平成21年度旧司法試験論文式試験の感想
(民訴法・刑訴法)

試験問題は、こちら

民訴法について

今年度の民訴第1問は、事例問題だった。
昭和63年以降続いていた一行問題連続記録は、21で止まった。
22年ぶりの事例問題ということになる。
その点では、意外性のある出題だった。

もっとも、問題の内容には、意外性はない。
典型的な論点組み合わせ問題である。
しかも、問われている論点も、基本的なものばかりだ。
おそらく、ほぼ同じような内容の問題が予備校答練で出題されているはずである。
従って、実力者にとってはありがたい、解き易い問題だったといえる。

論点としては、以下のものがある。

1:一部請求の可否(最判昭37・8・10)。
2:職権による過失相殺の可否(最判昭43・12・24)。
3:過失における主要事実。
4:信号無視の主張から整備不良による飛び出しを認定できるか。
5:一部請求の場合の過失相殺の減額対象(最判昭48・4・5)。

2について否定説を採ると、3以下の論点が出てこない。
しかし、本問は明らかに3以下の論点を訊いている。
従って、否定説を採る場合でも、3以下の論点には触れるべきである。
書き方としては、Yの黙示の過失相殺の主張を認める。
または、「過失相殺の主張をした場合には〜」等とする方法がある。

3について、過失を基礎付ける具体的事実を主要事実と解する場合。
その場合には、被告の主張と裁判所の認定は、主要事実の不一致となる。
そこで、ささいな不一致であれば許容できるのではないか。
その観点で、4を論じることになる。
弁論主義の趣旨から、不意打ちにならない程度なら許容できる、等と論じることになるだろう。

他方、過失自体を主要事実とし、それを基礎付ける具体的事実は間接事実と解する場合。
この場合には、主要事実における食い違いはないことになる。
もっとも、間接事実であっても、認定にあたり一定の限界はあるのではないか。
その観点から、4を論じることになる。
間接事実であっても、あまりに不意打ちとなるような認定は許されない、等とする余地はある。

いずれにせよ、本問の認定が不意打ちになるか、という視点から検討することになる。

5については、1との論理性に配慮する必要がある。
原則論としては、過失相殺の対象は審判対象たる訴訟物の額となるはずだからである。
そうすると、一部請求肯定説からは内側説。
一部請求否定説からは外側説となりやすい。
ただ、一部請求肯定説からも、当事者意思を考慮して外側説を採ることは可能である。
それが、判例通説である。
なお、5の論点の前提として、一部認容判決の可否も問題となる。
ただ、過失相殺する場合に一部認容判決ができることは、あまりに当然である。
また、当事者の合理的意思を根拠とする場合、5の論点と論述が重複しやすい。
従って、できる限りコンパクトに収めたいところだ。

本問は論点組み合わせ問題であるが、論点の数自体は少ない。
そのため、それぞれの論点をそれなりに丁寧に書く必要がある。
自説からは何が原則なのか、例外を許容する理由は何か。
その辺りを的確に論述できた答案が、上位になると思われる。

第2問は、同時審判申出訴訟に関する出題である。
これまで出そうで出なかったところであり、ようやく出たという感じである。

小問1は、「法律上並存し得ない関係」の意義。
小問2は、同時審判申出訴訟における主張共通。
小問3は、同時審判申出訴訟における上訴不可分の原則。

小問1につき、「法律上並存し得ない関係」とは、一方の請求原因が他方の抗弁となる場合を指すとされる。
本問では、XのYに対する訴訟において、Zの代理権の存在は請求原因事実である(民法99条1項)。
他方、XのZに対する訴訟において、Zの代理権の存在は抗弁事実である(同法117条1項)。
従って、「法律上並存し得ない関係」にあたる。
よって、本問は同時審判申出訴訟となり、分離できないことになる。

小問2は、同時審判申出訴訟も通常共同訴訟であることを示す。
その上で、用意した通常共同訴訟における主張共通を書く。
否定説に立てば、Yとの訴訟でもZの訴訟でも、Xは勝訴することになる。
なお、Zについての擬制自白は、請求原因(XZ契約及びZの顕名)について生じる。
代理権の存在(抗弁)について生じるのではない。

肯定説に立てば、さらに証拠共通が問題となる。
これも肯定すれば、XはYとの訴訟で勝訴、Zの訴訟で敗訴となる。

小問3も、小問2と同様である。
通常共同訴訟である以上、共同訴訟人独立の原則(38条)が働く。
従って、異なる当事者間において上訴不可分の原則は及ばない。
41条3項は、それを前提にした規定として、理由づけに用いることが可能だろう。

以上が原則論であり、現在ではこれだけで十分合格レベルに達すると思われる。
もっとも、小問2で通説のように主張共通を否定すると、Xの両勝ちとなる。
また、小問3で、控訴裁判所がZの代理権の存在を認定する場合、やはりXの両勝ちとなる。
この両勝ちについて、両負けにならないのだからいいのだ、と割り切ってよいか。
割り切るとしても、それならば、小問1で分離を認めた方が同様の結論を迅速に導けるのではないか。
そういった疑問がある。
この辺りについて、うまく矛盾の無い解決策を示せれば、上位となるだろう。
しかし、それを現場で思いつくことは難しい。

同時審判申出訴訟による判断の統一は、併合審理によって事実上期待されるものに過ぎない。
また、その制度の目的は、第一次的には原告の両負けを防止することにある。
そのことを強調して、原則通りでやむを得ないのだ、と言い切るのが無難だろう。

ありそうな例外としては、以下のものがある。
小問1では、分離して迅速に勝訴できる場合に限り分離を認めることが考えられる。
両負け防止の趣旨に反しないといいうるからである。
小問2では、原告の主張する事実についてのみ主張共通を認めることが考えられる。
同時審判申出をした原告の意思に反しないといいうるからである。
小問3では、原告側上訴で、同一の控訴裁判所に係属し41条3項の適用される場合に限り、その他の共同訴訟人にも上訴の効果が及ぶとすることが考えられる。
もっとも、この場合Zの訴訟についての上訴の利益の問題が別途生じる。

いずれにせよ、例外を認める場合には、その範囲を限定することが必要である。
無限定に例外を認める答案は、原則を理解していないとして厳しい評価になるだろう。
「同時審判申出訴訟には40条を類推適用すべきである」などとする答案はその典型である。

刑訴法について

第1問は、ビデオ撮影の適法性を問う問題である。
論点は明らかであるから、いかに整理して論述できるかで差が付く。

ビデオ撮影は、常に強制処分なのか。
任意処分となる場合があるとすれば、どのような場合なのか。
強制処分となる場合、強制処分法定主義との関係で一切許されないのか。
任意処分となる場合、その限界はどの辺りか。
これらの点を一般論として論述した上で、警察官A・Bの撮影についてあてはめることになる。

本問の事例は、最決平20・4・15を素材にした問題である。
判例の事案は、以下のようなものである。

(最決平20・4・15より引用、下線は筆者)

 本件は,金品強取の目的で被害者を殺害して,キャッシュカード等を強取し,同カードを用いて現金自動預払機から多額の現金を窃取するなどした強盗殺人,窃盗,窃盗未遂の事案である。

 平成14年11月,被害者が行方不明になったとしてその姉から警察に対し捜索願が出されたが,行方不明となった後に現金自動預払機により被害者の口座から多額の現金が引き出され,あるいは引き出されようとした際の防犯ビデオに写っていた人物が被害者とは別人であったことや,被害者宅から多量の血こんが発見されたことから,被害者が凶悪犯の被害に遭っている可能性があるとして捜査が進められた。

 その過程で,被告人が本件にかかわっている疑いが生じ,警察官は,前記防犯ビデオに写っていた人物と被告人との同一性を判断するため,被告人の容ぼう等をビデオ撮影することとし,同年12月ころ,被告人宅近くに停車した捜査車両の中から,あるいは付近に借りたマンションの部屋から,公道上を歩いている被告人をビデオカメラで撮影した。さらに,警察官は,前記防犯ビデオに写っていた人物がはめていた腕時計と被告人がはめている腕時計との同一性を確認するため,平成15年1月,被告人が遊技していたパチンコ店の店長に依頼し,店内の防犯カメラによって,あるいは警察官が小型カメラを用いて,店内の被告人をビデオ撮影した

 前記の各ビデオ撮影による画像が,防犯ビデオに写っていた人物と被告人との同一性を専門家が判断する際の資料とされ,その専門家作成の鑑定書等は,第1審において証拠として取り調べられた。

(引用終わり)

防犯ビデオに写っていた人物との同一性を判断するための撮影である点。
容ぼう等を確認する撮影と、手首部分にある特徴を確認するための撮影の二つがある点。
不特定多数の客が出入りする場所での撮影という点、が類似している。

もっとも、本問と判例の事案は、以下の点が異なる。

1:強盗殺人ではなく振込め詐欺の事案である。
2:公道上の被告人ではなく、居室から窓越しに顔を見せたところを撮影した。
3:腕時計ではなく、あざである。
4:パチンコ店ではなく、レストランである。

上記事案について、判例は以下のように判断している。

(最決平20・4・15より引用、下線は筆者)

 捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ,かつ,前記各ビデオ撮影は,強盗殺人等事件の捜査に関し,防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう,体型等と被告人の容ぼう,体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため,これに必要な限度において,公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し,あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり,いずれも,通常,人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。
 以上からすれば,これらのビデオ撮影は,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われたものといえ,捜査活動として適法なものというべきである。

(引用終わり)

上記1から4までの事案の差異のうち、1、2、4については、上記判断に影響しそうにない。
1については、いずれも重大犯罪といえ、嫌疑もある。
3については、犯人の特定のため重要な判断に必要な証拠資料といえる。
4については、不特定多数の客が集まることに変わりは無い。
そうすると、特に問題となるのは、3である。
すなわち、窓越しに他人から容ぼう等を観察されることについて、これを受忍せざるを得ないといえるかである。
窓を通して外部から顔が見える以上、見られても仕方が無いと考えれば、肯定することになる。
他方、窓越しとは、窓から居室内部を覗くことであり、それは受忍限度を超えている。
そう考えれば、否定となる。
どちらもありうるところだろう。
なお、「窓越し」を窓から身を乗り出して外に顔を出すこと、と誤解した人が多かったようである。
それ自体で減点されるとは思わない。
ただ、その場合は安易に公道と同じ、と判断してしまいがちで、その意味で評価を落とすだろう。

また、本問の隠れた論点として、緊急性要件を要求すべきか、という点がある。
この点、上記判例は、緊急性を全く要求していない。
のみならず、以下のような判示を行っている。

(最決平20・4・15より引用、下線は筆者)

 弁護人立田廣成の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,所論引用の各判例(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁昭和59年(あ)第1025号同61年2月14日第二小法廷判決・刑集40巻1号48頁)は,所論のいうように,警察官による人の容ぼう等の撮影が,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではないから,前提を欠き,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

(引用終わり)

引用されている判例は、京都府学連事件判例とこれを引用したオービス事件判例である。

(京都府学連事件判例より引用、下線は筆者)

 次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法一三条、三五条に違反しないものと解すべきである。

(引用終わり)

 

(オービス事件判例より引用、下線は筆者)

 弁護人高山俊吉の上告趣意第一のうち、憲法一三条、二一条違反をいう点は、速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいつて緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法一三条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになつても、憲法一三条、二一条に違反しないことは、当裁判所昭和四四年一二月二四日大法廷判決(刑集二三巻一二号一六二五頁)の趣旨に徴して明らかである。

(引用終わり)

下級審でも、既に行われた犯罪の犯人特定の場合や犯罪発生の高度の蓋然性がある場合には、現行性又はそれに準ずる場合に限定されないとしていた(東京地判平元・3・15、東京高判63・4・1など)。
しかし、その場合でも、証拠保全の緊急性は要求されていた。
その辺りとの関係をどう考えるのか。
判例は、その理由付けを全く示していない。
この点をうまく説明できれば、加点事由とはなるだろう。
考え方としては、居室内部の撮影など新しい強制処分として認める場合には現行性・準現行性が必要だ。
他方、公道の撮影など任意処分として行われる場合には証拠保全の緊急性で足り、それは犯罪が重大であれば通常満たされる。
または、重大な犯罪の嫌疑が濃厚な被疑者を撮影する場合、緊急性要件は不要である。
このような説明はあり得るだろう。
いずれにせよ、加点事由にとどまるところなので、大展開すべきではない。

なお、かばん内に装備した小型カメラで撮影している点、一種の盗撮である。
そのため、適正手続との関係で問題になりそうではある。
しかし、この点は基本書等でも論点として取り上げられていない。
また、判例でも問題にされていない。
そもそも、犯罪捜査である以上、相手にわかるように撮影する方が稀なはずである。
従って、書く必要は無いだろう。

第2問は、単純な論点組み合わせ問題である。
自白法則と違法収集証拠排除法則・毒樹の果実理論、反復自白である。
黙秘権不告知と任意性につき最判昭25・11・21、偽計による自白の任意性につき最大判45・11・25
違法収集証拠につき最判昭53・9・7、毒樹の果実論につき最判平15・2・14最判昭58・7・12における伊藤正己補足意見がある。

いずれも古典的かつ基本的な論点で、予備校答練でも同じような問題は頻出である。
従って、論点を落とすということは、ほとんどないだろう。
それだけに、個々の論点を丁寧かつ正確に論述できているかが、評価を分ける。

二日目は書きやすい問題が多かった。
このことが、全体の難易度を下げている。
民法の第2問や商法第1問は、全体の出来が極端に悪いはずである。
そのため、ここではそれ程差が付かない。

この点、みんな出来ないから差が付かないのだ。
というように単純な意味に誤解されるときがある。
そのような意味ではない。
それならば、書けた人はとりわけ有利、となるはずである。
しかし、そうはならない。
採点段階で出来た人と白紙に近い人との点差が顕著になる。
そのため、得点調整で点差が極端に狭くなるからである。
得点調整は、考査委員間の格差だけでなく、科目間格差をも調整する。
その結果、書けた人も自分だけ飛びぬけて高得点になる、というわけではなくなる。
逆に、白紙に近い人も、0点になるというわけではない。
平成6年度から平成16年度までの間に足切りになった者は1人も存在しない(
資料参照)。
このことは、上記を裏付ける。
(なお、得点調整の算式については、
法務省HP参照
標準偏差の大きい問題は、全体の平均点に近い得点になりやすいことがわかる。)

従って、むしろ書きやすい問題を丁寧に、正確に書けたかどうか。
その点が、合否を分けることになると思われる。

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