平成21年度旧司法試験論文式
憲法第1問参考答案

第1.本問前段の事例(以下単に「前段」という。)及び本問後段の事例(以下単に「後段」という。)は、いずれも報道機関の所持する取材結果に対する強制処分が問題となっているから、報道機関の報道の自由及び取材の自由との抵触について検討する。
1.報道機関の報道は、国民の知る権利に奉仕するものであるから、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあり、また、報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値する(博多駅テレビフィルム事件判例参照)。
2.本問における自動車の多重衝突により多数の死傷者が出た交通事故(以下「本問事故」という。)についての映像情報は既に放映済みである。従って、本問事故自体の報道及び取材については、たとえ編集前の映像情報の記録されたディスクが対象となっているとしても、差押えや提出命令によって何ら支障は生じない。他方、取材結果が他の目的に利用される場合、将来の取材に支障を来すことが考えられる。従って、本問において問題となるのは、将来における取材の自由に対する制約である。
3.取材の自由も無制約ではなく、公正な刑事裁判や適正迅速な捜査の実現のためには実体的真実の発見が強く要請されるから、取材結果が証拠として必要な場合には制約を受ける。
 もっとも、その場合においても、審判又は捜査の対象たる犯罪の性質、取材結果の証拠価値、公正な刑事裁判又は適正迅速な捜査の実現のための必要性、取材結果の提出又は差押えによる報道機関の取材の自由の制約の程度を比較衡量し、必要な限度を超えないよう配慮しなくてはならない。
第2.上記の見地に立って、本問の各事例を検討する。
1.前段と後段に共通する点
(1) 前段の捜査対象及び後段の審判対象たる犯罪は、いずれも本問事故に係る自動車運転過失致死傷罪であり、死傷者の数や近年の交通事故に対する国民の関心の高まりを考慮すると、重大な犯罪であるといえる。
(2) 本問事故は、自動車の多重衝突によるものであり、個々の運転者の過失の有無等を認定する必要があるが、衝突は瞬間的に生じることからその認定に困難を伴うところ、映像情報はかかる瞬間的状況を確認できるものとして、極めて重要な証拠価値を有し、公正な刑事裁判または適正迅速な捜査の実現のためにこれを提出させ、または差し押える必要性は高い。
2.前段と後段とで異なる点
(1) 前段は捜査機関の差押えによるものであるのに対し、後段は裁判所の提出命令によるものである点が異なる。
 しかし、実体的真実発見の要請と取材の自由の衡量をするに際し、押収主体の差異は重要ではない。従って、取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異はない。
 なお、上記は差押えの適法が前提であり、捜査機関の権限濫用・逸脱のおそれは差押えの適法性の問題である。
(2) 前段と後段では取材結果の入手過程が異なる。
ア.前段においては、たまたま付近でドラマを収録していたテレビ局のカメラマンが撮影したのであるから、その取材結果が報道以外の目的に使用されたからといって、将来同様の場面において取材が困難になることは考えられない。
イ.他方、後段においては、一般人が撮影したものをテレビ局が入手したものである。
 一般に、第三者の協力を得て入手した取材結果について、これを報道以外の目的に用いることは協力者との信頼関係を破壊し、将来の取材に対する協力を困難にするおそれがある。
 しかしながら、上記のことは報道目的以外の利用によって協力者のプライバシーその他の利益が害される場合にのみ妥当するものである。
 本問事故は既に報道されて公知の事実となっており、また、これを撮影したのは一般人であって、本問事故につき特別の関係を有する者である等の事情の認められない本問においては、協力者のプライバシーその他の利益が害されることは考えられない。
 従って、後段において、将来の取材が困難となるとはいえない。
ウ.よって、この点においても、前段と後段とで本質的な差異はない。
第3.以上の通り、前段の差押え及び後段の提出命令はいずれも必要な限度を越える制約とは認められないから合憲であり、また、上記結論に至る事実の評価においても、本質的な差異はない。

以上

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