最新下級審裁判例

東京高裁判決平成20年07月09日

【事案】

1.東京拘置所に収容されている死刑確定者である控訴人が,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)の規定に基づいて,処分行政庁に対し,同拘置所において控訴人が受けた医療に関する保有個人情報の開示請求をしたところ,処分行政庁が,当該保有個人情報は,法45条1項所定の刑事事件に係る裁判,刑の執行等に係る保有個人情報に該当して開示請求等に関する法の規定の適用から除外されているとして,その全部を開示しない旨の決定をしたことから,控訴人が当該不開示決定の取消しを求める事案。

2.原判決は,当該保有個人情報は,開示請求に関する法の規定の適用から除外されるものと解するのが相当であり,上記不開示決定は適法であるとして控訴人の請求を棄却したため,これを不服として控訴人が控訴した。

3.控訴人の控訴審における補足的主張

(1) 原判決は,法45条1項につき,開示行為により情報の保有主体が刑事収容施設であることが明らかになることを想定しているとするが,誤りである。法45条1項は,開示することにより,当該情報の内容から前科等の本人に不利益な事実が明らかとなる場合を想定しているのであり,情報の保有主体に着目した規定ではない。

(2) 原判決は,医療上の措置に関する情報が法45条1項所定の刑事事件に係る裁判,刑の執行等に係る保有個人情報に該当し,他の場合と別個に解すべき理由はないと判断しているが,その判断根拠が示されていないし,以下の点からも判断は不当である。

@ 医療情報は,その性質に照らし,法45条1項が想定する情報に定型的に当てはまらない。

A 外部医療機関の保有する医療情報は,患者が刑事収容施設に収容されている事実がその診療録のいずれかの場所に記載されており,他方,刑事収容施設の保有する医療情報は,診療録の表紙部分からは刑事収容施設における診療録であることが窺えるが,診療録記載部分は通常の医療機関と本質的に同じであり,その体裁によって区別することはできない,むしろ,実質的な診療記録部分だけが開示されることにより,開示された情報から刑事収容施設への収容歴が明らかとなるものではない。結局,医療情報を開示しても本人に不利益はない。

(3) 刑事収容施設において医療の外部委託化が行われ,外部医療機関では医療情報が開示されているが,さらに医療の外部委託化が進むと,刑事収容施設により外部委託の進み具合に差があることから,どの刑事収容施設に収容されるかが情報開示の可否を分けることになり不合理である。こうした不合理な事態を法は全く想定していない。

(参照条文)法45条1項
 前章の規定は、刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判、検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分、刑若しくは保護処分の執行、更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判、処分若しくは執行を受けた者、更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については、適用しない。

【判旨】

1.控訴人の当審における補足的主張に対する判断

(1) 同主張(1)について
 法45条1項が,刑事事件に係る裁判や刑の執行等に係る保有個人情報を,開示請求等の法の規定を適用しないと定めた趣旨は,これらの保有個人情報には,本人の前科,前歴,逮捕歴,勾留歴等を示す情報を含んでおり,開示請求等の対象とすると,前科等が明らかとなる危険性があり,本人の社会復帰や更生保護を図る上で本人の不利益になるおそれがあるため,このような弊害を防止しようとするところにあるものと解される。控訴人は,上記趣旨からすると,法45条1項の規定につき,当該情報の内容に着目して本人に不利益な事実が明らかとなることを想定したとみるべきで,情報の保有主体に着目したものではないと主張する。しかし,法でいう保有個人情報とは,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した個人情報であって,当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして,当該行政機関が保有しているものをいうと定められているところ(2条3項),法45条1項の文言をみても,「保有個人情報」について異なる意味付けがされてはいないし,保有する個人情報の内容如何によってその情報を区別する規定とはなっておらず,このことからすると,法2条3項で規定する「保有個人情報」の意義となんら変わるところはないというべきである。したがって,刑事収容施設が保有する情報については,その当該情報の個別具体的な内容にかかわりなく,開示することにより収容の事実が明らかになるとして,まさに法45条1項の適用によって保護すべき保有個人情報に当たるものということになる。

(2) 同主張(2)について
 控訴人は,医療上の措置に関する情報が,法45条1項所定の保有個人情報に該当しないと主張する。
 確かに,法の立法段階の国会(参議院)の個人情報の保護に関する特別委員会において,適用除外の規定である法45条自体の削除やその内容を限定すべきではないかとの議論がされた経緯があり(乙7),自己を本人とする保有個人情報,特に医療上の措置に関する情報については,その性質から,本人が望めば開示しても不利益はないと考える余地がないではない。しかし,制定された法は,上記適用除外規定である法45条が削除されることなく,また,同条の適用に関して,それをさらに除外する規定等が設けられず,医療情報に関して特別に許容すべき法律の手当もなされなかったものであるから,結局,刑の執行等に係る医療情報についてのみを特段の扱いとする制度は現行法においては採用されていない。したがって,刑事収容施設が保有する情報で法45条1項に該当するものは,同項の適用上,一律に同一の取扱いをするのが明確性の観点から相当であり,他の場合と別個に解すべき理由はないとした原判決の判断は相当である。
 なお,控訴人は,その理由Aにおいて,実質的な診療記録部分だけが開示されることになれば,医療情報を開示しても本人に不利益はないと主張し,当審において,外部医療機関の診療録と刑事収容施設における診療録の記載を比較して収容歴が明らかになる点で変わりないことを立証するとし,証拠(甲15の1,2,甲16,17)を提出する。しかし,この点は,被収容者が刑事収容施設の被収容者としての立場において受けた医療上の措置に係る個人情報で刑事収容施設が保有するものは,これを開示することによって,直ちにその者の収容の事実が明らかとなるのであるから,実質的な診療記録部分だけであれば収容歴が一切明らかにならないということができず,上記甲号証によっても,その判断は左右されない。

(3) 同主張(3)について
 控訴人は,被収容者が医療を受けた場合に,刑事収容施設内と刑事収容施設外の病院等との違いによりその情報開示に違いがあり法として不合理であると主張する。しかし,法45条1項の趣旨及び刑事収容施設が保有する医療情報を特別に扱う旨の規定がないことから,その開示除外対象となるといわざるを得ないことは前説示のとおりであり,刑事収容施設内と施設外の病院等との間で差があるとしても,事実上のものであってやむを得ない。また,被収容者を具体的にどの刑事収容施設に収容するかは,当該情報開示の可否と直接関わる事情とはならないし,刑事収容施設の違いにより不合理が生じるものでもない。
 なお,乙9(平成19年2月14日付法務省矯医訓第816号「被収容者の診療記録の取扱い及び診療情報の提供に関する訓令」第3章),乙10(同日付法務省矯医第817号「被収容者の診療記録の取扱い及び診療情報の提供に関する訓令の運用について(通達)」5・6)及び乙11(同日付法務省矯医第818号「『被収容者の診療記録の取扱い及び診療情報の提供に関する訓令の運用について』の留意事項について(通知)」3)によれば,被収容者のうち医師又は歯科医師の診療を受け,その診療が継続している者に対しては,上記各訓令等に基づき,情報提供が行われることになり,その提供は原則として口頭であるが,図示やメモの提示,適宜の書式に必要事項を記載して交付するなどの方法も用いられることが認められる。これによると,少なくとも,本人が受けた医療に関する情報については,本人に対して直接の情報提供がなされるための具体的な運用が図られているものといえる。

2.以上のとおり,控訴人の主張はいずれも採用し難く,本件不開示決定は適法である。

 

金沢地裁判決平成19年06月25日

【事案】

1.白山市長Aが,同市の職員を同行して,B神社御鎮座二千百年式年大祭奉賛会発会式に出席して祝辞を述べたところ,当該行為は,特定の宗教を助長,援助,促進する効果があり,政教分離原則に違反し違憲であるとして,出席に伴う公金支出相当額につき,原告が白山市の執行機関である被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,Aに対する損害賠償を請求することの義務付けを求めた住民訴訟。

2.事案の概要

(1) 当事者等

ア.原告は,白山市の住民である。

イ.被告は,白山市の執行機関である。

ウ.Aは,平成17年3月6日から白山市長の職にある。

エ.B神社は,白山市内に所在する。(甲5の5,17の2の1)

(2) 本件発会式への参加

 Aは,平成17年6月25日,白山市αの「β」で開催されたB神社御鎮座二千百年式年大祭奉賛会(以下「大祭奉賛会」という。)発会式(以下「本件発会式」という。)に来賓として招かれ,白山市の職員を伴い,同市の公用車を使用して参加し,白山市長として祝辞を述べた。

ア.大祭奉賛会について

(ア) 大祭奉賛会の規約には,以下のことが定められている。

a 目的(第2条)
 大祭奉賛会は,B大神の御神徳を敬仰して,B神社の式年大祭斎行の諸事業を奉賛することを以て目的とする。

b 事務局(第3条)
 大祭奉賛会の事務局は石川県白山市γB神社内に置く。

c 事業の内容(第7条)
 大祭奉賛会は前記aの目的を達成するため,以下の事業を行う。

(a) 御鎮座二千百年式年大祭斎行
(b) 禊場造成及び付帯工事(井戸掘削)
(c) 齋館移築及び車道新設工事
(d) 手水舎新築工事
(e) 仮称遊神殿新築工事
(f) B神社史発刊
(g) その他付帯事業

d 事業予算(第8条)
 事業の予算は5億円とし,募財3億円及び自己資金2億円をそれに充てる(内訳は以下のとおり。)。

(a) 御鎮座二千百年式年大祭6000万円
(b) 禊場造成並びに付帯工事1億円
(c) 齋館移築並びに車道新設工事4000万円
(d) 手水舎新築工事4000万円
(e) 仮称遊神殿新築工事1億5000万円
(f) B神社史発刊6000万円
(g) その他付帯事業5000万円

e 顧問に関する定め(第9条及び第11条)
 大祭奉賛会には,顧問若干名が置かれ,顧問は会長の諮問に応じ,又は会長の要請により会議に出席して意見を述べることができる。

f 会計(第17条)
 大祭奉賛会の会計は,会員の奉賛金及びその他の収入を以てし,必要経費を支弁の上,前記aの目的達成のため,B神社に奉納するものとする。

(イ) 上記(ア)c(a)の御鎮座二千百年式年大祭は,平成20年にB神社の鎮座2100年となることを記念して,同年10月8日から同月12日まで行われる予定の祭事である。

(ウ) 大祭奉賛会の役員名簿には,B神社の宮司であるCが,宮司という肩書きで挙げられている。また,大祭奉賛会の顧問の一人としてAが就任している。
(甲5の3,5の4,10の1〜3,乙1〜3)

イ.本件発会式の内容

(ア) 本件発会式は,平成17年6月25日,白山市α所在の「β」において,以下の式次第によって行われた。

a 開会の辞
b 会長(F)挨拶
c 来賓(役員)祝辞
d 役員紹介
e 来賓紹介
f 事業計画説明
g 宮司(C)御礼の言葉
h 乾杯並びに挨拶
i 閉会の辞

(イ) 本件発会式は,関係者約120名が出席し,約40分ほどで終了した。
(甲2,5の2,5の5,乙2,3)

ウ.E協会について
 E協会は,霊峰白山のすぐれた観光資源を保護開発するとともに,観光諸施設の整備を図り,白山観光をとおして国民文化及び厚生の向上発展に寄与し,併せて国際観光の発展に貢献することを目的とする財団法人である。(乙4・5)

3.当事者の主張

(1) 原告の主張
 Aが,本件発会式に大祭奉賛会の顧問(役員)として白山市民を代表し,職員を随行し市の公用車を使用して出席し,祝辞を述べたことは,次の理由から特定の宗教であるB神社の宗教活動を助長,援助,促進する効果が極めて高いものであり,また,他方において,神道に馴染まない白山市の住民及び神道以外の信仰をする住民の信仰の自由を圧迫する効果があるから,憲法の定める政教分離原則に違反する。
 したがって,本件各財務会計行為のうち,Aの本件発会式出席に関する公金支出は違憲である。

ア.大祭奉賛会の性質
 大祭奉賛会は,祭神鎮座二千百年式年大祭記念事業として,大祭の斎行,禊場,遊神殿の新増築,社史の編纂等を予定し,その予算5億円のうち2億円は神社の資金,3億円は会員の奉納する奉賛金によって賄うというものである。この大祭記念事業は,山岳信仰の修行の場として,また,日本における神仏習合の草分け的存在として,B神社の祭神大神を宣揚し,もって来訪する信者その他の人及び青少年に心身修行の信仰の場を提供しようとするものである。
 したがって,本件発会式は純然たる宗教儀式である。

イ.大祭奉賛会とB神社との関係
 大祭奉賛会は,B神社の50年に一度の神事に賛同して金品及び役務を奉納することを目的とする暫定的な会であるが,一般の奉賛会は氏子及び信者によって結成されるのに対し,大祭奉賛会は,B神社の神主であり筆頭宮司であるCがすべての役員を統括する最高責任者の地位にあり,事務局の役割を担う幹事はD宮司以下B神社の職員であり,役員の委嘱はB神社の宮司の裁量の範囲により行われ,奉賛される奉納金はすべてB神社に奉納されることから,大祭奉賛会は,事実上B神社と一体関係にあり,実質的には同神社の特別会計というべきである。

ウ.白山市長が大祭奉賛会の役員に就任することの効果
 Aは,白山市長として,大祭奉賛会の役員に就任し,石川県知事らに次いで大祭奉賛会入会趣意書に名を連ねた。この趣意書は,大祭奉賛会の事業に対する新米や金品の奉賛を募るために,白山市内の神社総代から同市内の氏子に配布されている。
 したがって,Aが白山市長として大祭奉賛会の役員に就任したことは,大祭奉賛会を主宰する特定の宗教であるB神社を助長,援助,促進するものであり,また,同神社を信仰しない市民の信仰の自由を圧迫するものである。
 国及び地方自治体の首長(総理大臣,県知事,市長,町長,村長)が公人としてその役員に就任している大祭奉賛会は,50年に一度の一大宗教儀式の実行委員会であり,その事務局をB神社を代表する宮司が主宰していることからも,大祭奉賛会は任意団体であっても憲法89条にいう宗教上の組織に相当するものであり,自治体の長であるAが白山市民を代表して主要な役員に就任することは,政教分離原則に違反していることは明らかである。

エ.白山市とB神社との関係
 白山市の平成17年度予算に関する説明書(甲11)によれば,財団法人E協会(以下「E協会」という。)に対する負担金として288万円が計上されている。また,白山市は,平成17年度の観光推進費から国立公園等管理費として50万円を,白山観光パンフレット協賛金として66万円をE協会の事業に出捐している。
 また,E協会は,大祭奉賛会に500万円以上の奉賛金を納めた名誉会員とされている。
 そうすると,同協会は,白山市からの出捐金を含めた事業運営により得た収益の中から500万円を大祭奉賛会に支出したのであるから,白山市が同協会を通じて大祭奉賛会を支援したことになる。
 また,白山市長であるAは同協会の副理事長に就任しており,それに加えて同協会の設立目的が信仰の場として歴史ある白山を多くの人々に活用してもらうこと等であること,同協会の事務局はB神社の境内にあること及び下界から展望する白山が全てB神社の所有する境内でもあり白山それ自体が信仰の場であることにかんがみれば,白山市が同協会に負担金を支出することは,B神社への信仰に繋がるものとして,宗教活動にあたり,白山市長がそのような団体の役員に就任することは政教分離の原則に反することになる。

(2) 被告の主張
 Aは,本件発会式に来賓として招かれ,随行職員1名とともに公用車にて出席し,地元市長として祝辞を述べたが,それは,以下の理由から特定の宗教を援助,助長及び促進するものではなく,政教分離原則に違反しないことは明らかである。
 また,市長の職務は,地方自治法149条では「概ね」と規定されているところからして,一般職員のそれとは異なり,一般的に多種多様で広範囲に亘るものであるところ,地方自治の本旨たる住民福祉の向上に資するため,市民や各種団体と接し,地域の状況などを知ることは,適切に行政を執行する上で欠くことのできないものである。
 こうしたことのために,市長は,自らの裁量により本件発会式に出席し,祝辞を述べたものであり,公用車使用と職員の随行は,職務を遂行する上で当然のことというべきである。

ア.大祭奉賛会の性質及び本件発会式について
 大祭奉賛会は,B神社御鎮座二千百年式年大祭斎行,青少年育成や滝行の場として禊場の造成,奉納された絵馬を一堂に掲載するなど施設としての遊神殿(仮称)の新築や,B神社史の発刊などを事業目的として設立された団体であり,特定の宗教の信仰,礼拝又は普及などの宗教活動を行うものであることは否定できない。
 しかし,本件発会式そのものは,その式次第においても,特に宗教的儀式又は順序作法に則ったものとは認められず,一般によく見られる各種団体における設立次第と変わるものではなく,淡々と進められ,短時間で終了したものである。
 Aは,本件発会式に来賓の一人として招かれ,地元市長として,社会的儀礼の範囲内で祝辞を述べたものである。

イ.大祭奉賛会とB神社との関係
 大祭奉賛会は,B神社御鎮座二千百年の祭礼行事を執行すること,この祭礼行事の執行についての記念事業として規約(乙1)第7条に定める事業を行うことを目的とすることに奉賛し,この事業に助力するために不特定多数の者からの寄附を募ることを目的とする一過性,暫定的な任意の団体である。また,大祭奉賛会はB神社の外郭団体であり,その管理運営に関し規約(乙1)を定め,B神社との関係を明らかにしている。
 したがって,大祭奉賛会が宗教法人であるB神社と一体の関係にあるとか,B神社の特別会計であるということはない。

ウ.白山市長が大祭奉賛会の役員に就任することの効果
 Aは,白山市を代表して大祭奉賛会の目的に奉賛して役員に就任したものではなく,A個人として役員に就任したものであって,就任した当時の地位が白山市長であったに過ぎない。
 また,全国的に見れば,公務員と神社や寺院の代表役員を兼職している例は相当多数にのぼっているはずである。神社や寺院の代表役員を務める国会議員が閣僚を務めた例もあるが,政教分離は問題とされていない。しかして,大祭奉賛会は宗教法人ではなく,任意団体であるから,白山市長であるAが大祭奉賛会の役員(顧問)に就任しても,憲法上の政教分離の問題は生じない。
 ちなみに,宗教法人は,民法上公益法人の中に含まれるから,知事や地方自治体の長が慣例上他の公益法人,例えば財団法人,社団法人,学校法人,社会福祉法人等あるいは任意団体等の要請に応じてその役員に就任することはままあるが,政教分離の上で何ら問題とはならない。

エ.白山市とB神社との関係

(ア) E協会は,霊峰白山の優れた観光資源を保護開発するとともに,観光諸施設の整備を図り,白山観光を通して国民文化及び厚生の向上発展に寄与し,併せて国際観光の発展に貢献することを目的として設立された財団である。
 このように同協会は,その目的からも明らかなように,B神社とは直接の関係はなく,また大祭奉賛会とも直接の関係がない別法人であるが,事業遂行上の便宜からたまたま事務所をB神社に置いているに過ぎない。
 そして,同協会の事業は,上記目的を達成するため,白山国立公園の推進,白山における観光資源の保護及び開発,登山及び観光施設の整備,維持管理及び運営,国内外に対する白山観光の宣伝及び紹介,白山に関する研究・調査及び資料保存等の何ら宗教的色彩のない事業を行う財団である。
 しかして,E協会は,その目的の達成に資するとして,いろいろの事業の中から生まれた運用資産から大祭奉賛会に500万円を支出しているが,この支出は,白山市という公の団体と直接関係のない別法人のE協会が同協会の事業遂行のために有益であるとしてなしたものであり,その結果により同協会が大祭奉賛会規約第5条に基づき名誉会員とされているに過ぎない。
 したがって,E協会が大祭奉賛会へ出捐した金員が,白山市がE協会に支出した金員から支出されたという原告の主張は理由がない。
 なお,上記500万円の支出は,白山の観光資源の保護開発,観光諸施設の整備等の財団の目的のためになされたもので,宗教的意図でなされたものではない。

(イ) 白山市は,E協会に原告主張のように毎年288万円を出捐してはいない。
 E協会は,白山市から美化事業費(道路清掃事業の人夫費用)として,平成17年度に45万円を受領しているに過ぎず,平成18年度は未だ受領していない。

(ウ) 確かに,B神社は,一宗教団体ではあるが,同神社は,全国的に名前が広まっている神社であり,その神社の大祭の実行は,一宗教団体の儀式というにとどまらず,白山市の観光イベントとして,白山市もその実行に関わりのある立場にある。
 白山市は,上記の範囲で関わりがあるに過ぎず,それ以上に一宗教団体に不当に肩入れをしているというわけではない。

【判旨】

1.憲法20条1項後段,3項及び89条は,いわゆる政教分離の原則を規定しているところ,政教分離原則は,国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ,そのかかわり合いがわが国の社会的文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものである。
 よって,憲法20条3項にいう「宗教的活動」とは,国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いが上記にいう相当とされる限度を超えるもの,すなわち,当該行為の目的が宗教的意義をもち,その効果が宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるような行為をいうものと解すべきである。
 そして,ある行為が「宗教的活動」に該当するかどうかを検討するにあたっては,当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく,当該行為の行われる場所,当該行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が当該行為を行うについての意図,目的及び宗教的意義の有無,程度,当該行為の一般人に与える効果,影響等,諸般の事情を考慮し,社会通念に従って,客観的に判断しなければならない(最高裁昭和52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁参照)。
 これを本件についてみるに,前記認定事実によれば,大祭奉賛会は,B大神の御神徳を敬仰して,B神社の式年大祭斎行等の諸事業を奉賛することを目的として設立された団体であり,特定の宗教とかかわり合いを有するものであることは否定できない。
 しかし,前記認定のとおり,本件発会式は,B神社の境内ではなく,同神社外の一般施設で行われたこと,また,その式次第は,前記(※事案2(2)イ(ア))に認定のとおりであって,同発会式が神道の儀式や祭事の形式に基づいていたとは認められないことにかんがみると,本件発会式自体の宗教的色彩は希薄であったといえる。
 そして,このような本件発会式にB神社の所在する白山市の市長としてAが出席し,祝辞を述べることは,社会的儀礼の範囲内の行為であると評価でき,これは一般人から見てもそのように理解されるものということができるから,Aの上記行為が,一般人に対して,白山市が特定の宗教団体であるB神社を特別に支援しているという印象を与えることはなく,また,他の宗教を抑圧するという印象を与えることもないというべきである。
 したがって,Aの上記行為は,その目的が宗教的意義をもち,その効果がB神社あるいは神社神道を援助,助長又は促進するような行為にあたるとは認められないから,憲法20条3項により禁止される宗教的活動にはあたらない。
 以上の認定判断は,Aが大祭奉賛会の役員である顧問に就任していることによっても左右されない。
 また,上記の判断に照らせば,Aが本件発会式に出席したことは,憲法20条1項後段で禁止されている,宗教団体が国から特権を受けることにはあたらず,憲法89条で禁止している公金その他の公の財産を宗教上の組織又は団体の使用,便益又は維持のために支出すること又はその利用に供することにも該当しない。
 なお,原告は,大祭奉賛会はB神社と実質的には一体であり,同神社の特別会計というべきである旨主張する。
 確かに,前記認定事実によれば,大祭奉賛会の活動による終局的利益はB神社に帰属するということはできるものの,大祭奉賛会は独自の規約を定め,B神社とは別個の組織を有していることが認められるので,大祭奉賛会をもって同神社と実質的に一体であるとか,同神社の特別会計であるということはできず,原告の主張は採用できない。

2.また,原告は,白山市長たるAが大祭奉賛会の顧問に就任すること自体が政教分離原則に違反する旨主張する。
 しかし,本訴訟で問題となっているのは,Aが本件発会式に出席したことに関する公金の支出の違憲・違法性であるところ,Aが本件発会式に出席し,祝辞を述べたことは憲法20条1項,同条3項及び同89条に違反せず,この結論はAが大祭奉賛会の顧問であるか否かによって異なるものではないことは前記判断のとおりであり,原告の主張は理由がない。
 さらに,原告は,E協会が500万円以上の奉賛金を納めて大祭奉賛会の名誉会員になっていること及び白山市からE協会に負担金等の名目で公金が支出されていること等から,実質的には白山市が同協会を通じて大祭奉賛会に公金を支出したものと評価すべきである旨主張し,また,白山市長がこのようなE協会の役員に就任していることは政教分離に反するとも主張する。
 しかし,上記主張の当否と,Aが職員を同行して本件発会式に出席し,祝辞を述べたことに関する白山市の公金支出が政教分離原則に違反するか否かということとは関連性があるとは認められず,原告の主張は失当というほかない。

3.よって,Aが本件発会式に白山市の補助職員を同行して出席し,祝辞を述べたこと及びこれらに関してなされた公金支出は政教分離原則に違反しない。

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