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最高裁判所第二小法廷決定平成21年07月07日

【事案】

1.本件第1審判示第3の罪に関する当初の公訴事実の概要は,「被告人は,前後11回にわたり,3名の者に対し,児童ポルノでありわいせつ図画であるDVD−R合計11枚及びわいせつ図画であるDVD−R合計25枚を不特定又は多数の者に販売して提供した。」というものであった。

2.次に,検察官は,1の提供行為を維持したままで,さらに5回の提供行為を追加し,「被告人は,前後16回にわたり,4名の者に対し,児童ポルノでありわいせつ図画であるDVD−R合計21枚及びわいせつ図画であるDVD−R合計67枚を不特定又は多数の者に販売して提供した。」とする訴因変更を請求し,第1審裁判所はこれを許可した。

3.さらに,検察官は,2の提供行為を維持したままで,所持行為を追加し,「被告人は,(ア) 前後16回にわたり,4名の者に対し,児童ポルノでありわいせつ図画であるDVD−R合計21枚及びわいせつ図画であるDVD−R合計67枚を不特定又は多数の者に販売して提供し,(イ) 自宅において,児童ポルノでありわいせつ図画であるDVD−R合計20枚及びわいせつ図画であるDVD−R合計136枚を不特定若しくは多数の者に提供又は販売する目的で所持した。」とする訴因変更を請求し,第1審裁判所は,これを許可した上,最終的にそのとおりの事実を認定した。

(参照条文)児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条

 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3  前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4  児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6  第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

【判旨】

1.児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項にいう児童ポルノを,不特定又は多数の者に提供するとともに,不特定又は多数の者に提供する目的で所持した場合には,児童の権利を擁護しようとする同法の立法趣旨に照らし,同法7条4項の児童ポルノ提供罪と同条5項の同提供目的所持罪とは併合罪の関係にあると解される。しかし,児童ポルノであり,かつ,刑法175条のわいせつ物である物を,他のわいせつ物である物も含め,不特定又は多数の者に販売して提供するとともに,不特定又は多数の者に販売して提供する目的で所持したという本件のような場合においては,わいせつ物販売と同販売目的所持が包括して一罪を構成すると認められるところ,その一部であるわいせつ物販売と児童ポルノ提供,同じくわいせつ物販売目的所持と児童ポルノ提供目的所持は,それぞれ社会的,自然的事象としては同一の行為であって観念的競合の関係に立つから,結局以上の全体が一罪となるものと解することが相当である。所論は,児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪とが本来併合罪の関係にある以上,そのように解するのは相当でない旨いうが,採用できない。

2.したがって,これと同旨の見解の下に第1審の訴因変更手続に違法はないとした原判断は,相当である。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成21年07月09日

【事案】

1.本件は,上告人の従業員らが営業成績を上げる目的で架空の売上げを計上したため有価証券報告書に不実の記載がされ,その後同事実が公表されて上告人の株価が下落したことについて,公表前に上告人の株式を取得した被上告人が,上告人の代表取締役に従業員らの不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があり,その結果被上告人が損害を被ったなどと主張して,上告人に対し,会社法350条に基づき損害賠償を請求する事案である。被上告人は,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)261条3項,78条2項が準用する民法(平成18年法律第50号による改正前のもの)44条1項に基づく請求をするが,会社法の制定により,同法にこれと同内容の規定である350条が設けられ,同法の施行前に生じた事項にも適用されるものとされた(会社法附則2項)ので,同法施行後は同法350条に基づく請求をするものと解される。

2.事実関係の概要

(1) 上告人は,ソフトウェアの開発及び販売等を業とする株式会社であり,平成15年2月に東京証券取引所(以下「東証」という。)第2部に上場した。Aは,上告人設立以降現在まで上告人の代表取締役の地位にある。

(2) 被上告人は,平成16年9月13日及び翌14日,証券会社を通じて上告人の株式を取得した者である。

(3) 上告人の事業は,注文に応じてソフトウェアの受託開発等を行うソフトウェア事業と大学向けの事務ソフト等の既製品を開発し販売するパッケージ事業に大別され,パッケージ事業本部にはC事業部が設置されている。

(4) Bは,平成12年4月に上告人のC事業部の部長に就任した。当時,C事業部には,Bが部長を兼務する営業部のほか,注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課(ビジネスマネージメント課)及び事務ソフトの稼働の確認を担当するCR部(カスタマーリレーション部)が設置されていた。また,当時の上告人の職務分掌規定によれば,財務部の分掌業務は,資金の調達と運用・管理,債権債務の管理等とされ,C事業部の分掌業務は,営業活動,営業事務(受注管理事務,債権管理事務,売掛金の管理及び不良債権に対する処理方針の決定を含む。)等とされていた。

(5) 上告人のパッケージ事業は,上告人が,顧客であるD株式会社ほか1社(以下,2社を単に「販売会社」という。)に事務ソフト等の製品を販売し,販売会社がエンドユーザーである大学等に更にこれを販売するというものである。平成12年当時のパッケージ事業における事務手続(以下「本件事務手続」という。)の流れは,以下のとおりであった。

ア.C事業部の営業担当者が販売会社と交渉し,合意に至ると販売会社が注文書を営業担当者に交付する。営業担当者は,注文書をBM課に送付し,同課は受注処理を行った上,営業担当者を通じて販売会社に検収を依頼する。

イ.CR部の担当者が,販売会社の担当者及びエンドユーザーである大学の関係者と共に,納品された事務ソフトの検収を行う。

ウ.BM課は,販売会社から検収書を受領した上,売上処理を行い,上告人の財務部に売上報告をする。財務部は,BM課から受領した注文書,検収書等を確認し,これを売上げとして計上する。

(6) Bは,高い業績を達成し続けて自らの立場を維持するため,平成12年9月以降,C事業部の営業担当者である部下数名(以下「営業社員ら」という。)に対し,後日正規の注文が獲得できる可能性の高い取引案件について,正式な注文がない段階で注文書を偽造するなどして実際に注文があったかのように装い,売上げとして架空計上する扱い(以下「本件不正行為」という。)をするよう指示した。
 Bの指示を受けて行われた本件不正行為の手法は,次のとおりであった。

ア.営業社員らは,偽造印を用いて販売会社名義の注文書を偽造し,BM課に送付した。

イ.BM課では,偽造に気付かず受注処理を行って検収依頼書を作成し,営業社員らに交付した。しかし,検収依頼書は販売会社に渡ることはなく,営業社員らによって検収済みとされたように偽造され,BM課に返送された。実際には大学に対して製品は納品されておらず,CR部担当者によるシステムの稼働の確認もされていなかったが,B及び営業社員ら(以下「Bら」という。)は,納品及び稼働確認がされているかのような資料を作成した。

ウ.BM課では,検収書の偽造に気付かず売上処理を行い,財務部に売上げの報告をした。財務部は,偽造された注文書及び検収書に基づき売上げを計上した。

エ.財務部は,毎年9月の中間期末時点で,売掛金残高確認書の用紙を販売会社に郵送し,確認の上返送するよう求めていた。また,毎年3月の期末時点には,上告人との間で監査契約を締結していた監査法人も,売掛金残高確認書の用紙を販売会社に郵送し,確認の上返送するよう求めていた。ところが,営業社員らは,Bの指示を受けて,販売会社の担当者に対し,上告人等から封書が郵送される可能性があるが,送付ミスであるから引き取りにいくまで開封せずに持っていてほしいなどと申し向け,これを販売会社から回収した上,用紙に金額等を記入し,販売会社の偽造印を押捺するなどして販売会社が売掛金の残高を確認したかのように偽装し,財務部又は監査法人に送付していた。財務部及び監査法人は,偽造された売掛金残高確認書において上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致していたため,架空売上げによる債権を正常債権と認識していた。

(7) Bらは,当初は契約に至る可能性が高い案件のみを本件不正行為の対象としていたが,次第に可能性が低い案件についても手を付けざるを得なくなり,売掛金の滞留残高は増大していった。

(8) 財務部は,回収予定日を過ぎた債権につき,C事業部から売掛金滞留残高報告書を提出させていたが,Bらは,回収遅延の理由として,大学においてシステム全体の稼働が延期されたことや,大学における予算獲得の失敗及び大学は単年度予算主義であるため支払が期末に集中する傾向が強いことなどを挙げていた。財務部は,これらの理由が合理的であると考え,また,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,売掛金残高確認書も受領していると認識していたことから,売掛金債権の存在について特に疑念を抱かず,直接販売会社に照会等をすることはしなかった。また,監査法人も,平成16年3月期までの上告人の財務諸表等につき適正であるとの意見を表明していた。

(9) 上告人は,監査法人から売掛金残高の早期回収に向けた経営努力が必要である旨の指摘を受け,代表取締役であるAが販売会社と売掛金残高について話をしたところ,双方の認識に相違があることが明らかになり,平成16年12月ころ,本件不正行為が発覚した。

(10) 上告人は,平成17年2月3日付けでBを懲戒解雇処分とし,その後刑事告発した。Bは,有印私文書偽造・同行使の罪で起訴され,有罪判決を受けた。

(11) 上告人は,平成17年2月10日,複数年度にわたりBらによる本件不正行為が行われていたこと,それにより同16年9月ころまでの上告人のパッケージ事業の売上高に影響が生ずること,そのためパッケージ事業については多額の損失計上を余儀なくされるが,上告人グループの売上高の約80%を占めるソフトウェア事業については影響はないことなどを公表し,同17年3月期の業績予想を修正した。東証は,上告人から過去の有価証券報告書を訂正する旨の報告を受け,同年2月10日,上場廃止基準(財務諸表に虚偽記載があること)に抵触するおそれがあるとして,上告人の株式を監理ポストに割り当てることとした。これらの事実が新聞報道された後,上告人の株価は大幅に下落した。

3.原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。

(1) 本件不正行為当時,C事業部は幅広い業務を分掌し,BM課及びCR部が同事業部に直属しているなど,上告人の組織体制及び本件事務手続にはBらが企図すれば容易に本件不正行為を行い得るリスクが内在していたにもかかわらず,上告人の代表取締役であるAは,上記リスクが現実化する可能性を予見せず,組織体制や本件事務手続を改変するなどの対策を講じなかった。また,財務部は,長期間未回収となっている売掛金債権について,販売会社に直接売掛金債権の存在や遅延理由を確認すべきであったのにこれを怠り,本件不正行為の発覚の遅れを招いたもので,このことは,Aが財務部によるリスク管理体制を機能させていなかったことを意味する。したがって,Aには,上告人の代表取締役として適切なリスク管理体制を構築すべき義務を怠った過失がある。

(2) 上告人の代表取締役であるAの上記過失による不法行為は,上告人の職務を行うについてされたものであるから,上告人は,会社法350条に基づき,被上告人に生じた損害を賠償すべき責任を負う。

【判旨】

 原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件不正行為当時,上告人は,@職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離し,AC事業部について,営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設置し,それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え,B監査法人との間で監査契約を締結し,当該監査法人及び上告人の財務部が,それぞれ定期的に,販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し,その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたというのであるから,上告人は,通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたものということができる。そして,本件不正行為は,C事業部の部長がその部下である営業担当者数名と共謀して,販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し,BM課の担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせたというもので,営業社員らが言葉巧みに販売会社の担当者を欺いて,監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し,金額を記入して偽造印を押捺した同用紙を監査法人又は財務部に送付し,見掛け上は上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという,通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる。
 また,本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど,上告人の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない。
 さらに,売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的なもので,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,監査法人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから,財務部が,Bらによる巧妙な偽装工作の結果,販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し,直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても,財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。
 以上によれば,上告人の代表取締役であるAに,Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年07月10日

【事案】

1.被上告人が,貸金業者である上告人に対し,上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生しており,かつ,上告人は過払金の取得が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき過払金及び民法704条前段所定の利息(以下「法定利息」という。)の支払等を求める事案。

2.事実関係の概要等

(1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。

(2) 上告人は,被上告人に対し,平成8年8月7日から平成15年9月4日までの間に12回にわたって金員を貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
 本件各貸付けにおいては,@ 元本及び利息制限法1条1項所定の制限を超える利率の利息を指定された回数に応じて毎月同額を分割して返済する方法(いわゆる元利均等分割返済方式)によって返済する,A 被上告人は,約定の分割金の支払を1回でも怠ったときには,当然に期限の利益を失い,上告人に対して直ちに債務の全額を支払う(以下「本件特約」という。)との約定が付されていた。

(3) 被上告人は,本件各貸付けに係る債務の弁済として,平成8年9月2日から平成16年11月1日までの間,上告人に金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。

3.原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断した上,制限超過部分が貸付金の元本に充当されることにより発生した過払金及びこれに対する法定利息がその後の貸付けに係る借入金債務に充当され,その結果,最終の弁済日である平成16年11月1日の時点で,過払金51万4749円及び法定利息1万3037円が存するとして,以上の合計52万7786円及び上記過払金51万4749円に対する同月2日から支払済みまでの法定利息の支払を求める限度で,被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を認容した。

(1) 最高裁平成16年(受)第1518号同18年1月13日第二小法廷判決・民集60巻1号1頁(以下「平成18年判決」という。)は,債務者が利息制限法1条1項所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約(以下「期限の利益喪失特約」という。)の下で制限超過部分を支払った場合,その支払は原則として貸金業法43条1項(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない旨判示している。また,最高裁平成17年(受)第1970号同19年7月13日第二小法廷判決・民集61巻5号1980頁(以下「平成19年判決」という。)は,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情(以下「平成19年判決の判示する特段の事情」という。)があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される旨判示している。

(2)ア.本件各弁済は,期限の利益喪失特約である本件特約の下でされたものであって,平成18年判決によれば,いずれも貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないから,同項の規定の適用要件を欠き,制限超過部分の支払は有効な利息債務の弁済とはみなされない。

イ.そして,平成18年判決は,それまで下級審において判断が分かれていた期限の利益喪失特約の下での制限超過部分の支払の任意性について最高裁判所として示した初めての判断であって,その言渡し以前において,上記支払が任意性を欠くものではないとの解釈が最高裁判所の判例により裏付けられていたわけではないから,上告人が本件特約の下で本件各弁済に係る制限超過部分の支払を受領したことについて,平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,上告人は過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であると認められる。

【判旨】

1.原審の上記3(2)のアの判断は是認することができるが,同イの判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 平成18年判決及び平成19年判決の内容は原審の判示するとおりであるが,平成18年判決が言い渡されるまでは,平成18年判決が示した期限の利益喪失特約の下での制限超過部分の支払(以下「期限の利益喪失特約下の支払」という。)は原則として貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできないとの見解を採用した最高裁判所の判例はなく,下級審の裁判例や学説においては,このような見解を採用するものは少数であり,大多数が,期限の利益喪失特約下の支払というだけではその支払の任意性を否定することはできないとの見解に立って,同項の規定の適用要件の解釈を行っていたことは,公知の事実である。平成18年判決と同旨の判断を示した最高裁平成16年(受)第424号同18年1月24日第三小法廷判決・裁判集民事219号243頁においても,上記大多数の見解と同旨の個別意見が付されている。
 そうすると,上記事情の下では,平成18年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において,期限の利益喪失特約下の支払であることから直ちに同項の適用が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないというべきであり,貸金業者が上記認識を有していたことについては,平成19年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。したがって,平成18年判決の言渡し日以前の期限の利益喪失特約下の支払については,これを受領したことのみを理由として当該貸金業者を悪意の受益者であると推定することはできない。

(2) これを本件についてみると,平成18年判決の言渡し日以前の被上告人の制限超過部分の支払については,期限の利益喪失特約下の支払であるため,支払の任意性の点で貸金業法43条1項の適用要件を欠き,有効な利息債務の弁済とはみなされないことになるが,上告人がこれを受領しても,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけでは悪意の受益者とは認められないのであるから,制限超過部分の支払について,それ以外の同項の適用要件の充足の有無,充足しない適用要件がある場合は,その適用要件との関係で上告人が悪意の受益者であると推定されるか否か等について検討しなければ,上告人が悪意の受益者であるか否かの判断ができないものというべきである。しかるに,原審は,上記のような検討をすることなく,期限の利益喪失特約下の支払の受領というだけで平成18年判決の言渡し日以前の被上告人の支払について上告人を悪意の受益者と認めたものであるから,原審のこの判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成21年07月13日

【事案】

1.被告人は,交通違反等の取締りに当たる捜査車両の車種やナンバーを把握するため,大阪府八尾市所在の大阪府八尾警察署東側塀(以下「本件塀」という。)の上によじ上り,塀の上部に立って,同警察署の中庭を見ていたところ,これを現認した警察官に現行犯逮捕された。

2.大阪府八尾警察署は,敷地の南西側にL字型の庁舎建物が,敷地の東側と北側に塀が設置され,それらの塀と庁舎建物により囲まれた中庭は,関係車両の出入りなどに利用され,車庫等が設置されている。同警察署への出入口は複数あるが,南側の庁舎正面出入口以外は施錠などにより外部からの立入りが制限されており,正面出入口からの入庁者についても,執務時間中職員が受付業務に従事しているほか,入庁者の動静を注視する態勢が執られ,庁舎建物から中庭への出入りを制限する掲示がある。
 本件塀は,高さ約2.4m,幅約22pのコンクリート製で,本件庁舎建物及び中庭への外部からの交通を制限し,みだりに立入りすることを禁止するために設置されており,塀の外側から内部をのぞき見ることもできない構造となっている。

【判旨】

 本件塀は,本件庁舎建物とその敷地を他から明確に画するとともに,外部からの干渉を排除する作用を果たしており,正に本件庁舎建物の利用のために供されている工作物であって,刑法130条にいう「建造物」の一部を構成するものとして,建造物侵入罪の客体に当たると解するのが相当であり,外部から見ることのできない敷地に駐車された捜査車両を確認する目的で本件塀の上部へ上がった行為について,建造物侵入罪の成立を認めた原判断は正当である。

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