最新下級審裁判例

大阪地裁判決平成20年12月25日

【事案】

1.本件は,いずれも大阪府下の公立学校の教員である原告らが,「府立の高等専門学校,高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第12号。以下「府立学校職員規則」という。),「府費負担教職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(同第13号。以下「府費負担教職員規則」といい,府立学校職員規則と併せて「本件システム実施規則」と総称する。)に基づいて定められた「評価・育成システム実施要領」第4の1に基づいて原告らに自己申告票の提出義務を課すことは,教育に対する不当な支配であり,原告らの教育の自由等を侵害すると主張して,大阪府ほかの被告らに対して提起した訴訟である。
 このうち,A事件は,大阪府立高等学校の教員,又は大阪府内の市立学校の教員で市町村立学校職員給与負担法1条及び2条に規定する職員(以下「府費負担教職員」という。)である原告らが,被告大阪府に対して,自己申告票提出義務の不存在の確認(請求ア),自己申告票を提出しないことを昇級の際の昇級号級数及び勤勉手当の成績率の算定の際に不利益に評価されないことの地位を有することの確認(同イ),未払勤勉手当請求権ないし不法行為に基づく未払勤勉手当相当額等の支払(遅延損害金の起算日は訴えの一部変更申立書又は訴状送達の日の翌日)(同ウ)をそれぞれ求めた訴訟である。
 B事件は,A事件原告らのうち,大阪市立学校の教員で府費負担教職員である者らが,被告大阪市に対して,上記自己申告票提出義務の不存在の確認(請求ア),自己申告票を提出しないことを昇級の際の昇級号級数及び勤勉手当の成績率の算定の際に不利益に評価されないことの地位を有することの確認(同イ),未払勤勉手当請求権ないし不法行為に基づく未払勤勉手当相当額等の支払(遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日)(同ウ)をそれぞれ求めた訴訟である。
 C事件は,A事件の原告らのうち,大阪府内の市立学校の教員(ただし,大阪市立学校の教員を除く。)で府費負担教職員である者らが,別紙原告被告対応目録記載の各原告に対応する各市に対して,上記自己申告票提出義務の不存在の確認を求めた訴訟である。

2.本件システムについて

(1) 大阪府教育委員会は,従前,「大阪府立高等学校等職員の勤務評定に関する規則」(昭和33年10月31日大阪府教育委員会規則第9号。)及び「府費負担教職員の勤務評定に関する規則」(同日大阪府教育委員会規則第10号。上記「大阪府立高等学校等職員の勤務評定に関する規則」と併せて「旧勤務評定規則」という。)のとおり,教職員の勤務評定について定めていたところ,平成16年4月16日,府立学校職員規則及び府費負担教職員規則を定めるとともに旧勤務評定規則を廃止して,同年4月から,教職員について新しい評価・育成システム(以下「本件システム」という。)の運用を開始した。
 本件システムの運用開始に当たり,大阪府教育委員会教育長は,平成16年4月16日,本件システム実施規則各12条に基づいて,本件システムの実施について必要な具体的事項として,評価・育成システム実施要領(以下「本件システム実施要領」という。)を制定し,本件システムの実施期間,手続,評価,育成(評価)者及び支援者等,並びに評価の結果の開示等について定めた。

(2) 本件システムの概要

 本件システムは,府立学校職員に対しては,地方公務員法(以下「地公法」という。)40条1項に基づく勤務成績の評定方法を定めた制度であり,府費負担教職員に対しては,地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)46条1項に基づく「計画」として定められた勤務成績の評定方法である(本件システム実施規則各1条)。
 本件システムの目的は,職員の意欲・資質能力の向上,教育活動等の充実及び学校の活性化に資することであり(同規則各1条),その対象は,原則として常勤の一般職に属する職員とされ(同規則各2条),その実施期間は,各年度の4月1日から翌年3月31日までとされ(同規則各3条,本件システム実施要領第3),その実施方法は,職務遂行に係る目標設定,実践,点検・評価,調整・改善の段階について,自己申告及び面談を基本として実施するものとされ(同規則各4条),職員の評価は,毎年1回定期に実施するものとされている(同規則各5条)。

3.争点

[本案前の争点]

(1) 法律上の争訟性(A事件の請求ア及びイ,B事件の請求のア及びイ,C事件の請求)
(2) 確認の利益(同上)
(3) 被告適格(A事件の請求ア及びイ。ただし,原告番号1から47までの原告らに係るものに限る。)
(4) 請求の特定(A事件及びB事件の各請求イ)

[本案の争点]

(5) 本件システムの違法性(A,B及びC事件の各請求)
(6) 勤勉手当請求権の存否(A事件及びB事件の各請求ウ)
(7) 慰謝料請求権の存否とその額(同上)

【判旨】

1 自己申告票提出義務の不存在確認の訴えに係る本案前の争点について

(1) 法律上の争訟性及び確認の利益の有無について

ア.A事件及びB事件の各請求ア並びにC事件に係る訴えは,原告らが被告らに対して,自己申告票の提出義務がないことの確認を求める訴えであるところ,これらの訴えは,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)4条後段)に当たる。
 確認の訴えは,確認の対象となり得るものが形式的には無限定である上,判決には既判力が認められるのみであるから,紛争について,権利の確認という解決手段が有効適切に機能するかという実効性及び解決を必要とする紛争が現実に存在するかという現実的必要性の観点から,確認の利益の存在が必要であると解すべきである。そして,確認の利益を必要とする趣旨がこのようなものであることからすれば,確認の利益があるといえるためには,原告の権利又は法的地位に危険,不安が現に存し,その危険,不安を除去するために確認の訴えが必要かつ適切な手段といえることが必要であると解すべきである。
 もっとも,公法上の法律関係の確認の訴えは,機能的には,後に予想される不利益処分等の予防的不作為訴訟の性質を有している場合もあり,そうした場合には,当該不利益処分等がされるのを待ってその適否を争わせることが合目的的であり,個人の権利救済にとってもそれで支障がないこともあり得る。また,一定の不利益処分の予防については,処分の差止めの訴えが法定され,かかる訴えが認められるためには,一定の処分等がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあることが必要とされており(行訴法37条の4第1項),公法上の法律関係の確認の訴えが将来の一定の処分の差止めの訴えと実質的に同視できるような場合には,差止め訴訟において「重大な損害」が要件とされていることとの均衡を図る必要もある。
 そこで,公法上の法律関係の確認の訴えにおいて,確認の利益が認められるためには,行政の活動,作用等により,原告の有する権利又は法的地位に対する危険,不安が現に存し,これを行政過程がより進行した後の時点で事後的に争うより,現在,確認の訴えを認めることが当事者間の紛争の抜本的な解決に資し,有効適切といえることを要するものと解すべきである。

イ.以上を前提に,原告らに自己申告票提出義務の不存在の確認を求める利益があるか否かを検討する。

(ア) 地公法40条1項は,「任命権者は,職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い,その評定の結果に応じた措置を講じなければならない。」とし,地教公法46条は,「県費負担教職員の勤務成績の評定は,地方公務員法第40条第1項の規定にかかわらず,都道府県委員会の計画の下に,市町村委員会が行うものとする。」と定める。そして,地教行法14条1項は,「教育委員会は,法令又は条例に違反しない限りにおいて,その権限に属する事務に関し,教育委員会規則を制定することができる」とし,これを受けて定められた本件システム実施規則各4条は,「システムは,職務遂行に係る目標設定,実践,点検・評価,調整・改善の段階について,自己申告及び面談を基本として実施する」とし,同規則各6条は,小学校,中学校及び高等学校の教諭の育成(評価)者は,校長とすると定めており,これらの規定によれば,小学校,中学校及び高等学校の各教諭は,各所属学校の校長に対して,自己申告の義務及び面談に応じる義務があると解することができる。そして,本件システム実施規則各12条は,「この規則に定めるもののほか,システムの実施について必要な事項は,府教育長が別に定める。」とし,これを受けて定められた本件システム実施要領第4の1は,上記自己申告義務の細目的事項として,「職員は,自己申告票を作成し,育成(評価)者に提出するものとする。」と定めており,このような定めに照らせば,小学校,中学校及び高等学校の教諭である原告らは,各所属学校の校長に対して,自己申告票を提出することが法的に義務付けられており,原告らが主張する自己申告票の提出義務は,現在の法律関係に関する具体的な義務というべきである。そして,本件システムにおいて,教職員は,自己申告票の作成の際,校長が提示する学校教育目標等に沿った目標を設定することが求められ,校長によってその設定目標とその達成状況の評価(業績評価)がされるものであるところ,原告らの主張によれば,本件システムは,このような目標設定及びその評価を通して校長の意向を教育内容にまで及ぼしており,教育を不当に支配し,原告らの教育の自由等の憲法上の権利等を侵害する,というのであって,このような原告らの主張を前提とすれば,原告らは,本件システムによって,その具体的な権利が侵害されている状態にあるといえ,他方,被告らは,かかる権利侵害の有無を争っているのであるから,原告らの法的地位に対する不安ないし危険は現に存在しているものというべきである。

(イ) そして,職員の昇級は,毎年1月1日に,任命権者(大阪市立学校の職員のうち府費負担教職員については,大阪府教育委員会)が定める期間におけるその者の勤務成績に応じて行われるところ(「職員の給与に関する条例」(昭和40年大阪府条例第35号。以下「給与条例」という。)5条5項),大阪府教育委員会は,人事委員会と協議の上,教職員の昇級号級数を本件システムの評価結果と連動させ,前年度の評価結果がSであった職員は,勤務成績が極めて良好である職員として5号級の昇級,前年度の評価結果がDであった職員は,勤務成績が良好でない職員として昇級しないなどの取扱いを定め,自己申告票未提出者については原則として,評価結果がDであった職員と同様に昇級しないものと取り扱うことにしている。また,職員の勤勉手当は,毎年6月1日及び12月1日にそれぞれ在職する職員に対し,任命権者(大阪市立学校の職員のうち府費負担教職員については,大阪府教育委員会)が定める期間におけるその者の勤務成績に応じて,支給されるところ,大阪府教育委員会は,教職員の勤勉手当の成績率を本件システムの評価結果と連動させ,前年度の評価結果がSであった職員は,成績が特に優秀な職員として,2X+100分の73.5の成績率(ただし,上記Xについては,大阪府教育委員会教育長が前年度の評価結果等を勘案し,一定の範囲内で配分可能とする率を毎年度設定する。),前年度の評価結果がDであった職員は,勤務成績が良好でない職員として,100分の63.5の成績率とする取扱いを定め,自己申告票未提出者については,原則として,評価結果がDであった職員と同様に100分の63.5の成績率を適用するものと取り扱うことにしている。
 このような本件システムの評価結果と昇級号級数及び勤勉手当の成績率との関係に照らせば,自己申告票未提出者は,自己申告票の提出の有無とは関係なく評価される能力評価の結果にかかわらず,自己申告票の未提出を継続する限り,一切昇級せず,勤勉手当の成績率も勤務成績が良好でない職員と同等の割合になるという給与上の不利益を現に受けているというべきであり,このような給与上の不利益は具体的なものといえる上,このような昇級しないとの取扱いは昇級日前1年間に懲戒処分としての停職処分を受けた者と同じであり(「府立の高等専門学校,高等学校等の職員及び府費負担教職員に係る勤務成績に応じた昇級の取扱いに関する要領」(平成18年6月12日教委職企第1243号。以下「昇級取扱要領」という。)4条3項参照),その不利益の程度も小さくないものといえる。そして,このような取扱いは,自己申告票未提出者は,自己申告票の提出義務があるにもかかわらず,それに違反しており,これが服務規律違反に当たると考えられているからであることに照らせば,原告らが自己申告票を提出しないことによって被る上記給与上の不利益は,自己申告票を提出する義務があるにもかかわらず,それを提出しないことに起因するものといえる。そうすると,仮に,原告らが主張するとおり,本件システムが違法であり,原告らに自己申告票の提出義務を課す法令上の根拠が認められない結果となれば,原告らに服務規律違反があると認めることはできず,これを前提とする上記給与上の不利益な取扱いも許されないものと解することができるのであるから,原告らが上記給与上の不利益な取扱いを除去するために,自己申告票の提出義務がないことの確認を求めることは有効適切な訴えといえる。
 確かに,原告らの上記給与上の不利益を回復するためには,未払給料ないし未払勤勉手当相当額についての給付請求をすることも考えられないではない(A事件及びB事件の各請求ウが正しくこれに当たる。)。
 しかしながら,上記給与上の不利益は,原告らが自己申告票の未提出を継続する限り,昇級については年1回,勤勉手当については年2回生じるものであり,このような不利益が生じた都度,原告らが上記給付請求をしなければならないとすれば,迂遠かつ煩瑣な手続を強いられることとなる。他方,このような場合の紛争の争点は,自己申告票の提出義務の存否ないし本件システムが違法か否かでありその争点は明確といえる上,さらに行政過程がより進行した後の時点で事後的に争うことを有効適切とするような他の事情もうかがわれない(むしろ,本件においては,後に何らかの行政過程が進行することは予定されていない。)ことをも併せて考えれば,本件において,自己申告票の提出義務の存否の確認の訴えは,原告らと被告らとの紛争の抜本的な解決に資し,有効適切なものというべきである。

(ウ) 以上からすれば,原告らは,自己申告票の提出義務を法令上義務付けられており,これによって原告の現に不安定な地位及び給与上の不利益な地位を除去するためには,現時点において確認の訴えを認めることが,紛争の抜本的な解決に資し,有効適切といえる。したがって,原告らの被告らに対する自己申告票提出義務の不存在確認の訴えについて,確認の利益が認められるものと解するのが相当である。

ウ.この点について,被告らは,@自己申告票を提出しないことによって,原告らが被る給与上の不利益なるものは,自己申告票を提出しないため,任命権者による成績の証明ができないことの結果であり,自己申告票の提出義務の存否とは関係がないこと,A法令に定める義務の違反に対しては,将来不利益処分を受けるおそれがあるというだけでは,事前に当該義務の存否の確定を求めることは許されず,当該処分を受けてからこれに関する訴訟において事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがあるなど,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がない限り,あらかじめ上記の義務の存否の確定を求める法律上の利益を認めることはできないところ(最高裁昭和47年11月30日第一小法廷判決・民集26巻9号1746頁(長野勤評事件判決),最高裁平成元年7月4日第三小法廷判決・判例時報1336号86頁),本件には上記特段の事情が認められないこと,以上の@及びAを理由として,自己申告票提出義務の不存在確認の訴えについて,確認の利益は認められないと主張する。

(ア) まず,上記@について検討するに,上記イ(イ)のとおり,自己申告票未提出者は,自己申告票の提出とは無関係に評価される能力評価の結果にかかわらず,勤務成績が良好でない職員と同様の総合評価Dとして取り扱われ,一切昇級はせず,勤勉手当の成績率が100分の63.5として取り扱われるところ,このような給与上の不利益な取扱いがされるのは,上記イ(イ)のとおり,自己申告票未提出者が自己申告票の提出義務に違反しており,これが服務規律違反に当たると考えられているからであり,単に,勤務成績の証明がないことの結果ということはできず,被告らの上記@の主張は採用できない。

(イ) 次に,上記Aについて検討するに,i長野勤評事件判決は,教員らの自己観察表示義務の不存在確認請求を実質的には懲戒処分等の差止めを求めるものであり,予防的な無名抗告訴訟と解した上で,それが許容される要件を示した事案と解するのが相当であるところ,本件は,当事者訴訟としての公法上の法律関係に関する確認の訴えであり,その訴訟類型を異にすること,ii長野勤評事件判決においては,原告(上告人)の訴えを実質的には将来の不利益処分の差止めを求める訴えと理解することが相当な事案であったのに対して,本件の原告らは,現に法令上課されている自己申告票提出義務自体から生じる法的地位の不安並びに現在及び将来にわたって生じる給与上の不利益をそれぞれ除去するために自己申告票提出義務の不存在確認を求めているのであり,本件は,長野勤評事件判決とは事案を異にするといえることからすれば,長野勤評事件判決の射程は本件には及ばないと解するのが相当である。
 なお,平成16年法律第84号により改正された行訴法(以下「改正行訴法」という。)において,行政庁が一定の処分をすることの差止めを求める差止めの訴えや行政庁に一定の処分を義務付けることを求める義務付けの訴えが法定抗告訴訟として定められるとともに,国民の権利利益の実効的救済を図る上で,従来ともすれば積極的に利用されずにきた確認訴訟の活用が有効であることを示すために,確認的にではあるが,行訴法4条に「確認の訴え」という文言が追加挿入されている。そして,将来の不利益処分が想定されない本件のような場合において,事案に即して,確認の利益の存否を吟味した上で,確認の訴えという救済手段を認めることは,改正行訴法の趣旨に沿ったものということができる。したがって,被告らの上記Aの主張も採用できない。

エ.以上より,原告らには,自己申告票提出義務の不存在確認の訴えにつき確認の利益が認められるというべきである。そして,このように,原告らの被告らに対する自己申告票提出義務の不存在確認の訴えについて確認の利益が認められることからすれば,このような訴えが「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たることは明らかというべきである。

(2) 自己申告票提出義務の不存在確認の訴えの被告適格について

 被告大阪府は,自己申告票提出義務の不存在確認の訴えについて,府費負担教職員である原告ら(原告番号1から47まで)の訴えの被告適格を有するのは各市であり,大阪府は被告適格を有しないと主張することから,以下検討する。

ア.府費負担教職員(ただし,大阪市立学校の教職員を除く。以下この項において同じ。)である原告ら(原告番号21から47まで)について

 上記原告らは,A事件において,大阪府を被告として,C事件において,各市を被告として,自己申告票提出義務の不存在確認の訴えを提起している。

(ア) そこで,検討するに,地教行法46条は,「県費負担教職員の勤務成績の評定は,地方公務員法第40条第1項の規定にかかわらず,都道府県委員会の計画の下に,市町村委員会が行うもの」と定めており,本件システムが,府費負担教職員との関係では,上記「計画」に当たることからすれば,府費負担教職員に対する勤務評定(本件システムの実施)は,大阪府教育委員会が定めた本件システム実施規則及び本件システム実施要領に基づいて,各市町村教育委員会が行うものといえる。そして,府費負担教職員規則4条は,「システムは,職務遂行に係る目標設定,実践,点検・評価,調整・改善の段階について,自己申告及び面談を基本として実施する。」と定め,本件システム実施要領第4の1は「職員は,自己申告票を作成し,育成(評価)者に提出するものとする。」と定めていることからすれば,府費負担教職員の教諭である上記原告らは,各市立学校の校長に対して,自己申告票の提出義務を負っているというべきである。そして,この場合の各校長は各市の教育委員会が実施すべき勤務評定の事務を一部分担する者ということができるから,上記原告らは,各市の教育委員会に対して,自己申告票の提出義務を負っているというべきである。したがって,府費負担教職員の自己申告票提出義務の不存在確認の訴えの被告適格は,各市の教育委員会が帰属する行政主体である各市にあると解すべきである。

(イ) また,府費負担教職員は,上記のとおり,大阪府教育委員会ないし大阪府に対して,自己申告票の提出義務自体は負わないものの,地教行法42条は,「県費負担教職員の給与,勤務時間その他の勤務条件については,地方公務員法第24条第6項の規定により条例で定めるものとされている事項は,都道府県の条例で定める」と規定しており,大阪府教育委員会ないし大阪府が府費負担教職員の給与等を決定する権限を有していると解することができる。そうだとすれば,府費負担教職員である上記原告らの前記(1)イ(イ)の自己申告票未提出による給与上の不利益な地位も大阪府教育委員会ないし大阪府との間で生じているというべきであり,大阪府教育委員会ないし大阪府との関係において,上記原告らの自己申告票提出義務が存在しないことの確認がされなければ,上記原告らは,その給与上の不利益な地位を除去することができないというべきである。したがって,上記原告らは,大阪府教育委員会が帰属する行政主体である大阪府との間で自己申告票提出義務の不存在確認をすることによって,その法的利益を確保できるといえ,府費負担教職員の自己申告票提出義務の不存在確認の訴えの被告適格は,大阪府にもあると解すべきである。

(ウ) 以上より,府費負担教職員である原告番号21から47までの原告らの自己申告票提出義務の不存在確認の訴えの被告適格は,大阪府及び別紙原告被告対応目録記載の各原告に対応する各市にも認められるというべきである。

イ.大阪市立学校の府費負担教職員である原告ら(原告番号1から20まで)について

 上記原告らは,A事件において,大阪府を被告として,B事件において,大阪市を被告として,自己申告票提出義務の不存在確認の訴えを提起している。

(ア) そこで,検討するに,地教行法46条,府費負担教職員規則4条及び本件システム実施要領第4の1からすれば,上記アと同様に,大阪市立学校職員である原告らは,大阪市教育委員会に対して,自己申告票の提出義務を負っているというべきである。そうだとすれば,大阪市教育委員会が帰属する行政主体である大阪市に被告適格があると解すべきである。

(イ) もっとも,地教行法58条は,「指定都市の県費負担教職員の任免,給与の決定,休職及び懲戒に関する事務は,第37条第1項の規定にかかわらず,当該指定都市の教育委員会が行う」と定めていることからすれば,指定都市である大阪市の府費負担教職員の「給与の決定」に含まれる昇級及び勤勉手当額の決定の事務は,大阪市教育委員会が大阪府の定める給与条例,「職員の給料に関する規則」(昭和41年大阪府人事委員会規則第1号。以下「給料規則」という。)及び昇級取扱要領並びに「職員の期末手当,勤勉手当及び期末特別手当に関する条例」(昭和39年大阪府条例第45号。以下「勤勉手当条例」という。),「職員の期末手当,勤勉手当及び期末特別手当に関する規則」(昭和39年大阪府人事委員会規則第3号。以下「勤勉手当規則」という。)及び「勤勉手当の成績率の取扱いに関する要領」(平成19年5月28日教委職企第1199号。以下「勤勉手当取扱要領」という。)に基づいて決定すると解することができ,大阪府教育委員会は,これらを決定する権限を有するとはいえない。そうすると,上記原告らの前記(1)イ(イ)の自己申告票未提出による給与上の不利益な地位も大阪市教育委員会ないし大阪市との間で生じているというべきであり,大阪市立学校の府費負担教職員である上記原告らの自己申告票提出義務の不存在確認の訴えについては,大阪府に被告適格を認める必要はなく,大阪府に被告適格があると解することはできない。

(ウ) 以上より,大阪市立学校の府費負担教職員である原告ら(原告番号1から20まで)の自己申告票提出義務の不存在確認の訴えの被告適格は,大阪市のみに認められるというべきであり,大阪府を被告とする上記原告らの自己申告票提出義務の不存在確認の訴え(A事件の請求ア)は被告を誤ったものであり,不適法なものというべきである。

2.自己申告票未提出を理由に給与上の不利益な評価を受けない地位の確認を求める訴えに係る本案前の争点について

 上記確認の訴えは,原告らが,平成20年度以降,自己申告票未提出を理由に昇級号級数及び勤勉手当の成績率において不利益な評価を受けない地位を有することの確認を求める訴えであり,このような訴えは,原告らが自己申告票を提出しないことによる給与上の不利益を除去することを目的としたものと解することができる。そして,前記のとおり,原告らが自己申告票を提出しないことによって,給与上不利益に取り扱われるのは,自己申告票を提出しないことが服務規律違反として取り扱われるからであるところ,仮に,原告らが,自己申告票の提出義務がないことの確認判決を得ることができれば,被告大阪府及び被告大阪市は,自己申告票の不提出をもって服務規律違反と取り扱うことはできず,その結果として,原告らは,自己申告票未提出を理由とする給与上の不利益な取扱いを受けないものと解することができる。そうだとすれば,上記給与上の不利益な評価を受けない地位の確認を求める訴えは,自己申告票の提出義務の不存在確認の訴えによって,その目的を達することができ,かかる訴えの方が紛争解決にとってより適切な訴えといえる。したがって,自己申告票未提出を理由に給与上の不利益な評価を受けない地位の確認を求める訴えは,確認の利益を欠く不適法な訴えというべきである。

3.退職者について

 原告aらは,いずれも平成20年3月末に退職していることからすれば,原告aらの被告大阪府に対する自己申告票提出義務の不存在確認の訴え及び自己申告票未提出を理由に給与上の不利益な評価を受けない地位の確認を求める訴え,並びに原告eの被告大阪市に対する自己申告票提出義務の不存在確認の訴え及び自己申告票未提出を理由に給与上の不利益な評価を受けない地位の確認を求める訴えは,いずれも訴えの利益を欠く不適法な訴えというべきである。

4.争点(5)(本件システムの違法性)について

(1) 自己申告票の提出義務が法的義務であるか否か

 原告らは,自己申告票の提出義務について定めた法令の規定はないから,原告らが求められている自己申告票の提出義務は法的義務ではないと主張する。
 しかし,地教行法14条1項を受けた本件システム実施規則各4条は,「システムは,職務遂行に係る目標設定,実践,点検・評価,調整・改善の段階について,自己申告及び面談を基本として実施する」とし,同規則各6条は,小学校,中学校及び高等学校の各教諭の育成(評価)者は,校長とすると定めており,これによれば,小学校,中学校又は高等学校の各教諭は,各所属学校の校長に対して,それぞれ自己申告の義務及び面談に応じる義務があると解することができる。そして,本件システム実施規則各12条は,「この規則に定めるもののほか,システムの実施について必要な事項は,府教育長が別に定める。」とし,これを受けて定められた本件システム実施要領第4の1は,上記自己申告義務の細目的な実施事項として,「職員は,自己申告票を作成し,育成(評価)者に提出するものとする。」と定めていることからすれば,小学校,中学校又は高等学校の各教諭である原告らは,各所属学校の校長に対して,それぞれ自己申告票の提出が義務付けられているというべきである。これに加えて,地公法32条が「職員は,その職務を遂行するに当たって,法令,条例,地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い,且つ,上司の職務上の命令に従わなければならない」と定め,本件システム実施要領は上記「規程」に当たると解することができ,原告らはこれに従わなければならないことも併せて考えれば,原告らが各校長に対して負う自己申告票の提出義務は法的な義務と解するのが相当である。したがって,原告らの上記主張は採用できない。
 以上を前提に,以下,本件システムが違法か否かについて検討する。

(2) 本件システムが違法か否かについて

ア.地方公務員法は,地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営等を保障することを目的とし(同法1条),公務能率を増進させるために,職員の任用は受験成績その他の能力の実証に基づいて行わなければならないとし(同法15条),勤務実績が良くない場合やその職に必要な適格性を欠く場合は,降任し又は免職することができるとし(同法28条1項),能力主義・実証主義を採用しており,これに対応して,地公法40条1項は「任命権者は,職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い,その評定の結果に応じた措置を講じなければならない」とし,勤務評定によって,職員の能力,勤務実績等を適正に把握し,もって能力主義,実証主義に基づいた適正な人事管理を行おうとしている。そして,勤務成績の評定が任命権者の人事管理に属するものであり,その根拠規定である地公法40条1項ないし地教行法46条が勤務成績の評定の方法等について特段の定めもしていないことからすれば,勤務評定の制度の内容をどのようなものにするかは任命権者の裁量にゆだねられていると解すべきである。
 そして,教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員に関する特例を定めた教育公務員特例法は,その職務と責任の特殊性に基づき,その任免,給与,分限,懲戒,服務及び研修等について特例を定めるも,勤務評定の方法について特段の定めをしていないことからすれば,教育公務員である府立学校職員及び府費負担教職員についても,地公法40条1項ないし地教行法46条に基づいて勤務評定が行われるというべきであり,その勤務評定制度の内容をどのようなものにするかは,大阪府教育委員会の裁量にゆだねられていると解すべきである。
 もっとも,勤務評定は,公正な人事管理を行う基礎とするために,職員の執務について勤務成績を評定し,これを記録するものであることからすれば,勤務評定は,職員が割り当てられた職務と勤務実績を当該職員の職務遂行の基準に照らして評定し,並びに執務に関連してみられた職員の性格,能力及び適性を公正に示すものでなければならず,人事管理上の責任者の個人的,恣意的な判断が許されないことは当然であり(人事院規則10−2第1条,2条1項参照),これらの観点からみて,当該勤務評定制度が裁量権の範囲を逸脱し,またはその濫用をしたものといえる場合には,当該制度は違法になるというべきである。
 本件においても,大阪府教育委員会は,勤務評定制度として本件システムを策定しているところ,同委員会が本件システムの策定に当たって上記裁量権の範囲を逸脱し,またはその濫用をしたといえる場合には,本件システムは違法になるというべきである。なお,府費負担教職員の勤務成績の評定は大阪府教育委員会の計画の下に,各市町村の教育委員会が行うものとされ(地教行法46条),本件システムは,上記「計画」に当たることからすれば,府費負担教職員である原告ら(原告番号1から47まで)との関係においても,大阪府教育委員会が本件システムの策定についてその裁量権の範囲を逸脱し,その濫用をしたといえるか否かを検討すれば足りるというべきである。
 そこで,以下,大阪府教育委員会が本件システムの策定についてその裁量権の範囲を逸脱し,その濫用をしたといえるか否かを検討する。

イ.本件システムの導入の必要性について

 近年,社会情勢の変化が家庭や地域社会に大きな影響を与え,子供たちを取り巻く環境も変化し,いじめや不登校,学級崩壊等の教育課題への対応や学校教育の質の向上が強く求められ,教育委員会や学校,校長をはじめとする教職員は,一致協力して家庭・地域と連携しながら,変化の時代に対応することが求められるようになり,他方,教員についても,日々精力的に取り組み,成果を上げている者がいる一方で,時代や子供の変化に対応しきれていない教員や指導力不足教員,問題教員の存在が問題視されていることが認められる。このような学校教育を取り巻く状況や学校・教職員の現状からすれば,大阪府教育委員会においては,教職員の意欲・資質能力の向上,教育活動等の充実及び学校の活性化を図ることができる制度として,本件システムを導入する必要性は高かったといえる。

ウ.本件システムの内容の合理性について

(ア) 本件システムは,教職員が,年度の初めにかけて学校教育目標等を踏まえ,各自が自ら取り組む目標を設定して自己申告票を作成し,校長に提出し,目標設定面談において設定目標を決定し,年度の終わりにかけて目標達成状況を自己評価し,校長からの評価(業績評価及び能力評価並びに総合評価)を受け,開示面談において評価結果の説明を受けた上で,活動内容の改善と翌年度の目標を検討するというサイクルの下で評価と育成を継続的,体系的に行うことを予定した制度である。

(イ) このような本件システムのサイクルの下で,教職員が年度初めに学校全体の組織目標と適合した自己の目標を自ら設定することは,教職員の自主的,主体的な活動を促すとともに,目標設定面談を通して組織目標の共有化を図ることができ,これにより教職員の組織的な取組の促進が期待できるといえる。特に,各教職員が当該学校の全体としての目標や改善点を把握・意識して日々の教育活動を行うことは学校組織を活性化していく上で不可欠の前提となるものといえ,また,当該目標達成に対する教職員の責任感を高めることも期待できるといえる。そして,教職員が,子供・保護者,地域住民や同僚教職員の声を踏まえた上で自己評価をすることにより,その意識改革を促し,さらに,評価結果についての面談を通して,自己の課題を発見・確認し,翌年度へフィードバックすることができ,教職員の自己研さんや能力開発も期待できるといえる。そして,本件システムがこのようなサイクルを継続的,体系的に繰り返す制度であることにも照らせば,本件システムは,教職員の資質向上及び学校の活性化という観点から有用なものとみることができ,これは,旧勤務評定において,その職務の評価が一方的であり,評価結果も人事管理の基礎資料の一部として利用されていたにとどまることと比較すれば,その有用性を認めることに合理的な根拠があるというべきである。

(ウ) また,本件システムにおける評価は,教職員の職務遂行状況の観察や意見交換,自己申告の内容等に基づいて,児童生徒・保護者・同僚職員等の意見,支援者の意見具申等を参考にしてされること,評価の対象は,学校教育目標等を踏まえた設定目標との関係での達成度を対象としたもの(業績評価)と日常の教職員の職務活動一般を対象としたもの(能力評価)という異なる二つの観点からのものであること,これは客観的評価になじみやすい業績評価と詳細な評価基準に基づく能力評価とを組み合わせたものといえ,これらの評価基準も公表されていることが認められる。これらに照らせば,本件システムは,教職員の職務活動をできる限り幅広い観点から評価するとともに,他方で,評価権者による主観的評価をできる限り排除し,もって,適正,公正,透明な評価を図ろうとする趣旨に出たものといえ,評価方法として合理性があるものと認められる。

(エ) そして,@旧勤務評定においては,その結果が非公表とされ,それがどのように活用されているのか外部から明らかでなかったのに対し,A本件システムにおいては,評価結果は被評価者に開示され,評価者はそれに対する説明をしなければならず,S評価及びD評価という基本評価とされるAからCまで以外の評価をする際には所見欄にその理由を記載し,また,教職員の業績評価における目標達成状況の判断(自己評価)と評価者のそれが異なる場合には備考欄にその理由を記載しなければならないこと,B被評価者は,当該評価に不服がある場合には,苦情審査委員会に対し,苦情申立てができ,また,教職員は,学校の運営の改善・充実のため,校長への提言シートを作成・提出し,これによって校長の不当な学校運営等について改善の要求ないし提案ができ,これらの苦情申立て及び校長への提言シートの内容は校長が教育長に評価される際の基礎資料にもなり得ることが認められる。これらの事実に照らせば,本件システムは,評定権者の専断的,恣意的な人事評価を防ぐための措置をも講じているといえる。

(オ) このように本件システムが教職員の資質向上及び学校の活性化という観点から有用といえる上,評価の適正性,公正性,透明性を図ろうとしているとともに,評価権者の専断,恣意を防ぐための措置をも講じているといえることからすれば,本件システムの内容は,合理的なものというべきである。

エ.本件システムの評価結果を給与に反映させることの合理性

 本件システムは,その評価結果と昇級の際の昇級号級数及び勤勉手当の成績率とを連動させているところ,このように評価結果と給与とを連動させることが大阪府教育委員会の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用といえるか否かを検討する。

(ア) まず,本件システムの評価結果と給与が連動するものとされた経緯についてみるに,@人事院が平成17年8月15日に一般職の国家公務員の給与について,年功的な処遇を改め,適正な人事評価制度の下の適正な評価に基づく勤務実績の給与への反映を確保する必要があるとの報告・勧告をしたことを受けて,A大阪府教育委員会は,同年9月21日,職員全体の士気向上,組織の活性化を図るため,教職員の勤務成績を給与に反映するとの考え方を発表し,B大阪府人事委員会は,同年10月に上記人事院の報告・勧告と同様に大阪府職員の昇級及び勤勉手当の支給について,勤務実績の給与への的確な反映が必要であるとの報告・勧告をし,Cこれらを経て,大阪府議会及び大阪府人事委員会によって,従前の給与条例,給料規則,勤勉手当条例及び勤勉手当規則が改正され,それとともに,大阪府教育委員会によって昇級取扱要領及び勤勉手当取扱要領が定められ,本件システムと昇級号級数及び勤勉手当の成績率が連動するようになったことが認められる。このような事実に照らせば,本件システムの評価結果と教職員の給与を連動させた目的は,従前の慣行的に行われていた年功序列的な給与制度を改め,真摯に職務を行っている教職員に対し,その職務に応じた適正な給与上の処遇を与えることによって,職員全体の士気向上,組織の活性化を図ろうとしたものと認めることができ,その目的は合理的なものというべきである。

(イ) そして,@公務員制度調査会は,平成11年3月の「公務員制度改革の基本方針に関する答申」において,公務員改革の必要性を指摘し,行政課題の複雑高度化に対応するためには,能力・実績を有する者を適材適所で配置し,その職に見合った適正な給与上の処遇を行う必要があり,公務員についても年功的処遇から能力・実績に応じた昇進・給与に改める必要があると答申したこと,A教育公務員についても,大阪府教育委員会は,平成11年4月,教育改革プログラムにおいて,教職員の能力開発や勤務意欲の向上を図るため,勤務成績を評価し,それを人事や給与に反映させる制度の検討を提言し,B教育改革国民会議は,平成12年12月の報告において,個々の教師の意欲や努力を認め,良い点を伸ばし,効果が上がるようにするために,教師の評価をその待遇等に反映させる必要があるとの提案をし,C中央教育審議会は,平成14年2月の「今後の教員免許制度の在り方について」(答申)において,職員がその資質能力を向上させながら,それを最大限に発揮するためには,教員が適正に評価され,それが配置や処遇,研修等に適切に結び付けられることが必要であると提言し,D同審議会は,平成19年3月29日の「今後の教員給与の在り方について」(答申)においても,教員に意欲と自信を持たせ,教育活動を活性化していくためには,その職務を評価し,その評価結果を任用や給与上の措置等の処遇に適切に反映していくことが必要であると答申したことが認められる。これらの事実に照らせば,教職員の職務を適正に評価し,それを給与等の処遇に適正に反映させることは,教職員の意欲や資質能力を向上させるための効果的な方法と考えられていることが認められ,大阪府教育委員会が前記目的(職員全体の士気向上及び組織の活性化を図ること)を実現するために,本件システムの評価結果と昇級号級数及び勤勉手当の成績率を連動させるという方法を採用したことも合理的なものといえる。

(ウ) また,本件システムの評価結果が昇級号級数に対して具体的にどのように反映されるのかについてみると,大阪府の一般職の職員も勤務成績に応じて昇級号級数が決定されるところ,この場合,原則として,勤務成績が極めて良好な職員が6号級,特に良好である職員が5号級,良好である職員が4号級,やや良好でない職員が2号級,良好でない職員が0号級とされているのに対し,教職員の場合には,勤務成績が極めて良好である(S評価)職員が5号級,特に良好である(A評価)職員も5号級,良好である(B評価)職員が4号級,やや良好でない(C評価)職員が3号級,良好でない(D評価)職員が0号級とされていることからすれば,教職員の勤務成績が昇級号級数に反映される程度は,一般職の他の職員の場合よりも緩やかなものとなるような措置が講じられているといえる。
 そして,@従前の慣行的に行われてきた昇級の際の昇級号級数が1号級であるところ,本件において総合評価Bであれば基本的には従前と同じ1号級(現在の4号級に相当)昇級するものとされており,また,勤勉手当についても,総合評価Bであれば,従前よりも高い成績率の取扱いを受けるところ,本件システムにおいて,平成16年度から平成18年度までの実際の評価結果(総合評価)の分布はSからB評価までが全体の約98パーセント近くを占めており(さらに,全体の約3分の1以上がS及びA評価である。),大阪府教育委員会もこのような評価結果の分布が妥当なものとして是認しており,本件システムは上記のような分布になるように運用することが予定された制度であったといえること,A本件システムは,生活保障的要素の強い期末手当については評価結果と連動させず,精勤に対する報償として支給される能率給としての性格を有する勤勉手当のみ評価結果と連動させていることが認められる。これらの事実からすれば,本件システムにより評価結果と給与とを連動させるものとした後も,ほとんどの教職員は従前と同様の昇級号級数による昇級をし(約3分の1以上の者は従前以上の昇級号級数による昇級になる。),かつ,従前以上の勤勉手当の成績率となる上,期末手当は従前どおりの支給を受けるものといえる。そうだとすれば,本件システムの評価結果と給与の連動によって経済的な不利益を受ける教職員がいたとしても,その範囲・程度は限定的なものにとどまるというべきである。
 このように本件においては,評価結果を昇級号級数及び勤勉手当の成績率へ連動させる程度が緩やかであり,それによって教職員が受ける経済的な不利益の程度も限定的なものであるところ,これは,多面性・専門性を有する職員の職務の特殊性,及び,学校現場においては,個々の教員だけでなくチームワークによって子供たちへの教育を行っている意識が強いという学校現場の特殊性から,成果主義的な評価といっても,民間企業で行われるような信賞必罰的な形態のものをそのまま持ち込むことが必ずしも適切ではないという考慮を働かせたものということができる。そうだとすれば,本件システムは,教職員の職務の特殊性を考慮しつつ,教職員の給与に成果主義的な要素を導入し,もって,教職員の意欲・士気を向上させ,学校の活性化を図ろうとしたものといえ,制度としての合理性が認められるというべきである。そして,上記のとおり,評価結果を給与に連動させることによって,従前より昇級号級数及び勤勉手当の成績率が小さくなる者が約2パーセント足らずであるのに対して,それが大きくなる者が約3分の1以上にもなり,これが大阪府教育委員会において妥当な結果として是認されていることに照らせば,本件システムは,原告らが主張するように教職員を厳しく評価・管理し,それを処遇にマイナスに反映させるのではなく,むしろ意欲・やる気のある教職員を適正に評価し,それを処遇にプラスに反映させることに主眼があるものというべきであり,この点からも本件システムが教職員の育成,資質向上を図ろうとした制度であるといえる。

(エ) 以上でみたとおり,評価結果と昇級号級数及び勤勉手当の成績率とを連動させている点については,その程度は緩やかであり,それが教職員に与える影響も限定的であり,他方で,評価結果と昇級号級数等を連動させることによって,教職員の意欲,資質の向上,及び学校の活性化に資するといえること,さらに,前記のとおり本件システムにおける評価方法が合理的なものであることも併せて考えれば,大阪府教育委員会が,本件システムの評価結果と昇級号級数及び勤勉手当の成績率を連動させたことには合理性が認められ,その裁量権の範囲内のものといえる。

オ.以上のように,大阪府教育委員会は,本件システムを導入する必要性があり,その内容及び評価結果の給与への反映も合理的なものであることに加えて,本件システムは,全職員を対象とした5か月間の試験的実施及び1年間の試行実施を行い,それらについての実施状況についての調査を行い,各登録職員団体に対する説明も経た上で導入されており,教職員に本件システムを周知する機会を与えているといえること,さらに,適正・公正な評価の要となる評価者の能力の向上を図るべく評価・育成者研修も本件システムの導入前から現在に至るまで毎年実施されていることも併せて考えれば,本件システムは,勤務評定の制度を定めるに当たり,大阪府教育委員会に認められた裁量権の範囲内のものというべきであり,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認めることはできない。

(3) 原告らが主張する本件システムの違法事由について

 原告らは,以下のとおり,本件システムが憲法等に違反すると主張するが,原告らの主張は,以下のとおりいずれも採用できない。

ア.憲法23条違反について

 原告らは,本件システムが教育長から評価を受けている校長が定める学校教育目標の達成に向けて各人の目標を自己申告させる形をとっており,評価者である校長の指揮が各教員の具体的な教育内容にまで及んでおり,原告らの教授の自由を侵害すると主張する。
 そこで,検討するに,憲法23条は,学問研究の自由のみならず,その結果を教授する自由を含むことから,小学校,中学校及び高等学校の普通教育の場合においても一定の範囲における教授の自由が保障されるべきものではあるが,普通教育における教師の児童生徒に対する強い影響力及び支配力並びに教育の機会均等という観点から,全国的に一定の水準を確保すべき強い要請があることにかんがみれば,普通教育における教師の教授の自由は相当限定されたものと解するのが相当であり,例えば,教師が公権力によって特定の意見のみを教授することを強制されないという意味において,また,子供の教育が教師と子供との間の直接の人格的接触を通じ,その個性に応じて行われなければならないという本質的要請に照らし,教授の具体的内容及び方法につきある程度自由な裁量が認められなければならないという意味において保障されるにすぎないというべきである(最高裁昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。
 本件において,校長が定める学校教育目標は,「学校経営の重点」,「教科指導及び生活指導の重点」,「健康管理と指導の重点」等の学校を運営していく上での年間計画をその内容としており,その内容自体も大きな幅を持った表現で作成される大綱的なものであること,教職員が自己申告票に記載する事項も,別紙1の様式の各「目標達成区分」ごとに1年間重点的に取り組むべき目標を設定し,各「内容・実施計画」欄に目標を達成するために何をするのか(実施計画)を具体的に記入するにすぎず,目標設定面談においても校長の指示は指導,助言の範囲にとどまることが認められる。このような事実からすれば,本件システムが教員に特定の内容を教授することを強制させるようなものとはいえず,また,個々の教職員の教育内容及び方法を不当に拘束するような性質のものともいえない。これらに加えて,学校教育目標は学校教育計画に基づくものであるところ,同計画は前年度の総括と改善計画及び学校協議会の提言を踏まえたものであり,その策定と総括には,すべての教職員がそれぞれのかかわっている分野で参画し,教職員や地域の保護者等の意見も踏まえて作成されるものであり,外部に公表されることが予定されたものであることをも併せて考えれば,本件システムにおいて,原告らが校長の定める学校教育目標等に沿って目標を自己申告しなければならないことをもって,原告らの上記限定された範囲で認められる教授の自由が侵害されるとはいえない。
 したがって,原告らの上記主張は採用できない。

イ.教育基本法16条違反について

 原告らは,@本件システムが,教育長によって評価される校長が定める,生徒の実態と乖離した教育目標に教諭を従わせ,それを基に自己申告させ,評価し,さらに給与への反映を図るものであり,教育行政による教員の自主性の否定であること,A本件システムが業績評価になじまない教育活動の評価であり,評価基準の明確性を欠き,校長等の管理職による恣意的な評価が介入する余地が大きいことから,本件システムは,教育に対する不当な支配に当たり,教育基本法16条に違反すると主張する。

(ア) 本件システムにおいて,上記アのとおり,校長等の定める学校教育目標が学校運営の計画,方針等の大綱的なものであり,個々の教員の教育内容及び方法を不当に拘束するような性質のものとは認め難いことに加えて,学校教育目標が教職員や地域の保護者等の意見を踏まえたものであり,かつ外部に公表されることが予定された内容であることに照らせば,学校教育目標が生徒の実態と乖離したものになると認めることはできない。したがって,本件システムが,生徒の実態と乖離した教育目標を校長が定め,これに教諭を従わせるものと認めることはできず,原告らの上記@の主張は採用できない。

(イ) また,旧勤務評定において,その結果が一切公表されておらず,ともすれば,任命権者の主観的で情実の絡んだ評価に陥る危険性があったものであったのに対して,本件システムは,前記のとおり,業績評価と能力評価という二つの異なる観点から教職員の教育活動を幅広く適正に評価しようとしたものであり,その評価結果も開示され,その理由も説明されること,さらに,教職員は,校長等の評価に対する不服申立て及び校長への提言シートを利用することによって,評価結果や校長の学校運営等について異議や意見を述べることができ,これらは校長自身の評価の考慮要素にもなることからすれば,旧勤務評定と対比する限り,本件システムは評価の客観性,透明性を高めたものといえる。したがって,本件システムの評価基準が明確性を欠き,校長等の恣意的な評価が介入する余地が大きいとまではいえず,原告らの上記Aの主張も採用できない。

(ウ) さらに,普通教育における教師の児童生徒に対する強い影響力,支配力,及び全国的に一定の水準を確保すべき強い要請からすれば,普通教育においては,公権力の不当な介入が排除されるべきことは当然であるが,国等が普通教育の特質等を配慮しつつ,許容される目的のため必要かつ合理的と認められる関与ないし介入をすることは,それがたとえ教育の内容及び方法に関するものであっても,許されるというべきである(前掲最高裁昭和51年5月21日判決,最高裁昭和54年10月9日第三小法廷判決・刑集33巻6号503頁参照)。
 本件システムにおいて,校長が目標設定面談において個人の設定目標に関して学校教育目標との整合,統合を求めるのは,教育活動の充実・改善,学校の活性化を図るために目標の共有化を目指すことによるものである。そして,当該学校教育目標が大綱的なものにすぎず,教職員や地域住民の意見も踏まえられていることにも照らせば,仮に,目標設定面談の過程において,国等が教育内容及び方法に関与ないし介入する側面があったとしても,それは必要かつ合理的な範囲内のものにとどまるものというべきである。また,前記のとおり,本件システムは,地公法40条及び地教行法46条に基づく合理的な勤務評定制度であるといえることからすれば,本件システムの下で,仮に,教職員に対する評価に付随して,国等が教育内容及び方法に関与ないし介入する側面があったとしても,それも必要かつ合理的と認められる範囲内のものにとどまり,いずれにしても,これらをもって教育内容に対する「不当な支配」に当たるということはできない。
 したがって,公権力による教育内容及び方法への関与ないし介入を問題とする原告らの主張も採用できない。

ウ.憲法26条違反について

 原告らは,@学校教育目標が現実の子供の状態を反映していないこと,A本件システムが教育目標を固定化し子供に対する柔軟な教育実践を阻害する危険性があることから,本件システムは憲法26条に違反すると主張する。
 しかしながら,学校教育目標は,教職員や地域の保護者等の意見が踏まえられ,外部に公表されることが予定された内容である上,その内容も幅のある大綱的なものであることは,前記アのとおりであり,学校教育目標が現実の子供の状態を反映していないと認めることはできない。したがって,原告らの上記@の主張は採用できない。
 また,本件において業績評価の前提となる設定目標は,教職員が自らの役割や子供たちの状況を踏まえて,「学ぶ力の育成」,「自立・自己実現の支援」及び「学校運営」の各目標設定区分ごとに重点的に取り組むべき目標を設定するものであり,それ以外の教育活動を否定する趣旨でないことは当然である上,教職員は,能力評価において,日常の業務遂行一般の評価を受け,この能力評価と業績評価とを踏まえて総合評価されるのであり,教職員の教育活動の評価の対象が設定目標に限定されるわけではないことも併せて考えれば,本件システムにおける目標の設定によって教育目標が固定化され,子供に対する柔軟な教育実践が阻害される危険性があると認めることはできず,原告らの上記Aの主張も採用できない。
 なお,憲法26条は,1項において「すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する」と定め,2項において「すべて国民は,法律の定めるところにより,その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は,これを無償とする。」と定めており,この規定の背後には,国民各自が,一個の人間として,また,一市民として,成長,発達し,自己の人格を完成,実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること,特に,自ら学習することのできない子供は,その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在していると考えられること(前掲最高裁昭和51年5月21日大法廷判決参照)からすれば,本件システムがこのような子供の学習をする権利に沿ったものであるべきことは当然である。そして,本件システムの目的は,教職員が自己申告票を提出し,自ら目標を立て,その達成に向けて日々の教育活動を行い,それに対する評価を受けることを通して,教職員の意欲・資質能力の向上,教育活動等の充実及び学校の活性化を図ることにあり,これらの究極的な目的が子供の教育環境を充実させ,子供の学力・社会の変化への対応力の向上及び豊かな人間性を育むことにあるといえることに照らせば,本件システムは,子供の学習をする権利に沿ったものというべきであり,この点からも原告らの上記主張は採用できない。

エ.学校教育法37条4項違反について

 原告らは,本件システムが校長と他の教員との間の権力的指揮命令関係を定めるものであり,学校教育法37条4項に違反すると主張する。しかしながら,同項の解釈についてはともかくとして,本件システムは,地公法40条ないし地教行法46条に基づく勤務成績の評定についての制度であり,原告らはこれに従わなければならない上(地公法32条参照),本件システムの目的が職員の意欲・資質能力の向上,教育活動等の充実及び学校の活性化にあることからすれば,本件システムが違法な権力的指揮命令関係を定めたものともいえず,原告らの上記主張は採用できない。

オ.憲法19条違反について

 原告らは,本件システムは,原告らに校長の設定した学校教育目標等に従った目標設定を強制するものであり,良心の自由(憲法19条)を侵害すると主張する。
 しかしながら,同条による「思想及び良心」とは,宗教上の信仰に準ずべき世界観,人生観等個人の人格形成の核心をなすものに限られ,一般道徳上,常識上の事物の是非,善悪の判断や一定の目的のための手段,対策としての当不当の判断を含まないと解するのが相当である。
 本件システムにおいて,校長が設定する学校教育目標は,教職員や地域の意見が参考とされたものである上,その記載内容も幅のある大綱的なものであること,教職員が設定する目標も目標設定区分ごとに当該年度に重点的に取り組むべき目標(例えば,目標設定区分が「学ぶ力の育成」であれば,教科等の指導や自立活動についての具体的な目標等)を記載するにとどまることからすれば,本件システムにおいて,教職員に設定目標を記載させることが,教職員に特定の世界観,人生観等個人の人格形成の核心をなすものの記載を強制するものと認めることはできない。したがって,原告らの上記主張は採用できない。

カ.地公法40条1項及び地教行法46条違反について

 原告らは,@教育公務員の職務は,人格の完成を目指すという高度に抽象的なものであり,再帰性,不確実性及び無境界性という特徴を有することから,自己申告票を主軸に据える本件システムにおいて,教育公務員に対する客観的な勤務評定をすることは不可能であること,A本件システムにおいて,自己申告票未提出者は教育活動をしているにもかかわらず総合評価をされないことから,本件システムは,地公法40条1項ないし地教行法46条に違反すると主張する。

(ア) まず,上記@について検討するに,確かに,教職員の教育活動は,人間を対象とし,人格の完成を目指してその育成を促す営みであり,その職務の範囲も多岐にわたることからすれば,その職務の性質上,勤務評定に当たって,他の一般職の公務員とは異なる考慮が一定程度必要であることは否定できない。しかしながら,前記(4(2)ウ)のとおり,本件システムは,設定目標の達成状況についての教職員の活動の評価(業績評価)と日常の教職員の職務活動一般の評価(能力評価)という異なる二つの観点から,総合評価をしており,教職員の職務活動を幅広く適正に評価しようとしていること,その評価も公表された評価基準に基づき,その結果も開示,説明され,これに対する苦情申立て等の手続もあり,評価の適正性,公正性,透明性を図ろうとしていることに照らせば,本件システムは,教職員の職務を一義的に評価することが困難であるというその職務の特殊性を考慮した上で,その適正性,公正性,透明性を図った勤務評定制度といえる(これは,前記(4(2)ウ)のとおり,旧勤務評定において,ともすれば評価権者の主観的な評価の危険性があったことと比較すれば,より一層明らかである。)。
 そうすると,本件システムは,教職員の職務の特殊性を考慮したものといえ,これをもって不合理とまではいえず,原告らの上記@の主張は採用できない。なお,原告らの上記@の主張は,実質的には,およそ教育公務員に対する勤務評定はできないというに等しいが,地公法40条及び地教行法46条の規定からすれば,教育公務員に対しても何らかの形で勤務評定を行わなければならず,勤務評定を行わないことはかえってこれらの規定に違反するのであるから,上記原告らの主張はおよそ採用できないものである。

(イ) 次に,上記Aについて検討するに,本件システムにおいて,自己申告票未提出者の総合評価はされないところ,確かに,評価者は,自己申告票未提出者に対して,設定目標の達成状況を評価の対象とする業績評価をすることは不可能であったとしても,日常の業務の遂行を評価対象とする能力評価をすることは可能である以上,評価者が自己申告票未提出者に対して一定の総合評価をすることも考えられないではない。
 しかしながら,本件システムは,教職員の資質向上と学校の活性化を図るものであると同時に,多数の教職員について統一された勤務評定制度の下で,その評価を客観的,合理的に行うことによって,適正な人事管理の基礎資料を得ることをも当然にその目的としているものと解することができる。しかるに,自己申告票未提出者に対して一定の総合評価をすることになれば,本件システムによらない評価を許容し,教職員によって勤務成績の評定方法が異なることになり,上記の統一された勤務評定制度に基づいた適正な人事管理の基礎資料を取得するという目的を達成することが困難になる。加えて,そのような評価結果が本件システム全体との関係で客観性,適正性,公平性を保てるのか疑問である上,ひいては本件システム全体に対する信頼性に影響を及ぼす可能性も否定できない。そして,勤務評定の在り方をどのようにするかは評価権者の裁量に属する問題であること,自己申告票未提出者は,自らの意思で自己申告票を提出していないこと(なお,自己申告票の提出が原告らの教授の自由等の憲法上の権利を制約するものでないことは前記のとおりである。)をも併せて考えれば,自己申告票未提出者について,総合評価をしないとの取扱いをすることが不合理とまではいえず,評価権者の裁量権の範囲内のものというべきである。

(ウ) したがって,自己申告票未提出者の総合評価をしないことをもって,地公法40条ないし地教行法46条に違反するということはできず,原告らの上記Aの主張は採用できない。

キ.自己申告票未提出者に対する給与上の不利益な取扱いについて

 原告らは,本件システムの評価結果(総合評価)と昇級する際の昇級号級数及び勤勉手当の成績率とが連動しているところ,自己申告票未提出者については,昇級せず,勤勉手当の成績率が100分の63.5(ただし,勤勉手当取扱要領の改正前は100分の61)とされており(昇級取扱要領5条3項本文,勤勉手当取扱要領5条3項本文),これは自己申告票の提出を不当に強制するものであり,違法であると主張する。そこで,検討する。

(ア) 昇級取扱要領は,給与条例5条5項及び給料規則24条1項に基づく勤務成績に応じた昇級の取扱いについて定めたものであるところ(昇級取扱要領1条),勤務成績の評定の方法をいかに定めるかが任命権者の裁量に属するものであることからすれば,昇級取扱要領が違法になるのは,かかる裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用をしたといえる場合に限られると解すべきである。そこで,大阪府教育委員会が自己申告票未提出者は昇級しないものとすると定めたこと(昇級取扱要領5条3項本文)が,その裁量権の範囲を逸脱,濫用したものといえるか否かを検討する(なお,大阪市立学校の教職員の任命権者は,大阪市であるが,その勤務評定は大阪府教育委員会の定める計画(本件システム)に基づいて行うこと(地教行法46条),その給与等も大阪府が定める給与条例,給料規則及び昇級取扱要領に基づいて行われること(前記(1(2)イ(イ)))からすれば,上記教職員との関係でも,大阪府教育委員会における上記裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無を検討すれば足りるというべきである。)。
 本件において,職員の昇級は当該職員の勤務成績についてその者の職務について監督する地位にある者の証明を得て行わなければならないとされているところ(給与条例5条5項,給料規則23条),前記のとおり,自己申告票未提出者に対して総合評価をしないとの取扱いが不合理とまではいえないことからすれば,自己申告票が未提出のため評価結果のない職員について,昇級しないとする取扱いは上記給与条例及び給料規則に沿った取扱いといえる。そして,本件システムにおける総合評価のない者に対して,一定の昇級を認めることになれば,これは自己申告票未提出者に一定の評価結果を与えることにほかならず,かかる結果が不合理であることは前記カ(イ)のとおりである。加えて,前記のとおり教職員に自己申告票の提出義務を課すことが憲法その他の法令に違反すると解することはできず,自己申告票未提出者は職務上の義務を履行していない者として服務規律に違反しているといえることも併せて考えれば,大阪府教育委員会が昇級取扱要領5条3項本文において,自己申告票未提出者について,昇級しないと定めたことが不合理とまではいえず,大阪府教育委員会の裁量権の範囲内のものというべきである。

(イ) また,勤勉手当取扱要領は,勤勉手当条例3条及び勤勉手当規則12条に基づく勤務成績に応じた勤勉手当の成績率の取扱いについて定めたものであるところ,上記(ア)と同様に,勤勉手当取扱要領が違法になるのは,大阪府教育委員会がその裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用をしたといえる場合に限られると解すべきである。
 そこで検討するに,自己申告票未提出者に対して総合評価しないとの取扱いが不合理とまではいえないところ,評価結果のない者に対して,通常の評価結果の者と同等の勤勉手当の成績率の取扱いをすることは,自己申告票未提出者に一定の評価結果を与えることにほかならず,かかる結果が不合理であることは前記カ(イ)のとおりであること,自己申告票未提出者は服務規律に違反している者といえることからすれば,自己申告票未提出者を一番下の総合評価であるD評価の者と同様に取り扱い,勤勉手当の成績率を100分の63.5とすることも不合理とまではいえず,大阪府教育委員会の裁量権の範囲内のものというべきである。
 なお,勤勉手当についても,評価結果がないのであれば,昇級の場合と同様に,勤務成績がないものとして,その成績率をゼロとすることも考えられないではないが,そうすると,勤勉手当が全く支給されないことになり,他方,勤勉手当がいわゆる一時金としての性格を有し,功労報償的意味合いだけでなく,現実には生活保障的意味合いも含むといえなくもないことからすれば,自己申告票未提出者の成績率をゼロではなく,100分の63.5とすることも大阪府教育委員会の裁量権の範囲内のものというべきである。

(ウ) 以上からすれば,大阪府教育委員会が昇級取扱要領及び勤勉手当取扱要領において,自己申告票未提出者に対して,昇級をしないものとし,勤勉手当の成績率を100分の63.5と定めたことは適法というべきである。

(エ) 原告らの主張について

a 原告らは,上記自己申告票未提出者に対する給与上の不利益な措置は,自己申告票の提出の強制に従わない教職員に対する政治的処罰であり,懲戒処分と同視できることから,憲法31条に違反すると主張する。
 しかしながら,憲法31条についての解釈はともかくとして,自己申告票未提出者に対する給与上の不利益な措置が不合理とまではいえないことは前記のとおりであることからすれば,未提出の結果としての給与上の不利益が懲戒処分を受けた場合と同様であったとしても,これもって違法な懲戒処分又は政治的処罰と同視できるとはいえず,原告らの上記主張は採用できない。

b 原告らは,本件システムの評価結果と給与上の処遇との関係が国家公務員の場合より,不利益な結果をもたらすものであることから,地方公務員の給与と国家公務員の給与との均衡を図った地公法24条3項に違反すると主張する。
 しかしながら,原告らが主張する国家公務員の給与制度と本件システムとは,その制度を異にしており,これらを直接的に比較することが適当であるとはいい難い上,本件において,自己申告票未提出者に対する給与上の不利益な措置が不合理とまではいえないことは前記のとおりであることからすれば,本件における自己申告票未提出者の処遇が国家公務員との関係で地公法24条3項違反といえるほどの不均衡があるとはいえず,裁量権の範囲の逸脱,濫用になるともいえない。
 したがって,原告らの上記主張は採用できない。

c 原告らは,自己申告票を提出しないことは人格的な確信である「信条」に基づくものであることから,これを理由に不利益な取扱いをすることは地公法13条に違反すると主張するが,自己申告票の提出が個人の思想・良心等の問題にならないことは前記オのとおりである上,自己申告票未提出者に対する給与上の不利益な措置が不合理とまではいえないことは前記のとおりであるから,これをもって,信条等に基づく不合理な差別とはいえない。したがって,原告らの上記主張は採用できない。

d 原告らは,教育基本法9条1項及び2項によって,教員には特別の身分保障がされなければならず,具体的な服務違反ではない教育活動を理由に不利益処分を課することは許されず,自己申告票未提出者に対する給与上の不利益な措置は,教員の上記特別の身分保障を定めた教育基本法9条に違反すると主張する。しかしながら,教育基本法9条1項,2項の解釈はともかくとして,自己申告票未提出者が服務規律に違反している者といえることは前記のとおりであるから,原告らの上記主張はその前提を欠いている。また,本件は,地公法40条ないし地教行法46条に基づいて定められた勤務評定制度であるところ,教育公務員の職務とその責任の特殊性に基づき,その任免,給与,分限,懲戒,服務及び研修等について規定する教育公務員特例法には,上記勤務評定についての規定を排除する趣旨の定めはうかがわれないこと,前記のとおり自己申告票未提出者に対する給与上の不利益な措置が不合理とまではいえないことからすれば,自己申告票未提出者が被る給与上の不利益をもって,教育基本法9条に違反するとはいえず,原告らの上記主張は採用できない。

e 原告らは,仮に,自己申告票の作成・提出が職務の一環であるとしても,自己申告票未提出者について,懲戒処分対象者を予定している総合評価Dとして取り扱うことは,過大な制裁又は不利益であって,比例原則に反するとも主張している。しかしながら,本件システムにおいて,自己申告票未提出者について総合評価をしないという取扱いが,評価権者の裁量権の範囲内のものであることは前記(カ(イ))のとおりであり,評価結果の客観性,適正性及び公平性の保持という観点からすれば,結果として,総合評価を受けていない者が総合評価の最低ランクDに区分されることも合理性が認められるところである。このことからすれば,原告ら主張の点も裁量違反とまではいえず,比例原則違反を問題にすることもできないというべきである。

ク.以上からすれば,本件システムが違法であるとはいえない。

5.争点(6)(勤勉手当支払請求権)及び同(7)(慰謝料請求権)について

 原告らは,本件システムが違法であることを前提とした上で,未払勤勉手当請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権を有すると主張するが,本件システムが違法であるとはいえないことは,前記のとおりであるから,原告らの上記各請求はその前提を欠き理由がない。

6.結論

 以上より,原告らの訴えのうち,原告番号1から20までの原告ら及び原告aらの被告大阪府に対する自己申告票提出義務の不存在確認の訴え(主文1(1)),原告らの被告大阪府に対する給与上不利益な評価を受けない地位の確認を求める訴え(主文1(2)),原告e(原告番号4)の被告大阪市に対する自己申告票提出義務の不存在確認の訴え(主文1(3)),及び原告番号1から20までの原告らの大阪市に対する給与上不利益な評価を受けない地位の確認を求める訴え(主文1(4)),は,いずれも不適法な訴えであるから却下し,原告らのその余の訴えに係る請求はいずれも理由がないから棄却する(主文2)こととし,主文のとおり判決する。

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