平成21年度旧司法試験論文式
商法第1問参考答案

第1.本件取得に反対するX社の株主が、X社に対して、その有するX社株式の買取請求をすることを認める方法としては、Y社が製パン事業に関して有する権利義務のうちA工場の事業に係るものについてX社に承継させる吸収分割が考えられる。
 吸収分割を行うにあたりX社において必要な手続は、@吸収分割契約書の作成及び吸収分割契約の締結(会社法(以下条文番号のみ示す。)757条及び758条)、A吸収分割契約の内容等についての事前開示(794条)、B吸収分割契約の承認(795条)、C株式買取請求に関する手続(797条、798条)、D債権者保護手続(799条)、E吸収分割の登記(923条)、F吸収分割に関する事項の事後開示(801条)である。Bの承認は、株主総会の特別決議によることを要する(309条2項12号)。

第2.本件取得に反対するX社の株主が、X社に対してその有するX社株式の買取請求をすることを認めない方法としては、X社が株式の発行又は自己株式の処分をし、これを割当てられたY社がA工場の事業をX社に現物出資することが考えられる。
 X社がA工場の事業の現物出資を受けるにあたり必要な手続きは、@募集事項の決定(199条)、A検査役による調査(207条)、B変更の登記(915条、ただし新たに株式を発行する場合に限る。)である。申込み及び割当の手続(203条、204条)については、総数引受契約を締結する場合と考えられるから不要である(205条)。
 上記@については、以下の理由により本件取得に係る株式の発行又は自己株式の処分は199条3項のいわゆる第三者割当てによる有利発行に当たるから、株主総会の特別決議によらなければならない(199条2項、309条2項5号、201条1項、202条5項)。

1.そもそも、第三者割当てによる有利発行の場合に会社法が特別決議を要求した趣旨は、新株主の資本的寄与が過小であることによる旧株主の経済的不利益の発生防止にある。
 もっとも、資本調達目的を達成するため、若干低い価額を設定せざるを得ないことも事実であり、法が「特に有利な」とした趣旨はその点にある。
 そうすると、「特に有利な金額」にあたるかは、旧株主の利益と資本調達目的との調和の見地から判断すべきである。

2.本問において、現物出資財産たるA工場の評価額は5億円であるから、これにX社株60万株を割当てる場合、払込金額(199条1項2号)は833円(少数点以下切捨て)となる。X社株式は1株当たり1000円の価値を有するというのであるから、上記払込金額は17パーセント弱の割引となる。

(1) 確かに、A工場は金銭と異なって代替性の乏しい財産であり、のれんも含まれていることからすれば、これをぜひとも調達したいとのX社の経営陣の立場は理解できる。

(2) しかし、Y社に割当てられるX社の株式は60万株と多数であり、これによりX社株式の発行済株式総数は260万株となるから、A工場の取得により純資産額が25億円に増加するとしても、1株当たりの株式価値は961円(小数点以下切捨て)に減少する。これは旧株主に4パーセント弱の資産価値喪失を強いるものであり、X社の資本調達目的を考慮しても、旧株主が当然に受忍すべき限度を超えている。

(3) そうすると、Y社に割当てるX社株式に対する払込金額は「特に有利な金額」に当たるから、本件取得に係る株式の発行又は自己株式の処分は第三者割当てによる有利発行に当たる。

第3.会社法が吸収分割に株式買取請求を要求した一方で現物出資においては株主総会を要する場合でも株式買取請求を不要とした理由は、以下のとおりである。

1.そもそも、株式会社は小額多数の出資による大規模経営を実現するために創設された会社類型である。会社法は、上記目的を達成するため出資者の責任を引受価額の限度に限定し(104条)、出資リスクを予測可能な範囲に軽減して出資を促す一方、これにより債権の引き当てを会社財産に限定されることになる会社債権者を保護するため、株主の退社による出資の払戻しは原則として認めない(611条対照)。株式の買取りは実質的には出資の払戻しであるから、株式買取請求の制度は上記原則に対する例外であり、その存在理由が問われることになる。

2.組織再編等(事業譲渡等(467条1項1号から4号までをいう。)、合併、会社分割、株式交換及び株式移転をいう。以下同じ。)が行われる場合において株式買取請求が認められた理由としては、会社の基礎の変更であるから株主に退出の自由を保障したということが考えられる。しかしながら、前記第1及び第2でみたように、株式買取請求を認める必要のない現物出資によっても実質的に組織再編等と同様の行為を行うことができるから、上記の理由だけでは十分ではない。

3.より重要な理由は、対価不公正からの救済である。すなわち、組織再編等においては対価の設定は契約自由の原則に従い、当事会社の合意にゆだねられるところ、その設定対価が少数株主を害する場合がある。その場合に、あるべき対価に基づいた企業価値を基礎とした「公正な価格」による買取りを認め、もって、少数株主の経済的利益を保護する趣旨である。

4.この点、現物出資については、検査役の調査の制度だけでなく、引受人並びに取締役等及び証明者に不足額填補責任を負わせる(212条、213条)ことによって、対価の公正性を担保している。現物出資の方法による場合に株式買取請求を認める必要がないのは、上記のように対価の公正性を担保する制度が存在するからである。

以上

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