最新下級審裁判例

福岡高裁判決平成20年11月27日

【事案】

 被控訴人が,その実母であるAの死亡により相続した財産にかかる相続税として,課税価格1億2171万1000円,納付すべき税額1273万8700円と申告していたところ,Aが生前提訴し,被控訴人がその地位を承継していた所得税更正処分等取消請求事件について,取消判決が確定したことから,過納金が被控訴人に還付され,これを控訴人がAの相続財産と認定して,その相続税につき,課税価格1億4963万円,納付すべき税額2096万9400円とする更正処分を行ったことに対し,被控訴人が,上記過納金の還付請求権は相続開始後に発生した権利であるから相続財産を構成しないと主張して,その処分の取消しを求めた事案。

【判旨】

1.相続税法は,相続税の課税財産の範囲を「相続又は遺贈により取得した財産の全部」(2条1項)と定めており,相続税法上の「財産」とは,金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいい(相続税法基本通達11の2−1),物権,債権,債務のような現実の権利義務に限らず,財産法上の法的地位も含まれる。
 また,相続税の納税義務の成立時点は,「相続又は遺贈による財産の取得の時」(国税通則法15条2項4号)であるところ,相続人は相続開始の時から被相続人の財産を包括承継するものであり(民法896条),かつ,相続は死亡によって開始する(民法882条)から,納税義務の成立時点は,原則として,相続開始時すなわち被相続人死亡時である。

2.本件過納金の原資はAが拠出した納付金である。Aが生前別件所得税更正処分取消訴訟を提起し,Aの死亡後,被控訴人がその訴訟上の地位を相続により承継したところ,別件所得税更正処分の取消判決が確定し,本件過納金が被控訴人に還付されたものである。
 取消訴訟の確定判決によって取り消された行政処分の効果は,特段の規定のない限り,遡及して否定され,当該行政処分は,当初からなかった状態が回復される。この取消訴訟の原状回復機能はすべての取消訴訟に共通する最も重要な機能である。また,取消しの遡及効(民法121条)の原則とも整合する。被控訴人は,原状回復は取消判決の拘束力によって生ずるものであり,形成力によるものではないとして,取消判決の遡及効を否定するが,異説であって採用できない。
 したがって,別件所得税更正処分も,同処分の取消判決が確定したことによって,当初からなかったことになるため,判決により取り消された範囲においてAが納めた税金が還付され(国税通則法56条),Aが納税した日を基準時として計算した日数に応じて法定の利率を乗じた還付加算金が支払われるのである(同法58条1項)。これは,訴訟係属中に相続があった場合でも変わりはない。すなわち,別件所得税更正処分の取消判決が確定したことにより,Aが別件所得税更正処分に従い納税した日に遡って本件過納金の還付請求権が発生していたことになる。別件所得税更正処分の取消判決の遡及効を制限する特段の規定も存在しない。
 ちなみに,国税通則法74条1項は,還付金等に係る国に対する請求権の消滅時効の起算日を「その請求をすることができる日」と定めており,本件については,当該日は別件所得税更正処分の取消判決の確定日となり,本件過納金を納入した日と異なるが,これは行政処分の公定力の効果によるものであって,前記判断と何ら矛盾するものではない。

3.以上のとおり,本件過納金の還付請求権は,Aの死亡時にAの有していた財産に該当し,相続税の対象となるから,本件更正処分は相当であり,取り消す理由はない。

 

大阪地裁判決平成21年03月25日

【事案】

 原告らが,被告(なお,以下では,被告の公務員を含めて「被告」ということがある。)が設置管理する都市公園であるa公園又はb公園において,テント・小屋掛けその他の工作物(以下「本件テント等」という。)を設置してこれらを起居の場所などとして利用していたところ,被告が,各原告に対し,都市公園法27条1項に基づく監督処分として上記各工作物の除却を命じ(以下「本件除却命令」という。),引き続き,行政代執行法2条に基づく行政代執行を行ったため(以下「本件代執行」といい,本件除却命令と併せて以下「本件各処分」という。),原告らが,本件各処分はいずれも違法であるなどと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,原告ら各自に対する損害金各110万円及びこれに対する本件代執行の日である平成18年1月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。

【判旨】

1.本件除却命令の都市公園法上の適法要件該当性

 都市公園法6条1項は,都市公園に公園施設以外の工作物その他の物件又は施設を設けて都市公園を占用しようとするときは,公園管理者の許可を受けなければならない旨規定しているところ,原告らは,都市公園である本件各公園内に,これらの管理者である被告から同項に規定する許可を受けることなく本件テント等を設置しているというのであり,本件テント等が同法2条2項各号に定める公園施設のいずれにも該当しないことは明らかであるから,上記のような原告らによる本件テント等の設置は,都市公園法に違反するものであるというほかない。しかるところ,同法27条1項は,公園管理者は,同法に違反している者に対して,都市公園に存する工作物その他の物件又は施設の除却を命ずることができる旨規定しているのであるから,本件各公園の管理者である被告(大阪市長)は,原告らに対し,本件テント等の除却を命じることができるものというべきである。

2.本件代執行の行政代執行法上の適法要件該当性

(1) 行政代執行法2条は,法律により直接に命ぜられ,又は法律に基づき行政庁により命ぜられた行為(他人が代わってなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合,他の手段によってその履行を確保することが困難であり,かつその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは,当該行政庁は,自ら義務者のなすべき行為をなし,又は第三者をしてこれをなさしめ,その費用を義務者から徴収することができる旨規定しており,これによれば,法律により直接又は法律に基づき行政庁により課せられた行政上の義務について,当該義務が任意に履行されない場合に行政代執行によってその履行を確保するためには,@ 当該義務が,他人が代わってなすことができるものであること(代替的作為義務であること),A 行政代執行以外の手段によってその履行を確保することが困難であること,及び,B その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められること,以上の3要件を具備する必要があることになる。

(2) 原告らは,上記@に関し,本件テント等の除却と本件各公園の明渡しとは等価であって,原告らの占有の喪失は本件代執行の事実上の効果にすぎないなどということはできないから,本件代執行は,本件各公園の明渡しという本来明渡訴訟により実現すべき与える債務を強制的に実現するものであり,上記@の要件を満たさず,行政代執行法に違反し違法であると主張する。
 しかしながら,前記のとおり,本件除却命令は,各原告に対し,同人らが本件各公園内に設置する物件(本件テント等)を除却する義務を賦課することをその法的効果とする処分にすぎず,それを超えて,本件各公園の敷地である土地の明渡しを命じる趣旨までもを含むものではないと解され,本件除却命令に係る除却命令書の記載からも,このような趣旨を読み取ることはできない。そして,本件除却命令によって賦課される上記義務(本件テント等を除却する義務)自体は,他人が代わってなすことができるものであること(代替的作為義務であること)は明らかである。
 この点,原告らは,本件テント等の設置と原告らによる本件テント等設置に係る区画の敷地である土地の占有とは不可分一体であるから,本件テント等の除却には本件テント等設置に係る区画の敷地である土地の占有の解除が必然的に伴い,これらを分離することはできず,本件代執行は非代替的作為義務につきされたものであると主張し,証人Uも同様の証言をしている。
 確かに,原告らが本件各公園内に設置した本件テント等は,人の居住空間を提供するに足りる設備及び構造を有するものと推認され,原告らは,本件テント等を単にその起居の場所として利用するにとどまらずその生活の拠点として利用していた事実が認められるのであって,本件テント等の構造,設置の目的,態様及び利用形態等からすれば,原告らは,本件テント等の設置場所ないしその周辺場所を事実上その排他的支配下に置いていたということができる。
 しかしながら,前記のとおり,本件除却命令は,あくまでも工作物その他の物件又は施設としての本件テント等の除却義務をその原告らに課すものにすぎず,本件テント等の除却によって本件テント等の設置場所ないしその周辺場所に対する原告らの事実上の排他的支配状態が失われることとなるとしても,それは,本件テント等の除却によって生じる事実上の効果にすぎないのであって,これをもって本件テント等の除却命令の法的効果の実現であるということはできない。のみならず,工作物その他の物件又は施設の設置によって当該物件又は施設の設置場所ないしその周辺場所が事実上その設置者等の排他的支配下に置かれることも少なくないと考えられるところ,そのような場合に当該物件又は施設の除却によって当該場所に対する設置者等の事実上の排他的支配状態の消滅という当該施設等の引渡しないし明渡しと同等の事実上の効果が生じてしまうことを理由に当該除却命令の代執行が許されないとすると,行政代執行法の適用場面が相当程度限定されたものとなって,行政上の義務の履行確保を原則として行政代執行法による代執行に限定した(1条)同法の趣旨が没却されるものというべきであり,原告らの援用する同法の沿革にかんがみても,そのような限定解釈をすべき特段の理由は見いだせない。したがって,原告らの上記主張は採用することはできない。
 また,原告らは,被告が本件代執行に際して多数の被告職員及び民間警備会社の警備員を動員するなど大規模な人的体制を準備していたことなど,本件代執行の態様を客観的に見れば,原告らを排除する強制立ち退きにほかならないなどと主張する。
 確かに,前記のとおり,都市公園法27条1項に基づく工作物その他の物件又は施設の除却命令の行政代執行法による代執行は,あくまでも,当該物件又は施設の除却を目的とする手続であって,当該物件又は施設の設置者等を当該都市公園から強制的に排除することを目的とした手続でないことはいうまでもない。
 しかしながら,行政代執行は,他の手段によっては履行を確保することが困難な行政上の義務について,その履行を確保するために,法律によって特別に行政庁に認められた手段なのであり,このような行政代執行法の趣旨からすると,行政代執行に際してその義務者等がこれに抵抗するような場合には,行政庁は,行政代執行の目的を円滑かつ確実に実現するために必要最小限度の範囲において実力を行使することも,行政代執行に付随する措置として許容されるものと解される。すなわち,行政代執行は,行政庁が自ら強制的に行政上の義務の履行を確保するための手段として実定法(行政代執行法)が規定する手続であり,このような手続の性格に加えて,実定法上行政代執行が行政上の義務履行確保のための原則的な手段とされた上,他の手段によっては履行を確保することが困難な場合であることがその要件として規定されていることをも併せ考えると,その根拠法令である行政代執行法は,民事執行法6条のような明文の規定を待つまでもなく,代執行に際し抵抗を受けるときは,代執行の目的を円滑かつ確実に実現するために必要最小限度の範囲内で,自ら威力を用い,又は警察官の援助を求めるなどして,実力行使に及ぶことを許容する趣旨のものと解される。そうであるところ,b公園については,本件代執行が行われる前年(平成17年)10月ころ以降,公園事務所職員において同公園内にテント等を設置して野宿生活をしている者らに対して同テント等の撤去に向けた説得等の働きかけを強める過程で,自治会を中心として,支援者らを含む20人ないし30人規模の集団が罵声を挙げて威圧するなどといった態様の抗議行動が複数回にわたり行われるなどしていた上,本件代執行の開始のころにはb公園原告らのほかに100名を超える支援者らが園内に入り込んでいたというのであるから,本件代執行の開始に先立ってこれらの支援者らによる激しい抵抗が相応の根拠をもって予想される具体的状況が存したということができる。そして,実際にも,本件代執行の開始に先立って,公園の出入り口にフェンスを設置する作業に当たっていた被告職員がb公園原告らの一人から鎖で殴打されて負傷するという事件が発生したほか,本件代執行の過程にあっては,上記のとおり公園内に入り込んだ多数の支援者らが,本件テント等に居座り,あるいは,周囲から本件代執行に対する抗議を行い,被告職員らによってフェンス外に移動させられても再度園内に入り込み,中心となっていたテントに集結しスクラムを組むなどして激しく抵抗を続け,そのため,作業が一時膠着状態となり,被告において,当初の配置(職員195人,警備員250人,運搬作業員60人。そのうち,排除班として職員40人,警備員80人)に加えて,a公園の本件代執行を終えた職員らを応援に加え,外部に移動させた者の再流入を防ぐためフェンス出入り口付近の配置を強化するなどの対応をした上,被告職員や警備員においてテント等に居座る者らをフェンス外に移動させるなどその抵抗を排除して作業を進めた結果,作業開始から約6時間40分後にようやく本件代執行手続を終えることができたというのである。
 上記認定の本件代執行に至る経過並びに本件代執行に対する妨害行為の内容,程度及び態様にかんがみると,被告において,本件代執行に先立って,b公園を供用休止とした上,上記のような多数の人員を動員,配置し,本件代執行の過程において,b公園原告らの一部を含む,本件テント等の内部などに居座るなどして抵抗を続ける者を被告職員や警備員らにより実力でもって公園外に移動させ,その者らが公園内へ再度入り込むことを阻止するなどして,その抵抗を排除したことは,具体的状況の下において本件代執行の目的を円滑かつ確実に実現するために必要な実力行使として,その限りにおいて行政代執行法の許容するところというべきであり,その結果として,b公園原告らのうちの一部の者が被告により本件テント等の設置場所ないしその周辺場所を越えて公園外に強制的に排除されることとなったとしても,これをもって直ちに本件代執行が原告らを本件テント等の設置された公園から排除することを目的として行われたものと評価することはできない。そして,被告においては,本件代執行に先立ち当日のタイムスケジュールが作成されてあらかじめ職員等の業務内容が定められており,同タイムスケジュール等においては,本件代執行に際して本件テント等に居座るなどして抵抗する者がいる場合には任意の移動を複数回にわたって促し,それでも居座る場合には被告職員が主体となって抵抗する者を実力で安全な区域に強制移動させること,暴力をふるわれた場合であっても決して報復行為をしないこと,抵抗する者が女性である場合には女性の職員と警備員が対応すること等が定められていた事実が認められるのであって,本件代執行に当たってこれとは異なる態様で原告らの抵抗の排除等が行われたことを認めるに足りる証拠もないから,本件代執行は,上記タイムスケジュール等において定められた方法に従って実施されたものと推認される。以上のような本件代執行における被告の実力行使の態様及び程度等に照らせば,本件代執行に際して被告が用いた実力は,本件除却命令に基づく義務の履行として本件テント等を除却するという行政代執行の目的を円滑かつ確実に実現するために必要最小限度の範囲内のものであったということができる。
 以上のとおりであるから,本件各公園における本件代執行は,前記@の要件を満たすものというべきであり,原告の前記主張を採用することはできない。

(3) 原告らは,前記Aの要件に関し,被告が居宅保護について正確かつ具体的な教示を行い適切な代替住居を確保すれば原告らはスムーズに本件各公園からアパート生活に移行できたはずであり,また,本件テント等が工事の支障になるのであれば,本件テント等の一時的な移動で足りたことからすると,他の手段によってその履行を確保することが困難であるとはいえないと主張する。
 しかしながら,被告は,原告らに対し,自立支援センター等への入所を促し,あるいは高齢又は病弱な者に対しては生活保護に関して区役所の窓口等への取り次ぎをするなどしながら,本件テント等の任意の撤去を求め続け,平成17年10月以降も「工事のお知らせ」等の文書を複数回にわたり交付して撤去を求めたが,原告らはこれに応じることはなかったのみならず,支援者らを含む20人ないし30人程度の集団で公園事務所に押しかけて罵声を挙げて威圧するなどの抗議行動を行ったり,公園事務所職員らの個別訪問による説得活動を脅迫的言辞をもって妨害するなどの行為に及んだというのであるから,本件除却命令によって各原告が賦課された本件テント等の除却義務については,その任意の履行を期し難い状況にあったということができ,行政代執行を除いては,他に本件除却命令によって原告らに賦課した義務の履行を確保する方途はなかったというべきである。したがって,本件は,「他の手段によってその履行を確保することが困難である」場合に該当するというべきである。
 また,前記のとおり,原告らが本件各公園内に設置等した本件テント等は,人の居住空間を提供するに足りる設備及び構造を有するものと推認され,原告らは,本件テント等を単にその起居の場所として利用するにとどまらずその生活の拠点として利用していた事実が認められるところ,そのような工作物等は,都市公園法2条2項各号に掲げる施設に該当しないことはもとより,同法7条各号又は都市公園法施行令12条各号に掲げる物件又は施設にも大阪市公園条例(昭和52年大阪市条例第29号)8条の2の物件又は施設のいずれにも該当しないことが明らかであるから,およそ都市公園内に設置することが法令上許されないものというべきである。
 そうであるとすれば,本件テント等を一時的に移動することにより予定された工事を施行することが可能であったとしても,そのことが,行政代執行法2条にいう「他の手段」に該当する余地はないというべきである。
 以上のとおりであるから,原告らの上記主張は採用することができない。

(4) 原告らは,前記Bの要件に関し,同要件の有無を判断するためには,行政代執行により得られる利益と失われる利益とを比較衡量すべきところ,本件においては前者は本件各公園の景観や市民の安心といったいずれも故ないものである一方,後者は原告らの生活の場であり命であって,後者の方がはるかに大きいから,本件代執行は上記要件を満たさない旨主張する。
 行政代執行法2条にいう「不履行を放置することが著しく公益に反する」という要件の認定については,事柄の性質上,当該行政庁の裁量にゆだねられていると解される。
 そこで,本件除却命令に基づく義務の不履行を放置することが著しく公益に反するとした被告(大阪市長)の認定判断がその裁量権を逸脱し又はこれを濫用したものといえるか否かについて検討するに,都市公園法は,1条において,都市公園の設置及び管理に関する基準等を定めて,都市公園の健全な発達を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とする旨規定し,2条1項において,都市公園とは,同項1号又は2号に掲げる公園又は緑地で,その設置者である地方公共団体又は国が当該公園又は緑地に設ける公園施設を含むものとする旨規定し,同条2項において,都市公園の効用を全うするため当該公園内に設けられる公園施設として,園路及び広場,修景施設,休養施設,遊戯施設,運動施設,教養施設,便益施設並びに管理施設等を規定し,これらの公園施設を政令で定める基準に従って設置するものとしている(4条2項)。他方で,前記のとおり,同法は,2条2項各号に掲げる公園施設のほか,公園管理者の許可を得ずに工作物その他の物件又は施設を設けて都市公園を占用することを禁止し,7条各号に規定する仮設工作物等の一定の工作物その他の物件又は施設を設けて占用する場合に限って,当該占用が公衆の都市公園の利用に著しい支障を及ぼさず,かつ,必要やむを得ないと認められるものであって,政令で定める技術的基準に適合するという要件の下に,占用の許可を与えることができるものとしている。このような都市公園法の規定内容等に照らすと,同法は,都市公園を,一般公衆の散策,休養,遊戯,運動及び教養等の場として位置付け,その効用を全うするための公園施設を政令で定める基準に従って設け,これを一般公衆の用に供するとともに,都市公園の効用を全うするための公園施設に該当しない工作物その他の物件又は施設の設置を原則として禁止することにより,その公共用物としての機能の確保を図っているということができる。しかるに,前記のとおり,原告らが本件各公園内に設置等した本件テント等は,人の居住空間を提供するに足りる設備及び構造を有するものと推認され,原告らは,本件テント等を単にその起居の場所として利用するにとどまらずその生活の拠点として利用していた事実が認められるところ,そのような工作物等は,都市公園法2条2項各号に掲げる施設に該当しないことはもとより,同法7条各号又は都市公園法施行令12条各号に掲げる物件又は施設にも大阪市公園条例(昭和52年大阪市条例第29号)8条の2の物件又は施設のいずれにも該当しないことが明らかであるから,およそ都市公園内に設置することが法令上許されないものというべきである。そして,原告らは,本件除却命令が出される相当以前から本件各公園内に上記のような態様で本件テント等を設置等することにより,長期間にわたり,本件テント等の設置場所ないしその周辺場所を事実上その排他的支配下に置いていたというのであって,原告らによる上記のような本件各公園の利用態様は,公共用物としての公園の一般利用と本質的に相容れないものというほかなく,およそ都市公園法その他の法令の想定するところではないというべきである。そうであるところ,都市公園内に本件テント等のような物件又は施設を設置した上その設置場所ないしその周辺場所を事実上その排他的支配下に置くことは,その設置場所の当該公園内における位置関係,設置区画の広狭等のいかんにかかわらず,上記のような機能を有する都市公園の効用を著しく損なうものというべきである。すなわち,そもそも,都市公園法は,都市公園について,一定の区域内に公園施設が適切に配置されることにより,その全体が統一のとれた秩序ある空間を形成し,もって一般公衆の散策,休養,遊技,運動,教養等の用に供される施設として想定しているということができるところ,そのような都市公園内に占用許可を受けることなく工作物その他の物件又は施設が設置された場合には,当該物件又は施設が設置された場所ないしその周辺場所を一般公衆が利用することができなくなるにとどまらず,そのこと自体によって都市公園としての一体性が損なわれ,その機能が阻害されるのであって,このことは,当該物件又は施設の設置の目的,設置に至る経緯,設置場所,設置範囲,当該物件又は施設の利用形態等のいかんを問わないというべきである。
 また,当該物件又は施設の種類,構造及び設置態様等によっては,その倒壊等により当該都市公園を利用する一般公衆の生命又は身体に危害が及ぶおそれがあるほか(同法7条はこのような観点から占用許可の申請に係る工作物その他の物件又は施設が政令で定める基準に適合することを要求しているものと解される。),当該物件又は施設の利用形態のいかんによっては,公衆衛生を損なうおそれもあるのであって,このことも,当該物件又は施設の設置の目的,設置に至る経緯,設置場所,設置範囲等のいかんを問わないというべきである。さらに,管理者においてそのような物件又は施設を除却せずに放置した場合には,同様の行為に及ぶ者が続出することも十分予想されるところである。前記のとおり,都市公園である本件各公園内に本件テント等が設置されていること自体により,客観的にみて本件各公園の統一のとれた秩序ある空間としての一体性が損なわれているのみならず,原告らは,長期間にわたり,本件テント等の設置場所ないしその周辺場所を事実上その排他的支配下に置くことによって,少なくとも当該部分についての一般公衆の利用を現実に妨げていたことは明らかである。のみならず,前記認定の本件テント等の構造及び設置態様等にかんがみると,本件テント等の倒壊等によって本件各公園を利用する一般公衆の生命又は身体に危害が及ぶ具体的危険性も存したということができる。
 これらに加えて,b公園にはピーク時の平成15年8月当時には63件の,また,a公園にはピーク時の平成14年2月当時には681件ものテント等が設置されていたことをも併せ考えると,本件テント等の存在によって本件各公園の都市公園としての機能が著しく阻害されていることは明らかというべきであるから,後に検討する本件代執行によって原告らが被る不利益の内容,程度等をしんしゃくしてもなお,本件除却命令の不履行を放置することが著しく公益に反するとした被告(大阪市長)の認定判断が,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものということはできない。
 原告らは,被告が本件代執行の理由としてあげる本件各公園の利用者や近隣施設からの苦情という点について,これらは実証的な調査,検討によって野宿生活者以外の市民が現実に都市公園として利用することができなくなっているという客観的状況が確認されたものではなく,主観的な漠然としたイメージにすぎないと主張する。
 確かに,都市公園は,その設置目的に従った利用がされる限り,原告らのような定まった住居を有しないいわゆる野宿生活者らに対しても開かれた施設であることはいうまでもないが,前記のとおり,都市公園内に本件テント等のような物件又は施設を設置してこれを生活の拠点とするなどその設置場所ないしその周辺場所を事実上その排他的支配下に置くことは,何人であれ法令上許されないのであって,このことは,当該物件又は施設を設置した経緯や設置目的,利用形態等のいかんを問わないのである。そして,本件各公園の利用者や近隣施設からの苦情の有無やその内容のいかんにかかわず,前記のとおり,本件テント等の存在によって本件各公園の都市公園としての機能が著しく阻害されていることは客観的に明らかというべきであるから,上記のような苦情の存在が本件各処分の一因となっていたとしても,そのことをもって本件除却命令の不履行を放置することが著しく公益に反するとした被告(大阪市長)の認定判断がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない。したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
 また,原告らは,被告が本件代執行の理由としてあげる本件各公園の整備工事についても,その必要性に疑問があり,しかも,本件テント等が設置されていた場所でも本件代執行後に工事が行われた形跡がない場所もあり,本件代執行の理由とはならない旨主張する。
 しかしながら,そもそも,都市公園内に本件テント等のような物件又は施設を設置した上その設置場所ないしその周辺場所を事実上その排他的支配下に置くことは,その設置場所の当該公園内における位置関係,設置区画の広狭等のいかんにかかわらず,都市公園の機能を著しく阻害するというべきであるところ,以上認定説示したところによれば,本件テント等の存在そのものによって本件各公園の機能が著しく阻害されていることは客観的に明らかであるから,被告の主張する本件各公園の整備工事に係る工事区域と本件テント等の設置場所との位置関係や,本件テント等が当該工事の施工に与える具体的な支障の程度,態様等は,本件除却命令の不履行を放置することが著しく公益に反するか否かについての上記認定判断の適否を左右するに足りるものではないというべきである。のみならず,a公園は,平成18年3月から同年5月まで開催される緑化フェアの主会場として予定されており,また,b公園も,同年5月に開催されるバラ会議の会場として予定されており,これらのために,平成17年度において,b公園については,東園のうちバラ園,テニスコート及び児童遊園を除く部分の大部分を工事対象区域とする各種土木工事,剪定整枝,枯れ木撤去等を行うことが予定されており,a公園については,城南地区を工事対象区域とするバス・一般駐車場整備,遊歩道整備,散策路整備及び植栽のための各種土木工事,樹木移植・枯れ木撤去工事等を行うことが予定されていたこと,本件テント等はいずれも上記各工事対象区域内ないしその近くに存在していたこと,以上の事実が認められる。上記認定の予定された工事の目的及びその具体的内容並びに工事対象区域と本件テント等の設置場所との位置関係にかんがみると,本件テント等の設置場所自体が上記工事による土地の区画形質の変更ないし工作物その他の物件又は施設の設置の対象範囲に含まれていなかったとしても,本件テント等の存在が上記工事の迅速かつ円滑な遂行に支障を与えるものであることは明らかというべきである。
 以上のとおりであるから,前記Bの要件に関する原告らの主張を採用することはできない。

(5) 以上によれば,本件代執行は,前記(1)の@ないしBのすべての要件を満たしていたものと認められる。

3.本件代執行の憲法22条1項違反の有無

 原告らは,本件代執行は,極度の窮乏により他に居住する場所を有しなかった原告らが住居として利用する本件テント等を,一方的,強制的に撤去したものであり,憲法22条1項が保障する原告らの居住の自由を侵害するものであり違法である旨主張する。
 憲法22条1項は,何人も,公共の福祉に反しない限り,居住,移転及び職業選択の自由を有する旨規定し,いわゆる居住移転の自由を保障しているが,憲法は,他方で,29条1項において所有権を始めとする財産権を保障しているのであって,以上のような憲法の規定内容等に照らせば,憲法22条1項は,私有地であると公有地であるとを問わず,他人の所有等する土地に権原なく居住する自由までをも保障するものであると解することはできない。
 以上のとおりであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。

4.本件代執行の憲法25条1項違反の有無

(1) 原告らは,憲法25条1項は健康で文化的な最低限度の生活を保障しており,同生活の水準は生活保護法によって具体化されているところ,本件代執行に先立ち原告らに提示された自立支援センター等の代替措置はいずれも生活保護法の基準を下回るものであったから,本件代執行は憲法25条1項に違反する旨主張する。

(2) 本件代執行において除却の対象とされた本件テント等は,原告らがこれを起居の場所として利用していたにとどまらず,これを生活の拠点としていたものであるから,本件代執行は,そのような原告らの起居の場所を含めた生活の拠点を奪うものであるということができ,本件代執行が1月という冬季に行われたことや,原告らの年齢,生活状況等に加えて原告らが置かれている社会的,経済的環境にもかんがみると,本件代執行によって原告らが生活保護法及び生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)が前提とする最低限度の生活に満たない程度にまで生活に困窮する事態も容易に推認されるところである。

(3) しかしながら,憲法25条1項は,いわゆる福祉国家の理念に基づき,すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきをことを国の責務として宣言したものであって,国が個々の国民に対して具体的,現実的に上記のような義務を負うことを規定したものではなく,また,同条2項も,同条1項と同じく,福祉国家の理念に基づき,社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したものであって,憲法上,個々の国民の具体的,現実的生活権は,このように国の責務とされる社会的立法及び社会的施設の創造拡充により設定充実されていくものとされているのである。このような憲法25条の規定の性質に加えて,同条1項にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは,きわめて抽象的,相対的な概念であって,その具体的内容は,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに,同条の規定の趣旨を現実の立法や社会的施設の創造拡充として具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することはできず,また,多方面にわたる複雑多様な,しかも高度に専門技術的な考察とそれに基づいた政策判断を必要とするものであることからすれば,同条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法府の広い裁量にゆだねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱,濫用とみざるをえないような場合を除き,裁判所が審理判断するのに適さない事柄であるということができる。
 以上のような憲法25条の規定内容及びその法規範としての性格等にかんがみると,憲法は,生活に困窮する個々の国民に対しては,その困窮に至ったゆえんのいかんを問わず,社会的立法及び社会的施設の創造拡充により,健康で文化的な最低限度の生活を保障することを予定しているものと解される。そうであるとすれば,行政代執行法において行政代執行の結果その義務者等が生活に困窮する事態に対する憲法25条の規定の趣旨を具体化した制度的手当(立法措置)がされていないとしても,同法に基づく行政代執行が直ちに憲法25条1項に違反することになるものではないというべきである。
 そうであるところ,本件代執行に先立って,既に平成14年8月に都市公園,河川,道路,駅舎その他の施設を故なく起居の場所として日常生活を営んでいる者(ホームレス)に関する問題の解決に資することを目的としたホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(自立支援法)が制定され,同法において,ホームレスの自立の支援等に関する施策の目標として,自立の意思があるホームレスに対する安定した雇用の場の確保,就業の機会の確保,住宅への入居の支援等による安定した居住の場所の確保等に関する施策等の実施,宿泊場所の一時的な提供等の緊急に行うべき援助,生活保護法による保護の実施等が規定されるとともに,ホームレスの自立の支援等に関し国等の果たすべき責務が明らかにされ,他方で,都市公園その他の公共の用に供する施設の管理者はホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ法令の規定に基づき当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとるものとされた上,同法の施行を受けて,平成15年7月に「基本方針」が策定されて,ホームレスの就業の機会の確保,安定した居住の場所の確保,ホームレスに対し緊急に行うべき援助に関する事項及び生活保護法による保護の実施に関する事項等の各課題に対する取組方針が定められ,これを受けた「セーフティネット支援対策等事業の実施について」が定められているほか,生活保護法による保護の実施については,居住の場所がないことや稼働能力があることのみをもって保護の要件に欠けるということはない点を踏まえ,資産,稼働能力や他の諸施策等あらゆるものを活用してもなお最低限度の生活が維持できない者について,最低限度の生活を保障するとともに,自立に向けて必要な保護を実施するものとされ,これを受けたホームレスに対する生活保護の適用に関する具体的な取扱いについて,「ホームレスに対する生活保護の適用について」が定められるなどしていたというのである。これらの自立支援法に規定されたホームレスの自立の支援等に関する施策目標及びこれを受けて策定された基本計画における取組方針等の内容は,いずれも,同法にいうホームレスの実態並びにホームレス問題が発生した要因及び背景を正確に把握した上,生活保護法の適正な運用や各種の社会的施設(自立支援センター,シェルター等)の設置,活用等を通じて,その実情に即してホームレスの具体的,現実的な生活権の確保を図るものということができるのであって,少なくともこれらの社会的施設が整備され,生活保護法の適正な運用を含む自立支援法の趣旨にのっとった各種支援策等が適切に実施されている状況下においては,都市公園その他の公共の用に供する施設の管理者において,ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ,法令の規定に基づく当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置として,これらの公共施設に本件テント等のような物件又は施設を設置して生活の拠点としているホームレスに対し,当該物件又は施設の除却を命じ,行政代執行によってその履行確保を図ることが,憲法25条1項に違反するということはできないというべきである。
 そうであるところ,被告においても,国の「基本方針」及び「セーフティネット支援対策等事業の実施について」に示されたホームレスの自立の支援等のための社会的施設(仮設一時避難所,自立支援センター)が整備された上(これらの施設が上記通知に示された基準を満たすものである。),自立支援法及びこれを受けた国の「基本方針」に沿って「大阪市野宿生活者(ホームレス)の自立の支援等に関する実施計画」が策定され,これに基づく自立支援等のための諸施策が実施されており,しかも,これらの施設の入所者の相当数が就労自立又は生活保護の受給により退所するなど,これらの施策は,一定の成果を上げているということができる。また,被告におけるホームレスに対する支援のための施策としての生活保護法の運用が前記「基本方針」及び「ホームレスに対する生活保護の適用について」に照らして不適切であったということもできないことは,後に説示するとおりである。
 のみならず,本件代執行に先立ち,巡回相談員において原告らに対し上記のとおり自立支援センターないし一時避難所への入所を勧めるなど被告の自立支援策を提示し,高齢や病弱のため就労が困難な者については生活保護に関して各区役所への取り次ぎをするなどし,また,各公園事務所職員においても,原告らに対し,自立支援センターないし一時避難所への入所を勧め,あるいは,本人の希望に応じ生活保護について説明するなどしたほか,本件各公園に設置されたテント等について,行政代執行をも含めた法的措置をとるという方針が決定された後も,各公園事務所職員において,各公園内にテント等を設置している原告らを含む野宿生活者を個別訪問して,自立支援センター又は一時避難所への入所を促し,高齢,病弱のため就労が困難であると判明した者には生活保護制度があることを伝えて区役所の窓口を紹介するなどしており,しかも,本件代執行が行われた平成18年1月30日当時,被告が当時開設していた自立支援センター3か所及び一時避難所はいずれも入所人員が入所定員を下回っており原告らを受け入れることが可能な状態にあったというのである。
 以上によれば,本件各処分当時,被告においては自立支援法及びこれを受けた「基本方針」及び「セーフティネット支援対策等事業の実施について」の趣旨にのっとって,ホームレスの自立の支援等に関する社会的施設(自立支援センター,一時避難所等)が整備されていた上,「大阪市野宿生活者(ホームレス)の自立の支援等に関する実施計画」が策定され,これに基づき上記施設を中核として生活保護の適用をも含めた自立支援等のための諸施策が実施されて一定の成果を上げており,原告らに対してもこれらの諸施策が周知されて支援等を受ける機会が現実に与えられていたということができるから,このような状況の下において行われた本件代執行は,憲法25条1項に違反するということはできないというべきである。

5.本件代執行の憲法13条違反の有無

 原告らは,被告は本件代執行に当たり多数の職員や警備員等を投入するなどし,あからさまな物理力をもって原告らを「排除」することを目的とする体制を組むなど,原告らを人権享有主体である個人として尊重しておらず,しかも,本件代執行は,原告らの生活基盤そのものを破壊する行為であり,原告らの安全と財産を危殆にさらし,原告らの個人としての尊厳を破壊するものであって,本件代執行は憲法13条が保障する個人の尊重と生命,自由,幸福追求権を侵害するものとして違法であると主張する。
 しかしながら,b公園については,本件代執行が行われる前年(平成17年)10月ころ以降,公園事務所職員において同公園内にテント等を設置して野宿生活をしている者らに対して同テント等の撤去に向けた説得等の働きかけを強める過程で,自治会を中心として,支援者らを含む20人ないし30人規模の集団が罵声を挙げて威圧するなどといった態様の抗議行動が複数回にわたり行われるなどしていた上,本件代執行の開始のころにはb公園原告らのほかに100名を超える支援者らが園内に入り込んでいたのであって,本件代執行の開始に先立ってこれらの支援者らによる激しい抵抗が相応の根拠をもって予想される具体的状況が存した上,本件代執行の開始に先立って被告職員がb公園原告らの一人から暴行を受けて負傷する事件が発生し,本件代執行の過程にあっては,公園内に入り込んだ多数の支援者らが,本件テント等に居座り,被告職員らによってフェンス外に移動させられても再度園内に入り込み,中心となっていたテントに集結しスクラムを組むなどして激しく抵抗を続けた事実が認められるのであって,このような状況にかんがみると,被告において多数の職員及び警備員等を動員した上,b公園原告らの一部を含む,本件テント等の内部などに居座るなどして抵抗を続ける者を被告職員や警備員らにより実力でもって公園外に移動させ,その者らが公園内へ再度入り込むことを阻止するなどして,その抵抗を排除したことは,具体的状況の下において本件代執行の目的を円滑かつ確実に実現するために必要な実力行使として,その限りにおいて行政代執行法の許容するところというべきである。また,原告らが本件各公園内に設置等した本件テント等は,およそ都市公園内に設置することが法令上許されないものである上,原告らは,本件除却命令が出される相当以前から本件各公園内に上記のような態様で本件テント等を設置等することにより,長期間にわたり,本件テント等の設置場所ないしその周辺場所を事実上その排他的支配下に置いていたというのであって,本件テント等の存在によって本件各公園の都市公園としての機能が著しく阻害されていたことは客観的に明らかであるから,行政代執行法所定の要件を満たすことはもとより,自立支援法11条の規定の趣旨にかんがみても,都市公園としての本件各公園の適正な利用を確保するために必要な措置として本件テント等を除却すべき必要性が存したことは明らかである。これらに加えて,前記認定のとおり,本件代執行が,被告により自立支援法及び「基本方針」等の趣旨にのっとってホームレスの自立の支援等に関する社会的施設(自立支援センター,一時避難所等)が整備された上,上記施設を中核として生活保護の適用をも含めた自立支援等のための諸施策が実施されて一定の成果を上げている状況の下において,原告らに対してもこれらの諸施策による支援等を受ける機会が現実に与えられた上で行われたものであることをも併せ考えると,少なくともb公園については本件代執行が結果的に実力行使によって原告らの生活の拠点を奪った上その身体を公園外に移動させて公園から排除したかのような外観を呈し,また,本件各公園の利用者等からの苦情の存在が本件代執行の一因となっていたとしても,本件代執行をもって原告ら自身を本件テント等の設置された公園から排除することそのものを目的とし,これを実力行使でもって実現したものと評価することはできないというべきである。なお,被告は,本件代執行によって除却された本件テント等についても,大阪市生野区所在の保管所に保管の上,その所有者等が引き取りにくればこれを引き渡し,所有者等に返還されなかったものについては,公告の上処分したというのであるから(都市公園法27条4ないし10項参照),本件代執行は,原告らの本件テント等に係る財産上の権利にも配慮して行われたということができる。以上によれば,本件代執行が憲法13条に違反する旨の原告らの上記主張は,その前提を欠くものとして,採用することができない。

6.本件各処分の憲法31条違反の有無

 原告らは,憲法31条が規定する適正な手続を受ける権利の保障は,行政手続である本件代執行の手続にも及ぶところ,本件代執行が原告らの生活基盤を奪い居住の自由を奪うなど刑事手続にまさるとも劣らない重大な権利侵害を内容とするものであることから,厳格な手続保障に服すべきであり,本件代執行に当たっては,形式的な告知,聴聞の機会が与えられるだけでは足りず,原告らにとっても十分に実効的な交渉,原告らが十分に権利主張することができる適切な手続の選択(本件においては,処分の名あて人である原告らが裁判所における訴訟手続に主体的に参加する形での告知聴聞の機会が与えられる民事訴訟手続によるべきであった。),十分な代替措置の提供等が必要であるが,本件ではこれらのいずれも満たされておらず,本件代執行は憲法31条に違反し違法であると主張する。
 行政手続に憲法31条による保障が及ぶと解すべき場合であっても,保障されるべき手続の内容は,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合考慮して決定されるべきものである。そうであるところ,都市公園法27条1項に基づく工作物等の除却命令については行政手続法第3章(不利益処分)の規定が適用され,本件除却命令は,行政手続法13条1項2号に規定する不利益処分として,同法29条,30条に規定する弁明の機会を付与した上でされたものであると認められ,その手続に同法の規定に違反する違法は認められない。そして,前記のとおり,都市公園法27条1項の規定の定める工作物等の除却命令は名あて人に当該工作物等の除却を義務付ける義務賦課行為にすぎないことからすれば,行政手続法13条1項2号により同法第3章第3節(弁明の機会の付与)の定める手続の下に除却命令を行うことが名あて人の保護に欠けると解することはできず,これらの規定及びこれに基づいて被告がした本件除却命令が憲法31条の法意に反するということはできない。
 また,行政代執行は,他人が代わってなすことのできる行為に限ってこれを行うことができるものとされているものの,前記のとおり,代執行に際し抵抗を受けるときは,代執行の目的を円滑かつ確実に実現するために必要最小限度の範囲内で,自ら威力を用い,又は警察官の援助を求めるなどして,実力行使に及ぶことが許容されているところ,行政代執行については,行政手続法上の不利益処分には該当しないから(同法2条4号イ),同法第3章の手続は要求されないが,他方で,行政代執行法3条は,行政代執行に先立ち,相当の履行期限を定めた文書による戒告並びに代執行をなすべき時期,代執行のために派遣する執行責任者の氏名及び代執行に要する費用の概算による見積額についての代執行令書での通知を要求し,これらによってその相手方に対して任意の履行の機会を与えるとともに,その処分の内容をあらかじめ告知し,もってその代執行の相手方に防御の機会を与えてその権利利益の保護を図っている。そして,行政代執行は,法律により直接に命ぜられ,又は法律に基づき行政庁により命ぜられた行為を義務者が履行しない場合においてその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときに行うことができるものとされていることにかんがみると,行政代執行により制限を受ける上記のような権利利益の内容,性質,制限の程度等に照らしても,行政代執行法の定める手続の下に行政代執行を行うことがその義務者の権利保護に欠けると解することはできず,これらの規定が憲法31条の法意に反するということはできない。そうであるところ,被告は,本件代執行に先立ち,各原告に対し,行政代執行法に定める戒告及び代執行令書による通知をそれぞれしていることが認められ,これら手続に同法の規定に違反する違法は認められないから,本件代執行が憲法31条の法意に反するということもできない。
 以上のとおりであるから,原告らの主張を採用することはできない。

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