平成21年度新司法試験の結果について(3)

足切りの状況

以下は、年度別の足切り対象者数等の推移である。

年度 論文平均点(かっこ内は
足切り対象者含む)
足切り対象者数 論文採点対象者 論文採点対象者に占める
足切り対象者の割合
18 404.06 12 1684 0.71%
19 393.91 71 3479 2.04%
20 378.21
(372.18)
238 4654 5.11%
21 367.10
(361.85)
237 5055 4.68%

論文の平均点は毎年、低下傾向にある。
それと共に、足切り対象者の数、割合も増え続けてきた。
今年度も、論文平均点の低下傾向は変わっていない。
しかし、足切り対象者の数、割合は、減少に転じた。
全体の出来は悪くなっているが、極端に悪い者は減っている。

昨年度の記事で、受験生の低得点・横並びの傾向があると述べた。
今年度は、その傾向が顕著になっている。

科目別足切り率

以下は、各科目における足切り対象者の受験者に占める割合の推移である。
18年度については、足切り対象者の数が少ないため、省略している。
なお、選択科目については、その科目を選択した者に占める割合である。

  19年度 20年度 21年度
公法 0.82% 2.66% 2.35%
民事 0.13% 0.19% 0.08%
刑事 0.10% 0.33% 0.77%
倒産 1.62% 1.83% 0.21%
租税 0.00% 0.32% 0.00%
経済 0.23% 0.84% 1.16%
知財 0.26% 1.05% 1.15%
労働 0.06% 0.50% 0.12%
環境 0.79% 0.58% 0.24%
国際公法 0.00% 0.92% 0.00%
国際私法 0.93% 0.94% 0.40%

公法系の割合が高い傾向にあることがわかる。
他方、民事系は安定して低い。
民事系はどの科目も多論点型の出題となりやすく、受験生が対応しやすい。
これに対して、公法系は論点を拾うやり方では解きにくい出題が多い。
また、予備校の解答例に見られるような安易な人権パターンは、三者形式に対応しにくい場合が多い。
そういった理由から、公法系で崩れてしまう受験生が多いのだと思われる。
同時に、後述のように公法だけは考査委員が極端な点差を付ける傾向がある。
それだけに、出題趣旨等の分析の重要性が高い科目である。

選択科目については、それほど顕著な傾向はみられない。
過去の2年では倒産法の割合が高かった。
しかし、今年度はそれほど高くない。
従って、足切りは選択科目を選ぶ判断要素にはなりにくい。

得点調整の影響

得点調整は、考査委員間の採点格差のみを是正するものだと一部で誤解されている。
しかし、そうではなく、問題の難易度格差をも是正する目的・機能を有している。

採点及び成績評価等の実施方法・基準より引用、下線は筆者)

論文式試験においては,

@ 受験者数が多数に上るため,同じ問題に対する答案についても,一人の考査委員が
全受験者の答案を採点することは困難であって,複数の考査委員が分担していること

A 各問題ごとに難易度等が異なるため,平均点や採点のばらつきの程度が異なること
から,採点格差(考査委員・問題によって,採点結果が全体的に高めになったか低め
になったかの差,あるいは,評価の幅が広くなったか狭くなったかの差)が発生し得
るので,以下の方法により採点格差の調整を行うものとする。

(引用終わり)

ところで、新司法試験での足切りは素点ベースで行われる。
一方、法務省の公表する得点別人員は得点調整後のものである。
そのため、得点調整ベースの最低ライン未満者数と実際の足切り対象者数を比較できる。
それが、以下の表である。
なお、国際公法は25点以下に2人ということしかわからない。
足切りは、25点未満のものが対象である。
ちょうど25点の者は、対象でない。
そのため、?マークを付けている。

  素点ベース 調整後ベース
公法 173 146
民事 155
刑事 57 94
倒産 65
租税
経済 25
知財 13 18
労働 70
環境
国際公法 2?
国際私法 14

得点調整後に対象者が減るのは、公法だけである。
対照的なのが、民事系である。
素点では1桁のものが、得点調整によって3桁になる。
同様のことが、倒産法や労働法でも起きている。
これは昨年度と同様の傾向である。
昨年度の記事で述べたことは、今年度もそのまま妥当する。

昨年度の記事から引用)

素点ベースの数字は、採点者間及び科目間の得点のバラつきを修正する前のものである。
他方、調整後ベースの数字は、採点者間及び科目間の得点のバラつきは修正されている。
そうすると、素点ベースで足切り者が多い科目は、他の科目より素点のバラつきが大きかった科目ということになる。
逆に、調整後ベースにすると足切り者が増える科目は、素点のバラつきが少なかった科目である。
素点のバラつきが少ないと、逆に得点調整によって得点差を広げられてしまうため、足切り者が増えるのである。

そうすると、やはり公法は極端な採点がされていることがわかる。
他方、民事刑事は、素点ではあまり差が付いていないことになる。
このことは、科目別の隠れた特性を示している。
公法については、採点する考査委員が意図的に差を付けて採点してくる。
従って、出題趣旨や考査委員のヒアリング、再現答案などを分析して、それに対応すれば差を付けることができる。
他方、民事系、刑事系については、考査委員は採点する際にそれ程意識的に点差を付けない。
しかし、公法系の考査委員があまりに極端に点差を付けるために、得点調整の際に民事刑事の得点差が拡大されてしまう。
結果、考査委員がそれほど意識しなかったようなちょっとした点数差が、大きな点差として最終の総合評価に結びついてしまう。
従って、民事刑事については、出題趣旨や考査委員のヒアリング、再現答案などを分析しても、説明の付かない点差が生じやすい。
答案作成上の戦略・戦術を考える際には、この点を頭の片隅においておく必要がある。

(引用終わり)

上記を言い換えると、以下のように言える。

素点ベースでは、公法だけが突出して点差が付いている。
そのため、素点ベースの足切りは公法だけが多い。
これを得点調整するということは、公法と他の科目の点差を同じくらいにするということである。
従って、公法の点差は縮まり、他の科目の点差は開く。
民事は素点段階で極端に点差が付いていないため、調整によって極端な点差が付く。

点数に対するインパクト

では、得点調整によって具体的に何点くらい変動するのだろうか。

素点ベースの足切り対象者の得点調整後の点数は、これを知る手がかりとなる。
例えば、公法系の足切り対象者は173人である。
そうすると、その者達の順位は、採点対象者5055人中4883位以降となる。
そこで、得点別人員と照らし合わせてみる。
すると、4881位から4897位までは51点である。
従って、足切り対象者の得点調整後の点数は51点以下であるということになる。
公法の足切りラインは、50点である。
従って、公法では得点調整によってそれほど点数は動いていないようだ、ということがわかる。

以下は、これを表にまとめたものである。
なお、かっこ書きは、足切り対象者がいない科目のため、最低点を示した。
「〜以下」となっているのは、それ以上細かい分類がなされていない場合である。

  足切り対象者数 足切り
最低ライン
調整後の点数
公法 173 50 52
民事 75 40以下
刑事 57 50 46
倒産 25 13以下
租税 25 (16)
経済 25 20
知財 13 25 22
労働 25 13以下
環境 25 21以下
国際公法 25 (25以下)
国際私法 25 13以下

民事は、「40点以下」のカテゴリーに9人いる。
すなわち、40点以下でも足切り対象者になっていない者が3人いることになる。
このことから、少なくとも35点は点数が変動していることがわかる。
国際私法では、13人以下が2人、14点に1人いる。
足切り対象者は2人だけだから、14点だと素点では25点以上だったことになる。
従って、少なくとも11点変動している。

総合評価段階での合格点の前後では、1点に10人から20人くらいの受験生がいる。
例えば、785点には14人、784点には17人、786点には、20人いる。
従って、民事のように35点も変動すると、350人から700人くらい合格者が変動しうる。
得点調整には、それくらいのインパクトがある。

旧司法試験の頃には、得点調整の前後を比較する材料が無かった。
新司法試験になって、得点調整の効果を検証することができるようになった。
その効果は、思っていたより大きい。
得点調整の知識は、司法試験を分析する上で無くてはならないものとなっている。

戻る