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最高裁判所第三小法廷判決平成21年03月24日

【事案】

1.相続人の1人が,被相続人からその財産全部を相続させる趣旨の遺言に基づきこれを相続した他の相続人に対し,遺留分減殺請求権を行使したとして,相続財産である不動産について所有権の一部移転登記手続を求める事案。遺留分の侵害額の算定に当たり,被相続人が負っていた金銭債務の法定相続分に相当する額を遺留分権利者が負担すべき相続債務の額として遺留分の額に加算すべきかどうかが争われている。

2.事実関係の概要

(1) Aは,平成15年7月23日,Aの有する財産全部を被上告人に相続させる旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。本件遺言は,被上告人の相続分を全部と指定し,その遺産分割の方法の指定として遺産全部の権利を被上告人に移転する内容を定めたものである。

(2) Aは,同年▲月▲日に死亡した。同人の法定相続人は,子である上告人と被上告人である。

(3) Aは,相続開始時において,第1審判決別紙物件目録記載の不動産を含む積極財産として4億3231万7003円,消極財産として4億2483万2503円の各財産を有していた。本件遺言により,遺産全部の権利が相続開始時に直ちに被上告人に承継された。

(4) 上告人は,被上告人に対し,平成16年4月4日,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。

(5) 被上告人は,同年5月17日,前記不動産につき,平成15年▲月▲日相続を原因として,Aからの所有権移転登記を了した。

(6) 上告人は,Aの消極財産のうち可分債務については法定相続分に応じて当然に分割され,その2分の1を上告人が負担することになるから,上告人の遺留分の侵害額の算定においては,積極財産4億3231万7003円から消極財産4億2483万2503円を差し引いた748万4500円の4分の1である187万1125円に,相続債務の2分の1に相当する2億1241万6252円を加算しなければならず,この算定方法によると,上記侵害額は2億1428万7377円になると主張している。これに対し,被上告人は,本件遺言により被上告人が相続債務をすべて負担することになるから,上告人の遺留分の侵害額の算定において遺留分の額に相続債務の額を加算することは許されず,上記侵害額は,積極財産から消極財産を差し引いた748万4500円の4分の1である187万1125円になると主張している。

【判旨】

1.本件のように,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。もっとも,上記遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。
 そして,遺留分の侵害額は,確定された遺留分算定の基礎となる財産額に民法1028条所定の遺留分の割合を乗じるなどして算定された遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し,同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すべきものであり(最高裁平成5年(オ)第947号同8年11月26日第三小法廷判決・民集50巻10号2747頁参照),その算定は,相続人間において,遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するものというべきである。したがって,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ,これに応じた場合も,履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず,相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。

2.これを本件についてみると,本件遺言の趣旨等からAの負っていた相続債務については被上告人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情はうかがわれないから,本件遺言により,上告人と被上告人との間では,上記相続債務は指定相続分に応じてすべて被上告人に承継され,上告人はこれを承継していないというべきである。そうすると,上告人の遺留分の侵害額の算定において,遺留分の額に加算すべき相続債務の額は存在しないことになる。

 

最高裁判所第二小法廷決定平成21年03月26日

【事案】

 被告人は,平成17年2月25日に成立した,A株式会社(以下「A」という。)及び医療法人B会の2者間,並びに,A,破産者C破産管財人弁護士D及びB会の3者間の各裁判上の和解(以下「本件和解」という。)に基づき,同日,Aから上記D及びB会に順次譲渡されたものの,所有権移転登記が未了のためAが登記簿上の所有名義人であった本件建物を,Aの実質的代表者として,B会のために預かり保管中であったものであるが,医療法人E会理事長Fほか2名と共謀の上,本件建物及びその敷地である本件土地に設定されていた本件地上権の各登記簿上の名義人が,いずれもAであることを奇貨とし,その各登記簿上にE会を登記権利者とする不実の抵当権設定仮登記をすることにより,上記D及び本件建物で病院を経営していたB会から原状回復にしゃ口して解決金を得ようと企て,真実は,AがE会から5億円を借り受ける金銭消費貸借契約を締結した事実並びにその担保として本件建物及び本件地上権に係る抵当権設定契約を締結した事実がないのに,同年3月11日ころ,法務局出張所において,登記官に対し,本件建物及び本件地上権につき,E会を登記権利者,Aを登記義務者とし,上記内容の虚偽の金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約を登記原因とする本件建物及び本件地上権に係る各抵当権設定仮登記の登記申請書等関係書類を提出し,情を知らない登記官をして,本件建物及び本件土地の登記簿の原本として用いられる電磁的記録である各登記記録にそれぞれその旨の記録をさせ,そのころ,同所において,その各記録を閲覧できる状態にさせ,もって,公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせて,これを供用するとともに,本件建物を横領した。

【判旨】

 所論は,@原判決の是認する第1審判決は,本件建物につき抵当権設定仮登記(以下「本件仮登記」という。)を了したことにより横領罪が成立するとしているが,本登記とは異なり,仮登記には順位保全の効力があるだけであるから,横領罪は成立しない,A原判決の是認する第1審判決が,AとE会との間で本件建物に抵当権を設定した事実はないとして,本件仮登記を了したことは電磁的公正証書原本不実記録罪及び同供用罪に当たるとする一方で,横領罪にも当たるとしているのは自己矛盾である旨主張する。
 しかしながら,まず,本件仮登記の登記原因とされたAとE会との間の金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約は虚偽であり,本件仮登記は不実であるから,電磁的公正証書原本不実記録罪及び同供用罪が成立することは明らかである。そして,被告人は,本件和解により所有権がB会に移転した本件建物を同会のために預かり保管していたところ,共犯者らと共謀の上,金銭的利益を得ようとして本件仮登記を了したものである。仮登記を了した場合,それに基づいて本登記を経由することによって仮登記の後に登記された権利の変動に対し,当該仮登記に係る権利を優先して主張することができるようになり,これを前提として,不動産取引の実務において,仮登記があった場合にはその権利が確保されているものとして扱われるのが通常である。以上の点にかんがみると,不実とはいえ,本件仮登記を了したことは,不法領得の意思を実現する行為として十分であり,横領罪の成立を認めた原判断は正当である。また,このような場合に,同罪と上記電磁的公正証書原本不実記録罪及び同供用罪が併せて成立することは,何ら不合理ではないというべきである(なお,本件仮登記による不実記録電磁的公正証書原本供用罪と横領罪とは観念的競合の関係に立つと解するのが相当である。)。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年03月27日

【事案】

1.被上告人が上告人に譲渡した請負代金債権について,債務者が債権者不確知を供託原因として供託をした。本件本訴は,被上告人が,上記請負代金債権には譲渡禁止特約が付されていたから,上記債権譲渡は無効であると主張して,上告人に対し,被上告人が上記供託金の還付請求権を有することの確認を求めるものであり,本件反訴は,上告人が,被上告人に対し,上記債権譲渡が有効であるとして,上告人が上記供託金の還付請求権を有することの確認を求めるものである。

2.事実関係の概要

(1) 被上告人は,平成17年3月25日に特別清算開始決定を受け,同手続を遂行中の株式会社である。
 上告人は,会員に対する貸付け,会員のためにする手形割引等を目的とする法人である。

(2) 被上告人と上告人は,平成14年12月2日,被上告人が上告人に対して次のア記載の債権の根担保としてイ記載の債権を譲渡する旨の債権譲渡担保契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

ア 被上告人と上告人との間の手形貸付取引に基づき,上告人が被上告人に対して現在及び将来有する貸付金債権及びこれに附帯する一切の債権

イ 被上告人がA(以下「A」という。)に対して取得する次の債権のすべて

(ア) 種類工事代金債権
(イ) 始期平成14年6月2日
(ウ) 終期平成18年12月2日
(エ) 譲渡債権額1億5968万円

(3) 被上告人は,Aに対し,上記(2)イ記載の債権に含まれる第1審判決別紙債権目録記載1ないし3の工事代金債権(以下,「1の債権」,「2の債権」などといい,これらを併せて「本件債権」という。)を取得した。

(4) 本件債権には,被上告人とAとの間の工事発注基本契約書及び工事発注基本契約約款によって,譲渡禁止の特約が付されていた。

(5) Aは,平成16年12月6日に1の債権について,平成17年2月8日に2の債権について,同年12月27日に3の債権について,それぞれ債権者不確知を供託原因として第1審判決別紙供託金目録記載1ないし3の各供託金額欄記載の金員を供託した。

3.原審は,次のとおり判断して,被上告人の本訴請求を認容し,上告人の反訴請求を棄却すべきものとした。
 債権の譲渡禁止特約に反してされた債権譲渡は無効である。本件債権には譲渡禁止特約が付されており,その譲渡についてAの承諾があったと認めることはできないので,本件契約に基づく本件債権の譲渡(以下「本件債権譲渡」という。)は無効である。上告人は,本件債権譲渡の無効を主張できるのは債務者であるAだけであると主張するが,そのように解することはできない。

【判旨】

1.民法は,原則として債権の譲渡性を認め(466条1項),当事者が反対の意思を表示した場合にはこれを認めない旨定めている(同条2項本文)ところ,債権の譲渡性を否定する意思を表示した譲渡禁止の特約は,債務者の利益を保護するために付されるものと解される。そうすると,譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって,債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,その無効を主張することは許されないと解するのが相当である。

2.これを本件についてみると,前記事実関係によれば,被上告人は,自ら譲渡禁止の特約に反して本件債権を譲渡した債権者であり,債務者であるAは,本件債権譲渡の無効を主張することなく債権者不確知を理由として本件債権の債権額に相当する金員を供託しているというのである。そうすると,被上告人には譲渡禁止の特約の存在を理由とする本件債権譲渡の無効を主張する独自の利益はなく,前記特段の事情の存在もうかがわれないから,被上告人が上記無効を主張することは許されないものというべきである。

3.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の本訴請求は理由がなく,上告人の反訴請求は理由があるというべきであるから,第1審判決を取り消した上,本訴請求を棄却し,反訴請求を認容することとする。

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