平成21年度旧司法試験論文式
憲法第2問参考答案(その1)

第1.Aの損害賠償責任について
1.本問において、Aが地方公聴会でした発言(以下「本問発言」という。)は、所属する議院の委員会の構成員として行ったものであるから、国会議員の職務を行うにつきなされたものである。
(1) 一般に、公務員がその職務を行うにつき他人に損害を加えた場合には、国家賠償法(以下「法」という。)に基づいて国が責任を負う余地があるに過ぎず、当該加害公務員個人が賠償責任を負うことはない。公務員個人の責任を認めるときには、責任追及を恐れて公務が萎縮し、又は濫訴により公務が停滞するおそれがあるからである。
(2) 国会議員も公務員であり(憲法99条参照)、上記のことは国会議員についても妥当する。
(3) よって、Aが本問発言について損害賠償責任を負うことはない。
2.他方、Aが本問発言を自己の開設したホームページに掲載した行為(以下「本問掲載行為」という。)は、私的な政治活動であって、国会議員の職務を行うにつきなされたものではなく、また、議院の活動範囲外の行為である以上、「議院で行つた」(憲法51条)とはいえないから、免責特権による免責の余地もない。
 よって、本問掲載行為について不法行為の要件を充足するときは、AはBに対して損害賠償責任を負う。
第2.国の損害賠償責任について
1.本問発言について
(1) 憲法17条は、公務員の不法行為による損害について、国への賠償請求を認めている。その趣旨は、公権力の行使には違法な加害行為を伴う高度の危険が内在することから、その危険の発現により生ずる損害も当然に国が直接負担すべきであるが、国の負担は結局は国民全体の負担であることから、公務員の不法行為による場合にその責任範囲を限定した点にある。
 そうすると、上記趣旨の下に制定された法1条1項は、公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、直接国の賠償責任が生じることを定めたものと解すべきである。
(2) これを国会議員の発言による名誉毀損の場合について検討すると、以下の通りである。
ア.法1条1項の国の責任は上記の通り、国自身の責任であるから、議員の免責特権によって当然に国の責任までもが否定されるわけではない。
イ.しかしながら、議会制民主主義の重要性から議員活動の自由を保障した免責特権の趣旨を考慮すると、免責特権の及ぶ発言により国会議員が個別の国民の権利を侵害したとしても、直ちに職務上の法的義務の違背となるとはいえない。
 もっとも、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合には、もはや正当な職務行為とはいえない。従って、上記場合には、国会議員の職務上の法的義務違背として、法1条1項のその余の要件を充たせば、国の責任が認められる。
(3) 本問発言は、Bの労働者に対する考え方についての意見表明や違法労働の事実の陳述であり、地方公聴会は、地方において委員会が議員を派遣して行う公聴会(国会法51条)である。従って、「議院で行つた演説」にあたり、免責特権が及ぶ。
 そして、Aにおいて国会議員としての職務とは関わりなく違法又は不当な目的をもって本問発言をしたとか、あるいは、虚偽であることを知りながらあえて本問発言をした等の事情は認められないから、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があるとはいえない。
(4) よって、本問発言について、国の損害賠償責任は認められない。
2.本問掲載行為について
 本問掲載行為はAの私的な政治活動であって公権力の行使ではなく、外形的にも国会議員の「職務を行うについて」なされたものではない。
 よって、国が法1条1項によって損害賠償責任を負う余地はない。
第3.Aの弁護士としての懲戒責任について
1.本問発言について
(1) 弁護士会は法律に基づいて一方的に所属弁護士に対する懲戒権を行使しうる(弁護士法56条1項)から、弁護士の懲戒責任も公務員の懲戒責任に準じて、免責特権の対象となる。
(2) よって、Aは弁護士としての懲戒責任を負わない。
2.本問掲載行為について
 前記第1の2で述べた通り、本問掲載行為には免責特権は及ばないから、Aは本問掲載行為について弁護士としての懲戒責任を免れない。

以上

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