平成21年度旧司法試験論文式
民法第1問参考答案

第1.設問1
1.Aの代理権について
(1)ア.代理は委任のような対内的法律関係とはその性質を異にし、また、代理権授与行為が単独行為であるとの特別規定もない以上、代理権は委任とは別個の契約によって発生する。
イ.本問では、Bが甲絵画をCに売却することを認め、委任状を作成してAに交付した時点において、BがCへの甲絵画売却に係る代理権をAに授与したい旨の意思表示とAがこれを承諾する意思表示との合致が認められるから、AB間の代理権授与契約が成立し、Aの代理権が発生する。
(2) もっとも、Bは翌日Aに対して甲絵画の売却をやめたこと及び委任状を破棄すべき旨を告げた(以下「本問告知」という。)。これは委任の解除(民法(以下条数のみ示す。)651条1項)の意思表示と認められるから、委任契約は将来に向かって効力を失う(652条、620条)。委任と代理とは別個の法律関係ではあるが、目的の共通性から、委任契約の終了により、これに伴う代理権も消滅する(111条2項)。
 従って、Aは本問告知以後代理権を失うから、その後にAのした甲絵画の売却は、Aの無権代理行為である。
2.表見代理について
(1) 109条の適用について
ア.同条は、真実は代理権を授与していないのに代理権を授与したかのような表示をした者に対して禁反言の見地から責任を負わせる趣旨であるから、授権表示をした時点で有効な代理権が存在していた場合には、同条は適用されない。その後に代理権が消滅した場合の残存した授権表示に対する信頼の保護は、112条の問題である。
イ.本問で、BがAに委任状を交付した時に代理権授与契約が成立し、Aに有効な代理権が発生した以上、109条は適用されない。
(2) 112条の適用について
ア.同条は、一度有効に存在した代理権はその後も有効に存在するであろうという信頼を保護する趣旨である。従って、同条にいう代理権の消滅とは、一度有効に存在した代理権でなければならず、初めから存在しなかった場合は含まれない。
イ.本問では、Aの代理権は本問告知以前において有効に存在していたから、同条の適用がある。
(3) よって、Cが甲絵画の売買の時点でAの代理権が消滅したことについて善意無過失であったときは、112条により表見代理が成立する。
3.代理権濫用について
 表見代理が成立するとしても、Aは売却代金でバイクを買うつもりであり、濫用の意図がある。
 代理権の濫用は、原則として有効であるが、本人のためにする表示と自己の利益を図る内心とに不一致がある点で心裡留保に類似するから、93条ただし書を類推適用すべきである。表見代理が成立する場合も同様である。
 よって、Cが甲絵画の売買の時にAのバイク購入の意図につき悪意有過失であったときは、甲絵画の売買は無効となる。
4.以上から、上記2の表見代理が成立しないか、又は上記3によって甲絵画の売買が無効となるときは、Bは甲絵画の所有権に基づきCから甲絵画を取り戻すことができる。なお、BCが旧知の仲であること及び過去に何度か絵画の取引があることは、Aの代理権やその行使の意図を推知させるものではないから、上記2及び3におけるCの認識に直接関わりのない事実である。
第2.設問2前段
1.利益相反行為該当性について
(1) 利益相反行為(826条)に該当するかは取引安全の観点から、行為自体を外形的客観的に考察して判断すべきである。
(2) 本問で、A所有の乙自動車をDに売却する行為は、外形的客観的にみて何らBの利益に関わるものではないから、利益相反行為には当たらない。
2.代理権濫用該当性について
(1) 親権者の子の財産権に関する代理権の行使は、利益相反行為に当たらない限り、広範な裁量に委ねられているから、子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に代理権を与えた法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、代理権の濫用とは認められない。
(2) 本問におけるBの株式購入の意図は、株式は有用な資産となりうること、未成年者たるA名義による株式保有は困難な場合があることからすれば、それだけでAの利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的とした等と認めるに足りない。
3.よって、他に上記特段の事情を基礎付ける事実が認められない限り、BのDに対する乙自動車の売却は代理権濫用とは認められないから、AはDから乙自動車を取り戻すことはできない。
第3.設問2後段
1.親権者の代理権のような法定代理権についても、112条の表見代理は成立しうる。なぜなら、一度有効に存在した代理権への信頼保護の趣旨は法定代理にも妥当し、また、同条は本人の帰責性を要件としていないからである。
2.よって、Dが売却当時Bの親権喪失について善意無過失のときは、AはDから乙自動車を取り戻すことができない。

以上

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