平成21年度新司法試験の結果について(2)

合否の基準は何か

合格者数目安も、修了生7割も、もはや合格者数の基準ではなくなった。
では、今年度は何を基準にして合否が決まったのか。
これを考えるにあたっては、旧司法試験がヒントになる。

一応の水準の中間値

以下は、旧司法試験における合格者数等の推移である。

年度 合格点 合格者数目安 合格者数
18 133.75 500〜600 542
19 132.00 300 250
20 132.00 200 141

旧試験では、既に大幅に目安を下回るということが起きていた。
平成19年度及び平成20年度である。
両者に共通していたことは、132点で切ったという点である。
そして、この点数は、一応の水準の中間値だった。

(「平成20年度旧司法試験論文の結果について(1)」より引用)

旧司法試験において、論文の点数は、以下のように算定される。

司法試験第二次試験の合否判定等に関する情報より引用)

 ○  合否判定方法・基準
  (1)  6科目の得点の合計点をもって合否の決定を行う。
  (2)  1科目の得点は,1,2問の平均点とする。

(引用終わり)

そうすると、(1)から、合格点の132.00点とは、1科目あたりにすると22点(132÷6=22)である。
そして、(2)から、各科目の1問と2問の平均が22点であれば、その科目全体の点数も22点となる。
結局、1通の答案の評価が平均で22点である場合、全体の点数が132点となる。

この、22点という点数は、どの程度の水準なのだろうか。
答案の採点方針では、以下のようになっている。

司法試験第二次試験の合否判定等に関する情報より引用)

○  採点方針
  1  1問の採点は,40点満点とし,白紙答案は0点とする。
  2  各答案の採点は次の方針により行う。
   (1)  優秀と認められる答案については,その内容に応じ30点から40点。
 ただし,その上限はおおむね35点程度とし,抜群に優れた答案については更に若干の加点を行えるものとする。
   (2)  良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ25点から29点。
   (3)  一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ20点から24点。
   (4)  上記以外の答案については,その内容に応じ19点以下。
 ただし,特に不良であると認められる答案については,9点以下。

(引用終わり)

22点とは、一応の水準(20〜24)の中間値((20+24÷2=22)である。
すなわち、一応の水準の中間値の答案をそろえると、全体として132点となる。
この、一応の水準の中間値は、法曹の質との関係で、意味のある数字である。
これを下回る受験生は、一応の水準にすら達していない、といいうるからである。

このことから、司法試験委員会は132点を絶対的な最低合格ラインとして設定したのではないかと考えられる。

(引用終わり)

今回、新司法試験でも同様のことが行われたのではないか。
新司法試験における論文試験の評価方法は、以下のようになっている。

「新司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について」より引用)

1 採点方針
(1) 白紙答案は零点とする。
(2) 各答案の採点は,各問の配点に応じ,次の方針により行う。
 選択科目において傾斜配点をするときは,これに準ずる。
ア 優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。
 ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。
イ 良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。
ウ 良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。
エ 上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。
 ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。

配点 優秀 良好 一応の水準 不良
200点 200点から150点
(190点)
149点から116点 115点から84点 83点から0点
[10点]
100点 100点から75点
(95点)
74点から58点 57点から42点 41点から0点
[5点]
50点 50点から38点
(48点)
37点から29点 28点から21点 20点から0点
[3点]

(引用終わり)

これを見ると、一応の水準の中間値がわかる。

200点の配点の場合、(115+84)÷2=99.5点。
100点の配点の場合、(57+42)÷2=49.5点。
50点の配点の場合、(28+21)÷2=24.9点。

概ね、満点の5割である。

そこで、今年度の総合評価の満点を算出する。
今年度の新司法試験の総合評価は、以下の計算式で算出される。
(短答の得点が2分の1となるのは、短答論文の比重が1:8に変更されたためである。)

総合評価=(短答式試験の得点×1/2)+(論文式試験の得点×1400/800)

短答の満点=350点、論文の満点=800点であるから、

総合評価の満点=(350×1/2)+(800×1400/800)=175+1400=1575

すなわち、今年度の総合評価の満点は、1575点である。

1575点の5割は、787.5点である。
仮に端数がでることを嫌って1575の下一桁を切り捨てるとする。
そうすると、1570点。
1570の5割は、785点。
これは、今年度の合格点に一致する。

司法試験委員会は、上記のようなやり方で合格点を決めたのかもしれない。
もっとも、上記の計算は、短答についても5割を一応の水準としている点で荒っぽい。
短答式試験では最低合格点が設定されるので、それを基準とする方が素直である。
当サイトでは以前、短答の最低合格点を用いて同様の試算をしたことがある。

(「平成20年度旧司法試験論文の結果について(2)」より引用)

新司法試験では、論文だけでなく、短答と論文の総合得点で合否が判断される。
その際、単なる単純合計ではなく、論文に比重を置いた評価となる(上記資料参照)。
具体的には、短答:論文=1:4とされ、数式にすると、以下のようになる。

総合得点=短答式試験の得点+論文式試験の得点×1400÷800

上記数式に、論文試験の得点における一応の水準の中間値にあたる400点を代入する。
そうすると、旧司法試験の132点にあたる想定最低合格点が算定できる。

想定最低合格点=短答の最低合格点+400×1400÷800
想定最低合格点=短答の最低合格点+700

以下は、平成18年度以降について、上記想定最低合格ラインを算出し、実際の合格点と比較したものである。

年度 短答の最低合格点 想定最低合格点 実際の合格点
18 210 910 915
19 210 910 925
20 230 930 940

新司法試験においては、過去の3回はいずれも、実際の合格点が想定最低合格点を上回っている。
やや意外である。
新司法試験の合格者は、一応の水準の中間値をクリアしているということになる。

(引用終わり)

今年度については、比重変更の関係で短答の得点を2分の1にすることになる。
そうすると、想定最低合格点は、215÷2+700=807.5点となる。
合格点は785点であるから、これをかなり下回っている。
上記引用記事でも述べたが、過去の新試験ではいずれもこの水準を上回っていた。
その意味で、今年度の出来は過去の新試験と比較してもかなり悪かったといえる。

今後の予測

司法試験委員会が上記のように考えたとすると、以下のようなことがいえる。

まず、新司法試験について、今後も785点は合格点の最低ラインとなる。
従って、合格者数は、785点を何人が超えられるか、という観点から決まる。
785点を超える者が相当数いた段階で、初めて合格者数の目安等が機能する。
すなわち、まず点数で切り、その後に人数で切るということになる。

旧司法試験については、既に平成19年以降から、点数で切られてきた。
それが今後も続くことになる。
まず、132点を超えた者が何人いるか。
132点を超える者が多すぎる場合に、初めて人数で切る。
今年度については、132点を超える者が目安である100人未満の場合、合格点は132点になるだろう。

受験生の水準が今後急激に向上するという可能性は高くない。
従って、当分の間は一応の水準を満たすかどうかが、合格の要件となる。
そうすると、以前旧司法試験に関して述べたことが、新試験でもそのまま妥当することになる。

(「平成20年度旧司法試験論文の結果について(2)」より引用)

すなわち、「この論点はみんな書けない、だからこの程度で大丈夫」は、通用しないということだ。
もはや、旧司法試験は他の受験生との戦いではなく、132点を超えられるか、という戦いになっている。
また、現在の132点が、過去の132点と同じとは限らない。
平成初期の問題は極めて基本的だったのに対し、近年の問題は難易度が高い。
従って、当時140点代だった答案を書ける力があれば、来年も140点代が取れるとは限らない。
その意味で、非常に対策がしにくくなったといえる。

(引用終わり)

これまでは、考査委員の要求に応えなくても、とりあえず誰もが書く論点を並べておく。
そうすれば相対評価で受かる、という作戦もありえた。
しかし今後は、それをやると皆一緒に落ちる、ということになりかねない。
また、新試験では考査委員の要求が実務的な部分を含む等、多様化してきている。
そのため、旧試験で有効だった対策が、新試験でそのまま通用しない部分もある。
幸い、新司法試験では詳細な出題趣旨や、ヒアリング、採点実感等が公表されている。
それをよく分析して、考査委員の要求していることが何なのか。
これを把握する必要性が、ますます増してきたといえる。

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