最新下級審裁判例

さいたま地裁判決平成20年01月30日

【事案】

1.被告独立行政法人理化学研究所(被告理化学研究所)がポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)用小型サイクロトロンの調達を目的として行った一般競争入札において,被告a株式会社(被告a)を落札者と決定したところ(本件落札決定),同じく入札に参加していた原告が,被告aは競争参加者として必要な資格を有していなかったと主張して,被告理化学研究所に対し,本件落札決定の取消(請求の趣旨1)を求めるとともに,被告理化学研究所,被告a及び被告b株式会社(被告b)ら三者間で締結されたPET用小型サイクロトロンの納入に関する契約(本件納入契約)の無効確認(請求の趣旨2)と原告と被告らの間において,原告が,落札者たる地位を有することの確認(請求の趣旨3)を求めた事案。

2.事実関係

(1) 当事者

ア 原告は,サイクロトロン装置の販売を主な事業とする株式会社である。

イ 被告理化学研究所は,独立行政法人理化学研究所法により,科学技術に関する試験及び研究等の業務を総合的に行う独立行政法人である。

ウ 被告aは,産業用及び一般用機械等の設計,製造並びに販売等を主な事業とする株式会社である。

エ 被告bは,リース業を主な事業とする株式会社である。

(2) 本件入札手続

 被告理化学研究所は,平成18年2月20日,PET用小型サイクロトロンの調達を目的として,入札公告を行い,一般競争入札を行った(本件入札手続,乙6)。
 本件入札手続の概要は,平成18年4月7日から同月12日午後3時までに被告理化学研究所に対して入札書を提出することにより競争参加者となり,被告理化学研究所が競争参加者より提出された技術審査資料等をもとにPET用小型サイクロトロンの技術審査を行い,これに適合した競争参加者のうち,予定価格の制限の範囲内で最低金額を提示した競争参加者が落札者となるものである。
 その後,落札者は,被告理化学研究所との間で調達物品の納入に関する契約を締結することを要するところ,その具体的契約は,落札者がリース会社との間でPET用小型サイクロトロンの売買契約を締結した上で,リース会社が被告理化学研究所にPET用小型サイクロトロンを賃貸するという三社間での賃貸借契約によることが予定されていた。
 本件入札手続に参加したのは,原告及び被告aの二社のみであった。

(3) 本件落札決定

 本件入札手続は,平成18年4月24日に開札され,被告理化学研究所は,被告aを落札者として決定した。

(4) 本件納入契約

 被告理化学研究所は,平成18年6月15日までに,被告a及び被告bとの間で,PET用小型サイクロトロン一式(2台)の納入に関する契約を締結した。

(5) 本件訴え

 原告は,平成18年10月24日,本件訴えを提起した。

【争点】

(1) 本案前の争点

ア 落札決定に処分性があるか(請求の趣旨1について)
イ 訴えの利益があるか(請求の趣旨1について)
ウ 「公法上」の当事者訴訟にあたるか(請求の趣旨2及び3について)
エ 確認の利益があるか(請求の趣旨2及び3について)

(2) 本案の争点

オ 本件納入(賃貸借)契約が無効か(請求の趣旨2について)
カ 原告が落札者たる地位にあるか(請求の趣旨3について)

【判旨】

1. 争点ア(落札決定に処分性があるか)について

(1) 行政事件訴訟法上の取消訴訟の対象となる行政庁の「処分」とは,行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものでなく,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうちで,その行為により直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであるから,落札決定が取消訴訟の対象となる行政処分であるというためには,それが,法の認める優越的な意思の発動として行われるものが必要であり,その結果,個人の権利又は法律上の利益に直接の影響を及ぼす法的効果を有するものであることが必要である。

(2) しかし,落札決定により決定された落札者は,契約を締結すべき義務を負うが,この段階では,契約当事者となりうる地位,すなわち予約当事者たる地位にたたされるにすぎない(昭和35年5月24日最高裁第三小法廷判決民集14巻7号1154頁参照)。本件入札手続に関する公告等においても,落札者は契約書の作成が必要とされ,落札決定後に契約の締結を予定している(甲1,乙6)。したがって,落札決定は,契約の相手方選定に係る準備的行為であるというべきである。
 そして,本件において,落札者が被告理化学研究所と締結するPET用小型サイクロトロン納入に関する契約は,一般の私人間の契約と同様に対等当事者間の法律関係である私法上の行為であり,相手方の意思にかかわらず,一方的に決定し,相手方にその受忍を強制する性質を有するものではないことからすれば,上記契約の準備的行為にすぎない落札決定は,法の認める優越的な意思の発動として行われるものとは解されない。
 したがって,落札決定は,取消訴訟の対象たる行政処分ということはできない。

(3) この点,原告は,入札者がある場合に,独立行政法人たる被告理化学研究所は,法令上の審査権限を行使し,当該入札者を落札者とするか否か決定するのであって,入札者と対等な関係で協議するのではないから,落札決定には処分性があると主張する。しかし,入札者のうちのいずれを落札者とするかは,入札者の意思と関係なく,予め定められた要件及び手続に従って決定されるものの,これは通常の私人同士の契約締結にあたって,自由競争の範囲内で最良の条件を提示する相手を契約相手に選定することと何らかわりがないのであって,原告の主張は採用できない。

(4) 以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく,落札決定の取消(請求の趣旨1)にかかる訴えは不適法であるといわざるをえない。

2.争点ウ(「公法上」の当事者訴訟にあたるか)について

 上記のとおり,落札決定に引き続いて締結される本件納入契約は,被告理化学研究所と落札者とが対等な立場において行う私法契約であるから,当該契約関係を公法上の法律関係ということはできない。
 また,競争入札は,公告により,契約予約の申し込みの誘引がなされ,これに応じて入札をすることが,契約予約の申し込み,落札決定が,これに対する承諾としてそれぞれ位置づけられる。そうすると,入札者ないし落札者と被告理化学研究所との間には,私法上の法律関係が生じるのみであって,公法上の法律関係が生じるものではない。
 したがって,請求の趣旨2及び請求の趣旨3にかかる訴えは,行政事件訴訟法4条に定める公法上の法律関係に関する訴えということはできない。
 そうであるとしても,これを私法上の法律関係の確認の訴えとして扱う余地はあるから,以下これを前提に検討する。

3.争点エ(確認の利益があるか)について

(1) 確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に原告の有する権利または法律的地位に危険または不安が存在し、これを除去するために被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り、許されるものである。

(2) そこで,まず,現に原告の有する権利または法律的地位に危険または不安が存在するか検討すると,本件入札手続において,競争参加者は,被告aと原告の二社のみであるから,原告が唯一の有効な競争参加者,すなわち入札参加資格その他の要件を満たした競争参加者であるとすれば,原則として,原告が落札者すなわち契約の予約当事者となり得ることになる。そしてかような場合には,,本件落札決定ないし本件納入契約により,原告の法律上の地位に不安が存在すると評価することができないわけでもない。しかしながら,乙第14号証によれば,本件入札手続においては予定価格が417万3411円と定められたこと,原告の入札金額は448万円であったことが認められ,本件入札にかかる公告(乙6)によれば,予定価格の制限の範囲内で最低価格をもって有効な入札者を落札者とするとされているから,予定価格を上回る入札金額を提示した原告は,本件入札手続において落札者となりうる要件を満たしていないことになる。
 そうすると,結局,原告は参加資格その他の要件を満たした競争参加者ということもできず,したがって原告の権利ないし法律上の地位に不安ないし危険があるということはできず,本件納入契約の無効確認の訴え及び落札者たる地位の確認の訴えはいずれも確認の利益を欠くと言わざるをえない。
 なお,契約無効確認の訴えについては,被告三者間の本件納入契約の無効を確認したからといって,直ちに原告の地位ないし権利の存在が確認されることにはならない以上,上記法律関係につき確認判決を得ることが原告の権利ないし法律的地位に対する危険の除去に必要かつ適切とは言い難く,この点においても確認の利益は認められない。

(3) 以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく,本件納入契約の無効確認の訴え(請求の趣旨2)及び落札者たる地位の確認の訴え(請求の趣旨3)は,いずれも不適法といわざるをえない。

 

東京高裁判決平成20年07月09日

【事案】

1.E有限会社及び株式会社F(以下,この両社を併せて「本件建築主」という)は,原判決別紙土地目録。記載の各土地(以下「本件敷地」という。)上に原判決別紙建築物目録記載の建築物(以下「本件建築物」という。)を建てることを計画し,建築基準法の規定に基づく指定確認検査機関である被控訴人財団法人D(以下「被控訴人D」という。)に対し建築確認の申請をしたところ,被控訴人Dは,平成17年10月11日付けをもって,同法6条の2第1項に基づく各確認処分(以下「本件各確認処分」という。)をした。本件は,本件敷地の周辺住民である控訴人らが,本件建築物の建築に関して,建築基準法,東京都建築安全条例及び都市計画法の規定に反する違法事由があるなどと主張して,被控訴人Dのした本件各確認処分の取消しを求めるとともに,建築基準法9条1項に基づく本件建築物の建築工事禁止命令及び撤去命令(以下,これらを併せて「本件各是正命令」という。)を東京都知事が本件建築主に対して発令することの義務付けを求めた事案である。
 控訴人H,同I,同A及び同Jが原審裁判所平成19年(行ウ)第161号事件(甲事件)の原告であり,その余の控訴人らが甲事件に追加的に併合された原審裁判所同年(行ウ)第301号事件(乙事件)の原告である。なお,乙事件の原告の1人であったKは,原判決に対して控訴しなかった。

2.原審は,控訴人A,同B及び同Cの3名については,本件各確認処分の取消し及び本件各是正命令発令の義務付けをそれぞれ求める訴えの原告適格を有しないとして,この3名の訴えを却下し,その余の控訴人らの請求については,本件各確認処分及び本件建築物の建築に関し控訴人ら主張に係る違法はないなどとして,これらを棄却した。

3.控訴人らは,この原判決に対して,控訴を申し立てた。また,当審の段階になって,本件建築物の建築主がG特定目的会社に変更されたことから(丙9の1・2。なお,同社を含めて「本件建築主」ということがある。),控訴人らは,被控訴人東京都に対し本件各是正命令を発令すべき名あて人をG特定目的会社及び株式会社Fに変更した(控訴人らは,株式会社Fについて,本件建築物の管理者であるから,依然として本件各是正命令の名あて人となる旨主張している。)。
 一方で,被控訴人Dは,当審において,本件建築物が完成したことにより,本件各確認処分の取消しを求める訴えの利益が失われたから,控訴人らの上記取消しを求める訴えは却下されるべきである旨主張した。また,被控訴人東京都は,上記の理由により建築工事の禁止命令発令の義務付けを求める訴えの利益が失われたから,控訴人らの上記訴えは却下されるべきである旨主張した。

【判旨】

1.建築基準法6条,6条の2に基づく建築確認は,6条1項の建築物の建築等の工事が着手される前に,当該建築物の計画が建築基準関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって,それを受けなければ工事をすることができないという法的効果が付与されており,建築基準関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものである。しかし,工事が完了した後における建築主事等による検査は,当該建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかを基準とし,同じく特定行政庁の違反是正命令は,当該建築物及びその敷地が建築基準法令の規定等に適合しているかどうかを基準とし,いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない上,違反是正命令を発するかどうかは,特定行政庁の裁量にゆだねられているから,建築確認の存在は,検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく,また,たとえ建築確認が違法であるとして取り消されたとしても,検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すベき法的拘束力が生ずるものではない。したがって,建築確認は,それを受けなければ工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから,当該工事が完了した場合においては,建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるというべきである(最高裁昭和59年10月26日判決・民集38巻10号1169頁同平成14年1月22日判決・民集56巻1号46頁参照)。

2.本件についてこの点を検討すると,証拠(丙7,10の1・2)によれば,本件建築物の工事は既に完了し,指定確認検査機関である被控訴人Dは,本件建築主の申し出により,平成20年2月20日,本件建築物の完了検査を終了し,同月26日,検査済証を交付したことが認められる。そうすると,控訴人Aらを除くその余の控訴人らの本件各確認処分の取消しを求める請求については,訴えの利益が失われたことにより,いずれも却下を免れないというべきである。
 控訴人らは,本件敷地の北側擁壁の工事が未だ終了していない旨主張するが,控訴人らのいう都市計画法違反の有無はともかくとしても,証拠(甲48,55,丙6,7,11)によれば,北側擁壁の工事自体は終了していることが認められるのであって,控訴人らの上記主張は採用できない。また,甲57号証によれば,本件建築物について,平成20年5月12日から6月7日にかけて一部屋上のウッドデッキ施工や,同年5月から6月一杯にかけて内装の追加変更工事が,施工業者によって予定されていることが認められるが,これらはその内容からして,本体工事が既に終了した後になって若干の手直しが行われるものにすぎないことがうかがわれるから,少なくとも上記の建築確認の法的効果が残存しているか否かという観点から考えると,本件建築物の工事が完了したというに妨げないものと解すべきである。したがって,この点をとらえて,工事が完了していない旨をいう控訴人らの主張も採用できない。

3.さらに,控訴人らは,本件訴訟において,被控訴人東京都に対し,東京都知事をして建築基準法9条1項に基づく本件建築物の建築工事禁止命令を本件建築主に対して発令することの義務付けを求めている。しかし,前記のとおり,本件建築物の工事は既に完了しているのであるから,建築工事の禁止命令を発令する余地は,もはや存しないものというべきである。したがって,控訴人Aらを除くその余の控訴人らの上記義務付けを求める訴えも,訴えの利益がなくなったことにより,却下を免れないことになる。

4.以上のとおり,控訴人Aらを除くその余の控訴人らについて,被控訴人Dのした本件各確認処分の取消しを求める訴え,及び被控訴人東京都に対し本件建築物の建築工事禁止命令発令の義務付けを求める訴えは,いずれも訴えの利益が消滅したことにより,却下されるべきである。

 

佐賀地裁決定平成21年01月19日

【事案】

1.介護サービス事業者に対する、介護保険法に基づく指定居宅サービス事業者、指定介護予防サービス事業者及び指定居宅介護事業者の各指定を取り消す処分につき、本案に関する第1審判決の言渡しがあるまで、処分の効力の停止を求める事案。

2.事実関係

(1) 当事者

ア 申立人は,介護保険法(以下「法」という。)による居宅介護支援事業等を営むことを目的とする特例有限会社である。

イ 相手方は,佐賀市その他の市町で組織され,地方自治法252条の17の2に基づいた佐賀県事務処理の特例に関する条例2条に基づき,介護事業所の指定,指定取消等を行う権限を有している特別地方公共団体のうちの広域連合である。

(2) 申立人の営む介護支援事業等

ア 申立人は,佐賀県又は相手方から,平成16年から平成18年にかけて,法41条1項の規定による@指定居宅サービス事業者(16長寿190号,17総2号,18総238号),A指定居宅介護支援事業者(17総3号)の指定を受け,平成18年に,法53条1項の規定によるB指定介護予防サービス事業者(18総88号,18総179号,18総239号)の指定を受けた。

イ 申立人は,佐賀市ab丁目において,@指定通所介護事業所・指定介護予防サービス事業所A(以下「A」という。)を開設して,日帰りの通所介護サービスを提供しており,同施設の建物内には,法の適用のない宅老所であるCを併設しており,Aの利用者が同所に居住している。
 申立人は,佐賀市c町において,A指定通所介護事業所・指定介護予防サービス事業所D(以下「D」という。)を開設して,日帰りの通所介護サービスを提供しており,同施設の建物内には,B指定居宅介護支援事業所B(以下「B」という。),C指定特定施設E(以下「E」という。)のほか,法の適用のない宅老所であるFを併設している。

ウ 申立人が開設している前記各施設の平成20年10月20日現在の利用者数は,Aが10名,Dが22名,Bが60名,Eが19名,Cが6名である(甲41)。
 また,前記各施設の平成20年10月20日現在の職員数は,Aが8名,Dが9名,Bが2名,Eが17名,Cが7名である(甲42)。

エ 申立人は,佐賀県国民健康保険団体連合会から,平成20年10月分の介護給付費として,1018万4626円の支払を受け,そのうち,Aが実施した介護サービスに対するものが185万3554円,その他の介護事業所が実施した介護サービスに対するものが833万1072円である(甲18の1・2,40の1)。

(3) 本件申立てに至る経緯

ア 相手方は,平成20年7月1日付けで,申立人に対し,要旨下記の内容の聴聞(以下「本件聴聞」という。)を実施する旨通知した。

・ 予定されている不利益処分(以下全体を「本件不利益処分」という。)の内容

@ Aにおいて,法41条1項の規定による指定居宅サービス事業者の指定(18総238号)の取消し及び法53条1項の規定による指定介護予防サービス事業者の指定(18総239号)の取消し

A Bにおいて,法46条1項の規定による指定居宅介護支援事業者の指定(17総3号)の取消し

B Dにおいて,法41条1項の規定による指定居宅サービス事業者の指定(17総2号)の取消し及び法53条1項の規定による指定介護予防サービス事業者の指定(18総179号)の取消し

C Eにおいて,法41条1項の規定による指定居宅サービス事業者の指定(16長寿190号)の取消し及び法53条1項の規定による指定介護予防サービス事業者の指定(18総88号)の取消し聴聞の期日平成20年7月9日午後3時(後に同年7月22日に変更された。)

・ 聴聞の主宰者相手方 事務局長G

イ 相手方は,平成20年7月22日及び同年8月11日,申立人に対し,本件聴聞を実施し,同日,本件聴聞を終結した。

(4) 本案訴訟の提起と本件申立て

ア 申立人は,平成20年8月22日,当庁に本件不利益処分の差止めを求める本案訴訟(当庁平成20年 第9号)を提起し,同日,本件不利益処分の仮の差止めを求める申立てをした。

イ 当裁判所は,平成20年12月1日,上記仮の差止めを求める申立てを却下する決定をした。

ウ 相手方は,申立人に対し,平成20年12月9日付けで,平成21年3月31日をもって,@Aについて,法41条1項の規定による指定居宅サービス事業者の指定(18総238号)の取消し及び法53条1項の規定による指定介護予防サービス事業者の指定(18総239号)の取消し,ABについて,法46条1項の規定による指定居宅介護支援事業者の指定(17総3号)の取消しを行う旨の各処分(以下併せて「本件処分」という。)を行った。

エ 申立人は,平成20年12月15日,本件申立てをするとともに,同月19日,本案訴訟口頭弁論期日において,上記本案訴訟を,本件処分の取消しを求める訴えに変更した。

【判旨】

1.「重大な損害を避けるため緊急の必要」の要件(行訴法25条2項)について

(1) 本件処分は,平成21年3月31日をもって,@Aにおける指定居宅サービス事業者の指定の取消し,AAにおける指定介護予防サービス事業者の指定の取消し,BBにおける指定居宅介護支援事業者の指定の取消しを行うものである。
 したがって,申立人に対する,@Dにおける指定居宅サービス事業者の指定,ADにおける指定介護予防サービス事業者の指定,BEにおける指定居宅サービス事業者の指定,CEにおける指定介護予防サービス事業者の指定は,本件処分により直ちに取り消されるものではないが,本件処分により,本件処分がされた事業所の事業を行う申立人が行う他の事業所も指定更新の要件を欠くことになるから,Dについては,指定期間である,平成23年4月30日以降,Eについては,同年2月6日以降,それぞれ指定の更新がされないこととなる(相手方の意見参照)。

(2) Aに関する本件処分がされると,同事業所が行っている日帰り通所サービス事業ができなくなるが,法の適用のない宅老所である「C」自体の営業ができなくなるものではなく,近隣地区における同様の事業所の利用を行うことは物理的には可能である。
 また,Bに関する本件処分がされると,申立人におけるケアプランの作成,給付管理票の作成等の居宅介護支援事業自体が困難になるが,法の適用のない宅老所であるF自体の営業ができなくなるものではなく,上記の指定更新時期までは,DやEの事業自体ができなくなるものでもなく,近隣地区における居宅介護支援事業の事業所の利用を行うことは物理的には可能である。
 しかしながら,Bに関する本件処分がされることにより,前記のとおり,申立人全体におけるケアプランの作成,給付管理票の作成等の居宅介護支援事業自体が困難になり,近隣地区における居宅介護支援事業の事業所の利用を余儀なくされることにより,経費が相当増大することが容易に推認できる。また,申立人の事業規模,事業内容からすると,法の適用のある上記各事業相互間及びこれらと法の適用のない有料老人ホーム事業とは,密接な関連を有していることが窺えるから,本件処分がされることにより,処分対象施設であるAの日帰り通所サービス事業ができなくなるだけではなく,有料老人ホーム「H」の入所者に対する介護サービスの内容・程度も大きく影響を受けることにより,同ホームの入所者が減少するなどの影響が生じる蓋然性が高い。さらに,DやEの事業も直ちにできなくなるわけではないが,指定の更新がされないことが利用者に知られることにより,同事業の利用者が減少するだけではなく,Fの入所者に対する介護サービスの内容・程度も大きく影響を受けることが知られることになり,Fに入所者が減少するなどの影響が生じる蓋然性も高い。このようにして,本案の第1審判決の言渡しまでに,申立人の事業全体が破綻し,事業所が閉鎖の事態に至ることも推認するに難くないものというべきである。
 そして,一旦申立人の事業が破綻して上記事業所が閉鎖されることになれば,利用者は,当然に他の事業者の事業所を利用することとなり,仮に本案の第1審判決によって本件処分が取り消されたとしても,相手方が,利用者を再び獲得することが困難となることは必定である。
 以上によれば,本件処分は,申立人の全ての事業所に関する指定の取消しではなく,しかも効力の発生までに4か月近くの猶予期間が設けられているとはいえ,これがされることによる影響の程度は,本案の第1審判決の言渡しまでに,単に申立人の収入額が一部減少する程度にとどまるものではなく,上記のとおり,事業全体が,経済的な破綻にまで至るものである。
 そうすると,本件処分により,事業の継続という独立した利益が失われることになり,これは金銭によっては完全には償うことは困難であるというべきであるから,このような損害の回復の困難の程度,損害の性質及び程度並びに本件処分の内容及び性質を勘案すると,本件においては,行訴法25条2項の「重大な損害を避けるため緊急の必要」があるものと認めるのが相当である。

2.「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」の要件(行訴法25条4項)について

 本件処分の効力を停止することが本件処分の理由となった申立人の法令違反の行為を是認することにはならないし,本件処分の理由が,介護サービスを実施していないにもかかわらず(実施したかのように装って),不正な介護報酬の請求及び受領を行った,ないし,これに加担したというものであり,介護の行い方が不適切であるとか,必要な介護の実施を怠ったなどという,利用者の生活の安全や健康状態に影響を与える性質のものではない以上,上記事業所が,本案に関する第1審判決の言渡しがあるまで介護サービスを提供するとしても,利用者の生活の安全や健康状態に重大な支障をもたらすおそれがあるとは認められない。また,係争中に,申立人が,あえて再び不正請求を行う可能性は乏しい。
 以上のような点を考慮すれば,介護サービス事業者である申立人が本件処分の効力停止期間中,上記事業所で介護サービスを提供することにより,直ちに公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとは認め難く,他にこれを認めるに足りる疎明もない。

3.「本案について理由がないとみえるとき」の要件(行訴法25条4項)について

 ところで,本来,本案について理由があるか否かは,本案訴訟において,主張・立証が尽くされた上慎重に判断されるべき事柄であることはいうまでもない。
 したがって,行訴法25条4項の上記要件は,相手方において本件処分の適法要件の具備を疎明した場合に限られるものというべきである。
 これを本件についてみると,申立人は,不正な介護報酬の請求及び受領を行ったとの事実認定には誤りがあると主張して本件処分の適法要件を争っている上,実際に介護サービスが実施されたか否かについては,記載漏れや誤記の可能性もあるし,その額も50万円程度にすぎない(申立人の年間介護報酬請求額は約1億2000万円である。)ことを考慮すると,少なくとも,現時点においては,本件処分が行政裁量権を逸脱したと判断される余地がないとまではいえず,本案の第1審の審理の結果を待つべきであるから,いまだ本案について理由がないとの疎明がされたとはいえない。

4.結論

 以上によれば,本件申立ては,理由があるから,これを認容することとする。

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