平成21年度新司法試験の結果について(4)

修了年度別・既修未修別合格率

以下は、修了年度別、既修未修別の合格者数等の推移である。

  受験者数 合格者数 合格率
17年度既修 130 6.1%
18年度未修 716 90 12.5%
18年度既修 373 78 20.9%
19年度未修 1337 229 17.1%
19年度既修 824 232 28.1%
20年度未修 2065 458 22.1%
20年度既修 1947 948 48.6%

これを見ると、以下の二つの法則が成り立っていることがわかる。

1:同じ年度の修了生については、常に既修が未修より受かりやすい。
2:既修者・未修者の中で比較すると、常に年度の新しい者が受かりやすい。

1は、既修者試験による選抜の存在が大きい。
20年度修了生に関して言えば、その差が26%もある。
ローの教育で伸びたかどうかではなく、入学段階で知識があったかどうか。
すなわち、ロー入学の時点で、既に差が付いている。
このことは、法科大学院教育の意義に疑問を投げかける。
平成23年度からは、予備試験が始まる。
予備試験は、既修者試験より厳しい選抜が行われるはずだ。
そうなると、未修者は予備試験組にも差を付けられる可能性が高い。

2については、古い年度の者は不合格者か、受け控えをした者である。
すなわち、合格する実力が無かったか、合格の自信が無かった者である。
それが、合格率に反映しているといえる。
ただ、新卒者よりも1年間余分に勉強する期間があった分、有利な面もありそうにみえる。
それにもかかわらず、かなり合格率に差がついている。

1年間の自学自習が有効かどうかについて、興味深いことがある。
それは、既修者と翌年度の未修修了者の合格率の差があまり無いことだ。
平成17年度の既修と平成18年度の未修。
平成18年度の既修と平成19年度の未修。
平成19年度の既修と平成20年度の未修。
これらの修了生は、基本的に同じ時期にローに入学したはずである。
未修者が1年間余分にローに通っている間に、既修者は自学自習に励んだということになる。
そこで、上記の修了生の合格率の差を、同年度の既修未修の差と比較したのが、以下の表である。

18既修−18未修 8.4%
19既修−19未修 11.0%
20既修−20未修 26.5%
17既修−18未修 −11.0%
18既修−19未修 3.8%
19既修−20未修 6.0%

同年度の場合顕著だった差が、急激に縮まっている。
平成17年度の既修に至っては、平成18年度の未修より合格率が低い。
このことは、1年間自学自習してもそれほど伸びないことを示している。

合格者年齢の状況

以下は、年度別の合格者の平均年齢の推移である。

年度 短答合格者 論文合格者 短答−論文
18 29.92 28.87 1.05
19 30.16 29.20 0.96
20 30.36 28.98 1.38
21 30.4 28.84 1.56

短答合格者30歳前後、論文合格者29歳前後。
論文は短答よりも1歳程度若くなる。
この傾向で安定してきている。

新司法試験は現在始まったばかりである。
そのため、年度を重ねるにつれ、受験生が滞留するようになっている。
滞留者は翌年には1つ歳をとる。
従って、平均年齢は上がるのが自然だ。
しかし、合格者年齢はそれ程変わっていない。
すなわち、滞留者は受かりにくいということである。
このことも、1年間の自学自習の効果が薄いことを示している。

また、短答から論文を経ると、合格者年齢が若返ることも重要である。
これは、旧司法試験から続いている傾向である。
勉強量だけが重要であれば、このようなことは起きにくい。
また、豊かな社会経験などは論文にはあまり役立たない。
若い者に有利な何かが、論文式試験にはある。

選択科目別合格率

以下は、選択科目別の受験者ベースの合格率をまとめたものである。

  受験者数 合格者数 合格率
倒産 1860 596 32.0%
租税 344 97 28.1%
経済 684 179 26.1%
知財 1123 307 27.3%
労働 2326 643 27.6%
環境 409 84 20.5%
国公 109 22 20.1%
国私 498 115 23.0%

今年度も倒産法がトップである。
国際法の合格率が低いことも、例年の傾向となっている。
今年度は環境法の合格率が低い点を除いて、特に目新しい点は無い。
なお、この合格率の差は、各科目の問題の難易度の差を意味しない。
得点調整によって、難易度の格差は是正されるからである。
従って、むしろ実力者が倒産法を選択し、国際法や環境法を選択しなかったことを意味する。

また、昨年度の記事でも触れたが、現在選択科目の見直しの作業が行われている。
もっとも、今回の見直しでは何らの変更も行われない可能性が高そうだ。

第56回司法試験委員会(平成21年8月5日)より引用、下線は筆者)

【小山幹事】 幹事における選択科目見直しの検討状況について御報告させていただきます。前回の司法試験委員会では,現行の8科目に関する重要性やニーズ等について御説明をさせていただきましたが,その後も幹事において,検討基準に従った検討を行っておりますので,本日は,幹事の意見について述べさせていただきたいと思います。
 まず,「知的財産法」についてです。
 前回御説明した内容から,実務的な重要性やニーズの高さが認められると考えておりますし,法科大学院における講座開設数も多数です。科目としての範囲の明確性,体系化,標準化や司法試験の実施状況についても問題があるという意見はありませんでしたし,出題内容の独自性も認められるというのが幹事の中の一致した意見となっております。このようなことから,幹事の中では,選択科目として残すべきであろうという点に異論はありませんでした。
 次に「労働法」についてです。
実務的な重要性やニーズ,法科大学院における講座開設数が多数であることは前回御説明したとおりです。また,科目としての範囲の明確性,司法試験の実施状況や出題内容の独自性についても問題はなく,労働法についても,幹事の中では,選択科目として残すということに異論はありませんでした。
 次に「租税法」についてです。
 租税法につきましても,前回御説明した内容から,実務的な重要性,社会におけるニーズの高さが認められると考えております。法科大学院における講座開設数も多数であり,司法試験の実施状況や出題内容にも問題はなく,科目としての範囲の明確性や独自性なども認められるという点から,選択科目として残すべきであろうというのが幹事の一致した意見となっております。
 次に「倒産法」についてです。
 これも,前回御説明させていただいた内容から,重要性と高いニーズが認められると考えております。法科大学院における講座開設数も多数です。また,科目としての範囲の明確性,司法試験実施状況に問題もなく,出題内容の独自性も高いことから,選択科目として残すのが適当であろうというのが,幹事の一致した意見となっております。
 次に「経済法」についてです。
 重要性とニーズについては,前回御説明したとおりであり,十分に認められると考えております。法科大学院における講座開設状況も多数です。科目としての範囲の明確性や体系化,標準化の点に問題があるとの意見はありませんでした。司法試験の実施状況,出題内容の独自性も問題ないことから,幹事の中では,選択科目として残すということに異論はありませんでした。
 次に「国際関係法(公法系)」についてです。
 まず,前回御説明したとおり,現在の国際関係では多様な国際問題が発生しますので,国家相互間の権限の調整や,共通利益の実現等が,ますます重要となっております。また「司法制度改革審議会意見書」では,弁護士が公的機関や国際機関などに進出して,その健全な運営に貢献することを期待するとしていることなどから,実務的な重要性やニーズは認められると考えております。法科大学院における講座開設状況も多数です。科目としての範囲は明確であり,体系化,標準化がされておりますし,司法試験の出題内容は,国際法の体系について問う内容で,非常に高い独自性が認められると考えております。なお,国際関係法(公法系)につきましては,受験者数が少ないという御指摘がございましたが,司法試験の実施に問題が生じているような状況ではございませんし,他の科目と異なる高い独自性などに鑑みれば,選択科目として残すべきであろうというのが,幹事の一致した意見です。
 次に「国際関係法(私法系)」についてです。
 前回御説明した内容から,重要性やニーズの高さは認められると考えております。
 法科大学院における講座開設数も多数です。科目としての範囲の明確性,体系化・標準化にも問題なく,司法試験の実施状況に問題がないこと,出題内容の独自性も高いことなどからしても,選択科目として残すべきであろうということで幹事の意見は一致しております。
 次に「環境法」についてです。
 実務的重要性や社会のニーズの点ですが,環境犯罪の増加,公害訴訟が起こっていることなど,実務的な重要性や社会における高いニーズが認められると考えております。法科大学院における講座開設数も多数です。範囲としては,環境基本法の体系に属する法律を対象とし,これらに関する環境問題をめぐる訴訟及び法政策であり,対象法令も明確化されております。司法試験の実施状況にも問題はなく,出題内容の独自性も高いと認められます。なお,環境法に関しては,出題内容が政策に偏っているのではないか等の指摘がある可能性もございます。しかし,単に記憶していた政策をその場で吐き出して記述するだけでは対応できないような,法律の解釈などを前提とした問題を出題することにより,「対象となる法律分野に関する基本的な知識,理解を問い,又は,法的な分析,構成及び論述の能力を試す。」という新司法試験の出題方針に十分対応可能と考えております。また,民法や行政法等との重なり合い等の御指摘もございますが,法科大学院のシラバスも共通の内容で,多くのテキストにおいて,環境法独自の基本的考え方についての整理も進んでおり,体系化,標準化等の観点からも,特段の問題はないということで幹事の中で意見が一致しております。環境犯罪の増加によるニーズの高さや,法科大学院における講座開設数などからしても,選択科目として残すべきであろうという点に異論はありませんでした。
 以上御説明いたしましたとおりでございますので,現行の選択科目8科目は,そのまま残すべきであろうというのが,今の段階での幹事の一致した意見でございます。
 また,現行8科目以外の科目についても,検討基準にしたがって検討しているところです。
 まず,意見書が出ている「消費者法」について御説明します。
 「消費者法」につきましては,実務的な重要性やニーズが認められるという点に異論はありませんでした。しかし,対象法令が不明確であるとも思われることや,民法の債権法の改正が検討されており,民法の債権法の中に,消費者契約に関する規定を取り込むことが提案されていること,現に,消費者契約法,割賦販売法など,消費者法で中核となりそうな科目は,現在の司法試験六法において,「民事系科目」の一つとして登載されていることなどからすると,現段階では,明確化,体系化や標準化,独自性といった観点から問題なしとしないといった意見が幹事の中から出されております。法科大学院で出題された問題等を見ると,似たタイプの問題が多く,出題がマンネリ化する恐れがあるという意見もありました。したがいまして,消費者法について,この時点で選択科目にすることは躊躇されるというのが,幹事の意見でございます
 次に,これも学会から意見書が提出されたことで,検討対象としていた「法と経済学」についてですが,法と経済学の対象は,およそすべての法領域であり,科目としての範囲が不明確なのではないかという指摘が幹事の中でありました。また,確かに,経済学的なアプローチという点には独自性も認められますし,法と経済学における論理的思考それ自体は,有意義なものとは思われますが,選択科目は,「新司法試験の論文式筆記試験における専門的な法律の分野に関する科目」ということでありますので,そういう観点からすると,法と経済学を選択科目とすることには,慎重にならなければならないという意見がございました。以上のような観点から,法と経済学を選択科目にすることは躊躇されるというのが,幹事の一致した意見でございます。
 また,金融関係法については,経済財政諮問会議の調査会の中で,選択科目にするべきとの意見が出されていますが,この科目についても,やはり選択科目とすることについてはやや難があるのではないかというのが,幹事の一致した意見でございます。そのほか,医療と法,社会保障法,法哲学,法理学,法社会学などについても検討しているところですが,やはり,それぞれに問題点があり,選択科目とすることには躊躇されるというところで幹事の意見は一致しております。このような検討状況から,今回の見直しにおいては,現行の選択科目である8科目についてはそのまま維持し,新たに加えるべき科目もないであろうということで,特に幹事の中で異論はありませんでした。

(引用終わり)

従って、当面は科目を選択するに際し、見直しのことを考慮する必要はないだろう。

戻る