平成21年度旧司法試験論文式の結果について(1)

予想外の結果

10月9日、法務省から平成21年度旧司法試験論文式の結果が公表された。
合格者数は101人。
合格点は、126.50点だった。
合格率は、論文受験者ベースで101÷1546≒6.53%。
択一受験者ベースで101÷15218≒0.66%だった。
択一受験者のうち、合格したのはおよそ151人に1人の割合ということになる。

合格率が相当に低いことは、誰もが予想できていた。
しかし、この結果は2つの意味で予想外である。

目安通りだった

以下は、平成18年以降の合格者数の目安と、実際の合格者数の推移である。

 

目安

実際の合格者数

18

500〜600

542

19

300

250

20

200

141

21

100

101

平成19年度以降は、合格者数の目安を大幅に下回っていた。
しかも、平成21年度新試験の結果も、目安を大幅に下回っていた。
そのため、平成21年度旧試験についても、どうせ目安には届かないだろう。
誰もがそう思っていた。
それが、101人。
目安にほぼピタリと合わせてきた。
これまで裏切られ続けてきただけに、目安通りであることは逆に意外である。

合格点が132点を下回った

最初に合格者数101人と聞いたとき、ああ、合格点が132点を超えたのか。
そう思った。
すなわち、これまで目安通り合格させなかった理由。
それは、一応の水準の中間値である132点をクリアした者が目安に満たなかったことにある。
昨年度の記事では、そのような分析をした。

(昨年度の記事より引用)

旧司法試験において、論文の点数は、以下のように算定される。

司法試験第二次試験の合否判定等に関する情報より引用)

 ○  合否判定方法・基準
  (1)  6科目の得点の合計点をもって合否の決定を行う。
  (2)  1科目の得点は,1,2問の平均点とする。

(引用終わり)

そうすると、(1)から、合格点の132.00点とは、1科目あたりにすると22点(132÷6=22)である。
そして、(2)から、各科目の1問と2問の平均が22点であれば、その科目全体の点数も22点となる。
結局、1通の答案の評価が平均で22点である場合、全体の点数が132点となる。

この、22点という点数は、どの程度の水準なのだろうか。
答案の採点方針では、以下のようになっている。

司法試験第二次試験の合否判定等に関する情報より引用)

○  採点方針
  1  1問の採点は,40点満点とし,白紙答案は0点とする。
  2  各答案の採点は次の方針により行う。
   (1)  優秀と認められる答案については,その内容に応じ30点から40点。
 ただし,その上限はおおむね35点程度とし,抜群に優れた答案については更に若干の加点を行えるものとする。
   (2)  良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ25点から29点。
   (3)  一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ20点から24点。
   (4)  上記以外の答案については,その内容に応じ19点以下。
 ただし,特に不良であると認められる答案については,9点以下。

(引用終わり)

22点とは、一応の水準(20〜24)の中間値((20+24÷2=22)である。
すなわち、一応の水準の中間値の答案をそろえると、全体として132点となる。
この、一応の水準の中間値は、法曹の質との関係で、意味のある数字である。
これを下回る受験生は、一応の水準にすら達していない、といいうるからである。

このことから、司法試験委員会は132点を絶対的な最低合格ラインとして設定したのではないかと考えられる。
すなわち、この点を切る受験生は、合格者数の目安に関係なく絶対に受からせない。
昨年度と今年度の結果は、その現われとみることができる。

(引用終わり)

そうだとすると、目安通りの点数になる場合、132点をクリアしたはずだ。
従って、合格点は132点より高い点数になるだろう。
そう思ったのである。

しかし、現実には、合格点は126.50点だった。
予想外の低さである。
単に132点を下回ったというだけではない。
下げ幅が大きすぎる。
以下は、平成16年以降の旧司法試験論文式の合格点の推移である。

 

合格点

前年度比

16

136.50

---

17

132.75

−3.75

18

133.75

+1.00

19

132.00

−1.75

20

132.00

±0

21

126.50

−5.50

今年度の合格点の落ち込みが非常に大きいことが分かる。
旧司法試験の論文における1点は、極めて重い。
5点以上も合格点が下がるというのは、尋常なことではない。

司法試験委員会は、既に2度も目安を下回る合格者数を設定してきた。
今更、無理をして目安に合わせる理由はなさそうに思える。
にもかかわらずなぜ、ここまで合格点を下げて目安に合わせたのだろうか。

132点で切ることは可能だった

まず考えられることは、132点で切るとほとんど合格者が出なくなる、ということだ。
そのために、やむを得ず合格点を下げざるを得なかった、という可能性である。

では、仮に132点で切ったとすると、合格者数は何人くらいになったのだろうか。
これは、それなりの精度で推計することが可能である。

以下は、旧司法試験の得点調整の算式である。

司法試験第二次試験の合否判定等に関する情報より引用)

例:A委員が採点した甲受験者の答案の採点調整の仕方

算式= (A委員が採点した甲の得点(素点)−A委員が採点した答案全体の平均点) ×4+全科目の全答案の平均点

A委員が採点した答案全体の標準偏差

(引用終わり)

上記のうち、分数で表されている部分の処理は、統計学でいう標準化である。
標準化によって、分数部分の平均値は0、標準偏差は1となる。
そこで、この部分の近似値として、標準正規分布を用いる。
その場合、上記算式は、全体として標準偏差4、平均が全科目の全答案の平均点となる正規分布に従う。
そうすると、そのうちの一部の数字が分かれば、全体の数字を推計できる。

今回の結果から、論文合格者1546人中の101位に当たる点数が126.50であることがわかる。
これは1科目あたりにすると、21.083である。
また、101÷1546≒0.0653である。
そこで、上から0.0653。
すなわち、下から0.9347に対応する標準正規分布の値を調べる。
これは標準正規分布表で調べることができ、1.51である。
そうすると、上記算式にこれを代入すると、

21.083=1.51×4+全科目の全答案の平均点

これを計算すると、

全科目の全答案の平均点=15.043

すなわち、今年度の1科目あたりの平均点は、およそ15点だったと推計できる。
これを利用して、132点が全体の受験生の上位何割であるかを求める。
132点とは、1科目あたり22点である。
そこで、上記算式にこれを代入すると、

22= (A委員が採点した甲の得点(素点)−A委員が採点した答案全体の平均点) ×4+15.043

A委員が採点した答案全体の標準偏差


これを計算すると、
(A委員が採点した甲の得点(素点)−A委員が採点した答案全体の平均点) 1.73

A委員が採点した答案全体の標準偏差

そこで、1.73に対応する位置を調べる。
標準正規分布表から、これは下から0.9582、上から0.0418となる。
すなわち、上位4.18%が合格ということになる。
全体の受験者総数は1546人であるから、

1546×0.0418≒64.62

すなわち、132点で切った場合、合格者は64人と推計できる。
この数字は予想されていた70人に近い。
昨年度は200人が目安で141人だった。
それならば、100人の目安で64人でも、さほど不自然ではない。
以上から、132点だと合格者があまりに少なくなるからという理由。
これには、あまり説得力がない。

戻る