最新最高裁判例

最高裁判所第一小法廷決定平成21年06月29日

【事案】

1.事実関係

(1) 被告人,A及び氏名不詳者は,共謀の上,針金を使用して回胴式遊技機(通称パチスロ遊技機)からメダルを窃取する目的で,いわゆるパチスロ店に侵入し,Aが,同店に設置された回胴式遊技機1080番台において,所携の針金を差し込んで誤動作させるなどの方法(以下「ゴト行為」という。)により,メダルを取得した。

(2) 他方,被告人は,専ら店内の防犯カメラや店員による監視からAのゴト行為を隠ぺいする目的をもって,1080番台の左隣の1078番台において,通常の方法により遊戯していたものであり,被告人は,この通常の遊戯方法により,メダルを取得した。被告人は,自らが取得したメダルとAがゴト行為により取得したメダルとを併せて換金し,A及び換金役を担当する氏名不詳者と共に,3等分して分配する予定であった。

(3) 被告人らの犯行が発覚した時点において,Aの座っていた1080番台の下皿には72枚のメダルが入っており,これは,すべてAがゴト行為により取得したものであった。他方,1078番台に座っていた被告人の太ももの上のドル箱には,414枚のメダルが入っており,これは,被告人が通常の遊戯方法により取得したメダルと,Aがゴト行為により取得したメダルとが混在したものであった。

2.原判決は,以上の事実関係を前提に,被告人の遊戯行為も本件犯行の一部となっているものと評することができ,被害店舗においてそのメダル取得を容認していないことが明らかであるとして,被告人の取得したメダルも本件窃盗の被害品ということができ,前記下皿内及びドル箱内のメダルを合計した486枚のメダル全部について窃盗罪が成立する旨判示した。

【判旨】

 Aがゴト行為により取得したメダルについて窃盗罪が成立し,被告人もその共同正犯であったということはできるものの,被告人が自ら取得したメダルについては,被害店舗が容認している通常の遊戯方法により取得したものであるから,窃盗罪が成立するとはいえない。そうすると,被告人が通常の遊戯方法により取得したメダルとAがゴト行為により取得したメダルとが混在したドル箱内のメダル414枚全体について窃盗罪が成立するとした原判決は,窃盗罪における占有侵害に関する法令の解釈適用を誤り,ひいては事実を誤認したものであり,本件において窃盗罪が成立する範囲は,前記下皿内のメダル72枚のほか,前記ドル箱内のメダル414枚の一部にとどまるというべきである。もっとも,被告人がAによるメダルの窃盗について共同正犯としての責任を負うことは前記のとおりであり,関係証拠によれば前記ドル箱内のメダル414枚のうちの相当数もAが窃取したものであったと認められること及び原判決の認定判示したその余の量刑事情に照らすと,本件については,いまだ刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成21年06月30日

【事案】

 名古屋高等裁判所の訴訟救助却下決定(同裁判所平成20年(ウ)第163号)に対し,同決定は憲法25条1項,32条及び76条に違反するとして抗告人が特別抗告をしたところ,原審が,上記特別抗告の理由は,実質的には法令違反をいうものにすぎず,民訴法336条1項に規定する事由に該当しないとして,上記特別抗告を却下する決定をしたため,抗告人が同決定に対して抗告をした事件。

【判旨】

 特別抗告の理由として形式的には憲法違反の主張があるが,それが実質的には法令違反の主張にすぎない場合であっても,最高裁判所が当該特別抗告を棄却することができるにとどまり(民訴法336条3項,327条2項,317条2項),原裁判所が同法336条3項,327条2項,316条1項によりこれを却下することはできないと解すべきであるから,抗告人の特別抗告を却下した原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある(上告の場合につき,最高裁平成10年(ク)第646号同11年3月9日第三小法廷決定・裁判集民事192号99頁参照)。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成21年06月30日

【事案】

1.被告人は,本件犯行以前にも,数回にわたり,共犯者らと共に,民家に侵入して家人に暴行を加え,金品を強奪することを実行したことがあった。

2.本件犯行に誘われた被告人は,本件犯行の前夜遅く,自動車を運転して行って共犯者らと合流し,同人らと共に,被害者方及びその付近の下見をするなどした後,共犯者7名との間で,被害者方の明かりが消えたら,共犯者2名が屋内に侵入し,内部から入口のかぎを開けて侵入口を確保した上で,被告人を含む他の共犯者らも屋内に侵入して強盗に及ぶという住居侵入・強盗の共謀を遂げた。

3.本件当日午前2時ころ,共犯者2名は,被害者方の窓から地下1階資材置場に侵入したが,住居等につながるドアが施錠されていたため,いったん戸外に出て,別の共犯者に住居等に通じた窓の施錠を外させ,その窓から侵入し,内側から上記ドアの施錠を外して他の共犯者らのための侵入口を確保した。

4.見張り役の共犯者は,屋内にいる共犯者2名が強盗に着手する前の段階において,現場付近に人が集まってきたのを見て犯行の発覚をおそれ,屋内にいる共犯者らに電話をかけ,「人が集まっている。早くやめて出てきた方がいい。」と言ったところ,「もう少し待って。」などと言われたので,「危ないから待てない。先に帰る。」と一方的に伝えただけで電話を切り,付近に止めてあった自動車に乗り込んだ。その車内では,被告人と他の共犯者1名が強盗の実行行為に及ぶべく待機していたが,被告人ら3名は話し合って一緒に逃げることとし,被告人が運転する自動車で現場付近から立ち去った。

5.屋内にいた共犯者2名は,いったん被害者方を出て,被告人ら3名が立ち去ったことを知ったが,本件当日午前2時55分ころ,現場付近に残っていた共犯者3名と共にそのまま強盗を実行し,その際に加えた暴行によって被害者2名を負傷させた。

【判旨】

 被告人は,共犯者数名と住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀したところ,共犯者の一部が家人の在宅する住居に侵入した後,見張り役の共犯者が既に住居内に侵入していた共犯者に電話で「犯行をやめた方がよい,先に帰る」などと一方的に伝えただけで,被告人において格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく待機していた場所から見張り役らと共に離脱したにすぎず,残された共犯者らがそのまま強盗に及んだものと認められる。そうすると,被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。これと同旨の判断に立ち,被告人が住居侵入のみならず強盗致傷についても共同正犯の責任を負うとした原判断は正当である。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年07月03日

【事案】

1.本件は,建物についての担保不動産収益執行の開始決定に伴い管理人に選任された被上告人が,上記建物の一部を賃料月額700万円(ほかに消費税相当額35万円)で賃借している上告人に対し,平成18年7月分から平成19年3月分までの9か月分の賃料合計6300万円及び平成18年7月分の賃料700万円に対する遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,上記賃貸借に係る保証金返還債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張するなどして,被上告人の請求を争っている。

2.事実関係の概要

(1) 第1審判決別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)の過半数の共有持分を有するA株式会社(以下「A」という。)は,平成9年11月20日,上告人との間で,本件建物の1区画を次の約定で上告人に賃貸する契約を締結し,同区画を上告人に引き渡した。

ア.期間20年間

イ.賃料月額700万円(ほかに消費税相当額35万円)
 毎月末日までに翌月分を支払う。

ウ.保証金3億1500万円(以下「本件保証金」という。)
 賃貸開始日から10年が経過した後である11年目から10年間にわたり均等に分割して返還する。

エ.敷金1億3500万円
 上記区画の明渡し時に返還する。

(2) Aは,上記契約の締結に際し,上告人から,本件保証金及び敷金として合計4億5000万円を受領した。

(3) Aは,平成10年2月27日,本件建物の他の共有持分権者と共に,Bのために,本件建物につき,債務者をA,債権額を5億5000万円とする抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し,その旨の登記をした。

(4) Aは,平成11年6月22日,上告人との間で,Aが他の債権者から仮差押え,仮処分,強制執行,競売又は滞納処分による差押えを受けたときは,本件保証金等の返還につき当然に期限の利益を喪失する旨合意した。

(5) Aは,平成18年2月14日,本件建物の同社持分につき甲府市から滞納処分による差押えを受けたことにより,本件保証金の返還につき期限の利益を喪失した。

(6) 本件建物については,平成18年5月19日,本件抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定(以下「本件開始決定」という。)があり,被上告人がその管理人に選任され,同月23日,本件開始決定に基づく差押えの登記がされ,そのころ,上告人に対する本件開始決定の送達がされた。

(7) 上告人は,平成18年7月から平成19年2月までの間,毎月末日までに,各翌月分である平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料の一部弁済として各367万5000円の合計2940万円(消費税相当額140万円を含む額)を被上告人に支払った(以下,これらの弁済を「本件弁済」と総称する。)。

(8) 上告人は,Aに対し,平成18年7月5日,本件保証金返還残債権2億9295万円を自働債権とし,平成18年7月分の賃料債権735万円(消費税相当額35万円を含む額)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をし,さらに,平成19年4月2日,本件保証金返還残債権2億8560万円を自働債権とし,平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料残債権各367万5000円の合計2940万円(消費税相当額140万円を含む額)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下,これらの相殺を「本件相殺」と総称し,その受働債権とされた賃料債権を「本件賃料債権」と総称する。)。

3.原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,平成18年7月分の賃料700万円(以下,いずれも消費税相当額を含まない額である。)及び平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料の本件弁済後の残額2800万円の合計3500万円並びに平成18年7月分の賃料700万円に対する遅延損害金の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。

(1) 本件相殺の自働債権とされた本件保証金返還残債権はAに対するものであるのに対し,本件開始決定の効力が生じた後に発生した支分債権である本件賃料債権は,その管理収益権を有する管理人である被上告人に帰属するものであって,民法505条1項所定の相殺適状にあったとはいえないから,本件相殺は効力を生じない。

(2) 仮にそうでないとしても,本件相殺の意思表示の相手方となるのは本件賃料債権について管理収益権を有する被上告人のみであり,管理収益権を有しないAに対する相殺の意思表示をもって民法506条1項所定の相手方に対する意思表示があったとはいえないから,本件相殺は効力を生じない。

【判旨】

1.原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 担保不動産収益執行は,担保不動産から生ずる賃料等の収益を被担保債権の優先弁済に充てることを目的として設けられた不動産担保権の実行手続の一つであり,執行裁判所が,担保不動産収益執行の開始決定により担保不動産を差し押さえて所有者から管理収益権を奪い,これを執行裁判所の選任した管理人にゆだねることをその内容としている(民事執行法188条,93条1項,95条1項)。管理人が担保不動産の管理収益権を取得するため,担保不動産の収益に係る給付の目的物は,所有者ではなく管理人が受領権限を有することになり,本件のように担保不動産の所有者が賃貸借契約を締結していた場合は,賃借人は,所有者ではなく管理人に対して賃料を支払う義務を負うことになるが(同法188条,93条1項),このような規律がされたのは,担保不動産から生ずる収益を確実に被担保債権の優先弁済に充てるためであり,管理人に担保不動産の処分権限まで与えるものではない(同法188条,95条2項)。
 このような担保不動産収益執行の趣旨及び管理人の権限にかんがみると,管理人が取得するのは,賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利(以下「賃料債権等」という。)自体ではなく,その権利を行使する権限にとどまり,賃料債権等は,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も,所有者に帰属しているものと解するのが相当であり,このことは,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後に弁済期の到来する賃料債権等についても変わるところはない。
 そうすると,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後も,担保不動産の所有者は賃料債権等を受働債権とする相殺の意思表示を受領する資格を失うものではないというべきであるから(最高裁昭和37年(オ)第743号同40年7月20日第三小法廷判決・裁判集民事79号893頁参照),本件において,本件建物の共有持分権者であり賃貸人であるAは,本件開始決定の効力が生じた後も,本件賃料債権の債権者として本件相殺の意思表示を受領する資格を有していたというべきである。

(2) そこで,次に,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後において,担保不動産の賃借人が,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるかという点について検討する。被担保債権について不履行があったときは抵当権の効力は担保不動産の収益に及ぶが,そのことは抵当権設定登記によって公示されていると解される。そうすると,賃借人が抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権については,賃料債権と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるから(最高裁平成11年(受)第1345号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号363頁参照),担保不動産の賃借人は,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるというべきである。本件において,上告人は,Aに対する本件保証金返還債権を本件抵当権設定登記の前に取得したものであり,本件相殺の意思表示がされた時点で自働債権である上告人のAに対する本件保証金返還残債権と受働債権であるAの上告人に対する本件賃料債権は相殺適状にあったものであるから,上告人は本件相殺をもって管理人である被上告人に対抗することができるというべきである。

(3) 以上によれば,被上告人の請求に係る平成18年7月分から平成19年3月分までの9か月分の賃料債権6300万円は,本件弁済によりその一部が消滅し,その残額3500万円は本件相殺により本件保証金返還残債権と対当額で消滅したことになる。

2.以上と異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人の請求を棄却した第1審判決は結論において正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。

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