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広島高裁判決平成21年04月28日

【判旨】

1.本件公訴事実の要旨は「山口県A市内のB会社に勤務していた被告人が,同社の店舗兼事務所を焼損しようと企て,平成19年3月17日午後10時55分ころ,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいないCら共有に係る上記店舗兼事務所(木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建,床面積合計約180.78平方メートル)の1階事務所内において,火を放って同事務所の板壁や天井に燃え移らせ,もって現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない上記建物を全焼させて焼損した」というのである。
 論旨は,被告人が,平成20年2月18日,山口地方裁判所平成20年(わ)第119号,第133号,第186号建造物侵入,窃盗被告事件(以下,それぞれを「119号事件」「133号事件」「186号事件」ともいう)について,懲役1年2月,3年間執行猶予の有罪判決を受け,その判決は同年3月4日に確定しているところ,本件非現住建造物等放火は,119号事件の建造物侵入,窃盗と公訴事実の同一性が認められ,上記確定判決の一事不再理の効力が及んでいるから,本件については,刑事訴訟法337条1号により判決で免訴を言い渡すべきであるにもかかわらず,それをしなかった原判決は,重大な法令解釈の違反をしており,この訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。

2.所論にかんがみ記録を調査して検討するに,原判決の判断には一部是認できない点があるものの,本件において免訴の言渡しをしなかった原判決に,所論の訴訟手続の法令違反はない。以下付言する。

(1) 記録によれば,原審の審理経過等は以下のとおりである。

ア.被告人は,平成19年6月29日,建造物侵入,窃盗被告事件で起訴された。その公訴事実の要旨は「被告人は,正当な理由がないのに,平成19年3月17日,B会社事務所内に侵入し,同所において,現金5万円および商品券236枚ほか1点を窃取した」というのである(119号事件)。その後,被告人は,2件の窃盗被告事件(133号事件,186号事件)で起訴され,119号事件と併合審理されて,同年10月30日までに公判期日が3回開かれた(以下,これらの事件を合わせて「119号等事件」ともいう)。

イ.被告人は,同年11月8日,本件非現住建造物等放火被告事件により起訴された(以下,119号等事件のことを「前訴」,本件のことを「後訴」ともいう)。同月16日,119号等事件について,合議体により審理および裁判をする旨の決定がなされるとともに,119号等事件に本件非現住建造物等放火被告事件が併合された。
 なお,前訴および後訴の弁護人は,同じ弁護人である。

ウ.同年12月26日の第4回公判期日において,弁護人が,119号等事件と本件非現住建造物等放火被告事件とを分離して審理するよう請求し,検察官は反対意見を述べたものの,原裁判所はその旨の弁論の分離決定をした。そして,同期日において,本件非現住建造物等放火被告事件の審理が行われた。

エ.119号等事件は,上記2(1)イの合議体により審理および裁判をする旨の決定が取り消されて,別の裁判所によって審理された。平成20年2月18日の公判期日において,検察官が,この事件を本件非現住建造物等放火被告事件と併合して審理するよう請求したものの,弁護人が反対意見を述べ,この弁論併合請求は却下されて,論告,弁論等の後,被告人は,懲役1年2月,3年間執行猶予の有罪判決を言い渡された。
 そして,この判決は同年3月4日に確定した。

オ.本件非現住建造物等放火被告事件については,上記2(1)イの後,5回の公判期日が開かれ,この間に裁判長が交替したため公判手続が更新され,同年7月11日の第9回公判期日において,論告,弁論等が行われて結審し,判決宣告期日が同年8月13日に指定された。その後,同期日は,検察官の請求により同月26日に変更され,さらに,同月21日,職権により取り消され,追って指定とされた。そして,同年9月2日,弁論の再開決定がなされ,同年10月9日の第10回公判期日において,一事不再理の効力に関し,補充の論告,弁論等が行われて,改めて結審し,同月31日,原判決が言い渡された。

(2) ところで,被告人は,本件当日,119号事件の建造物侵入,窃盗(上記2(1)ア)を犯し,B会社(以下「会社」ともいう)の店舗兼事務所(以下「本件建物」ともいう)から出て,付近に止めてあった自動車に戻った後,すぐに本件建物内に立ち入ったことが認められる。そして,原判決は,以下のとおり説示して,本件は免訴とされるべきではない旨判断した。すなわち,前訴および後訴の各訴因の間の公訴事実の単一性の判断は,基本的には,前訴および後訴の各訴因のみを基準として,これらを比較対照することにより行うのが相当である。初回侵入後の退出時の被告人の挙動に格別変わった様子はなく,仮に放火の意図があるのであれば焼損させれば足りる手配書入りの段ボール箱を持ち出していることなどに照らせば,初回侵入時の放火行為はないと認められ,初回侵入行為と本件放火行為とは牽連関係にない。そして,前訴の訴因は,窃盗とその手段である初回侵入のみで構成され,本件訴因は,初回侵入とは手段結果の関係にない放火であり,犯行の手段となった再侵入行為は,両訴因を通じて訴訟手続に上程されていないから,公訴事実の単一性を判断するに当たってこの事実を基礎とすることは相当でない。前訴に係る確定判決の一事不再理の効力が本件に及ぶと解することはできず,本件は免訴とされるべきものではない,というのである。

(3) しかし,以下に説示するとおり,原判決のこの判断をそのまま是認することはできない。
 被告人は,単独で本件建物に2度侵入しており,そのいずれかの際に放火行為に及んだことが認められるところ,たしかに,本件の事実経過等にかんがみると,原判決の説示するとおり,被告人が,本件建物に再侵入した際に放火行為に及んだと考える方が自然であり,その可能性も高いと考えられないではない。
 しかし,被告人が,本件建物に1回目に侵入した際,窃盗だけでなく放火行為にも及び,自動車に戻った後,首尾よく火が燃えているのかを確認するために本件建物に再侵入したという可能性がないとはいえない。被告人は,本件建物に再侵入しただけでなく,その直後,同建物に3度目の侵入をしており,その際被告人に同行したDが目撃した炎の高さは,約1.2または約1.5メートルであったというのである。この程度の高さまで炎が上がるのに要する時間が分かれば,1回目と2回目のいずれの侵入時に放火行為に及んだのかを確定できる可能性はあるものの,そのような証拠の裏付けがない本件においては,原判決が指摘する事情だけから,被告人が,本件建物に再侵入した際に放火したとまで認定するのは困難である。原判決が,初回侵入時の放火行為はない旨認定したのは,事実を誤認したものといわざるを得ない。
 もっとも,以下に説示するとおり,本件については免訴を言い渡すべきではないから,この誤りは判決に影響を及ぼすものではない。
 なお,上記のとおり,被告人が放火した時期を証拠上特定することはできないものの,本件につき免訴を言い渡すべきか否かを検討するに当たっては,被告人に有利に,被告人が,本件建物に1回目に侵入した際に放火したことを前提として検討する。

(4) 刑事訴訟法337条1号は,「確定判決を経たとき」には,判決で免訴の言渡しをしなければならないと定めており,この確定判決の一事不再理の効力は,前訴の公訴事実の同一性の範囲内の事実に及ぶものと解されている。前訴の119号事件の建造物侵入,窃盗の訴因(以下,この訴因については「119号事件」の表示を省略する)と後訴の本件非現住建造物等放火の訴因とを比較対照すると,犯行日および犯行場所が同一である両訴因が一罪ではないかという疑問が生じるのであり,それを契機として,関係証拠にも照らし実体的に判断するに,前訴の建造物侵入は,前訴の窃盗および後訴の非現住建造物等放火の手段であり,前訴の窃盗および後訴の非現住建造物等放火は,前訴の建造物侵入の結果であるという関係にあるということになる。そうすると,これらの両訴因が,前訴の建造物侵入をいわゆるかすがいとして一罪の関係にあり,公訴事実の同一性が認められることは,所論の指摘するとおりである。
 しかし,本件の審理経過等をみると,前訴である119号等事件と後訴である本件非現住建造物等放火被告事件とは,もともと弁論が併合されていたにもかかわらず,弁護人の請求により,原裁判所が弁論を分離し,その後の前訴の審理においても,検察官の弁論併合請求が却下されたため,両者は別々に審理されて判決を言い渡されたという経緯がある。弁護人は,弁論の分離を請求して以後,一貫して,両者の弁論を分離して別々に審理することを求めていたのであるから,その時点では,両者を分離し,そのそれぞれについて審理がなされて判決が言い渡されることを当然の前提としていたと考えられる。そして,本件非現住建造物等放火被告事件の公判手続更新の状況や,第9回公判期日における弁論の内容,弁論再開後の第10回公判期日において,初めて一事不再理の効力に関する当事者の意見が述べられていることなどに照らすと,弁護人は,本件非現住建造物等放火被告事件について,判決で有罪無罪の判断が示されることを求めていたのであって,119号等事件との弁論の分離を請求した時点においてはもとより,第9回公判期日において弁論が終結された時点においても,一事不再理の効力を主張して免訴を求めることを全く考えていなかったことは明らかである。それにもかかわらず,前訴につき言い渡された有罪判決が先に確定したからといって,後訴において,前訴の確定判決の一事不再理の効力を主張して免訴を求めるのは,権利の濫用というほかなく,弁論の分離を請求した弁護人の意図がどのようなものであったかにかかわらず,刑事訴訟規則1条2項の法意に照らし許されないというべきである。
 加えて,前訴の窃盗の訴因と後訴の非現住建造物等放火の訴因とは,かすがいである前訴の建造物侵入の訴因を介しなければ,本来的には併合罪の関係にあり,前訴の建造物侵入の訴因と後訴の非現住建造物等放火の訴因とは,牽連犯として科刑上一罪の関係にあるものの,本来的には別罪であること,一事不再理の効力が前訴の公訴事実の同一性の範囲内の事実に及ぶと解されている法的根拠については,前訴の公訴事実の同一性の範囲で,潜在的に審判の可能性があったことや被告人が危険にさらされたことに求める見解が有力であるが,いずれの見地に立って検討しても,上記のとおり,弁護人が,前訴の建造物侵入,窃盗の訴因と後訴の非現住建造物等放火の訴因とを分離して別々に審理し,判決の言渡しを受ける途を敢えて選択したことなど,本件の事実関係の下では,両訴因が公訴事実の同一性の範囲内にあったとしても,実質的にみて,前訴の確定判決の一事不再理の効力を後訴に及ぼすべき場面であると解することはできない。
 以上の事情を総合勘案すると,本件の事実関係の下では,前訴の有罪判決が確定したとしても,刑事訴訟法337条1号にいう「確定判決を経たとき」には該当せず,前訴の確定判決の一事不再理の効力は,後訴である本件には及ばないと解するのが相当である。
 したがって,本件について免訴の判決をすべきではない。論旨は理由がない。

 

横浜地裁判決平成20年12月24日

【事案】

1.両事件被告(以下「被告」という。)が,都市計画法(平成18年法律第46号による改正前のもの。特に断らない限り以下同じ。以下「法」ということがある。)21条1項に基づき,横浜国際港都建設計画α地区(以下「本件地区」という。)について地区計画を変更する旨の決定(以下「本件変更決定」という。)をしたところ,本件地区の周辺に居住する両事件原告ら(以下「原告ら」という。)が,本件変更決定は,周辺住民への周知が不十分であり,周辺住民に公述の機会を与えることなくされたもので,手続上の瑕疵があり違法であるとして,本件変更決定のうち別紙物件目録記載の各土地に関する部分の取消しを求めた事案。

2.基礎となる事実

(1) 被告は,昭和61年12月23日付けで,横浜市β及びγに位置する本件地区(面積約10.1ヘクタール)につき,昭和62年法律第63号による改正前の都市計画法12条の4に基づき,地区計画を定める都市計画決定をした。
 同決定により,別紙図面のとおり,本件地区はA地区,B地区,C地区の3地区に区分されたが,このうち,A地区の大部分は,建築物の高さの最高限度を31メートルと定めた第7種高度地区であり,同地区の残りの部分は,建築物の高さの最高限度を20メートルと定めた第4種高度地区であった。

(2) 本件地区内に土地を所有する訴外aは,平成17年6月20日,被告に対し,A,B地区について,法21条の2第1項に基づき,建築物の高さの最高限度を緩和することなどを内容として上記都市計画決定を変更することを提案した(以下これを「本件提案」という。)。同提案を受け,被告は,平成18年6月15日付けで,上記都市計画決定を変更する旨の本件変更決定をした(法21条1項)。
 同決定により,別紙図面のとおりA地区はA−1地区及びA−2地区に区分され,また,A−1地区における建築物等の高さの最高限度は高層部100メートル,中層部31メートル,低層部15メートルとされた。
 原告らが取消しを求めているのは,本件変更決定のうち上記A−1地区に関する部分であり,上記A−1地区は,別紙物件目録記載の各土地から構成されている。

(3) 原告らは,共同住宅である「δ」及び「ε」(以下,併せて「本件各マンション」という。)に居住しており,同マンションは本件地区外の東側約200mないし250mに位置している。

(4) 第1事件原告らは平成18年8月4日,第2事件原告らは同年10月12日,本件変更決定のうち別紙物件目録記載の各土地(A−1地区)に関する部分の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。

3.法令等の定め

(1) 法12条の5第1項

 地区計画は,建築物の建築形態,公共施設その他の施設の配置等からみて,一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し,開発し,及び保全するための計画とし,次の各号のいずれかに該当する土地の区域について定めるものとする。(後略)

(2) 法21条の2第1項

 都市計画区域又は準都市計画区域のうち,一体として整備し,開発し,又は保全すべき土地の区域としてふさわしい政令で定める規模以上の一団の土地の区域について,当該土地の所有権又は建物の所有を目的とする対抗要件を備えた地上権若しくは賃借権(中略)を有する者(中略)は,一人で,又は数人共同して,都道府県又は市町村に対し,都市計画(中略)の決定又は変更をすることを提案することができる。(後略)

【判旨】

1.原告らは,本訴において本件変更決定の取消しを求めているが,このような訴えにおける取消しの対象となる行為は,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下「行政処分」という。)であることを要する(行政事件訴訟法3条2項,同6項)。
 上記にいう行政処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解されるから(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照),原告らの訴えを適法と認めるためには,本件変更決定が,これにより直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められるものでなければならないということになる。
 本件変更決定は地区計画を定めた都市計画を変更するものであり,地区計画に関する都市計画決定及び変更決定の法的効果について以下検討する。

2.地区計画は,建築物の建築形態,公共施設その他の施設の配置等からみて,一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し,開発し,及び保全するための計画であり(法12条の5第1項),地区計画においては,主として街区内の居住者等の利用に供される道路,公園等の地区施設及び建築物等の整備並びに土地利用に関する計画(以下「地区整備計画」という。)を定めるものとされる(同条2項)。
 そして,上記地区整備計画には,地区計画の目的を達成するため必要な地区施設の配置及び規模のほか(同条6項1号),建築物等の用途の制限,建築物の容積率の最高限度又は最低限度,建築物の建ぺい率の最高限度,建築物の敷地面積又は建築面積,建築物等の高さの最高限度又は最低限度,建築物等の形態又は色彩その他意匠の制限等の建築物等に関する事項(同項2号)を定めるものとされる。
 このような地区計画が決定された場合,当該地区内における土地の利用等について,都市計画法及び建築基準法は,以下のとおり規定している。

(1) 地区整備計画が定められた区域において土地の区画形質の変更,建築物の建築等を行おうとする者は,事前にその内容を市町村長に届け出なければならず,これに違反する場合には罰則の適用がある(法58条の2第1項,93条1号。届出を受) けた市町村長は,届出に係る行為が地区整備計画に適合しないと認めるときは,設計の変更その他必要な措置を執ることを勧告することができる(法58条の2第3項)。

(2) 地区整備計画が定められた区域において開発許可の申請がなされた場合,開発行為に係る敷地上の予定建築物の用途又は申請に係る開発行為の設計が地区整備計画の内容に即していることが,開発許可の基準となる(法33条1項5号)。

(3) 市町村は,地区整備計画が定められた区域において,地区整備計画の内容として定められた区域内の建築物の敷地,構造,建築設備又は用途に関する事項を,条例でこれらに関する制限として定めることができる(法58条の3,建築基準法68条の2第1項)。

(4) 市町村長等の特定行政庁(建築基準法2条33号)が,地区整備計画が定められた区域において道路位置の指定を行う場合,原則として,地区整備計画に定められた道の配置又は区域に即して行わなければならない(同法68条の6)。また,特定行政庁は,上記区域において,地区整備計画に定められた道の配置及び規模又は区域に即して予定道路の指定を行うことができる(同法68条の7)。
 道路位置の指定,あるいは予定道路の指定がなされれば,当該道路内における建築物の建築は原則として禁止される(同法44条,68条の7第4項)。

3.以上によれば,地区計画決定が告示されて効力を生じると(法20条3項),地区整備計画が定められた区域内において区画形質の変更や建築物の建築を行おうとする者は,市町村長への事前の届出を義務付けられることになるが(2(1)),届出の内容が地区整備計画に適合していなかった場合になされる勧告は,これに従わない場合の措置については何ら定められていないことからすると法的強制力を伴ったものとは認められず,結局,これをもって,当該地区内の土地所有者等の法的地位に影響を及ぼすような新たな制約を課すものとまではいうことはできない。
 また,地区計画決定が告示によって効力を生ずると,地区整備計画が定められた区域内においては,開発行為の設計及び開発行為に係る敷地上の予定建築物の用途等につき従前と異なる基準が適用され,これらの基準に適合しない開発行為は許可を受けることはできず,ひいてはその開発行為をすることができないこととなる(2(2))。このような効果を生じさせる地区計画決定が,当該地区内の土地所有者等に都市計画法上新たな制約を課し,その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できない。しかしながら,かかる法的効果は,あたかも新たに上記のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の,当該地区内の不特定多数の者に対する一般的,抽象的なものに過ぎず,当該地区内の個人の法的地位に直接的な影響を与えるものとはいうことができない。
 さらに,地区整備計画の内容を制限として定める条例が制定された場合には,地区整備計画で定めた建築物の敷地,構造等に反する建築物については建築確認を受けることができないことになるが(2(3)),これは,当該条例の効果として上記のような法状態の変動を生じるものであり,地区計画決定によって,当該地区内の個人の法的地位に直ちに何らかの影響が生ずるものということはできない。
 そして,地区計画が定めた地区整備計画の内容に即して道路位置指定あるいは予定道路の指定が行われれば,当該道路内における建築物等の建築が原則として禁止されることになるが(2(4)),地区計画決定が告示されても道路位置指定等がなされるまでは建築制限が課せられることはなく,建築基準法68条の6及び68条の7は,「地区計画等に定められた道の配置(及び規模)又はその区域に即して」道路あるいは予定道路を指定することを定め,地区計画により難いと認められる場合の適用除外や,敷地となる土地の所有者等利害関係人の同意を要する旨の規定を置いており,必ずしも当該地区計画で定めたとおりに道路あるいは予定道路が指定がなされるとは限らず,地区計画の内容は,道路位置指定等のいわば準則の地位にとどまっているにすぎないことを考慮すると,地区計画決定によって,当該地区内の個人の法的地位に何らかの影響が生ずるものということはできない。
 一方,当該地区内で地区計画に反する建築行為等をしようとしている者等は,当該行為を阻止する行政庁の具体的処分をとらえて取消訴訟を提起することができ,また,当該地区内で地区計画に即した内容の建築行為等を阻止しようとする者等が,当該建築行為等に係る行政庁の具体的処分を対象として取消訴訟を提起することも可能であり,いずれも上記のような行政庁の具体的な処分がなされた段階で取消訴訟を提起することによって,権利侵害に対する救済が十分に果たされるとは言い難いような事情が一般的にあるとはいえない。
 そうすると,地区計画の決定は,当該区域内の個人の法的地位に変動をもたらし,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定するものとはいえないから,抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということはできず,実効的な権利救済を図るという観点を考慮しても,これを対象とする抗告訴訟の提起を認めることが合理的であるとはいえない。
 したがって,地区計画についての都市計画決定は,抗告訴訟の対象である行政処分ということはできず(最高裁平成6年4月22日第二小法廷判決・判例時報1499号63頁参照),都市計画の変更決定である本件変更決定についても,同様に行政処分ということはできない。

4.原告らは,提案制度を利用して行われた本件変更決定は,特定の地権者による土地開発許可申請に対する承認に等しく,実質的には個人を名宛人とした個別具体的処分と同視しうるとも主張する。上記主張は,提案制度に基づく提案を都市計画の決定等の申請ととらえ,これに対する決定権者の対応を行政処分であると主張する趣旨であると解される。
 そこで検討するに,提案制度(法21条の2ないし同5)は,平成14年改正(平成14年法律第85号)において新設された,提案者が決定権者に対して都市計画の決定等を提案できるとする制度であり,提案者は,都市計画基準(法13条等)に適合する都市計画の素案を添付して提案を行い,決定権者は,遅滞なく決定等の要否を判断し,上記素案の内容と異なる決定等をしようとする場合には,上記素案を都道府県都市計画審議会等に提出しなければならず,決定等を要しないと判断した場合にも,都道府県都市計画審議会等に上記素案を提出してその意見を聴かなければならず(法21条の2第1項,同3項1号,21条の3,21条の4,21条の5第2項),決定権者が都市計画の決定等を要しないと判断した場合には,遅滞なく,その旨及びその理由を提案者に通知しなければならない(法21条の5第1項)とされている。しかしながら,都市計画法は,提案の内容と異なる都市計画決定等を行う場合に提案者の承諾を必要とする,あるいは提案者に異議申立権を与えるといった定めを何ら置いておらず,このような法の定めからすると,決定権者は,提案がなされた場合にも,都市計画決定等を行うかどうか,あるいは決定等の内容について提案に拘束されるものではなく,その権限及び裁量の範囲は,提案によらないで都市計画決定等を行う場合と何ら異なるものではないといえる。そうすると,提案制度は,当該地域の土地所有者等が都市計画のアイデアを出し,まちづくりのきっかけをつくり,決定権者にその検討を促す制度にとどまるというべきであり,提案者に提案に係る都市計画を実現する申請権ないしそれに類する権利を与えたものとまでは解することができない。
 したがって,原告らの上記主張は,前提を欠き,採用することができない。

5.なお,本件の口頭弁論終結後に,最高裁は,昭和41年最高裁判決を変更し,土地区画整理事業の事業計画の決定について抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとの判決をした(最高裁平成20年9月10日大法廷判決。判例タイムズ第1280号60頁参照)。
 しかしながら,同判決は,土地区画整理事業の事業計画の決定がされると,施行地区内において建築行為等の制限等を生ずるというのみならず,施行地区内の宅地所有者等は,建築行為等の制限等の規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ,その意味で,その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであることを理由として,土地区画整理事業の事業計画の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分と認められるとしたものであり,上記判決の射程は,本件変更決定には及ばないものというべきである。

6.よって,本件変更決定を行政処分と認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく,本件訴えは不適法ということになる。

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