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最高裁判所第二小法廷判決平成21年09月04日

【事案】

1.上告人が,貸金業者である被上告人に対し,主位的に,取引期間を異にする二つの基本契約に基づき行われた継続的な金銭消費貸借取引を一連のものとみて,上記各取引に係る各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の制限利率を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元金に充当すると,過払金が発生しており,かつ,被上告人は過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたから悪意の受益者に当たると主張して,不当利得返還請求権に基づき,上記過払金の返還及び民法704条前段所定の利息の支払を求めるとともに,予備的に,被上告人が過払金を受領し続けた行為は不法行為を構成すると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,上記過払金相当額の損害の賠償及び遅延損害金の支払を求める事案。

2.事案の概要

(1) 被上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律。以下,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。

(2) 上告人は,昭和55年11月12日,被上告人との間で,極度額の範囲内で継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約を締結した上,これに基づき,同日から平成9年1月13日までの間,原判決別紙計算書3「借入金額」欄記載の金員合計116万8670円を借り入れ,同計算書「弁済額」欄記載の金員を弁済した(以下,この間の取引を「第1取引」という。)。
 第1取引における利息の約定は年47.45%ないし年36.47%であり,上記各弁済金のうち制限超過部分を元金に充当すると,昭和60年9月2日以降過払金が発生し,その額は,第1取引の最終日である平成9年1月13日の時点において266万0791円を下回ることはない。

(3) 上告人は,平成16年9月29日,被上告人との間で,第1取引と同様の基本契約を改めて締結した上,これに基づき,同日から平成19年1月5日までの間,原判決別紙計算書4「借入金額」欄記載の金員合計62万3000円を借り入れ,同計算書「弁済額」欄記載の金員を弁済した(以下,この間の取引を「第2取引」という。)。
 第2取引の最終日である平成19年1月5日の時点において貸金残元金があり,第2取引に基づく過払金は発生していない。

3.原審は,上記事実関係の下において,第1取引と第2取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することはできず,かつ,第1取引に基づいて発生した過払金に係る不当利得返還請求権の消滅時効が完成したと判断して上告人の主位的請求を棄却すべきものとするとともに,被上告人が過払金を受領し続けた行為が違法であるとはいえないと判断して上告人の予備的請求も棄却した。

【判旨】

 一般に,貸金業者が,借主に対し貸金の支払を請求し,借主から弁済を受ける行為それ自体は,当該貸金債権が存在しないと事後的に判断されたことや,長期間にわたり制限超過部分を含む弁済を受けたことにより結果的に過払金が多額となったことのみをもって直ちに不法行為を構成するということはできず,これが不法行為を構成するのは,上記請求ないし受領が暴行,脅迫等を伴うものであったり,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られるものと解される。この理は,当該貸金業者が過払金の受領につき,民法704条所定の悪意の受益者であると推定される場合においても異なるところはない。
 本件において,被上告人の上告人に対する貸金の支払請求ないし上告人からの弁済金の受領が,暴行,脅迫等を伴うものであったことはうかがわれず,また,第1取引に基づき過払金が発生した当時,貸金業法43条1項(平成18年法律第115号による改正前のもの)により,制限超過部分についても一定の要件の下にこれを有効な利息債務の弁済とみなすものとされており,しかも,その適用要件の解釈につき下級審裁判例の見解は分かれていて,当審の判断も示されていなかったことは当裁判所に顕著であって,このことからすると,被上告人が,上記過払金の発生以後,貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのにあえてその請求をしたということもできず,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠くものであったとはいえない。したがって,被上告人が民法704条所定の悪意の受益者であると推定されるとしても,被上告人が過払金を受領し続けた行為は不法行為を構成するものではない。
 原審の判断は,これと同旨をいうものとして是認することができる。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年09月04日

【判旨】

 金銭消費貸借の借主が利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生した場合において,貸主が悪意の受益者であるときは,貸主は,民法704条前段の規定に基づき,過払金発生の時から同条前段所定の利息を支払わなければならない(大審院昭和2年(オ)第195号同年12月26日判決・法律新聞2806号15頁参照)。このことは,金銭消費貸借が,貸主と借主との間で継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される旨の基本契約に基づくものであって,当該基本契約が過払金が発生した当時他の借入金債務が存在しなければ過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものであった場合でも,異なるところはないと解するのが相当である。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成21年09月11日

【事案】

1.被上告人が,上告人に対し,上告人との間の金銭消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法所定の制限利率を超えて支払った利息を元本に充当すると過払金が発生しているとして,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還等を求める事案。上告人において,期限の利益喪失特約に基づき被上告人が期限の利益を喪失したと主張することが,信義則に反するか等が争われている。

2.事実関係の概要

(1) 上告人は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の法律の題名は貸金業の規制等に関する法律)3条所定の登録を受けた貸金業者である。

(2) 上告人は,平成11年9月28日,被上告人に対し,400万円を次の約定で貸し付けた(以下,この貸付けに係る契約を「本件契約」という。)。

ア.弁済方法 平成11年10月から平成16年9月まで毎月15日限り,元本6万6000円ずつ(ただし,平成16年9月のみ10万6000円)を支払日の前日までの利息と共に支払う(以下,この毎月返済することが予定された元本を「賦払金」といい,残元本に対する支払日の前日までの利息を「経過利息」という。)。

イ.利息 年29.8%(年365日の日割計算)

ウ.遅延損害金 年36.5%(年365日の日割計算)。ただし,期限の利益喪失後,上告人は毎月15日までに支払われた遅延損害金については一部を免除し,その利率を年29.8%とするが,この取扱いは,期限を猶予するものではない。

エ.特約元利金の支払を怠ったときは,通知催告なくして期限の利益を失い,債務全額及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う。

(3)ア.被上告人は,上告人に対し,原判決別紙1「元利金計算書」の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払金額」欄記載の各金額の支払をした。

イ.被上告人は,第1回目から第4回目までの各支払期日(上記(2)アで定められた支払期日をいう。以下同じ。)に,賦払金及び経過利息の合計額(上記(2)ア及びイの約定により各支払期日に支払うべきものとされていた金額。以下同じ。)又はこれを超える額を支払った。被上告人は,第5回目の支払期日である平成12年2月15日には支払をしなかったが,その前に,上告人の担当者から15万円くらい支払っておけばよいと言われていたため,同月16日に15万円を支払った。
 上告人は,被上告人から受領した15万円のうち9万1450円を利息に充当し,5万8550円を元本に充当した旨記載された領収書兼利用明細書を被上告人に送付した。

ウ.被上告人は,第6回目から第8回目までの各支払期日に賦払金及び経過利息の合計額又はこれを超える額の金員を支払ったが,第9回目の支払期日である平成12年6月15日の支払が困難なので,上告人の担当者に電話をかけ,支払が翌日になる旨告げたところ,同担当者からは,1日分の金利を余計に支払うことを求められ,翌日支払う場合の支払金額として賦払金と年29.8%の割合で計算した金利との合計額を告げられた。そこで,被上告人は,同担当者が告げた金額よりも多めに支払っておけば問題はないと考え,同月16日,上告人に対し15万8000円を支払った。

エ.上告人は,第6回目の支払期日以降,被上告人の支払が支払期日より遅れた場合,支払われた金員を,残元本全額に対する前回の支払日から支払期日までの年29.8%の割合で計算した遅延損害金及び残元本全額に対する支払期日の翌日から支払日の前日までの年36.5%の割合で計算した遅延損害金に充当し,残余があるときは,残元本の一部に充当した。
 被上告人は,その後,支払期日に遅れて支払うことがしばしばあったが,上告人は,被上告人に対して残元本全額及びこれに対する遅延損害金の一括弁済を求めることはなかった。

オ.被上告人は,上告人の上記のような対応から,当初の約定の支払期日より支払が多少遅れることがあっても,遅れた分の遅延損害金を支払えば期限の利益を失うことはないと信じ,期限の利益を喪失したために残元本全額を一括弁済すべき義務が発生しているとは思わなかった。
 上告人は,第6回目の支払期日以降,弁済を受けるたびに,その弁済金を残元本全額に対する遅延損害金と残元本の一部に充当したように記載した領収書兼利用明細書(以下「本件領収書兼利用明細書」という。)を被上告人に送付していた。しかし,被上告人は,上告人が上記のような対応をしたために,期限の利益を喪失していないものと誤信して支払を続け,上告人は,被上告人が上記のように誤信していることを知りながら,被上告人に対し,残元本全額について弁済期が到来していることについて注意を喚起することはなく,被上告人の上記誤信をそのまま放置した。そして,被上告人は,平成18年2月17日まで,賦払金と年29.8%の割合による金員との合計額につき,賦払金と経過利息の支払と誤信して,その支払を続け,途中で,当初の約定の支払期日より支払を遅れた場合には,これに付加して,遅れた日数分のみ年36.5%の割合で計算した遅延損害金を支払った。

【判旨】

1.本件契約には,遅延損害金の利率を年36.5%とした上で,期限の利益喪失後,毎月15日までに支払われた遅延損害金については,その利率を利息の利率と同じ年29.8%とするという約定があるというのであり,このような約定の下では,借主が期限の利益を喪失しても,支払期日までに支払をする限りにおいては期限の利益喪失前と支払金額に差異がなく,支払期日を経過して年36.5%の割合による遅延損害金を付加して支払うことがあっても,その後の支払において支払期日までに支払えば期限の利益喪失前と同じ支払金額に戻るのであるから,借主としては,上告人の対応によっては,期限の利益を喪失したことを認識しないまま支払を継続する可能性が多分にあるというべきである。

2.そして,上告人は,被上告人が第5回目の支払期日における支払を遅滞したことによって期限の利益を喪失した後も,約6年間にわたり,残元本全額及びこれに対する遅延損害金の一括弁済を求めることなく,被上告人から弁済金を受領し続けてきたというだけでなく,@ 被上告人は,第5回目の支払期日の前に上告人の担当者から15万円くらい支払っておけばよいと言われていたため,上記支払期日の翌日に15万円を支払ったものであり,しかも,A被上告人が上記のとおり15万円を支払ったのに対し,上告人から送付された領収書兼利用明細書には,この15万円を利息及び元本の一部に充当したことのみが記載されていて,被上告人が上記支払期日における支払を遅滞したことによって発生したはずの1日分の遅延損害金に充当した旨の記載はなく,B 被上告人が,第9回目の支払期日に,上告人の担当者に対して支払が翌日になる旨告げた際,同担当者からは,1日分の金利を余計に支払うことを求められ,翌日支払う場合の支払金額として賦払金と年29.8%の割合で計算した金利との合計額を告げられたというのである。

3.上記2のような上告人の対応は,第5回目の支払期日の前の上告人の担当者の言動,同支払期日の翌日の支払に係る領収書兼利用明細書の記載,第9回目の支払期日における上告人の担当者の対応をも考慮すれば,たとえ第6回目の支払期日以降の弁済について被上告人が上告人から本件領収書兼利用明細書の送付を受けていたとしても,被上告人に期限の利益を喪失していないとの誤信を生じさせかねないものであって,被上告人において,約定の支払期日より支払が遅れることがあっても期限の利益を喪失することはないと誤信したことには無理からぬものがあるというべきである。

4.そして,上告人は,被上告人が期限の利益を喪失していないと誤信していることを知りながら,この誤信を解くことなく,第5回目の支払期日の翌日以降約6年にわたり,被上告人が経過利息と誤信して支払った利息制限法所定の利息の制限利率を超える年29.8%の割合による金員等を受領し続けたにもかかわらず,被上告人から過払金の返還を求められるや,被上告人は第5回目の支払期日における支払が遅れたことにより既に期限の利益を喪失しており,その後に発生したのはすべて利息ではなく遅延損害金であったから,利息の制限利率ではなく遅延損害金の制限利率によって過払金の元本への充当計算をすべきであると主張するものであって,このような上告人の期限の利益喪失の主張は,誤信を招くような上告人の対応のために,期限の利益を喪失していないものと信じて支払を継続してきた被上告人の信頼を裏切るものであり,信義則に反し許されないものというべきである。

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