F」での飲食を仮装してクレジットカードシステムに基づく立替金請求名下に金員を詐取しようと企て,平成13年12月13日午前2時58分ころから同日午前3時14分ころまでの間,神戸市a区bc丁目d番e号fビル3階所在のスナック「F」において,Aが同店で飲食した事実がないのに,これあるかのように装い,前後8回にわたり,Bが同店に設置された売上げデータギャザリング対応型クレジットオーソリゼーションターミナル端末機にA名義の前記クレジットカードを挿入して同機を作動させ,各回5万円ずつの合計40万円の架空の売上げを入力して,大阪市g区hi丁目j番k号所在のE大阪本社のコンピューターに上記架空の売上データを送信し,上記送信を受けた同社信用管理部部長代理Gをして,上記売上げが正当な取引によるものであって架空売上げ等の不正な取引によるものではなく,クレジットカードシステム所定の方法に基づいて立替金の支払いをなす義務があるものと誤信させよって,Gをして上記立替金の支払手続を行わせ,同月28日,Bの経営するスナック「F」の指定口座である神戸市a区lm丁目n番o号H信用金庫I支店の「FB」名義の普通預金口座に上記40万円から手数料を差し引いた立替金37万2000円を振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交付させたものである。

(争点に対する判断)
1 弁護人は,本件では,人に対する欺罔行為が存在せず,それによって財産的処分行為がなされたわけではないから,詐欺罪は成立しない旨主張する
 なるほど,本件は,売上げデータギャザリング対応型クレジットオーソリゼーションターミナル端末機(以下,「G−CAT」という。)の設置されたE株式会社の加盟店において,D提携カードが利用された事案であるところ,被告人らは,判示のとおり,前後8回にわたり,本件クレジットカードをG−CATに挿入し,合計40万円の架空の売上げデータをEのコンピューターに送信したこと,同コンピューターから上記売上げデータの送信を受けた本件クレジットカードの発行会社であるCのコンピューターは,本件クレジットカードの有効性等を審査してその承認を与えたこと,Eのコンピューターは,上記承認がなされたことから,売上げデータを保存し,締め日である平成13年12月15日までの売上げデータに基づいて,加盟店であるスナック「F」への計算書の作成,振込の手配等の支払手続を行い,判示のとおり,同月28日,「FB」名義の普通預金口座に37万2000円を振込入金したことが認められ,これだけをみれば,被告人らがG−CATを通じて送信した架空の売上げデータは,立替金の振込がなされるまですべてコンピューター上で処理され,その間に人が介在していないのであるから,弁護人の主張するように,人に対する欺罔行為が存在しないといえなくもなく,本件は,詐欺罪ではなく,刑法246条の2の電子計算機使用詐欺罪に該当するもののように思われる
 しかしながら,G−CATを通じて架空の売上げデータが送信され,クレジットカードの発行会社が承認を与えたものについて,すべてそのまま自動的に加盟店に対する立替金の振込がなされるわけではなく,承認後振込までの間に,架空売上げ等のクレジットカードの不正使用の疑いが出てきたときは,Eにおいては,振込を保留するなどの措置を取って,調査をした上で振り込むかどうかを決定することになっていること,本件において,Eが「FB」名義の普通預金口座に前記のとおり立替金を振り込んだのは,送信された売上げデータどおりの売上げが実際にあったことを前提にしたためであって,それが架空売上げによるものであることを担当者が知らなかったためであることもまた認められるのであって,コンピューターを用いて大量の売上げデータを処理しているため,Eの担当者が個々の売上げデータを全部確認して,それが正当な取引によるものかどうかを判断することはないけれども,Eの担当者は,振込までの間に架空売上げ等のクレジットカードの不正使用の疑いが出てこなかったものについては,すべて正当な取引によるものであって,架空売上げ等の不正な取引によるものではなく,クレジットカードシステム所定の方法に基づいて立替金の支払いをなす義務があるものと信じて,それまでのデータに基づき,コンピューターを用いて立替金の支払手続を行ったものとみることができるのであるから,やはり人に対する欺罔行為が存在し,それによって財産的処分行為がなされたということができる
 本件においては,電子計算機使用詐欺罪ではなく,詐欺罪が成立すると認められ,弁護人の主張は採用できない。

2 弁護人は,被告人らが飲食の事実がない架空売上げにクレジットカードを使用したことは,欺罔行為に該当しないから,詐欺罪は成立しない旨主張する
 しかしながら,E信用管理部長J作成の捜査関係事項照会回答書(甲3)によると,EDカードの加盟店規約4条3項は,「売上票に記載できる金額は,当該販売代金並びにサービス提供代金(いずれも税金,送料等を含む)のみとし,現金の立替,過去の売掛金の精算等は行わないものとします。」と定めていて,本件のように架空売上げについて立替金の支払いを求めることは認められていないのであるから,クレジットカードの名義人において,後日支払に応じる意思があると否とにかかわらず,飲食の事実を仮装して架空売上げをし,それについて立替金の支払いを求めることが欺罔行為に該当することは明らかであって,弁護人の主張は採用できない。

3 弁護人は,A名義の本件クレジットカードの発行会社であるCは,被告人らの欺罔行為がなされてからEによる立替金の振込入金がなされるまでの間に,本件がクレジットカードの不正使用によるものであることを知っていたのであるから,欺罔行為と振込入金との間には因果関係がなく,詐欺未遂罪が成立するにすぎない旨主張する
 なるほど,C作成の捜査関係事項回答書(甲9)によると,Cは,Aから,平成13年12月18日午前10時44分ころ,「ぼったくりの店で脅されてサインしたもので自分の利用の事実はない。何とか支払わない方法はないか。」との連絡を受け,同月21日午前9時52分ころ,兵庫警察に対して被害届を提出した旨の連絡を受け,その後,同月25日午前11時8分ころ,被害届受理番号が104832であるとの連絡を受けていたことが認められるが,上記捜査関係事項回答書及び証人Gの当公判廷における供述によれば,CがEに対して,上記事情を告げて調査を依頼したのは,平成14年1月8日午前9時ころであって,Eにおいては,振込入金日である平成13年12月28日以前には,本件がクレジットカードの不正使用によるものであることを全く知らなかったことが認められるのであるから,被告人らの欺罔行為とEの振込入金との間の因果関係に欠けるところはない
 本件では,詐欺未遂罪ではなく,詐欺罪が成立することが明らかであり,弁護人の主張は失当である。

(引用終わり)

他に、細かめの論点として、乙に国際運転免許証様の文書を渡す行為が行使にあたるか、甲の乙に対する詐欺罪は1項詐欺か2項詐欺か、空クレジット詐欺につき甲は教唆犯か共同正犯か、空クレジット詐欺は1項詐欺か2項詐欺か、偽造罪等と詐欺罪との罪数などの論点がある。
なお、クレジットカード詐欺には、売上票の署名についての私文書偽造・同行使を伴う。
しかし、空クレジットの場合は自己の名で署名する。
従って、この点の検討は要しないだろう。

二つのメイン論点をしっかりと論じ、その他の論点をコンパクトに論じられた答案が、上位になると思われる。

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