平成21年度旧司法試験論文式
憲法第2問参考答案(その2)

第1.Aの地方公聴会における発言及びホームページへの掲載は国会議員としての地位に基づいて行ったものとして免責特権(憲法51条)の対象となるか。
1.憲法が免責特権を定めた趣旨は、各議院の自律権を保持し、もって、その権能を充全足らしめる点にある。
 従って、「議院で行つた演説」とは、討論及び表決を除き議院の権能として行われた言論活動一般を全て含むと解する。
2.(1) 本問において、地方公聴会は委員会が地方で開催する公聴会(国会法51条1項)であり、委員会は各議院に置かれる合議体である(同法40条)。従って、地方公聴会における議員としての発言は、議院の権能として行われた言論活動である。よって、「議院で行つた演説」に含まれる。
(2) 他方、ホームページへの掲載自体は議院の権能に含まれない。しかし、その内容は地方公聴会の発言である。すなわち、その実質は議院の権能として行われた言論活動の引用に過ぎない。議院の自律権保持の観点からは、議院における言論が院外で引用された場合に、当該引用部分を司法によって違法と評価されないことをも、免責特権の趣旨に含むというべきである。
 従って、Aのホームページに掲載した地方公聴会での発言についても、免責特権の趣旨が及ぶ。
第2.では、本問の各行為について、A及び国はいかなる責任を負うか。
1.まず、Aに対する損害賠償請求について、免責特権を絶対的なものと捉えると、これを認める余地はないことになる。
 しかし、それでは議員の言論によって名誉やプライバシーを侵害された被害者の救済が不十分である。
 そもそも、免責特権の趣旨は議院の自律権保持にある。そうすると、その主たる機能は行政機関その他の機関からの独立性にある。そうである以上、一般市民との関係においては免責特権は相対化される余地がある。
 もっとも、安易に議員個人の賠償責任を認めれば、議員の言論が萎縮し、司法による違法評価の余地を広く与えることになって議院の自律権が侵される。そこで、虚偽であること又は何らの公益性・公共性がないことを知りながら事実を摘示する等、現実の悪意が認められた場合に限り、議員個人の責任を肯定すべきである。
 本問では、Aの発言は派遣労働者の権利利益を拡充する法律案に関するものであるから、事実の公共性と目的の公益性は認めうる。従って、その内容が虚偽であって、かつ、Aがそのことを知りながら本問の発言・ホームページへの掲載をした等の事実が認められた場合に限り、その余の不法行為の要件を充足すればAに対する損害賠償が認められる。
2.次に、国に対する賠償請求の可否を検討する。
 国家賠償法1条1項は、不法行為の主体を公務員として規定している。従って、国の責任の本質は、本来公務員個人が負うべき民事責任についての代位責任である。
 そうである以上、国が同項によって責任を負う場合とは、公務員個人に不法行為が成立しうる場合である。
 本問においては、Aの責任が認められる場合には、国に対する責任も認められる。また、現実の悪意がある以上、故意又は重過失が認められるから、国はAに対して求償しうる(同条2項)。本来Aが責任を負う場合であるから、国の求償を認めても免責特権との抵触は生じない。
3.最後に、弁護士会への懲戒請求について検討する。
 弁護士会の懲戒処分は、弁護士法によって国から権限を付与され(同法第8章)、行政処分として審査請求や取消訴訟の対象となる(同法59条、61条)。従って、懲戒権の行使は公権力性を有する。
 前記のように、免責特権の趣旨が議院の自律権保持にあるとすれば、上記のような権力的作用からの独立性が要求されるから、一般市民との関係とは異なり、免責特権を相対化することは許されない。
 そうである以上、弁護士の地位を併有する議員が弁護士会に対して負う懲戒責任については、絶対的に免責される。
 以上から、Aが自己の所属する弁護士会から懲戒を受けることはない。

以上

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