平成21年度新司法試験論文式
公法系第2問参考答案

第1.設問1について
1.本件確認を争う手段として取消訴訟があるが、これを提起しうるのは、法律上の利益を有する者に限られる(行訴法9条1項)。そして、「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨を含む場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、処分の相手方以外の者についてこれを判断するに当たっては、同条2項に掲げる事項を勘案すべきである(小田急線高架訴訟判例参照)。
(1)ア.建築基準法(以下「法」という。)21条は一定規模を越える建築物に耐火性を要求し、42条で道路の幅員等を定めると共に43条1項において接道義務を定め、52条において容積率の制限を、56条において建築物の高さの制限を定める。これらは建築基準関係利益(建築基準関係規定適合性に基づく交通の安全、災害時の安全及び快適な居住環境を享受する利益をいう。以下同じ。)を保護する趣旨である。
イ.B県建築安全条例は法43条第2項による建築物の敷地及び建築物と道路との関係についての制限の付加について定める(1条)ところ、同条例は交通の安全を目的としており(4条3項、27条柱書、同条5号参照)、法43条1項と趣旨及び目的を共通にする規定である。
ウ.本件紛争予防条例は建築確認の審査対象を定めてはいないが、健全な生活環境の維持及び向上を目的として掲げ(1条)、中高層建築物の建築に伴つて生ずる周辺の生活環境に及ぼす影響を考慮し(2条2号)、そのような影響を受ける者を近隣関係住民(2条4号)として規定することから、法の趣旨及び目的を補充する趣旨である。
(2) 上記諸規定によって保護される建築基準関係利益は、国民一般が広く享受するものとは異なり、当該建築物又はその周辺の建築物に居住し、又は権利を有する者(以下「居住者等」という。)のみが享受しうる。また、違法な建築確認により侵害される法益は具体的な個々の居住者等の生命、健康及び財産として観念しうる。
 従って、上記諸規定は、建築基準関係利益を居住者等の個別的利益としてもこれを保護する趣旨であり、上記利益は、法律上保護された利益に当たる。
(3) そして、違法な建築確認により建築基準関係利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある居住者等の範囲については、具体的諸条件を考慮し、社会通念に照らして合理的に判断すべきところ、本件紛争予防条例は中高層建築物により影響を受ける者の範囲を「近隣関係住民」と規定し、これはB県における社会通念を類型化したものである。そこで、同条例の近隣関係住民に当たるか否かは、上記の範囲を判断する重要な指標となる。
2.(1) 本件建築物は高さ30メートルであり、Fは本件土地から10メートルの地点にあるマンションの一室に居住し、Gはそのマンションの所有者であるから、同条例における近隣関係住民に当たる。従って、建築基準関係利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれがあると認めるに足りない特段の事情のない限り、原告適格が認められる。
 本問のF及びGについて、上記特段の事情に当たる事実はうかがわれないから、F及びGは本件確認の取消訴訟についての原告適格がある。
(2)ア.H及びIは本件土地から500メートル離れたマンションに居住しているから、同条例にいう近隣関係住民に当たらない。従って、建築基準関係利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれがあると認めるに足りる特段の事情のない限り、原告適格は認められない。
イ.そこで、Hが本件児童教室に毎日通っていること及びIがHの父親であることが、上記特段の事情に当たるかを検討する。
(ア) B県建築安全条例27条4号は、同号の施設に通う者は交通の危険から自己の安全を有効に守ることのできない者(以下「交通弱者」という。)であることから、その生命・身体の安全を個別的利益として保護する趣旨である。
 本問では、本件児童室は本件図書館に設置されており、その専用出入口が本件建築物の地下駐車場出入口から約10メートルの位置にある。
 従って、本件図書館又は本件児童室が同条例27条4号に掲げる施設(「これらに類するもの」)に当たる場合には、少なくともHについては、上記特段の事情があるということができる。
(イ) 一般に、図書館は同号に列挙された施設と異なり、交通弱者を主たる利用者として予定する施設ではないから、本件図書館は「これらに類するもの」に当たらない。
 また、本件児童室は、確かに児童関係の図書を一箇所に集め、一般の利用者とは別に閲覧場所等や専用の出入口が設けられ、児童用のサンダルが置かれたトイレや幼児の遊び場コーナーがあるなど、児童の利用しやすい設備が整えられており、交通弱者たる児童の利用を予定している。
 しかし、同号の列挙する施設は交通弱者の利用を主たる目的とした独立の施設であるところ、本件児童室では児童用の座席は10人分程度に過ぎず、本件図書館の他の部分とは内部の出入口でつながっており、本件図書館の利用者はだれでも自由に行き来できる構造となっていること、及び、本件図書館は、総床面積3440平方メートル、地下1階、地上4階であるところ、本件児童室は、1階部分のうち約100平方メートルを占めているに過ぎない。従って、本件児童室は本件図書館の一部に過ぎず、独立した施設とはいえないから、「これらに類するもの」に当たらない。
(ウ) 従って、H及びIについて上記特段の事情があるとはいえない。
ウ.以上から、H及びIにつき本件確認の取消訴訟の原告適格は認められない。
3.建築確認は、これを受けなければ工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないから、本件確認の取消訴訟の係属中に本件建築物が完成した場合、本件確認の取消しを求める訴えの利益は失われる。
4.そこで、訴訟係属中の工事進行阻止のための法的手段として、本件確認の効力の停止(行訴法25条2項)が考えられるところ、以下の通りその要件を充足し、これが認容される見込みはある。
(1) 本件建築物が完成すると、訴えの利益の喪失により係争機会を失い、F及びGは建築基準関係利益に対する侵害及びそのおそれを継続的に受けることとなる。その侵害は生命に及ぶ可能性もありうるから、これによる損害を金銭賠償により回復することは困難であり、重大な損害を避けるため緊急の必要がある。
(2) 本件建築物は建築会社Aによる営利活動として建築が計画されたものであるから、本件確認の効力の停止によって公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれは認められず、また、後記第2の1(1)で述べる通り、本件確認には違法事由が認められる余地があるから、本案について理由がないとみえるときにも当たらない。
(3) 本件確認は既に完了しているから、その執行及び手続の続行の停止によって目的を達成することは不可能である。
第2.設問2について
1.前段について
(1) 本件土地は、幅員6メートル以上の道路に10メートル以上接していなければならない(法43条2項、B県建築安全条例4条1項、2項)ところ、本件土地は幅員6メートルの本件道路と約30メートルに渡って接しているのであるから、形式的には法の定める接道義務を満たしている。
 もっとも、以下の事実を考慮すると、通行の安全や防災等接道義務を定めた法の趣旨に反しており、実質的な接道義務違反の主張が認められる余地がある。
ア.本件道路が公道に接する部分にゲート施設として遮断機が設置されていおり、遮断機が下りた状態では車の通行が不可能であるから、通行の安全が保てない。
イ.遮断機を上げた状態でも実際に車が通行できる道路幅は3メートル弱しかなく、通行の安全が保てない。
ウ.緊急時にもL神社に連絡しなければ遮断機を上げることができず、火災時などに消防車等が進入することが困難で、防災上問題がある。
(2) B県建築安全条例27条4号違反の主張については、前記第1の2(2)イ(イ)で述べた通り、本件図書館及び本件児童室は、いずれも同号の「これらに類するもの」には当たらないから、認められない。
(3) 本件紛争予防条例6条1項は、建築主の説明会開催義務を定めているが、Aは説明会を開催しているから、形式的には同項の義務を果たしている。
 もっとも、同項の趣旨が紛争の予防にあることからすれば、説明会が形ばかりのものであった場合には、紛争予防に全く資することがないから、同項の義務を果たしていないとの主張も考えられる。
 しかしながら、同項違反の事実は建築確認の違法事由足り得ない。なぜなら、同項は建築物の基準を定めるものではなく、建築基準関係規定に含まれない以上、建築確認の確認対象ではないからである(法6条1項、4項)。
 そうである以上、同項違反の主張は本件確認の取消訴訟における違法事由の主張としては失当である。
(4) 行政手続法10条によれば、建築主事は必要に応じ、公聴会の開催その他適当な方法により当該建築確認申請を行った者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。
 もっとも、同条は努力義務を定めたに過ぎないから、違法となり得るのは公聴会の不開催等がその他の事情と相まって処分行政庁の権限逸脱・濫用と認めうる場合に限られる。
 本問では、既にAと周辺住民の間で何度か協議が行われたが、話合いはまとまらなかったという経緯があり、新たな公聴会の開催の意義が見出し難かったとも考えられることからすれば、Eの公聴会不開催をもって権限逸脱・濫用ということは困難であるから、公聴会不開催の主張は認められない。
2.後段について
 B県建築安全条例27条4号は、同号の施設に通う者の権利利益を保護する趣旨であるところ、Fは本件児童室に通う者ではないから、本件図書館及び本件児童室が同号の施設に当たるかにかかわらず、同号違反の主張をすることはできない(行訴法10条1項)。

以上

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