最新下級審裁判例

東京高裁判決平成20年07月10日

【判旨】

 所論は,刑訴法403条の2第1項は,事実誤認の点について裁判を受ける権利を侵害するものであって憲法32条に違反し,また,即決裁判手続は,虚偽の自白獲得の温床ともなりかねないから憲法38条2項に違反する,という。
 即決裁判手続は,争いのない明白軽微な事件について,簡易かつ迅速に公判の審理及び裁判を行うことにより,手続の合理化,効率化を図るものである。そうであるのに,即決裁判手続による判決に対し,犯罪事実についての事実誤認を理由とする控訴ができるものとすると,そのような控訴に備えて,即決裁判手続による審理の段階から,犯罪事実の認定のために,必要以上の証拠調べが行われるようになりかねず,即決裁判手続を設けた前記の趣旨を損なうおそれがある。このような事態になることを防ぐため,刑訴法403条の2第1項は,即決裁判手続による判決に対し,犯罪事実についての事実誤認を理由とする控訴を制限するものである。
 そして,このような同条項の趣旨に加え,即決裁判手続により審判するためには,被告人の訴因についての有罪の陳述(同法350条の8)と,即決裁判手続によることについての被告人及び弁護人の同意が必要であって(同法350条の2第2項,4項,350条の8第1号,2号),同手続によることは被告人が選択するものであること,判決の言渡しまではいつでも有罪の陳述又は即決裁判手続によることについての同意を撤回することができること(同法350条の11),被疑者又は被告人は即決裁判手続に同意するか否かにつき弁護人の助言を得る機会が保障されていること(同法350条の3,350条の4,350条の9)などにかんがみると,同法403条の2第1項は憲法32条に違反しない。
 また,即決裁判手続が虚偽の自白を誘発するおそれがあるとはいえず,憲法38条2項にも違反しない。

 

広島地裁判決平成20年03月13日

【事案】

1.広島弁護士会所属の弁護士である原告が、平成17 年12 月2 日(以下、平成17 年については年の記載を省略することがある)付けで殺人・死体遺棄被疑事件(以下「本件被疑事件」という)の被疑者であるA(以下「本件被疑者」という)から弁護人に選任されたところ、同月13 日広島地方検察庁(以下「広島地検」という)所属の検察事務官B(以下「B事務官」という)から、翌14 日同庁所属の検察官検事C(以下「C検事」という)からいずれも本件被疑者との接見を違法に妨害されたと主張して、国賠法1 条1 項に基づく損害賠償及びこれに対する違法行為日ないしその翌日である平成17 年12 月14 日から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。

2.事案の概要

(1) 本件被疑者

 本件被疑者は、11 月30 日、海田警察署(以下「海田署」という)に殺人罪及び死体遺棄罪の被疑事実で逮捕され、12 月1 日、身柄を広島地検に送致され、翌2 日勾留決定(勾留場所は海田署)、同月9 日勾留延長決定がされ、同月21 日、殺人・死体遺棄・強制わいせつ致死の公訴事実で起訴された者である。ペルー国籍であり、スペイン語の通訳を必要とした。
 本件被疑者の留置場出入状況は、別紙1「Aの出入状況」に記載のとおりである(甲2)。

(2) 弁護人の選任

 広島弁護士会所属の弁護士である原告は、弁護士E(以下「E弁護士」という)とともに、11 月30 日、12 月1 日の両日とも本件被疑者と接見し、翌2 日付けで弁護人に選任された。原告が主任弁護人であり、上記2 名の弁護人以外に事実上これを補助するために4 名の弁護士が活動することになった(以下、以上の6 名を「弁護団」という)(弁論の全趣旨)。
 弁護団の接見状況は別紙2「Aの接見状況」に記載のとおりである(甲2)。

(3) 12 月13 日の経過

ア.12 月13 日午前10 時から11 時頃まで、広島簡易裁判所において本件被疑者の勾留理由開示のための公判が行われた。同被疑者は、同期日において、「被害者を殺すつもりも傷つけるつもりも全くありませんでした」という意味の陳述(以下「本件陳述」という)をした。

イ.E弁護士が同日午後0 時30 分頃事件の主任検察官であるC検事に架電したところ、その立会事務官であるB事務官が電話に出た。同検事の所在を尋ねたところ、同事務官から不在であることを告げられるなどして、電話を切った(通話内容は当事者間に争いがある)。B事務官は、E弁護士から電話があったことをC検事に伝えなかった。また、その後同日中に弁護団が広島地検に電話その他の連絡をすることはなかった。

ウ.原告その他の弁護団の弁護士は、同日、前記公判後は本件被疑者に接見することができなかった。

(4) 12 月14 日の経過(時刻につき甲5 のA)

 原告は、翌14 日午後2 時過ぎにC検事に架電して本件被疑者と同日中に接見させるよう申し出たところ、本日は午後9 時ないし10 時頃まで取調べの予定であり海田署留置場に戻して接見させることはできないと言われたので、さらに同日中に検察庁内で接見させるよう申し出た。C検事は、取調室が空いているかどうかを確認すると告げていったん電話を切った。
 C検事は、午後2 時15 分頃原告に架電して「検察庁内での接見をするためには緊急性が必要ですが、緊急性はありますか」と尋ねたところ、原告から本件陳述の真意を確認する必要がある旨の説明を受けた。そこで、さらに、原告に対して、本件被疑者から既に本件陳述同様の供述を聞いているのではないか、真意は既に確認できているのではないかなどと質問したところ、「接見内容を答える必要はない」と回答を拒否され、再び検討のため電話を切った。
 C検事は、午後2 時18 分頃再度原告に架電して、現在本件被疑者を取調べ中であること、緊急性はないことを理由に接見を拒否したところ、原告から「接見指定ということですか」と問われ、「接見指定ではありません」などと返答し、原告から「接見指定もなく、とにかく接見を拒否するということですか」などと念を押されたのに対して「そうです」と答えたところ、原告は「分かりました」と言って電話を切った。
 同検事はその後も原告に対する接見指定をしなかった。

3.当事者の主張(抜粋)

(1) 原告の主張

 捜査機関が接見指定をすることなく即時の接見も拒否することは違法である。C検事は接見指定もそのための協議もしなかった。
 なお、原告がC検事に対して面会接見の申し出をしたという被告の主張は否認する。原告は一貫して秘密接見を申し出ていたのであって、12 月14 日の会話では原告もC検事も「面会接見」の語を用いたことはない。本件では判例(最高裁判所第三小法廷平成17年4月19日判決・民集59巻3号563頁)の定める面会接見の要件も満たしていない。広島地検の庁舎内における秘密接見は過去にも多数行われたことがあるから、同庁舎内での接見を原告が申し入れたことが直ちに面会接見の申し出を意味するはずもない。さらに、原告が立会人ありの面会である面会接見で目的を達することができないことは明らかであった。

(2) 被告の主張

ア.原告がC検事に電話してきた12 月14 日午後2 時過ぎの時点で、C検事はまさに本件被疑者を取り調べようとしていた。そして、それまでには被疑者から犯罪事実についてほとんど聴取できていなかったこと、被疑者の供述態度や要通訳事件であることから取調べには特に時間を要したこと、海田署での接見を認めれば2 時間以上も取調べが中断することなどからして、接見を認めた場合の捜査の中断による支障が顕著であり、刑訴法39 条3 項本文の「捜査のため必要があるとき」の要件を満たしていた。
 そして、C検事は、12 月14 日の原告との電話において、現に被疑者を取調べ中であり同日午後9 〜 10 時まで取り調べる予定であることを理由に当日の立会人のない接見はできないことを説明したうえで、翌日午前8 時30 分から午前9 時30 分までに接見をしてはどうかと提案し協議を行おうとした。
 以上によれば、同検事が即時の接見を拒否したことに違法性はない。

イ.前記提案に対して原告から「検察庁での接見をお願いしたい」という申し出があった。
 C検事は、広島地検においては従前から庁舎内での秘密接見を認めておらずそのことは原告も知悉しているはずであったことなどから、前記申し出の意図は前記最高裁平成17 年判決の中で判示された面会接見の申し出であると理解した。
 そこで、原告に対して面会接見の要件である緊急性の有無につき意見を聴取するなどした結果、緊急性は認められないと判断されたので、「現在、取調べ中であるうえ、本件では面会接見を認める緊急性はないと思われますので、接見はできません」と説明して面会接見を拒否した。
 したがって、面会接見を拒否したことにつき違法性はない。
 また、仮にC検事においてこれが秘密接見の申し出であると解すべきであったとしても、上記最高裁判決にいう要件を充たすような設備はなかったから、そのことを理由として秘密接見の申し出を拒否したことに違法性はない。

【判旨】

1.接見指定をしないまま即時の接見を拒否したことの違法性について

(1) 検察官は、弁護人から接見の申し出を受けた場合において、捜査の中断による支障が顕著であることを理由として即時の接見を拒否するときは、必ず刑訴法39 条3 項本文の接見指定をしなければならない。
 他方、接見指定をしない場合は即時の接見を認める義務がある。これらの義務を怠ったときは国家賠償法上も違法となるものと解される。
 C検事は12 月14 日の原告との電話において接見の申し出を受けたにもかかわらず接見指定をしないまま即時の接見を拒否したのであるから、上記行為は国家賠償法上も違法である。
 そして、その違法性は明らかであるから、C検事には少なくとも過失があるというべきである。

(2) 面会接見に関する被告の主張について

ア.面会接見に関する判例

 前記最高裁平成17 年判決は「検察官が〔弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても、被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ、戒護上の支障が生じないような〕設備のある部屋等が存在しないことを理由として接見の申出を拒否したにもかかわらず、弁護人等がなお検察庁の庁舎内における即時の接見を求め、即時に接見をする必要性が認められる場合には、検察官は、例えば立会人の居る部屋での短時間の『接見』などのように、いわゆる秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の『接見』(以下、便宜『面会接見』という。)であってもよいかどうかという点につき、弁護人等の意向を確かめ、弁護人等がそのような面会接見であっても差し支えないとの意向を示したときは、面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務がある」と判示して、面会接見の意義・要件等について判示した(亀甲括弧内は当裁判所による補充部分)。

イ.被告の主張自体の当否

 仮に原告による面会接見の申し出の事実が存在したとしても、C検事は面会接見の申し出を拒否する際に併せて当初の秘密接見の申し出に対する接見指定をするか、そうでなければ即時の接見を認める義務があったのであって、同検事がこれに違反したことに変わりはない。この点に関する被告の主張する事実は違法行為の成否を左右するものではなく、主張自体失当である。

(ア) すなわち、(1)で判示したとおり、検察官は、弁護人の接見申し出に対して即時の接見を拒否するときは必ず接見指定をしなければならず、接見指定をしないのであれば即時の接見を許さなければならない。
 また、アで掲記した最高裁判決からすれば、面会接見は秘密接見が拒否された場合の補充的な手段に過ぎないことが明らかである。
 そうすると、捜査機関としては、弁護人からの面会接見の申し出を拒否するときは、弁護人が「面会接見が拒否される場合は接見指定も求めない」という意見を表明するなど特段の事情がない限り、併せて当初の秘密接見の申し出に対する接見指定をする義務を免れないものというべきである。この解釈は弁護人の通常の意思にも適うものと解される。無論、捜査機関は接見指定をしない場合は即時の接見を認めなければならない。

(イ) これを本件についてみるに、C検事は同日中に海田署で秘密接見をしたいという原告の申し出を捜査の支障を理由に拒否し、次いで広島地検庁舎内で即時に接見したいという申し出も認めなかったにもかかわらず、接見指定をしなかった。
 そして、(ア)の特段の事情に該当するような事実の主張は何らなされていない(なお、原告がC検事に対し3 回目の電話で「接見指定もなく、とにかく接見を拒否するということですか」などと念押しした事実は当事者間に争いがない。これは、検察官は即時の接見を拒否するのであれば接見指定をすべきであり接見指定をしないのであれば即時の接見を許すべきである旨の注意喚起にほかならない。したがって、本件において前記特段の事情が存在するといえないことが明らかである)。

ウ.被告の主張する事実(面会接見の申し出)の有無

(ア) 本件においては、C検事が面会接見であってもよいかどうかという点につき原告の意向を確かめ弁護人等がそのような面会接見であっても差し支えないとする意向を示したという事実は全くないから、当時広島地検が同庁舎内における秘密接見を認めない運用をしていたか否か、そのことを原告が知っていたか否かなどの事情のいかんにかかわらず、原告が面会接見を申し出たものと解する余地はない。

(イ) 特に、本件においては、原告は、勾留理由開示公判における被疑者の「殺すつもりも、傷つけるつもりも全くありませんでした」という陳述の真意を確認する必要があることを理由として接見の申し出をしている(当事者間に争いがない)。そうすると、立会人がいる面会接見で原告の意図するところを達成することができないことは明らかであるから、原告の「それでは検察庁での接見をお願いしたい」という要求が面会接見の申し出であると解することはできないし、C検事が面会接見の申し出であると誤解したとしてもその誤解に合理的な理由があるとはいいがたい。

(ウ) また、原告との電話においてC検事が回答したところは「接見指定ですか」というのに対して「接見指定ではありません」、「接見指定もなく、とにかく接見を拒否するということですか」というのに対して「そうです」というにとどまり、C検事が面会接見を念頭においていたのが真実であれば、面会接見について話していることを原告に対して確認するのが当然であるのに、全くそのような形跡がない。そもそも面会接見の性質上、改めてその日時、場所及び時間を指定するということは通常想定できないのである。

(エ) 他に原告の検察庁内における接見の申し出が面会接見の申し出であると解すべき事実を認めるに足りる証拠はない。

エ.以上によれば、いずれにせよ被告の主張は採用しがたい。

2.損害額について

(1) 接見指定の要件の有無について

 前記のとおりC検事が接見指定をしないまま即時の接見を拒否した行為は違法であるので、以下では損害額について検討する。

ア.損害額(慰藉料額)を判断するに当たっては12 月14 日の電話の当時接見指定の要件が存在したか否かが重要な考慮要素となるものと解されるところ、以下のとおりその要件が存在したものと解される。

(ア) 捜査機関は弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、刑訴法39 条3 項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られる。
 そして、弁護人等から接見等の申出を受けた時に捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分・検証等に立ち会わせている場合、また間近い時に取調べ等をする確実な予定があって弁護人等の申し出に沿った接見等を認めたのでは取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである。(最高裁判所大法廷平成11年3月24日判決・民集53巻3号514頁

(イ) 証拠(乙2、4、証人C)によれば、@原告がC検事に対して接見申し出をした12 月14 日午後2 時過ぎの時点では本件被疑者を別室に待機させており取調べを開始する直前であったこと、A同取調べは主任検察官であるC検事による勾留延長後2 回目の取調べであったこと、Bその時点では犯行動機・具体的な犯行状況等についての詳細な供述が得られていないことからこれを聴取する必要があったところ、被疑者の取調べに通訳を要することや被疑者の供述態度などからみて、取調べには今後も相当の時間を要すると判断されたこと、C 12 月14 日午前中の取調べでは身上関係について聴取できたにとどまり犯罪事実についてはほとんど聴いていなかったこと、D同日の取調べは午後10 時前までかかったこと、以上の各事実が認められる。
 また、E原告らが本件被疑者の逮捕当日から12 月12 日まで毎日被疑者と接見していたことは前記前提事実のとおりである。

(ウ) 以上の各事実によれば次のようにいうことができる。

a 本件においては、C検事において間近い時に上記取調べ等をする確実な予定があって弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合に該当するから、原則として取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たる。

b Eをふまえれば12 (イ) 月14 日の接見が初回接見と同視しうるものとはいえないし、同A〜Dの点や本件被疑事件が重大な刑事事件であることなどにも照らせば本件において12 月14 日の取調べが予定どおりに行えないとしても捜査に顕著な支障が生じないというべき例外的な事情があると認めることはできない。

(2) 損害額

 以上を前提に判断すると、

@ 接見交通権は被疑者・弁護人に認められた防御権行使のための重要な権利であり、特に本件においては本件陳述の真意を確認する必要があるとして緊急に接見を申し出たものであって、早期の接見の必要性を否定することはできないこと、

A 接見指定をすることなく即時の接見を拒否したことの違法性は明らかであり、C検事はそのことを原告から指摘されたにもかかわらずなお接見指定も即時接見の許可もしなかったこと、

B 他方、(1)のとおり本件においては接見指定の要件自体は存在したものというべきところ、原告は電話の翌日である12 月15 日午前8 時45 分から午前9 時36 分までの間に本件被疑者と接見しているのであり、仮にC検事が接見指定をしたとしてもこれより早い日時に接見ができたものと認めるに足りる証拠はないから、事後的にみれば接見指定をしなかったことが原告の弁護活動に対して与えた実質的な悪影響はさほど大きなものではなかったといえること(但し、前記違法行為により接見可能な日時場所の不確実な状態に原告が置かれたことは軽視すべきでない)

など本件に現れた一切の事情を考慮すれば、C検事の前記違法行為による慰藉料は20 万円、弁護士費用2 万円をもってそれぞれ相当とする。

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